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国内外問わず どこでも異邦人だった龍生が根を張って生み出す ここにしかない森。

青の花 器の森(10) (フラワーコミックスα)
小玉 ユキ(こだま ゆき)
青の花 器の森(あおのはな うつわのもり)
第10巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

ふたりで帰る場所…器と恋の物語、完結! 波佐見の窯元で出会った青子と龍生。恋人としての関係を断つと、龍生は北欧へ去ってしまう。彼の作り残した小物入れに触れて、存在の大きさを感じた青子は、龍生を追って一路フィンランドへ。無事再会し、想いを通わせた二人。遠距離でも繋がれたその後、龍生が波佐見へ戻ってきて…?器と恋の物語、未来を育む最終巻。

簡潔完結感想文

  • 1年前と同じように春に波佐見に降り立つ龍生。今度は この地に根を張るための住まいを探す。
  • 作中最後の共作は まさに愛の結晶。春馬とフィンランドの空気を閉じ込めた全てを内包する器。
  • 龍生が早々に結婚を望むのは家族の欠落感から。ずっと欲していた俺だけの家族と約束された夢。

天に星、地には花、君に愛を(『天に星、地に花』)、の 最終10巻。

大団円。
ずっと出会って1年、交際して半年余りでの結婚は展開が早いと思っていたけれど、感想のために再読・精読して「ハマると一途」なタイプの龍生(たつき)は青子(あおこ)と一緒になることで真に救済されることを(無)意識的に望んでいたのだろう と思えた。

考えてみると龍生の人生は これまで常にアウトサイダーだった。龍生は自我や帰属意識が生まれる前に母を亡くし、継母と異母弟によって家庭さえも居心地の良い場所でなくなった。家を出るために選んだ祖母の家も寮も、そしてフィンランドでも彼は異邦人であり続けた。
ただし結婚し、その土地に家を構え、青子と自分だけの「家族」になることで龍生の放浪生活は終わる。だから結婚を強く願ったのだろう。青子が最終話で幻視した光景は彼女の幸福だけでなく、龍生が その後の人生を放浪せず この地に根を張ったことの証明になる。2人の住む家の鉢植えの木の幹の太さの変化は龍生の この土地での成長や流れた時間を表すものなのだろう。そして龍生が二度とパートナーを失うということはない、という安心材料である。序盤の龍生の俺様・ツンデレ具合は母親の愛情の欠落という高校生ヒーローと根っこが同じものだろう。

この主人公は青子なのだけど、青子がイケメンにシンデレラ的に幸福にしてもらう少女漫画的な要素を織り込みつつ、ちゃんと青子との出会いで龍生も救済されている その両義的な要素が作品の幅を生んでいる。そこが しっかりと描かれているから老若男女 誰が読んでも楽しい作品となる傑作の条件が満たされている。

また今回のタイトルにしたけれど、本書は約束が絶対に果たされる という約束があるように思う。
例えば『6巻』の商品化案で青子が出したアイデアは形になっているものばかりだ。そして『7巻』で「来年も再来年も」「一緒に見に来ましょう」と龍生が言った桜は、紆余曲折があって不可能かと思われたけれど『10巻』で実現している。また「番外編」で春馬(はるま)が願った龍生の「大事にしたい人」と「一緒に森とか行こうぜ」という約束も2人が別れを選んだことで運命的に果たされた。もっと言えば青子の元カレ・熊平(くまへい)が波佐見(はさみ)に帰って来るという破られた約束も最終的には守られていると言える。

だから青子の見た夢を いつか龍生に話すという約束も守られるはずだ。それは2人が寄り添い続けて生きることであり、青子は ずっと器に関わり続ける人生を送るということ。ずっと職人として生きるはずの青子が龍生との出会いで少しだけ方向性が変わった。少し悪意ある見方をすれば、青子は この狭い町を訪れる異邦人の男を立て続けにゲットする魔性の女にも見えるけれども。

青子と龍生の共同制作の完成形が このギャラリー。この一室が世界そのもの

私が好きなのは窯から独立した青子と龍生が構えた工房とギャラリーの描写。青子が そのギャラリーにいるとフィンランドの森を感じられるように、そこには一つの世界がある。壁の棚に置かれているのは『1巻』の2人の最初の共同制作である星空の一輪挿し。その一輪挿しは2人の愛の始まりと終わりと復活を見届けてきた愛の象徴。畳から上に伸びる棚に置かれているのは雨や雪、植物の自然を閉じ込めた器たち。
だから一行目に書いたように、星空の一輪挿しは天に星、自然物の器は地に花(または森)、そして これらの青子と龍生の共作の作品は君への愛の象徴である。その整然と満たされた世界に接することが出来たことに感謝したい。

本書においてフィンランドの森は「霊的な場」のようにも感じられる。『9巻』で龍生が春馬に出会えたのも その森だった。だから青子が感じるようにギャラリーに疑似的なフィンランドの森が完成したことで青子は「これ以上ないくらい幸せな夢」を見たのかもしれない。
発動条件は森の存在、そして青子・龍生・春馬の3人の気配だろうか。夫婦となった2人の共作が並んでいるのでギャラリーには当然2人の気配がある。そこに春馬の気配が加わるのは「スノーフレーク」と名付けられた作中最新の共作がシリーズ化されているからか。スノーフレークは2人が『1巻』1話で最初に出会った時に青子が描いていた花。これが星空の一輪挿しにも挿してあって作者の こだわりを感じる。

気になったのは龍生は帰国後、また窯で再雇用されている点。これは社長の懐が大きい。フィンランド行きの前後から仕事を調整したにもかかわらず、恋愛が上手くいかなかったら退職の意向を示すような割と勝手な龍生を また受け入れようなんて大らかな世界だ。それだけ龍生が窯で誠実な仕事をして、段々と その才能を見込まれたということなのだろうけど。


青子は予定通り帰国し、波佐見で龍生を待つ。始まった遠距離恋愛で、初めて龍生と約束していたビデオ通話をする。龍生の誕生日を祝ったり青子は遠距離で会いたい気持ちは募っても寂しい気持ちに負けたりしない。

桜の蕾が ほころび始めた頃に龍生が帰国する。窯の人たちに挨拶した後、2人きりにしてもらい抱擁を交わす。それに萌える しのぶ が優しい。
改めて暮らし始める波佐見で龍生は以前とは違う物件に住む予定。そこは無機質な最初の家と全く違う、空き工房付きの住宅。波佐見の町では使われなくなった工房を個人に紹介しているらしい。龍生の趣味とは明らかに違う家だけど、龍生は この家の中で作業のイメージが湧き上がる。だから一通り内覧が済んだら即 契約する。


改修はDIYの知識と経験のある龍生がする予定。最初から独立を視野に入れているのではなく龍生は終業後に自主制作ができる場所を確保したかった。1年前に波佐見に来た時は「自分の器」を見失っていたため、自主制作の考えが無かったのだろう。だからこそ分業制の波佐見を選んで与えられた仕事をする中で知識と経験を高めたかったのかもしれない。部屋は飽くまで これまでの自分の器(無地限定)を展示する場所でしかなかった。

一緒に内覧に行った青子は龍生が自分との同居を前提にしているのか いないのかが掴めない。交際後に龍生が1年限定の居住の考えを聞き出せなかったのに似ている(『7巻』)。

2人は約束していた花見を実現する。そこは青子が欲しい龍生の言葉が聞き出せる場所。龍生は青子がフィンランドに持参した2人の共作の最新作のボンボニエールを青子に渡す。その中には指輪が入っており、龍生はプロポーズする。龍生は最初からプロポーズ用にボンボニエールを制作しており、そこに青子が桜を絵付した時点で龍生が行動する場所は決まっていたのだろう。

一度は並んで見ることはないと諦めた桜を2人で見る。来年も再来年も約束は叶う

几帳面なところのある龍生と、感性で生きる青子は合わない部分もある。でも2人は家族になる。龍生にとって20年ぶりの本当の家族。違いを 擦り合わせて家庭を作る。また窯では2人は新しい共作を始める。それは手作り感あふれるアットホームな2人の結婚式の引き出物の器だった。

この結婚式でも しのぶ が本人以上に感動しているのが良い。龍生も初めて お菓子作りの得意な同僚のスイーツを目の前で食べ感想を述べている(『3巻』でアップルパイを屋外で食べてたけど)。

結婚式の場面でも龍生の家族は登場しない。メタ的に考えると龍生の家族が登場すると紹介の場面や関係性の描写などページを割くことが多すぎるのだろう。だから報告と後日の挨拶という言葉だけで割愛して、波佐見の人々だけで結婚式を終えた。最終話の1ページ目の竹林の写真は、龍生が目を奪われた祖母の旅館の竹林だろうか。
この日、波佐見で初めて2人で手を繋ぎながら家路につく。


最終話では結婚から5年が経過しており、青子たちは独立して工房をギャラリーとして開いている。青子はフィンランドに行った時のように新しい世界への出発に緊張していたが、飛び出してみると楽しさを感じられている。龍生も5年の間で技術が向上し、以前『6巻』の商品化案で難しさを説いていた急須に挑戦している。

ギャラリーには これまでの器や、そして引き出物で生まれた春馬(はるま)との3人の共作と言えるスノーフレークの器がシリーズ化して展示されている。2人の恋愛の遍歴を見守って来た星空の一輪挿しは非売品として鎮座している。そこに挿されているのはスノーフレークで1話と最終話の円環が成立している。器作りは工房内での制作の他、量産化は窯の人や これまで お世話になった人々の力を借りており、彼らが結んだ関係性は継続している。

この5年で しのぶ は2人の女児を出産し3人目を妊娠中。この少子化の世の中で すごいペースだ。夫である功(こう)の前のめりな愛が伝わる(笑) そして幼い頃から器に親しむことで、波佐見の器は この子供たちの次世代に受け継がれていく。
一方で青子たちには子供はいなそう。弟という新しい命で家庭内の居場所を失った龍生の生い立ちが影響していたりするのだろうか。青子も龍生も新製品を次々に形にしていて、2人の成長が愛の結晶を新しく生み出している。結婚して出産することが幸福なゴールである という一方的な価値観は大人向け少女漫画には なくてもよい(あっても良い)。2人が幸せなら どちらでも良い。

青子は夢で高齢者になるまで2人で この工房 兼 住宅で暮らす夢を見る。時間の経過の分だけ工房の植物が成長しているのが芸が細かい。別れを選んだ時は絶対に見られないと思った桜を一緒に見たように、きっと この夢の光景も現実になる。

「番外編 あの子の口紅」…
窯の彩香(さやか)と、彼女が別の同僚に惹かれているのを見てから彩香が気になるフミヤの お話。フミヤは恋を自覚することで自分の「器」を客観的に観察するようになり、自分の心地よい居場所から成長へと一歩 足を踏み出す。龍生たちと同じように共同作業をすることで殻を破り距離が近づく。窯では職場恋愛・結婚が多そうだ。フミヤは、龍生に一番 最初に親しく声を掛けたムードメーカーだから幸せになって欲しいと個人的に肩入れする。

「番外編 白夜」…
春馬とのフィンランドで活動していた龍生の話。彼らの共作が どうやって生まれるかを描いた作品。前パートナーとの話、春馬の生前を描くのは本編終了後の番外編だから可能なのだろう。

大学で出会った2人だけど実は春馬の方が4歳年上。自由な感性で生きる春馬に龍生は振り回されるばかりだけど、それが心地よい。春馬が持ち前の社交性で宣伝して2人のユニットは順調。

結婚パーティーで踊る、という経験を龍生は春馬と最初に達成しているのか。本当に青子の仮想敵である。龍生はフィンランドでもモテるけれど、本編の青子以外の女性に積極的な行動を見せないという誠実なラインが設定されている。
最後の春馬からの約束を読むと、青子がフィンランドの森に来ることが龍生のトラウマ解消の最後の鍵だったことが分かる。

まだ貴方の隣で見ていない光景を絵付した器は、それを実現する未来への約束

青の花 器の森(9) (フラワーコミックスα)
小玉 ユキ(こだま ゆき)
青の花 器の森(あおのはな うつわのもり)
第09巻評価:★★★★☆(9点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

思いつなぐ、恋と再生の9巻! 波佐見の窯元で働く青子と龍生。すれ違いから、恋人同士の関係を解消した二人。龍生は展示会のために北欧へ行くが、青子を忘れるために、波佐見に戻らない選択をする。龍生が旅立った後、青子はある決断をして…!?器と恋の物語、想いをつなぐ第9巻。

簡潔完結感想文

  • 龍生は心の全てをフィンランドや春馬に向けていた訳ではなく青子にも時間を割いていた事実。
  • 地球の裏側にいる龍生との5つ目の共作。2人の器は愛の結晶だから これを貴方に直接 見せたい。
  • 青子が熊平に会うべきだったように、龍生も春馬に会いに行く必要があった。涙は心を浄化する。

俺が一番 彼女を紹介したかったの人は…、の 9巻。

復縁の1冊。表面上で起こることは予想通りと言える。だから私は復縁の場面よりも、その前後の場面が印象に残った。

まず青子(あおこ)が龍生(たつき)に会いに行こうと決意する第5の器のエピソード。『7巻』で龍生(と春馬(はるま))のフィンランドの展示が決まってから青子と龍生にコミュニケーション不全が発生する。それが2人の別れの萌芽となるのだけど、龍生は ずっと春馬との思い出に耽溺していた訳ではなく、同時に青子のために秘密裏に行動していたことが龍生との別れの後に明かされる。まるで あの世からの贈り物のようである…。

この共作5つ目となる器で大事なのは初めて「青子が龍生と並んで見た光景」ではない、という点ではないか。1つ目は星、2つ目は雨、3つ目は波、4つ目は草、そして5つ目は桜になるのだが、5つ目は龍生と見ると約束したけれど見れていない景色である。それでも青子は龍生の器の輪郭を触るとインスピレーションが到来した。青子の中で龍生と見た現実を切り取るだけでなく、目の前にない景色も絵付になるという能力の覚醒のようにも読める。そして縁起でもないけれど、もし龍生が先に亡くなっても、彼の器と思い出があれば青子は共作を完成し続ける という数十年後の共作の予感も秘めている…。

これまでも共作の器は2人の愛の結晶・象徴だったけれど、今回の5つ目は未来への約束という時間軸が存在するように思った。

フィンランドに来なければ青子にとって春馬は海と空の向こうの永遠の仮想敵

そして復縁後の『9巻』ラストで制作が始まる未完成の6つ目の器にも意味があるような気がした。これは青子と龍生の器であり、そして春馬との初の3人での共作の予感がする。この器だけはフィンランドの景色が閉じ込められる。青子は そのインスピレーションの源泉を春馬からの「おみやげ」だと言っており、その直前に龍生は春馬の姿を見ているので2人の感覚は共通している。

龍生の中で、波佐見(はさみ)で青子と生きるか、フィンランドで春馬を追想するかは二択の問題だったはずだ。けれど後者を選んだ龍生の前に青子が現れることで3人が同一の場所に存在できた。別れという絶望があったけれど、結果的に共存しないはずの存在が集まる不思議な偶然が起きた。

私には春馬の存在が色濃く残るフィンランドの森に龍生が青子を行くことは、一種の親族紹介のように思えた。龍生にとって実の家族は疎遠で青子を紹介する相手ではない。龍生が引き合わせたかったのは自分の器を託せる2人の大切な存在。この地だけで それが可能になり、少なくとも龍生の中で大切な2人は並んでいた。少女漫画の親族紹介は婚約と同義が私の持論だけれど、実際 この後の展開を考えると間違っていないと思う。


また この引き合わせは龍生が春馬を正しく葬送するために必要な条件だと思った。1つは龍生がフィンランドに戻ること、そして もう1つの条件は龍生の幸せを春馬が見届けることではないか。それには青子が必要。春馬は、自分の死で龍生がトラウマとなった火への恐怖心を克服し、次のパートナーを龍生が得て、他者を拒むようになった龍生が誰かを心から愛するようになれた。それを見届けることで成仏したのかもしれない。

頑なに口を閉ざすのではなく、喜びや悲しみを含めた思い出を語ることでカウンセリングのように心を整理する。青子が熊平(くまへい)の別れを乗り越えるために龍生という熊平を知らない人が必要だったように、龍生には青子という春馬を語れる人が必要だった。そして熊平が目の前に出現することで青子が別れを涙で清算したように、龍生も春馬の姿を見て涙を流す。龍生の中の決着に青子が出しゃばらないのが良い。アラサーの お節介ヒロインなんて見てられない。

そして上の画像でも書いたけれど、青子にとっても春馬の存在を身近に感じることで姿の見えない亡霊から、龍生の大切な存在へと理解が変わったように見える。もう龍生の頭が春馬のことで嫉妬することはないだろう。

大切な人の死を乗り越えるのは前作『月影ベイベ』でも描かれていたテーマ。条件が揃った時にだけ切望する相手が出現すること、それが見えるのは限られた人だけという点も似ている気がした。

遠距離や別れの危機と復縁という王道のクライマックスが美しいと感じる本書の輪郭に魅了された。


仕事始めに龍生が退職したことが窯で発表される。青子は、龍生との最後の共作となったマグカップの仕事に集中することで悲しみを乗り越えようとする。

そんな青子の危うい明るさを しのぶ は遠くから見守る。『8巻』ラストで しのぶ が青子に会いに行き、龍生を巡る意見の相違による仲違いを修復する流れになっていたが、その場面は ほぼ割愛され仲直りの印に贈られたマフラーが青子の首元を温めている。中高生向けの少女漫画ならば互いに泣く場面をドラマチックに描くが、20年来の仲である2人の関係は もう少しドライ。

青子と龍生の中に勘づいていた同僚たちは事情を聞くに聞けない。それは これまで2人の交流の様子を見ていた社長も同じ。その代わり社長は青子にマグカップ完成の報告を型師に報告する お使いを頼む。


青子の訪問は実は型師が依頼していたこと。そこで青子は龍生が熱心に型師の作業場に通っていたこと、そこでボンボニエールとも呼ばれる蓋つきの小物入れを制作していたことを知る。蓋つきの器は交際直後の『6巻』で2人が次に作るアイデアを出し合った時に出ていた形である。

そして龍生が それを作ろうとしたのは「大事な人にプレゼントしたいから」。『6巻』で「蓋物は蓋と本体の口が ぴったり合わないといけないんで技術がいる」といっていた品を丁寧に作っていた。別れ話の出る前に龍生が青子との時間を持てなかったのはフィンランド行きだけが原因じゃなかった。その事実に青子は龍生と別れてから初めて きちんと泣く。空港でも しのぶ の訪問時にも泣いていると思うが、人目を気にしないほど感情が溢れるのは初めてではないか。これは熊平との関係を本当に清算した後に初めて泣いたのと似ている。ここが本当の別れで、龍生の望まない別れを望んだのは自分だと気づかされた涙だ。

青子は そのボンボニエールを持ち帰る。そして龍生との思い出の場所で会いたい気持ちを叫び、その想いが絵付のアイデアとなって降り注ぐ。龍生が残した器に絵付をし、それを龍生に見せに行く目標が出来て、青子はフィンランド行きを決意する。


初の海外で今の連絡先を知らない龍生を捜すのは困難を極めることを理解しているが、今の青子は無敵だ。仕事を休むことになるのでフィンランド行きを社長に相談し、そこで初めて社長は2人の関係に口を挿む。

しのぶ に渡航を伝えがてら青子は窯の人に龍生との仲を破局後に公表する。しのぶ や家族に助けられ、フィンランド行きのメールを龍生に送って海を渡る。
青子は交際中に龍生のフィンランドでの住所、連絡がつくかもしれないメールアドレスを聞いていた。だから完全な暗中模索ではない。けれど時間も資金も限られているタイムリミットとの勝負が始まる。

家族のような窯の同僚たちへの恋の公表(破局中)は青子のトラウマの完全克服

フィンランド到着後も龍生からの連絡はなく、青子は龍生の手掛かりを追う。慣れない移動の疲労困憊の中でも動いた初日は収穫がなく、2日目は龍生の住居を目指す。だが住人は誰も彼を知らず、龍生が住んでいる気配もなく すぐに1日が終わる。

本来は龍生と繋ぐはずだった日本とフィンランドの国際ビデオ通話を しのぶ と繋ぎ、青子は暗い表情で現状を報告する。しのぶ に励まされて3日目も動き続ける意思を取り戻す。会えなくても足の動き続ける限り動く。そして捜索場所が2周目に入った時に変化が起きるが、その変化に青子は気づかない。

疲弊してベンチに座った青子の前に龍生が現れ、2人は互いの存在を確かめるように抱きしめあい そしてキスをする。それだけで互いに同じ気持ちだと言うことが分かる。


2人は手を繋いでフィンランドの街を歩いて青子の宿泊するホテルに向かう。波佐見(はさみ)は狭い町で人目があるので恋人らしい振る舞いをしていない2人が見知らぬ土地だから手を繋いで歩いている。

ホテルで龍生は もっと青子の存在を確かめようと鼻息を荒くするが、その前に青子は龍生の置き土産となったボンボニエールに絵付をした最新の共作を見せる。その思わぬ完成に龍生は驚く。龍生が自分の絵付に満足してくれる、それが青子の幸福になる。

その後、2人は龍生がフィンランドで住む家に移動する。そこで青子は自分の勘違いで龍生と紙一重で会えなかったことを知る。そして龍生と並んで食事をする。ここで2人は なぜ別れを選んでしまったかという個人と2人の反省をする。龍生側の喪失は青子が この地に来てくれたことで癒された。


フィンランドで自由に動けるのは実質2日。そこで青子は龍生に案内されて いつか龍生が話してくれたフィンランドの森に向かう。この森は春馬との思い出の森でもあった。今の青子は春馬という前パートナーの話を落ち着いて聞ける。

この森で龍生は火を起こしてソーセージを焼く。『5巻』の青子の誕生日から火が怖くなくなり、フィンランドで完全に克服するために火を扱い続けた。春馬が亡くなったフィンランドの地で火を克服することは、トラウマの完全解消の条件だったのかもしれない。生前の彼を語ることで龍生は春馬を正しく葬送し、その目には涙が光る。この龍生の涙を青子は知らない。

青子は春馬の気配が色濃く残る この森で、ライバルであり そして龍生の器が好きな同好の士でもある春馬と仲良くなる予感を抱く。そして青子は この森の自然から新しい天啓を授かる。


龍生との合流を知った しのぶ は号泣。『8巻』で功(こう)が言っていたように しのぶ は青子以上に青子のことで心が動く。この報告は同時に しのぶ と功の事実上の交際発表にもなった。そして功は販売が開始されたマグカップが好評であることを伝える。
続けて功はデリカシー無く2人の今後に踏み込む。それは青子が交際後に龍生の1年間限定の居住を問い直せなかったのと同じ聞けずにいること。

最後の夜、龍生は青子が天啓を得た器を作る。そこで龍生は波佐見での日々によって自分の器作りに対するスタンスが変わっていたことを、この地に来て気づいたと伝える。彼の中で器作りは一人でする作業ではなくなっていた。だから青子に帰国を伝える。その報告に青子は号泣する。ただ龍生は準備があるため帰国は1か月後となるが、今の青子は不安に負けないと思える。