《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

相手が恋に落ちる確率がグンと高くなるから不安や悲しい気持ちのイケメンと てをつなごうよ。

てをつなごうよ 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
てをつなごうよ
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

楠小豆&大豆は有栖野団地に住む仲良し姉弟です。お隣には幼なじみでモテモテの橘千花。お互いに両親が仕事で忙しいので協力しながら成長してきました。ある日、反対隣に柊美月&流星兄弟が引っ越してきました。小豆たちとは対照的に兄・美月に反抗的な弟・流星。兄らしくなれず悩む美月ですが…。

簡潔完結感想文

  • 女ヒロインは鈍感なので上手くいかない恋愛の苦しみは男ヒロインが担う。
  • 異邦人が これまで強固に築き上げられた幼なじみに介入。男たちの静かな戦い。
  • 子供の存在は高校生組の媒介。子供組がブラコンヒロインの大きな動機になる。

ロインの隣の部屋への入居審査はイケメンであること、の 1巻。

初長編だった前作『ハニー』に続く作者の第2長編。元々 画集や小物が販売できそうなほど可愛らしかった唯一無二の繊細な絵に加えて、今回は作者の やりたいことが詰まった作品だと思われる。『ハニー』は10回の短期連載から長編化した作品で、主役カップルが交際した後に波乱を創出する必要があり、後付けの部分が悪目立ちしていた。しかし今回は『ハニー』のヒットにより ある程度の連載の期間が確保できているため、作者が最初から構想した内容で作品が構成されている初めての長編と言えよう。作者の作家としての真価は この作品で見られるだろう。

そんな本書のテーマは三角関係である。三角関係は少女漫画の王道展開ではあるが、途中(多くは『3巻』から始まる三角関係)ではなく、本書は最初から三角関係に特化した作品となっている。ヒーローが誰なのか一目瞭然の作品より、どちらが選ばれるのか分からないスタートと同時の三角関係は一進一退の攻防が見られて最後まで面白い。

美月が主役の転校生ヒロインなら、千花は やんわりヒロインを拒絶する意地悪なクラスメイト。

ただ この天秤の重さが均等な三角関係は結末で賛否両論を巻き起こすのも さだめ。その中でも集英社作品は結末で炎上する確率が高めに思う。やまもり三香さん『ひるなかの流星』幸田もも子さん『ヒロイン失格』は派手に燃えていた。
それは本書も同じだろう。私も この結末には思う所がある。その内容は最終『8巻』の感想文で書くと思うが、甲乙つけがたいイケメンは読者間、または読者と作者の間の戦争を巻き起こす。作中は こんなにも平和なのに現実が世知辛い。


ロインの小豆(あずき)が鈍感なので、恋がなかなか始まらないため、中盤までは男同士の恋愛バトルが描かれる。男性たちの恋の鞘当てに気づかないまま、密かに愛されるヒロインというのは読者の夢を叶えてくれる甘い設定である。
そして女性と子供は ずっと無垢な存在として描かれる。これは目黒作品の特徴なのだろうか。絵柄の柔らかさも含めて、綺麗すぎると思えるヒロイン像は羽海野チカさんを連想する部分だった。ヒロインを悪く言うことは可能だろう。だって気持ちが弱っているイケメンに手を握って、その気にさせてしまうのが聖母ヒロインなのだから。団地の あの階段横のスペースは恋のパワースポットなのかもしれない。

終盤まで ずっとヒロインは千花(ちか・男性)だろう。彼が一番 間違って傷ついて、それでも恋を諦めきれないのが人である。そこから他の2人が時間差で自分の中の恋心に気づいていくため、ずっと誰かの感情が動いていて、停滞が少ないのが本書の長所じゃないか。最後に誰を選ぶかという場面まで ずっと面白く読めた。

また作中に小学1年生の弟がいることで その兄姉である高校生組が一緒に行動する理由になっており、自然と多くの時間を過ごすことで恋心を動かしていくのも上手いと思った。同じ団地に住む3人だが、この団地は大人などいないかのような空間を演出していて、それが大きな意味での「秘密基地」のように思えた。


だ気になるのは「社畜」として共働きをしている小豆の家と、シングルマザーの千花の家が同じレベルの暮らしをしていること。一定収入以上がある人が全員 団地を出て行くわけではないだろうが、小豆が弟と同じ部屋にされているのは ちょっと可哀想に見える。小豆は特売品を求めて日々動くような人なのだが、小豆の家が そこまで経済的に逼迫している理由が見当たらない。特売品を買って得をしたという気分を味わうためだろうか。
というか、小豆自体が「ヤングケアラー」のように描かれている。弟の面倒を見て、料理を作って、家事をして、彼女には自分の時間がないように見える。そんなシンデレラ序盤のような描かれ方が読者の共感を得るのだろうか。親世代を上手く排除し、子供だけの空間を作れてはいるが、一方で親の勝手も見えてくる。千花たちイケメンたちは それぞれ父か母だけのシングル家庭。高校生組は それぞれに折り合いを付けているように見えるが、それでも欠落や悲しみがあるから「てをつなごう」としているのだろうか。

作者が可愛らしい世界の裏に ちょっとした毒を潜ませている可能性はある。それは あの人の行動に通じる苦みだ。でも考え出すと親世代の身勝手さが気になって、彼らが孤児のように見えてくる。どこか痛みを抱えた5人きりの世界で、それ以外はいらない という そんな世界観にも見えてくる。


頭は「男ヒロイン」である橘 千花(たちばな ちか)視点の「Episode.00」から。00と最初から2桁用意されていることが長期連載が予定されている証拠かな。

千花の幼なじみは同じ年て同じ団地のお隣に住む楠 小豆(くすのき あずき)。そして その10歳年下弟である大豆(だいず)の3人は ずっと一緒に育った。そういえば大豆の誕生は彼らが10歳ぐらいの時で、その時には既に千花は小豆を好きでたまらなかったはず。そこに大豆という小豆の最愛の男性が生まれたことに千花は思う所がなかったのだろうか。シングル家庭の自分は弟妹は望めず、そして小豆が自分への関心を薄れさせる。この時の千花は かなり心が荒れていたのではないかと思うが、その時代の話は描かれなかった(はず)。

千花は強くなりたかったが、成長と強くなったことで小豆と手を握る機会は失われていく。

千花にとって団地の階段横のスペースは思い出の地。名前と顔立ちが女っぽいと同じ団地の同年代の子にからかわれた時のシェルターの役割を果たしていた。そこで膝を抱えて泣いていると現れるのが小豆。彼女が手を繋いでくれるだけで千花は安心できた。そして小豆が自分の名前も心も肯定してくれたから千花は自分を好きになった。そして自分を好きになるキッカケをくれた小豆を好きになる。ちなみに過去の回想で、小さい頃の小豆が弟・大豆と同じようにコスモスを もすこす と言っているのが可愛い。

だから千花は あの日、小豆から渡されたコスモスを押し花にして大切にして持ち続けている。それは彼の小豆への想いそのもので、きっと死ぬまで所持し続けるようなものなのだろう。この初回、ラストでキスをしているように見えるけど、小豆が動揺していないから顔を寄せたぐらいなのかな。分かりにくい。


うして男ヒロインの千花の現在地が提示されて、物語は始まる。
そんな長年に亘る片想いの幼なじみの中に異邦人として登場するのが、柊 美月(ひいらぎ みづき)と流星(りゅうせい)の兄弟。美月は小豆の1学年下の新 高校1年生で、流星は大豆と同じ新 小学1年生である。千花はずっと小豆の家の隣という特権を確保していたが、今回 小豆の部屋の反対側の隣に柊家が越してきて、内心 穏やかじゃないだろう。上述の大豆の存在と言い、小豆の「特別」に なれないのが千花の特徴なんだろうか。

柊家はシングルファーザーの一家。そういえば同じシングル同士の柊家の父親と、千花の母親が そういう関係になるかと思っていた時期が私にもありましたが、本書において大人は いないも同然なので、彼らのストーリーが描かれることはなかった。

母親が家から出て行ったという事実に流星は心を閉ざしているのか、タブレット端末で動画ばかり見ている現代っ子。そして小豆・大豆姉弟とは違い、美月・流星兄弟は関係性が良好とはいえない。幼い流星には家族形態が変わったことに加え、それによって無関心だった美月が自分を労わるように構うのが自分の惨めさを増幅させる気持ちにさせるのだろう。

そんな美月を小豆は気にする。ブラコンの小豆と同じように、当然 大豆もまた姉と一緒の時間を過ごしてきた。だから姉の変化を逐一観察し、彼女の関心が自分以外にも向けられていることを痛感する。千花もそうだが、大豆も大事な人の心の推移を繊細に感じ取っている。


星に拒否された美月がいたのは階段横のスペース。ここは千花にとって大事な場所だが、小豆は この秘密基地で美月と膝を突き合わせて話し合う。千花で慣れているのだろうけど、初対面の美月からすれば小豆の距離感は変だろう。肉体的接近で男性を勘違いさせている小豆はヒロインというよりホステスか…。

小豆の手繋ぎは、男性ヒーローが いきなりキスしてるのと同種か。混乱 のちに 好きッ☆

美月は子供が苦手で流星を突き放してきた。だが親の事情で流星は独りになってしまい自分が面倒を見ると動いたが、その手のひら返しが流星には許せない。自分の取るべき行動に葛藤する美月の手を小豆は取り、彼の感情を共有しようとする。その効果か美月も小豆の質問に素直に答え、そして自分の願望を語り始める。これにより小豆は確かに美月の中に流星への愛情を感じ取り、問題が解決されることを見抜く。

しかし柊家に戻ると弟たち2人の姿がなく、彼らを放置してしまった小豆は酷く動揺する。その小豆の様子を見て今度は美月が小豆の手を握り、彼女の動揺を半分 引き受ける。ヒロインのピンチに動けるのはヒーローの資格である。弟を捜索するために外に出た小豆たちは千花に遭遇する。彼が目にしたのは知らない男と手を繋ぐ小豆の姿。千花はポーカーフェイスで受け流しているが、内心は今の小豆と同じぐらい動揺しているだろう。その証拠に怒りが声に(吹き出し)に出ている。

そして聡明な千花は弟たちが どこに行ったのか すぐに分かり、小豆たちは もう一度 柊家に戻る。彼らがいたのは押し入れの中。大豆の姿を見つけて小豆は大粒の涙を流し、彼に謝罪する。そこで姉が変わらずに自分を溺愛していると知った大豆は、姉になぜ美月をずっと見ていたのかを聞く。すると小豆は美月の黒髪が大豆にそっくりだったからだと答える。一瞬で恋に落ちたのではなく、違う男の中に弟の影を見ていたらしい…。第1話で確かめられたのは橘姉弟の確かな兄弟愛だけである。

そんな小豆を見つめる美月に千花は牽制を忘れない。鈍感そうな2人と、1人だけ恋心が明確な三角関係が幕を開ける。


年度になり3人は同じ学校の生徒となる。小豆と千花は同じクラス。この回で世界が広がったことによって千花が どれだけ女子生徒から人気なのかが描かれる。

小学校と高校の新入学生となった柊兄弟の学校開始は後日。そこに同じく新一年生の大豆も加わり、3人は一緒に過ごす。大豆は流星の制御が上手い。これによって美月の心身の負担は軽減されるだろう。タブレット端末で現実ではない場所に避難していた流星も、大豆の聡明さによって外に出るようになり誰かと一緒に過ごす時間を持つ。

子供たちの交流中で流星が自転車に乗れないことが判明する。これは自転車の練習中に母親が家から出て行ってしまったため、流星は練習できない環境になってしまった。
このことを知って高校生たちは動く。まず美月。弟のため自転車の練習に必要な知識を得て、そして動画の検索履歴から流星が自転車に乗りたいことを知り、弟への遠慮を飛び越え、彼に練習を提案する。流星は これも美月の兄貴面だと考えるが、それでも美月は苦手よりも流星の兄であり続けることを選ぶ。

そうして家から出てきた兄弟は、話を聞いて柊家を訪れようとしていた姉弟と合流する。ここは小豆たちが柊兄弟が動いた後に合流するのが良い。小豆がお節介ヒロインとして柊兄弟に介入することも出来ただろう。そして大豆なら流星を簡単に その気にさせただろう。でも柊兄弟の問題を彼らだけで解決してから、小豆たちは練習を見守る立場になるのが良い。

そして流星は あっという間に自転車を乗りこなす。おそらく少女漫画的には同じく自転車に乗れない小豆が美月と練習をするのが場面としては大事だからだろう。美月にとって小豆の存在があったから、これまでとは違う弟との距離になれた。彼にとって小豆が特別になりつつある。そのことを彼らの練習を遠くから見つめる千花は敏感に感じ取っていただろう。


よいよ入学した美月は、千花同様に学校中から注目を集める。要するに小豆の両隣は学校でも有数のイケメンで両手に花ということなのだろう。小豆も特別な感情ではないものの、客観的意見として美月の容姿を褒める。それに対する美月のリアクションを見て千花は彼の心の中が見えてしまう。千花だけは三角関係の成立に気づき、彼だけが傷ついている。ヒロインだなぁ…。

そして千花の誕生回と、大豆&流星の はじめてのおつかい の2本立てが始まる。自分の誕生日に予定を入れない千花。それは小豆と一緒にいたいという願望だろう。

だが誕生日当日には誕生会ではなく別の企画が用意される。それが ちびっこたちの はじめてのおつかい である。千花は この時の役割分担で小豆と一緒に行動しようとする。男ヒロインの千花だと思うが、これ性別を逆にして考えたら、かなり あざとい女性であろう。ライバルに対して牽制して、自分の優位を見せつける。あっ これ美月が正ヒロインで千花がフラれるパターンだと思わざるを得ない。

3人で1日を過ごし、そして美月という第三者の登場によって、幼なじみの男女が異様な接近をしていることが指摘される。そして美月が接近を指摘するのは、心がモヤモヤするからで、千花の挑発のような態度に乗ったことを示している。千花はもちろん、美月も自分の感情に気づき始めているが、小豆だけが心が動いていない。

そして美月が尾行対象であった ちびっこ よりも小豆たちの関係に注意を払ったことで、彼の尾行はバレてしまう。そうして自分たちが信用されていないことに大豆たちは怒り、高校生たちの計画は失敗に終わる。高校生組の「はじめてのさつえい」は目的を達成できなかった。でもきっと こんな出来事も いつかの笑い話になるのだろう。

失敗もあった日だが、男ヒロインの千花は最後に小豆が自分の誕生日を覚えていて、プレゼントを渡してくれたことで救われる。小豆の男前な胸キュン行動で、完全に通常とは立場が逆転している。そんな千花の表情を見て美月は彼の気持ちに気づきつつある。これからはヒロインの知らない場所で、男性による壮絶な足の引っ張り合いが見られる、かも!?