
丘上 あい(おかうえ あい)
きーちゃん先生の事情(きーちゃんせんせいのじじょう)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
昼は高校教師、夜はNO.1キャバ嬢の希帆(きほ)。はじめは報酬目当てだったけど、問題児揃いの喜多苦部(きたくぶ)の顧問になって、けっこう楽しい毎日。ところが、学校にイベント・行事が一切ナシと知って、大激怒! 文化祭復活を提案し、喜多苦部部員と準備に明け暮れる。忙しさMAXなのに、生徒の悩み相談も引き受けて大混乱の中、美術教師・汲澤(ぐみさわ)との恋に火がついて……!? 恋の花咲き乱れる文化祭編・開幕!
簡潔完結感想文
- もしや生徒と恋に落ちるルートもあるのではと危ぶんで(期待して)いたけど どうやら回避。
- ここまで学校イベントが描かれないのは存在しないから。ないのなら自分たちで立ち上げる
- 意見が違うことと信頼していないことは同義じゃない。喜多苦部部長は顧問を信頼している。
支流が集まって やがて大河になる 3巻。
『3巻』までで主要登場人物が ほぼ登場する。計4人いる内の2人が正体不明だった喜多苦(きたく)部も全員集合し、集合したことで次の扉が開かれるという流れがあるのが素晴らしい。世界が繋がって広がっていく様子を感じられ、どんどん この作品世界への好感度が上がっていく。
全員が集合したからといって何の理由もなく友情が成立する訳ではない、という冷静な温度感が凄く好き。喜多苦部は個の集合体なだけなのと、生徒の間でも菊代(きくよ)に救われた人の彼女への信頼感と、まだ深く関わっていない沢村(さわむら)たちとの温度の差も ちゃんと表れている。だからといって沢村に何も伝わっていない訳ではないということがラストで判明し、その間接的な信頼の描き方が とても良い。細かいところで上手いなと思う描写ばかりで読んでいて楽しい。感動させようとしていないところで感動できる。
また部の活動と並行して菊代と汲澤(ぐみさわ)の関係値も少しずつ変わっていく。これまで学校とキャバクラという2つの舞台が描かれていたが、ここから学校に軸足を移すことが多くなるそして大人組の関係値が変わることで菊代が語っていなかった過去が徐々に明らかになる。
訳ありな生徒を出し続ければ連載を延々と続けることも可能だろうけれど、作者は物語に必要な最小限の個人回しかやらないようだ。当初の構想をしっかり実現するための人気を確保する実力があることが分かる。初の学校イベントの開始と過去の解禁という2つの流れがあって常に流動性を感じられる。
冷静に考えてみると、構成が滅茶苦茶 難しい作品なのに それを感じさせないのも作者の力量の高さだ。誰もが知っている大ヒットではないけれど着実にファンを獲得していく個性と実力があることが伝わる。
キャバ嬢としてオーナー・青田を動かせるけど、学校では彼の下で働く身上の文章と重複する部分もあるけれど、とにかく話の流れがスムーズ。
作中で学校イベントが発生しないのは、そもそも学校にイベントが無いからという理由があって、ならば0から構築しようという流れも自然。そしてオーナー(理事長)と懇意だからこそ菊代が矢面に立つのも自然だ。
それにより これまで菊代が明るいうちは教師を、暗くなったらキャバ嬢をタフにこなしていた菊代に限界が訪れる。そして作中初と言える菊代のピンチを救うことで誰が正ヒーローなのかが判明する。私は実は作中No.1イケメンの大西(おおにし)や最初に出会った沢村(さわむら)という線もあるのではないかと疑っていたけれど、さすがに教師が未成年に手を出すわけにはいかない。そして今後、菊代には この正ヒーローでなくては駄目な理由も用意されている。徐々に隠された事情や新しい事実が判明していく描写の上手さは、後にサスペンス作品を描くことに繋がっているような気がした。
夏休み前、部室で菊代は喜多苦部のユーレイ部員・長南 博之(ちょうなん ひろゆき)に遭遇する。中学まで山形に住んでいた彼には東京からの転校生の女子生徒との淡い思い出と苦い思い出があった。
山形でキスをした転校生は東京に戻り、追うように長南も父の転勤で東京に行くことになった。けれど女子生徒は山形の都会の子であったのに対して、東京での長南は田舎者。学校に馴染めず彼女にも会えない日々の苦しみから逃れるように長南は虚構の物語に逃避する。しかし その虚構さえも壊され長南は1年生の途中から舞台となる私立高校に転校して来た。
だが この学校でも長南は一言も発していないことが判明。訳ありの集まりが故に部員たちは長南の事情を詮索しない。菊代は沢村(さわむら)たちに介入し過ぎないが、同時に沢村は菊代の やり方に協力しない。
発見までは時間が掛かったけれど、名前が分かれば個人情報は簡単に手に入るそれでも菊代は幻の生物・長南の確保と交流を目指す。ちなみに菊代の田舎は宮崎県。長南は意外に饒舌だが、だからといって菊代に心を許すわけではない。
そこで菊代はキャバクラの客のツテで長男が東京に来てから口にすることのなかった地元の味を食べさせる。それは愛情を受けて育った自分を自覚すること。他責に走った自分を長南は悔い改める。愚かだった自分を捨てるように長南は髪を切る。こうして喜多苦部のメンバーが揃う。
学校が夏休みに入り、菊代のダブルワークは少し楽になる。だが そこに姉の身分証を利用した『1巻』ラストから大暴れした泉(いずみ)がバイトで入店する。正体をバラす訳にはいかないがセクハラや飲酒を止めたい菊代は悪戦苦闘。そこで きーちゃん先生として彼女の前に現れてキャバクラから遠ざける。泉は彼氏との旅行費のために お金が欲しかった。それは通う学校にイベントがないことも影響していて、菊代はオーナーである青田にイベント開催を求める。
文化祭開催の代償として菊代と喜多苦部が中心に企画立案しなければならなくなった。
そんな夏休み中の学校内に女児が入り込む。それをいち早く発見した菊代は教師間での点数稼ぎに その子を利用する。だが その子供は汲澤 優介(ぐみさわ ゆうすけ)の子供だった。
最近 交流が増えて結婚歴があると聞いていた汲澤の意外な事実を受け止めきれないまま、文化祭の準備が始まる。汲澤とも話す機会があるが、お互いに前の結婚のことは話す気がなく、その態度に菊代は汲澤の援助は必要ないと ただでさえ大変な準備で仕事を抱える。
部室に1年生の内野 はるかが来訪し、1か月登校しない兄の豪(つよし)の副担任である菊代に相談する。はるか は文化祭という娯楽が部屋に引きこもる兄の天岩戸を開くのではないかと期待していた。はるか にも理由は分からないが、訳あり生徒の居場所になるのが喜多苦部の存在意義。
その後、菊代は豪が『2巻』で空回りした自分の理解者だということを知り彼への介入を決める。ただし菊代は多忙なため実行部隊は沢村と元引きこもりの長南の役割となる。
体力の限界まで頑張った菊代だが過労で倒れる。そこに現れるのは汲澤。少女漫画的にはヒーローが確定した瞬間だろう。その恩義に菊代は汲澤への態度を軟化させ、汲澤を自分の旦那に会わせる。旦那が泉下にいることを知った汲澤は菊代を抱きしめ、自分も同様の別れをしたことを告げる。そのため汲澤の娘は祖父母と暮らしている。菊代が自分の事情を話す前に別件の連絡が入る。まだ全ては語られない。
初めて会う豪は何も問題を抱えていなかった。大学病院の外科部長の親に欲しい物を与えられる恵まれた生活と割り切った人生観。喜多苦部のメンバーは そんな彼にバンド演奏のための技術を教えてもらう。
それでも菊代は問題の根源が見えてきた。けれど いつものように直接的に動かない。その代わり長南の時には動く意思を見せなかった沢村が対処する。沢村の中の哲学があるのだろうか。
長南が歌が上手いことが発覚し、バンドの担当が次々に決まる。足りないドラムはキャバクラの店長が担当。2つの世界を行き来しなくなったら作品の意義が薄れてしまう。
バンドの練習の面倒は引き受けても家から出ようとしない豪を菊代は無理にでも動かそうとするが沢村が それを許さない。物事をスマートに動かせない自分に菊代は落ち込むが、そんな時に助けてくれるのは汲澤。そして沢村も良い文化祭にするために尽力していた。沢村は菊代の強引なやり方には反対するけれど、既に信頼している。