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相手の事情を聞いた分、自分の事情を話す。そのギブアンドテイクが愛情を募らせる

きーちゃん先生の事情(4) (デザートコミックス)
丘上 あい(おかうえ あい)
きーちゃん先生の事情(きーちゃんせんせいのじじょう)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

昼は高校教師、夜はNo.1キャバ嬢の希帆(きほ)は、問題児揃いの喜多苦部(きたくぶ)の顧問になって、楽しい毎日。学校にイベント・行事が一切ナシと知って、文化祭復活を提案、その準備に大忙しの希帆。ひきこもり中の生徒・内野(うちの)をなんとか登校させるため、バンドも立ち上げて、文化祭当日を待つ。そんな中、お互い結婚した相手を亡くしていることを知った、希帆と美術教師・汲澤(ぐみさわ)の恋に一気に進展が!?

簡潔完結感想文

  • 菊代は お説教じゃなくて助言をするだけ。親子の閉塞感を打破するのは当人たちの意思。
  • 生徒たちが無事に文化祭に辿り着いたのは菊代の頑張りでもある。そのご褒美は突然のキス。
  • 結婚歴のある大人なので その後の展開は早い。自分たちの恋が成就しても部員の片想いがある。

一番の訳ありは喜多苦(きたく)部の顧問、の 4巻。

『4巻』では2組のカップルが成立する。そのどちらも この相手でなくては という恋なので、ただの内輪カップルとは一線を画す。まだ4巻なのに その関係性を描けるのが凄い。しかも個性的なキャラを10数人 動かしながら成立させている技術力の高さは驚異的。

そして こちらも驚いたのは主人公の菊代(きくよ)が自分の秘密を話すタイミングの早さ。教師とキャバ嬢の二重生活は本書の核となる秘密。だから多くの作品で その二重生活が汲澤(ぐみさわ)や生徒たちにバレる危機がクライマックスに位置づけられるだろうと思っていた。
でも本書は違った。早くも汲澤にキャバ嬢であることをカミングアウトしている。それは菊代が汲澤に嘘を付きたくないと思う対等な関係を望むからで、汲澤が自分の結婚歴や家庭の事情を包み隠さず話すことへの誠実な姿勢である。

身も心も裸になって汲澤に向き合わなければ この関係は嘘になる。だから菊代は話すことを選んだ。そして菊代が話せる相手に巡り会えることが彼女の記憶を過去にしていく。お互いに過去に痛みを抱える共通点が彼らが相手を選ぶ理由となっている。

現時点で菊代と汲澤の間に嘘はない。だから2人は幸福な蜜月期を迎える。ただし話していないことはある。両想いは作品の一つのピークであるものの、作者にとっては通過点の一つ。両想いになって初めて汲澤は菊代の秘密の扉の前に立つ資格を得た。「きーちゃん先生の事情」がある限り作品は続いていく。作者が その事情を描きたくてウズウズしている様子が伝わる楽しい作品だ。

また もう1組の両想いも、それぞれの過去があるから こじれて、だからこそ乗り越えた時の変化のエネルギーは青春期にしか放てない輝きのように思えた。ほぼ1話の出来事と短いけれどインパクトがあり、その前に個人回として描かれた過去がトラウマになったり障害になったりしている構成は唸る。問題を抱える2人に寄り添う人たちがいるという温かさも良かった。

そして学校イベントの文化祭は どのシーンも感動的。文化祭を実行するだけでなく1から立ち上げた その成果は菊代と一緒に感涙できる。オーナーの青田(あおた)が「しょっぼい学校」と言っていた その生徒たちが楽しみ、その中核に喜多苦部がいることに感動を禁じ得ない。その直後に3年生たちが受験生であることが思い出され、文化祭の直後に時間が有限で、別れが絶対であることが想起されるのが切ない。

1つのイベントを成功させて結束力の高まった喜多苦部をいつまでも楽しみたいけれど、早くも終わりを見せる そのシビアさに痺れる。白泉社作品なら ここまで倍の巻数を使い、ここから時間が止まったかのように永遠のモラトリアムが続くだろうに…。

(右)の男性2人は菊代の顔見知りだけれど、この2人は作中で会ってないはず

引き続き文化祭の準備中に菊代は汲澤が どうして娘と離れて暮らしているのかを知る。汲澤が過去を話すと その分だけ菊代も自分の生い立ちや過去を話す。そして自分の経験から汲澤の悩みの解決の糸口を教える。

自主的に引きこもっている豪(つよし)が文化祭に来るかは本人次第。豪の対応は沢村(さわむら)が引き受け、菊代は豪の母親に対応する。母が息子を嫌うのは相似性からの近親憎悪。でも菊代は母親を糾弾したりしない。ただ問題の原因が どこにあるかを考えさせる。菊代は その次に豪との接触し、そこで沢村が偶然 同じ意見を述べたことを知る。菊代は豪にも自分で動くことを促す。

前夜祭から菊代は感涙する。その頑張りの ご褒美のように汲澤はキスをする。その真意を菊代は聞けないまま彼を意識してしまう心だけが残る。


文化祭当日、菊代は来校するキャバクラ関係者に口が滑らないように念を押す。2つの世界が正式に交わる。

しかし喜多苦部のバンド、個人練習はしているけれど1回も音合わせすらしていないよね…。開幕直前に豪が登場。喜多苦部が協力して作り上げたステージに菊代は また感涙する。シビアにノイズは除去するのには笑った。
このバンドの成功は文化祭の成功と同義。そして豪(つよし)の家庭問題を解決する。近親憎悪の親子は ここから違う人生を進むのだろう。あとバーテンダーとオーナー・青田(あおた)の挨拶は面識があるという伏線なのだろう。


教師たちの打ち上げ会場で満面の笑みを浮かべる菊代に汲澤は2回目のキスをする。そのまま菊代は汲澤の家に行く。究極的には汲澤の家に娘がいないのは この日のためと言えるだろう。そして それでも彼ら父子の関係は悪くないことを示して、菊代が家庭崩壊を招いた人間になる危険性を除去している。

菊代は汲澤との関係が一歩進む前に、くんずほぐれつ でバレかねないカツラ問題を自白する。汲澤は喜多苦部の部室で添い寝した時にカツラが外れるのを見ており そこには驚かない。菊代には現役キャバ嬢という秘密があるが、それを話すのは2人が情を交わした後。何事もギブアンドテイクである。その事実を汲澤は笑って受け止める。

だが直後に学校の主任に連れられた汲澤がキャバクラに ご来店。『3巻』で泉(いずみ)がバイト入店した時以来の学校関係者との接近。二重生活を知らせた汲澤にNo.1キャバ嬢であるところを見せる意味もあるのだろう。2人だけの秘密の恋愛をしているスリルが恋の燃料になる。


汲澤との恋愛に菊代は浮き足立つ。職場恋愛で汲澤を見ると動悸が止まらない。そんな菊代の様子に長南(ちょうなん)が いち早く気づき教師たちの恋を知る。勿論 彼は言いふらしたりしない。菊代がテンパっているように汲澤も同じだった、という少女漫画の王道展開で2人の交際は安定する。

結婚歴のあるアラサーの大人の恋だけど、心理は高校生ヒロインと変わらない

恋に生きる菊代を現実に戻すのが沢村たち3年生の受験と卒業の問題。沢村は来年度に向けて喜多苦部が存続できる最低限の部員は確保したい。候補の1人は豪。そして残される部員たちは誰でもいいから入部して欲しいわけじゃない。
そんな中、長南と沙織(さおり)の間に恋愛フラグが成立する。菊代が両想いになっても どこかで恋は動き続けるようだ。

沙織は自分から追う恋をしたことがないから長南への気持ちが恋なのか不確定だった。それに補助線を引くのは かつてのライバル・泉。だが長南は沙織から好意を信じられない。それは彼の苦い恋の経験も関係しているだろう。焦った沙織は いつもの恋愛テクニックを使ってしまい、そんな自分に幻滅して長南のトラウマを刺激するような態度で接してしまう。

長南には菊代が、沙織には大西(おおにし)が付き添い、彼らの心を整理する。そして沙織は これまでとは違う体当たりのアプローチで長南のトラウマを破壊していく。

教師とキャバ嬢のダブルワークが限界を迎えたピンチを助けられてヒーローが判明

きーちゃん先生の事情(3) (デザートコミックス)
丘上 あい(おかうえ あい)
きーちゃん先生の事情(きーちゃんせんせいのじじょう)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

昼は高校教師、夜はNO.1キャバ嬢の希帆(きほ)。はじめは報酬目当てだったけど、問題児揃いの喜多苦部(きたくぶ)の顧問になって、けっこう楽しい毎日。ところが、学校にイベント・行事が一切ナシと知って、大激怒! 文化祭復活を提案し、喜多苦部部員と準備に明け暮れる。忙しさMAXなのに、生徒の悩み相談も引き受けて大混乱の中、美術教師・汲澤(ぐみさわ)との恋に火がついて……!? 恋の花咲き乱れる文化祭編・開幕!

簡潔完結感想文

  • もしや生徒と恋に落ちるルートもあるのではと危ぶんで(期待して)いたけど どうやら回避。
  • ここまで学校イベントが描かれないのは存在しないから。ないのなら自分たちで立ち上げる
  • 意見が違うことと信頼していないことは同義じゃない。喜多苦部部長は顧問を信頼している。

支流が集まって やがて大河になる 3巻。

『3巻』までで主要登場人物が ほぼ登場する。計4人いる内の2人が正体不明だった喜多苦(きたく)部も全員集合し、集合したことで次の扉が開かれるという流れがあるのが素晴らしい。世界が繋がって広がっていく様子を感じられ、どんどん この作品世界への好感度が上がっていく。

全員が集合したからといって何の理由もなく友情が成立する訳ではない、という冷静な温度感が凄く好き。喜多苦部は個の集合体なだけなのと、生徒の間でも菊代(きくよ)に救われた人の彼女への信頼感と、まだ深く関わっていない沢村(さわむら)たちとの温度の差も ちゃんと表れている。だからといって沢村に何も伝わっていない訳ではないということがラストで判明し、その間接的な信頼の描き方が とても良い。細かいところで上手いなと思う描写ばかりで読んでいて楽しい。感動させようとしていないところで感動できる。

また部の活動と並行して菊代と汲澤(ぐみさわ)の関係値も少しずつ変わっていく。これまで学校とキャバクラという2つの舞台が描かれていたが、ここから学校に軸足を移すことが多くなるそして大人組の関係値が変わることで菊代が語っていなかった過去が徐々に明らかになる。

訳ありな生徒を出し続ければ連載を延々と続けることも可能だろうけれど、作者は物語に必要な最小限の個人回しかやらないようだ。当初の構想をしっかり実現するための人気を確保する実力があることが分かる。初の学校イベントの開始と過去の解禁という2つの流れがあって常に流動性を感じられる。
冷静に考えてみると、構成が滅茶苦茶 難しい作品なのに それを感じさせないのも作者の力量の高さだ。誰もが知っている大ヒットではないけれど着実にファンを獲得していく個性と実力があることが伝わる。

キャバ嬢としてオーナー・青田を動かせるけど、学校では彼の下で働く身

上の文章と重複する部分もあるけれど、とにかく話の流れがスムーズ。
作中で学校イベントが発生しないのは、そもそも学校にイベントが無いからという理由があって、ならば0から構築しようという流れも自然。そしてオーナー(理事長)と懇意だからこそ菊代が矢面に立つのも自然だ。

それにより これまで菊代が明るいうちは教師を、暗くなったらキャバ嬢をタフにこなしていた菊代に限界が訪れる。そして作中初と言える菊代のピンチを救うことで誰が正ヒーローなのかが判明する。私は実は作中No.1イケメンの大西(おおにし)や最初に出会った沢村(さわむら)という線もあるのではないかと疑っていたけれど、さすがに教師が未成年に手を出すわけにはいかない。そして今後、菊代には この正ヒーローでなくては駄目な理由も用意されている。徐々に隠された事情や新しい事実が判明していく描写の上手さは、後にサスペンス作品を描くことに繋がっているような気がした。


夏休み前、部室で菊代は喜多苦部のユーレイ部員・長南 博之(ちょうなん ひろゆき)に遭遇する。中学まで山形に住んでいた彼には東京からの転校生の女子生徒との淡い思い出と苦い思い出があった。

山形でキスをした転校生は東京に戻り、追うように長南も父の転勤で東京に行くことになった。けれど女子生徒は山形の都会の子であったのに対して、東京での長南は田舎者。学校に馴染めず彼女にも会えない日々の苦しみから逃れるように長南は虚構の物語に逃避する。しかし その虚構さえも壊され長南は1年生の途中から舞台となる私立高校に転校して来た。

だが この学校でも長南は一言も発していないことが判明。訳ありの集まりが故に部員たちは長南の事情を詮索しない。菊代は沢村(さわむら)たちに介入し過ぎないが、同時に沢村は菊代の やり方に協力しない。

発見までは時間が掛かったけれど、名前が分かれば個人情報は簡単に手に入る

それでも菊代は幻の生物・長南の確保と交流を目指す。ちなみに菊代の田舎は宮崎県。長南は意外に饒舌だが、だからといって菊代に心を許すわけではない。

そこで菊代はキャバクラの客のツテで長男が東京に来てから口にすることのなかった地元の味を食べさせる。それは愛情を受けて育った自分を自覚すること。他責に走った自分を長南は悔い改める。愚かだった自分を捨てるように長南は髪を切る。こうして喜多苦部のメンバーが揃う。


学校が夏休みに入り、菊代のダブルワークは少し楽になる。だが そこに姉の身分証を利用した『1巻』ラストから大暴れした泉(いずみ)がバイトで入店する。正体をバラす訳にはいかないがセクハラや飲酒を止めたい菊代は悪戦苦闘。そこで きーちゃん先生として彼女の前に現れてキャバクラから遠ざける。泉は彼氏との旅行費のために お金が欲しかった。それは通う学校にイベントがないことも影響していて、菊代はオーナーである青田にイベント開催を求める。

文化祭開催の代償として菊代と喜多苦部が中心に企画立案しなければならなくなった。
そんな夏休み中の学校内に女児が入り込む。それをいち早く発見した菊代は教師間での点数稼ぎに その子を利用する。だが その子供は汲澤 優介(ぐみさわ ゆうすけ)の子供だった。

最近 交流が増えて結婚歴があると聞いていた汲澤の意外な事実を受け止めきれないまま、文化祭の準備が始まる。汲澤とも話す機会があるが、お互いに前の結婚のことは話す気がなく、その態度に菊代は汲澤の援助は必要ないと ただでさえ大変な準備で仕事を抱える。


部室に1年生の内野 はるかが来訪し、1か月登校しない兄の豪(つよし)の副担任である菊代に相談する。はるか は文化祭という娯楽が部屋に引きこもる兄の天岩戸を開くのではないかと期待していた。はるか にも理由は分からないが、訳あり生徒の居場所になるのが喜多苦部の存在意義。

その後、菊代は豪が『2巻』で空回りした自分の理解者だということを知り彼への介入を決める。ただし菊代は多忙なため実行部隊は沢村と元引きこもりの長南の役割となる。

体力の限界まで頑張った菊代だが過労で倒れる。そこに現れるのは汲澤。少女漫画的にはヒーローが確定した瞬間だろう。その恩義に菊代は汲澤への態度を軟化させ、汲澤を自分の旦那に会わせる。旦那が泉下にいることを知った汲澤は菊代を抱きしめ、自分も同様の別れをしたことを告げる。そのため汲澤の娘は祖父母と暮らしている。菊代が自分の事情を話す前に別件の連絡が入る。まだ全ては語られない。


初めて会う豪は何も問題を抱えていなかった。大学病院の外科部長の親に欲しい物を与えられる恵まれた生活と割り切った人生観。喜多苦部のメンバーは そんな彼にバンド演奏のための技術を教えてもらう。
それでも菊代は問題の根源が見えてきた。けれど いつものように直接的に動かない。その代わり長南の時には動く意思を見せなかった沢村が対処する。沢村の中の哲学があるのだろうか。

長南が歌が上手いことが発覚し、バンドの担当が次々に決まる。足りないドラムはキャバクラの店長が担当。2つの世界を行き来しなくなったら作品の意義が薄れてしまう。
バンドの練習の面倒は引き受けても家から出ようとしない豪を菊代は無理にでも動かそうとするが沢村が それを許さない。物事をスマートに動かせない自分に菊代は落ち込むが、そんな時に助けてくれるのは汲澤。そして沢村も良い文化祭にするために尽力していた。沢村は菊代の強引なやり方には反対するけれど、既に信頼している。