椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
マッサージ研究会の期待の星・千愛と学校一のモテ男・陽介。付き合い始めてからの二人は、気付けばマッサージ漬け(!!)の毎日☆ そんな中、部の夏合宿に参加した二人の前に…!?
簡潔完結感想文
10話まで「少女漫画」をやり切りましたので、後は自由にさせて頂きます の2巻。
いや、頑張りました。
当時まだ学生で大学の構内で原稿に向かっていたという作者(1/4柱の情報)。
デビュー間もない、初の長期連載ということで、
編集部の意向を踏まえた作品をお送りしなければという使命があったのだろう。
そして何より、少女漫画をお届けしなければいけないという 力みが見える。
恋愛漫画として3話で両想いになって完結している話ですが、
初々しいカップルが 少しずつ近づく様子を描くことで10話まで話を引っ張ってみた。
『2巻』では初デートに際して、陽介からお弁当作りをお願いされた話が印象的。
なぜなら、3話でお役御免だと思っていた、
千愛の双子の姉・明佳(さやか)が再登場したからである。
お弁当を作ることになった千愛が身をこわばらせたのは、
家庭で料理担当の陽介の料理の腕が相当だからではなかった。
朝の弱い母親の代わりに自分たち姉妹のお弁当を作っていた千愛。
だが性悪な姉・明佳は千愛の作ったお弁当を食べたふりして捨てており、
一度も食したことが無かったことが判明。
そのことがトラウマになり、千愛はお弁当を誰かに作ることに尻込みしてしまうようになった…。
…って、この姉の設定は何でこんなに酷いんでしょうかね。
この話が最後の登場だと良いな(後半は全く出てこないのでご安心を)。
ただ、この姉のお陰で、千愛と兄の武との兄妹愛も垣間見れる作品になっている。
千愛自身のトラウマの克服、陽介との初デート、
そして妹を心配する優しい兄という3つの側面をお弁当作りで描いた佳作である。
…が、色々と限界が来た様子。
勿論、私に当時の作者の心境など分かるはずもないが、
10話と11話の間には作品にとってのパラダイムシフトが起きているのは確かだ。
それは少女漫画と少年漫画ぐらいジャンルが違う。
ジャンルという括りを一気に飛び越えて、性別や年齢を超えて、
この「親指からロマンス」ワールドを好きな人たちに向けて全力で描き切っている。
なんだか作者の好き放題やっているように思えて、爽快感がある。
ある意味で、作者の生来持っているオリジナリティが出るのは11話からかもしれない。
強すぎる個性の持ち主たちが、あっちでもこっちでも バカをやっている。
後年の椿作品が好きな方は、このデビュー作にも面白さを見出すはず。
絵の稚拙さや散らかったプロットなど、
改善の必要がある箇所はあるが、同時に複数人を動かせる作者の能力と、
キャラクタの造形能力は、もう十分に発揮されている。
10話まで描かれる恋愛・交際の描写は、ほぼ同じことの繰り返しと言っていい。
前述の通り、『1巻』の3話で早々に両想いの後になってしまったから、
あと描けるのは交際初期の胸の高鳴りや、その逆の不安ぐらいか。
主人公の千愛(ちあき)が交際相手の陽介(ようすけ)のことが
好き過ぎて から回ってしまい、一騒動起きるという内容が多い(その逆も然り)。
しかも陽介は学校一のモテ男なので、
マッサージ以外に取り柄がない自分がいつ捨てられるのか、
どこか欠点を発見されて嫌われてしまったら、
恋愛が終わるのではないかという一方的な不安も尽きることがない。
端的に言うと、恋愛のすれ違いは「またか」という感じで、
内容的にも、どこかの漫画で見たような気がするものばかり。
この辺もまた、作者が恋愛漫画を意識しすぎているところかな、と思いますが。
ただ主人公の千愛がマッサージ エリートという秀でた点以外は、
どこか抜けていたり、暴走したりするキャラクタなので、
一連の騒動が無理なく起こっている。
彼女のキャラクタもあり、陽介の些細なことに心が左右される様子は、
読んでいて微笑ましくもある。
国民の後輩、国民の娘・孫という感じで愛される人だと思う。
見た目は分かりやすいイケメンキャラではないのだが、
陽介も実は典型的な少女漫画のヒーローだ。
学校一モテるし、料理も出来る、喧嘩も強いし、背中も大きい。
高校生の身でありながら副業で会社の仕事も手伝ったりしているらしい。
もはや何でもありの存在になっているが、素直に好感が持てるのはなぜだろう。
1つは、少女漫画特有の変なキャラクタ設定がないからだろう。
陽介には過剰なドS設定だったり、今のところ性格的破綻は見受けられない。
自然体のままで、魅力的に見える人なのだ。
大きな背中を持つ大きい人というのも安心材料の一つだろうか。
これが細身のイケメンだったら、やっぱり嫌味に感じたはず(個人的意見)。
もはや父性が出ていると思う。
1話目の出会いはともかく、ちゃんと千愛のことを想ってくれているところもいい。
千愛も学校一のモテ男と付き合っているという意識が少なく、
陽介も千愛の良いところも悪いところも俯瞰してみてくれている。
そういう飾らない等身大のカップルの感じが好感触に繋がるのだろう。
そうして10話まで、何とか恋愛漫画としての体裁をとってきた本書だが、
前述の通り、11話からは内容がガラリと変わる。
何といっても「裏マッサージ大会」という謎の大会が開催されるというのだ。
格闘漫画として新たな読者層を獲得する気なのでしょうか。
オラ、ワクワクしてきたぞ!