《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼に対する特別な感情が芽生え始めてしまったら、もう気軽には てをつなげないよ。

てをつなごうよ 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
てをつなごうよ
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

小豆の後押しもあり少しずつ兄弟らしくなってきた柊美月&流星兄弟。さらに小豆と美月の姉兄同士もすっかり仲良しになりました。そんな様子に千花はなんだかモヤモヤ。なんせ小豆に12年間片想いをしてきたのですから。さらに千花は、小豆のある変化に気づいてしまいます──。

簡潔完結感想文

  • 風邪回・壁ドン・お泊り回とエピソードは定番だが恋愛未満の感情で飽きない。
  • 美月は小豆を、小豆は千花を頼る。だから千花にも頼る人がいるのは当然なのだけど。
  • 恋愛には鈍感だが幼なじみの変化には敏感な小豆。その小豆のために千花は…。

ヒロインによる、悪役令嬢からの恋愛応援団のクラスチェンジ、の 2巻。

相変わらず いい意味でフワフワしている作品だが、その裏側にはヒリヒリとした感情が隠れている。少女漫画の面白さは、その人の感情の揺れ動きの大きさで換算できる部分があると思うが、この『2巻』は三角関係の3人とも心が大きく動いていて、少しも目が離せなかった。自己紹介的な『1巻』を経て『2巻』は物語の面白さが飛躍的に増している。

そして各エピソードの技巧も冴え渡っていた。例えば「壁ドン」にまつわる話では、1話の中で3人4パターンの壁ドンを行わせ、その行為によって彼らが抱く恋心を示しているのには唸った。
またタイトルになっている「手を繋ぐ」という行為でも恋心が示される。ヒロイン・小豆(あずき)は、子供の頃 千花(ちか)の手を繋ぐことで彼を安心させてきた。そして異邦人で不慣れな環境に四苦八苦する美月(みづき)に対しても手を握ることで前向きさを取り戻させていた。この近距離でのスキンシップによって男どもは あっという間に恋に落ちてしまうのだが(笑)、これまで小豆が男性の手に触れられたのは その人を異性として意識していなかったからだということが今回 明かされる。後半に小豆が思わず その男性の手を離す場面があるのだ。それが小豆の恋心の芽生えとして描かれ、そして その後で もう一方の男性の手は 今も気軽に握れるという残酷な描写に同情せざるを得なかった。

そして男性たちが見たくない場面ほど見てしまうというのも物語を感傷的にしている。相手を お邪魔虫だと思っていた人こそが、お邪魔虫だったという逆転劇も見事だったし、それを自覚した彼が一芝居打って身を引こうとするのが痛々しくも切ない。この男が身を引く美学は前作『ハニー』でも見られた気がする。作者はヒロインだけでなく男性側にも寄り添った描写が多いように思う。

この『2巻』で物語が動き出しただけでなく、表現にグッと深みが出てきた。


ないのは男ヒロインで お馴染みの千花だろう。『2巻』終了時点で唯一 恋心を明確に自覚しているのは彼だけで、そして状況は彼に喜ばしくない方向に動き始める。叶わない恋をしている彼は やっぱりヒロインである。
ただし女ヒロインではないため、千花は色々と悪いこともしている。例えば新参者である美月に対しては威圧や牽制を忘れず、その様子は まるで「悪役令嬢」である。美月に対して小豆との年季の違いを見せつけたり、わざと彼の前で2人の中を見せつけることで精神的なダメージを与え、間接的に彼が小豆を諦めることを願っているように見える。

そう考えると美月もまた男ヒロインのように見えてくる。まるで庶民が上級国民の通う学校に入り、そこで千花から文化や身分の違いを思い知らされるという健気なヒロインポジションである。新しい環境で何もかも不慣れな美月に優しくしてくれるのは、自分よりも上手く家庭内のことを こなしているスーパーヒーローの小豆。小豆への憧れが やがて恋になっていく。不器用で欠点も多いヒロイン・美月が少しずつ成長し、小豆の心を射止めるまでを描くという男女逆転の物語も容易に想像できる。

さて話を千花に戻すと、彼が男ヒロインだからこそ出来る行動がある。それが他の女性との性行為である。これを少女漫画の女ヒロインでやったら読者から嫌われるばかりだろう。流行の悪役令嬢モノでも一発逆転が面白いのであって、奔放な性関係が出てくることはないだろう。千花は小豆と永遠の関係が欲しい。だけど恋愛が永遠ではないことは両親の離婚で学んだ。だから彼は永遠に「幼なじみ」の地位でいることを望み、その関係を壊さないために他の女性を求める。

この行動を千花が繊細過ぎるからと考えるか、女性を ただの性欲の捌け口として考えていると捉えるかは読者の判断によるだろう。

意外と強がり少年なのは千花も同じ。頼る人が居たから千花は自分を律することが出来た。

私が『2巻』の内容から考えたのは「誰かに頼るのって大事」という言葉だと思う。『1巻』でも書いたが この3人は家庭環境の皺寄せが子供たちに及んでおり、それぞれに苦労を背負っている。
不慣れな環境で不慣れな役割を果たさなければならなくなった美月が頼るのは小豆。彼女の存在があるから美月は兄として人間として成長していく。そして小豆が頼るのは千花だろう。何でも話せて、何でも出来る千花がいるから小豆は健やかでいられる。

では、千花は誰に頼るの?と考えた時、それが身体を重ねる女性なのではないか。年上で、千花のこと、彼の恋愛感情を熟知している人がいて、彼女に性欲も葛藤も発散できるから千花は小豆の前で健やかにいられたのだろう。話を聞いてもらうために この男女は慰め合っているように思えた。
女ヒロインなら親友に相談すれば済むことかもしれないが、男ヒロインは弱さを見せることが なかなか出来ず、利害関係のない人と身体を重ねることで初めて 弱さを含めた自分の全てを曝け出せたのではないか。性欲の発散という最悪な動機もあるだろうが、その行為をしないと自分の弱さを話せないのが男ヒロインの面倒臭いところのように思う。


月は入学以来、2年生の教室に出向き、小豆と一緒に弟たちを児童館に迎えに行くのが日課となった。弟というオプションで一緒に行動する美月に嫉妬してか、千花は美月の前で これ見よがしに小豆とスキンシップを見せ、圧力をかけてくる。

そんな2組の きょうだい で一緒に歩く帰り道、豪雨に遭い、しかも美月が家の鍵を忘れたため、男性陣は お風呂に入れられる。小豆は恋愛事に関しては鈍感だが、生活全般の技量は高い(あまり賢くはないみたいだが)。そんな小豆のテキパキとした行動に美月は感心するが、小豆も最初から うまくできたわけではない と彼に伝える。困った時、キャパシティをオーバーしてしまった時に頼ることを覚えるのは大事、と小豆は実体験からか そう彼に伝える。
確かに高校生組は自分のやるべきことや 出来ることを しっかりやっている。小豆は家事と弟の面倒を担い、そして千花も部活とバイトを両立している。千花の苦労は作中で あまり描かれないが、彼がバイトするのもシングルマザーの母親に頼らないという自立心と考えるのが妥当だろう。
そして美月は急に母親が家を出ていって、引っ越しとなり環境と立場が変わった。そんな美月の混乱を、彼と似たような境遇である小豆は分かってあげられるのだろう。

風呂回なので着替えのハプニングが起こる。ただし小豆が美月の上半身を見てしまう、という比較的ダメージの少ない状況。ただ美月は自分の身体の細さを指摘され随分と傷ついているように見える。立場が逆だったら問題というか、今回の小豆の発言は貧乳を指摘するようなセクハラ発言に感じられるが。


母ヒロインの小豆は男性陣の お風呂を優先したため、自分は身体が冷え、熱を出してしまう。その異変に気づくのは千花だけ。これは過ごした時間の長さのある千花が優位なのだが、美月は自分が気づけなかったことに落ち込む。そして落ち込むのはなぜか考える。
そして発熱の責任を感じて、千花を先に学校に行かせてから小豆の看病に動く。自分の失敗を返上したい気持ちと、千花に負けたくないという気持ちが混ぜ合わさっての行動だろう。

風邪回となり美月は小豆を抱え上げベッドに運び、おかゆ を作り、彼女に食べさせる。そして小豆が担う家事を肩代わりすると意気込むが、体力のない美月は疲れ果てて寝てしまう。小豆を看病するはずが、一眠りして回復した彼女に、寝ている姿を発見され、ブランケットを掛けられてしまう。


月たち柊(ひいらぎ)兄弟が引っ越してきて1か月。小豆は美月と多くの時間を過ごすことで彼の長所や短所を知り、「ほっとけない子」と感じ始めていた。

そんな時、大豆(だいず)が学校で壁ドンに関する話を小豆に秘密したため、小豆による壁ドン調査が決行される。『1巻』の はじめてのおつかい の時もそうだったが、ちびっ子組のお陰で話が回っている。

この調査中に小豆は美月に、千花は小豆に壁ドンをすることになるのだが、それは まるで恋の矢印のようである。しかし大豆が美月によって足止めされている間に聞いた流星(りゅうせい)からの情報によると、大豆は女子に壁ドンされたので、小豆は千花に壁ドンをする。そこで照れてしまう千花。これをされた相手はトキメクのが通常の反応。
もしや大豆も!? と小豆は大豆に恋の相手がいるのではないかと動揺してしまう。そして その勢いのまま大豆に恋愛禁止を薦めたため、流星の裏切りがバレてしまう。おつかい回といい、大人組(美月と小豆)は動揺で失敗している。


ドンとは好きな人に やられたらドキドキするもの。小豆は大豆にされてもドキドキしなかったのは好きの種類が違うからと説明するが、その好きの違いが分かるのは高校生組で千花だけ。だから彼らの3回の壁ドンでドキドキしたのも千花だけなのである。

だが恋の好きを理解しつつある美月は、その夜に忘れていたお裾分けをしに来た小豆に対して壁ドンをして彼女にドキドキしてもらおうとする。それは間接的な告白に近いもので、小豆も「ほっとけない子」以上の感情があるのではないかと自分の心を探り始める。壁ドンを通して、彼らの現在地をする非常に まとまった回だと感心する。


ールデンウィークに突入し、いつもの5人と小豆たちの両親の計7人でコテージに宿泊する。ちなみに美月たちの父親と千花の母親は誘ったけれど仕事の都合で来られなかった。もし この独身同士が出会っていたら、恋が始またりしたのだろうか、と考えてしまう。

千花は今年は美月と流星という異分子がいることが迷惑。そういえば この恒例の旅行、大豆が誕生しなければ継続できなかったのだろうな、と思う。彼らが1人っ子同士の男女であり続けたら、さすがに高校生になったら小豆の両親も千花を誘わないだろう。大豆という安全弁があることで千花は助かっている部分があるだろう。中学生以上になったら少なくとも寝室は男女で別れるような気がする。

アスレチック中に危険な行為をしてハプニングが起きたため小学生組が泣く。怪我はなかったが彼らは その状況に泣いてしまう。大豆は小豆が、そして流星は美月が慰め、そして少しだけ叱る。特に美月は流星のために不慣れなアスレチックを攻略して彼の元に行き、頭を撫でて安心させる。そんな美月の新たな一面を見て小豆は嬉しそうな顔をし、その小豆の顔、そして抱きつつあるであろう感情に千花は内心で大きく動揺する。


うして去年までは変わらずにいた旅行の風景が、今年は一変する。更に小豆は美月に手を触れられると無意識で思わず手を引いてしまう。『1巻』では距離感を無視して「てをつなごうよ」となっていたのに、今はもう 彼と手を繋げない。それは嫌いではなく、その反対の感情が生まれつつあるからだった。

その場面を目撃し、小豆の内心を読み取った千花は内心の不安を押し殺して笑顔でいるのだが、その笑顔に違和感を持つのが小豆だった。

夜になり、子供組は一緒に寝る。しかし今年は男4人の中に小豆が1人。しかも同年代が2人に増えたため、さすがに小豆たちの父親は警戒している。小学生組は疲れ果てて早々に寝てしまうが、動揺を抱える千花は眠れず外に出る。そして美月の手を意識した小豆も眠れず、千花が出て行ったことに気づく。

小豆は千花の変化がいつ起こったのか的確に指摘する。小豆は千花の変化は分かるのに、自分の気持ちや、千花の恋心には鈍感なまま。だから千花は自分の気持ちを分からせようと彼女の顔に口を寄せるが、今の3人の関係性において邪魔なのは 他でもない自分であることに気づき、キスをしないまま気持ちを殺す。


花は ずっと小豆への気持ちを殺してきた。特に小豆を女性として意識して、自分の性的な欲求を意識した後は その気持ちを抹消するために、他の女性で発散をしてきた。3歳年上の彼女は どうやら千花のことも小豆のことも、彼らの関係性も知りながら身体を重ねているらしいことが読み取れる。

そして千花が臆病であるのは、自分の両親たちの恋愛や結婚生活が終わったことが強く影響している。永遠がないかもしれないのなら、小豆に気持ちを伝えないまま、自分の中で その気持ちを育めば壊れないと持っている。そのためには自分は「幼なじみ」であり続けようとする。

それは今回も同じだろう。美月という「お邪魔虫」が出てきたからと言って、彼に対抗するのではなく、自分が「お邪魔虫」として退却することで小豆との関係性を永遠にしようとしている。
千花はキス未遂を苦し紛れに誤魔化し、そして嘘の中に本音を紛らせて その場を やり過ごす。小豆は少しの違和感を抱きつつも、千花から繋がれた手を繋ぎ返す。そして その遠慮のなさは小豆の意識に千花が上がっていないという証拠でもあり、繋がれた手は あの温かった手と同じなのに、千花には涙が出るほど悲しさが溢れてくるばかりだろう。

そして美月は2人の親密そうな後ろ姿を目撃する。

好きな人と手を握るのは極上の幸せのはずなのに、その行為で恋愛対象外の自分を悟る。

日は雨で室内で皆で過ごす。小豆は千花の異変を察知してか大豆最優先の方針を変える。そして昨夜の2人を目撃した美月も2人と距離を取るような行動に出る。千花は自分が邪魔者なのに、彼らに気を遣われていることが いたたまれない。あの小豆が大豆よりも自分の状態を気にしてくれることは喜ばしいが、小豆に気を遣われることは本意ではない。

だから小豆に「いつも通り」を要求するが、小豆は千花を最優先にしたい、と千花に殺し文句を言ってくる。こういう小豆の心に千花はずっと惹かれているのだろう。そこで千花は小豆にゲームを挑み、彼女に勝ったら想いを全て伝えるけれど、負けたら自分が邪魔者であることを認めることにした。

結果は千花の負け。だから悪役令嬢ではなく2人の恋をさり気なく応援することにした。そして彼は帰りの電車内で心理ゲームを2人に出題し、そして答えを細工して2人に恋心を自覚させるように仕向け、関係性の進展を促す。それが千花が「幼なじみ」として出来る精一杯のことなのである。男ヒロインは切ない。