星森ゆきも（ほしもり ゆきも）
ういらぶ。ー初々しい恋のおはなしー
第10巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★☆（5点）
こじらせイケメン凛と残念系美少女優羽。
面倒くさいカレカノから、少しオトナなカレカノになった2人だけど、
卒業を間近に控え、それぞれの道を考えはじめ・・・！？
面倒くさいカップル高校生編、ついにクライマックス・・・！！！！
簡潔完結感想文
- 将来や成績に関して 幼なじみの中でも「ぼっち」を感じ始める高校2年生の優羽。
- 一番 大切な人に一番 大事なことを言わない凛の隠された本心を知って胸キュン。
- 高校生編完結。引っ越し騒動、遠距離恋愛、同棲生活、クライマックスは大渋滞。
様々な少女漫画のタイトルが浮かんでくる 10巻。
『10巻』では割愛した部分に感心することが多かった。
いきなりネタバレになりますが、高校生編の最終回で、
ヒロイン・優羽（ゆう）とヒーロー・凛（りん）は家庭の事情から
高校3年生の1年間、2人で同棲をすることになる。
でも その同棲生活は一切描かれずに、彼らの生活が覗き見られるのは卒業式当日の朝だけ。
その潔さに私は大いに感心した。
その前の急展開には大いに目を回したけど。
ここで同棲生活を じっくり描いてしまっては、これまでの本書の根本がブレてしまう。
そして父親から性交渉禁止を厳達されている同棲生活は渡辺あゆ さんの『L♥DK』と内容が被る。
この同棲は幼なじみたちの お隣ライフを成立させるための緊急措置であって、本題ではないのだ。
そして もう一つ、この時期を割愛したのは意味があるだろう。
それは彼らの高校3年生という時期。
多くの時間は次のステップに進むための準備に消費されるだけ。
これまで少女漫画で高校3年生の生活を描いて成功した事例は本当に少ない。
そして どうしても陰鬱になる。
なので、この時期のことを丸々 割愛したのは本当に感謝しかない。
最終回付近で随分と色々なことを盛り込んだなぁ、と せわしさはあるが、
割愛のお陰で本書独特の丸っこい優しい雰囲気を保ったまま、卒業することが出来ました。
卒業式で ようやく これまでの様々なマイナス要素がプラスに転じたと ちゃんと思えた。
主人公カップルの2人の関係性が変わったからこそ、このラストが実現したと実感できる。
主人公・優羽の籠の中の鳥っぽい閉鎖性を感じなくもないが、
自らも鳥を飼い、籠や家から出さない生活を良しとしている優羽だから、
鳥籠の中で愛情を注がれる人生も肯定的にとらえられるのではないか。
後半めっきり存在感のなくなったペット文鳥の文乃助（ぶんのすけ）には、
そういう意味があったのだ、と深読みしてみる。
それでは各話の感想を。
49話。朝チュンから始まる。
えぇーーー…、巻をまたいでまで先延ばしにして、こういうオチを持ってくるかね。
これが何か意味があるんだったらいいけど。
清廉潔白だからこそ、この後の親との話し合いにも胸を張れるってことなの…？
2人っきりの旅行から帰宅すると、急な親の介入が始まる。
優羽母の言う「あなたに…もしも何かあったら」というのは何を意味するのだろうか。
母は、娘がウソをつくことを咎めているのか、不純異性交遊を試みたことを叱っているのか。
前者だろうけど、優羽は反省していない。むしろ達成感すらあるのでは。
この後、凛も一緒になって頭を下げるのだが、
そこでの凛の未遂報告で安堵しているっぽいですね、優羽母は。
こんなに介入するなら、不審に思っていた出発前に問い質せばいいのに。
娘が傷物になってから注意しても遅いだろう。
この話し合いの中で、凛は結婚するまで性行為をしないと宣言する。
なんか急激な路線変更だ。
これで究極のピュアラブが完成したってことなのかなぁ…？
でも凛も優羽も心も身体も準備が整ったのに、それでいいのか。
そして これまでの優羽の葛藤が全て無意味になる（しかも凛の独断で）。
扇情しといて、急にPTAのような正論出されても気持ちの扱いに困る。
これはメイン読者の中学生読者の勝手で過激な行動（お泊りなど）を自制させるためなのか。
しかし水波風南さん『レンアイ至上主義』を連載していた「少女コミック（→Sho-Comi）」が こんな作風になるとは。
2000年代初頭から15年以上の歳月は価値観を一変させるんですね。
そのうち揺り戻しがありそうだけど。
50話。高校2年生の秋ということもあり進路の話。
2人きりの旅行以降、結婚を視野に入れることになり、将来、卒業してすぐに優羽を幸せにさせることは、
今が踏ん張り時だと考えた凛は、バイトを辞め、勉強に専念する。
何かにつけて過激な凛らしい思考ですね。
ただし目標に向かって一心不乱のため、優羽に事情を ちゃんと説明しない（凛本人は したつもり）。
彼の変化を受け入れることのできない優羽は、
旅行で貰った合い鍵を使って彼の部屋を訪ねることも出来ない。
壁一枚、扉の一枚が とんでもなく分厚く感じてしまう、心の距離が出来てしまった。
全ては結婚へと繋がっているんだけど、
一難去ってまた一難、3歩進んで2歩下がって、旅行で得たものがリセットされる。
信頼感の醸成が難しいカップルですね。
読み返して感じるのは、るり先輩が夢を語れば語るほど、最終回との矛盾。
優羽と作品の幸せワールドを完成させるために、るりセンパイは犠牲になった気がする。
あっ、そのための急な引っ越しなのか。
移住の夢は先に叶えてしまおうということなのか…。
51話。
凛の目標は国立トップの大学だという。
これが叶ったのかどうかは不明。
それだけの努力を、優羽のために重ねたことが重要なのだろう。
そして意地の悪い見方をすれば、本書において大事なのは学歴ではなく容姿なのだ。
道行く人たちが褒めずにはいられない容姿さえあれば、あとはどうでもいい。
学歴というブランドは役に立たない。
（それでも優羽以外の同級生たちは かなり有名な大学に進学したと予想されるが…）。
暦（こよみ）の進路は薬剤師で、和真（かずま）は医師の道を進む。
具体的な目標のない蛍太も今後のために優秀な大学を希望する。
ここにきて、るり先輩が家庭の事情でオーストラリアに移住することに。
蛍太と るり は恋愛が始まってもないうちから、遠距離な関係になってしまう。
ここで海外生活をさせたから、『11巻』の最終回では元に戻っているのかな？
お隣同士の幼なじみの呪縛が、彼女の運命を狂わせたと言ってもいい。
本書最大の被害者かもしれない。
52話。
勉強に専念する凛と、埋まらない心の距離を感じる優羽。
なぜなら凛がどうして良い学校を優羽は目指すのか知らないからだ。
自分の学力との差、目標の差に置いて行かれた気がして、
恋人だけでなく同級生としても距離を感じる。
ある夜、凛のために献立を考えた夜食を運ぶために、
凛から渡されていた鍵を使って、凛の部屋に入る優羽。
そこで今まで他の紙で隠されていた、凛が貼り出した目標の中に自分がいることを発見する。
「高給取って優羽を専業主婦にして一人占め。」
彼の未来に自分がいることに感化され、彼女もまた その未来へ向かって歩き出す。
にしても”専業主婦にして”というのが時代錯誤で引っ掛かる。
これまでの凛の思考や心情を考えれば、そうしたい気持ちも分かる。
これまでも（歪んだ）愛情で籠の中の鳥のように優羽を飼ってきた（支配ともいう）。
でも、人から揺さぶられて崩れるような関係ではないことを凛も そろそろ分かっているだろう。
それに、囲うことは不信の証。
優羽に揺らぐ気持ちがあると思って、もしくは 断る勇気がないと思っていないか。
でも囲われたい優羽の目標は「良いお嫁さん」になることになった。
そして夜食を作ってきた経験を通して栄養士を目指す。
「少女漫画あるある」としては、栄養士や料理系に進路を取るヒロインの、ヒーローとの結婚確率は100％ですね。
パッと思いつくところでは、
北川夕夏さん『影野だって青春したい』、渡辺あゆ さん『L♥DK』、
平間要さん『ぽちゃまに』、小村あゆみ さん『ミックスベジタブル』ですかね。
これらの全カップルは結婚を前提としていた、はず。
引っ越しが近い るり先輩は、かねてから約束していた蛍太とお茶飲みデートをする。
ここで蛍太は自分の初恋が るり だということを発表。
2人と連載に残された時間はあと僅か。どうなる!?
53話。るり先輩の出発の日。
るり先輩と”さよなら”の捉え方が違うと知った蛍太は空港へ走る。
なぜか幼なじみたちも駅へと走ることに。
その道中、体力差から置いていかれる優羽。
そんな自分の境遇のような惨めさに座り込み涙を流す優羽。
そんな彼女を迎えに来たのは、もちろんヒーロー。
ここ最近、優羽は不安になっているんだけど、
そんな彼女の少しの変化にも気づかないで、
彼女が不安を爆発させた時に、甘い言葉を吐くのはズルいと思う。
そして今回も一度見捨てて先に行ってるし。
この すれ違いと時差こそが胸キュンを生むのは分かっているんですけど、
やっぱり凛のヒーロータイムって自作自演なんですよね。
だから 甘い言葉が私にはダイレクトに響かない。
不安にさせた本人が、上から物を語るな、と思ってしまう。
つくづく、優羽が文句を言う知性や勇気を奪われたから成立する特殊なヒーロー像だと思う。
そして、ここにきても優羽が不安になるのが ちょっと分からない。
凛と共に歩く、新しい目標が出来て、先を見据えたばかりなのに。
ここは前回と同じことの繰り返しなので割愛すべきだったのではないか。
蛍太の空港での出来事はほぼ割愛。
それでいいと思います。
残された問題、1つ下の後輩・実花（みか）の恋情は、るり先輩を追う蛍太の言葉で断ち切られた。
蛍太は自分の心を決めたからか、ここにきて実花のアプローチを断ることにしたらしい。
るり先輩を追う姿と、蛍太の真剣な声で自分の失恋を悟る実花。
彼女だけ2回失恋しています。
しかし蛍太は実花に対して実に「中途ハンパな態度（『7巻』の蛍太の言葉）」を取ってきた訳ですが、
これが、どういうつもりなのか全く分からない。
好きでもないが嫌いでもないので断る理由もないから断らなかっただけなのか、
本人的には彼女を好きになれたらいいなと試行期間だったのか。
男どもに2度も手酷いフラれ方をしている実花が可哀想である。
まぁ、彼女という存在が一番 中途ハンパでしたけどね（辛口）
元々は ただのライバルキャラだったけど、
入国審査の厳しい この世界に入ってきたので、勝手に出国も出来ない状況になった。
なので金魚のフンのように付きまとうしか居場所を作れなかったのだろう。
驚くべき急展開はまだまだ続き、高校生編完結の前に、優羽一家の引越しが決定⁉
54話。高校2年生の秋から、いきなり卒業式。
なんと高校3年生は優羽と凛は同棲して過ごしたことが判明。
怒涛の展開です。
優羽の両親が引っ越さなければならないのなら、
凛が自宅で優羽を預かると申し出たのだ。
あんたの家じゃないけどね。
それが認められ（なんで？）、いよいよ、2か3『L♥DK』生活の始まりです。
父親から性交渉禁止が御触れが出るのも『L♥DK』と同じ。
にしても、この地ならしのために、先に凛母が登場して、2人の仲を公認にさせてたのだろうか。
放任していた息子の幸せのためなら、多少の非常識を乗り越えるのだろう。
そして親の存在を徹底的に排除した同棲という夢のような話になりましたが、
『L♥DK』と重複する部分も多いだろうから そこも割愛。
崩してはいけないのは純潔と、
そして幼なじみたちとのお隣ライフなのです。
進路先は明記されていないが、暦と蛍太は1人暮らしが決定済み。
だから 卒業式の日が最後のお隣 高校生ライフ。
そうして『1巻』1話のように全校生徒から注目されての学校入りします。
卒業式の後、凛と両想いになった学校の東屋（あずまや）で物思いに耽る優羽。
お隣ライフの終焉に悲しむ優羽に、凛は将来の約束を込めて指輪を贈る。
なるほど少女漫画のプレゼントの定番、アクセサリーを贈ってこなかった凛ですが、
ここ一番で使ってきましたね。
1年間の同棲もあって、凛に対して恐縮しなくなった優羽。
だから同じビビらすにしても
「ビビッて恐縮して縮こまるくらい
俺が一生かけて いろんなイイ思いをさせてやる!!」と「究極の愛」を宣言する凛。
この卒業を機にやっと優羽の幸不幸はプラスに転じたのかな。
ただ、凛は幸せを強要してきそうで怖い。
花を贈っても「嬉しいか？」、旅行に行っても「楽しいだろ？」、
いつか優羽が演技をする日が来るんじゃないかと思わずにはいられない…。
ラストシーンは「卒業生が将来の夢とか書き残せるボード」への書き込み。
うーーーん、彼らのスペースがほとんどだぞ。
何と言うか本書における彼らの特別性・傲慢さを象徴するような、
一般モブの存在を無視したスペースの使い方に疑問を感じる。
最後までこんな感じか。
あと、どうしてもこういう形式は私の少女漫画の原体験である、
矢沢あい さん『天使なんかじゃない』のラストとの類似を感じますね。
ここで書いたことは全部、実現するでしょうね。
神社の おみくじや絵馬よりもご利益がありそうだ。
高校を卒業したのに『11巻』が存在する本書。
まさか次巻から、葉月かなえ さん『好きっていいなよ。』と同じように、
高校卒業後の「人生ドラマと生活の深み編」が（だらだらと）続くのか⁉
と心配していたけど『11巻』はボーナストラック、後日談みたいな感じですね。
本編は ここで終わりでいいでしょう。
凛が照れ隠しに また舌を出して、将来の夢、もとい約束を書き込んで高校生活は幕を閉じる。
