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少女漫画と小説の感想ブログです

「花よりダンゴ」だと餌付けを欲する、学校のトップ男子4人組の「きみはペット」

黒豹と16歳(1) (なかよしコミックス)
鳥海ペドロ(とりうみ ペドロ)
黒豹と16歳(くろひょうと16さい)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

気が強いことにコンプレックスを持つ、16歳のたいがは、空腹で倒れていた男に飲み物を渡し、口移しのキスを奪われる。新学期、転入先の学園にいたその男・伊勢谷杏璃(いせや・あんり)は、「ぼく、きみのペットになったげる」と宣言して……!? 黒い獣VS.強気な16歳の危険すぎる官能ミッション、スタート!

簡潔完結感想文

  • 低年齢向け「なかよし」らしからぬエロスと、細かいことを気にしない勢いのある作風。
  • 作者初の気が強いヒロインだけど過去作と同じように頭は弱い。誘導されてることに鈍感。
  • 設定上「黒豹」らしい杏璃が爬虫類系にしか見えず無理。しかも生き方が わざとらしい。

が強いことと意志が固いことは別、の 1巻。

『甘い悪魔は笑う』『百鬼恋乱』に続く作者の第3長編。今回も前2作と同じように、突然 男性(当然イケメン)に出会って、ヒロインの日常は大きく変わっていくという流れで、どうして そういうことになるのか細かいことは気にせず、設定と雰囲気だけを楽しむ作風も健在。私の中では乱暴なエンディングを用意する作者でもあって、今回もエンディングに説得力を持たせることが出来ず、長編の面白さは生み出せなかった。『1巻』の中でヒロインの たいが が「全力で恋をしたら 私の中で何かが変わる気がする。自分のことも好きになれるかも」という趣旨の発言をしているが、最終巻で自分のした行動で彼女は自分を好きになれたか甚だ疑問である。

今回のヒロイン・たいが は作者初の気の強いという設定だけど、気が強いだけで頭は弱い。それは3作連続で変わらない。
気は強いから、それ故に性格が利用しやすくてヒーローの杏璃(あんり)に行動を誘導されている場面が何回も見られた。杏璃は学校内で絶対的な権力を持つ「絶対君主」の自分に反論したり暴力を振るう たいが の気の強さを気に入る俺様ヒーローっぽいところを見せている。頭の回転の速さの違いが杏璃の有利を生んでいて、たいが は言いなりになるばかり。自分が杏璃(または作品)の言いなりになっていることに気づかない たいが は滑稽な存在で可愛そうに思えてきた。常識では考えられない展開を貫き通すには たいが みたいな(頭の悪い)子が必要なんだろうなぁ…と悲哀を覚える。

自分で気が強いと思っているけど、気が強い性格を利用されているとは思っていない

たいが は男性キャラよりも1つ年下なのだけど敬語は皆無。気が強いと言うよりも礼儀を知らない勘違い女と言った方が適当な気がする。杏璃たち男性たちの持ち上げられっぷりも痛々しいけれど、何の根拠もなく偉そうな たいが を好きになれない。なぜか男性たちは そんな たいが の自然体を受け入れるけれど。読む人によっては不器用で一生懸命な子と思えるのかなぁ…。

また たいが もまた過去作ヒロインと同じように、自分のことしか考えられない視野の狭さで、ヒロインが望む世界が実現したことで周囲が被(こうむ)る迷惑なんて考えたりしない。全11巻と、過去最長の作品になっても話を上手に組み立てられない作者の限界を感じた。

本書は講談社の少女漫画誌の中でも低年齢対象の「なかよし」で連載されているにもかかわらず、エロく見えるのは「餌付け」という食事シーンが多かったからだろうか。食事はエロスと直結しているという考え方が少し理解できた気がする(あざとい部分もあるけど)。そして過去作よりもエロく感じたのは作者の画力が格段に上がったからだろう。ヒロインもモデル体型になって同じような年齢設定でも格段に大人に見える。そしてキスをより色っぽく描けるようになったなど技術の向上によってエロスが増している。単行本の帯などによると電子書籍での売り上げの比率が大きいらしく、読者も人に見られたくない ちょっとHな本として認識しているのだろう。
しかし作画技術が向上しても話が上手くならないので次回作の途中から「なかよし」を離れて お姉さん雑誌「姉フレンド」に移行するのも仕方がないと思わざるを得ない。絵は上手いけど お話が上手くない作家さんは そっち方面を極めて人気者になればいい。そんな次作を読むかは検討中。

色々と過去の人気作を模倣しているような気がする作品だけど、私が最も受け付けなかったのはヒーローの杏璃が爬虫類っぽくて全体的にヌメっとしているところ。作品的には黒豹に例えられるらしい杏璃だけど、外見に加え性格的にも粘着質で狡猾で気高い肉食獣には見えなかった。


っ越してきた新しい街で恋をしようと決めた高千穂 たいが(たかちほ たいが)。たいが は気の強さが災いして過去に想っていた男子生徒から異性として扱われず、憧れの制服デートが出来なかった。だから この街では全力で恋をすることを決めていた。以前は出来なかったことを出来るようになることで自分を好きになれる気がするから。

たいが は散歩中に廃墟然とした屋敷の中に男性が倒れているのを発見する。事件かと思って屋敷の窓を破って男性に近づくが、彼は夏の暑さによる火照りを床に逃がしていただけだった。空腹を腹の音で訴える彼を放っておけず、ラムネを買って帰り面倒を見ると彼に気にいられる。彼は たいが を抱えて屋根に上がるので恐怖を覚えて絶叫していると、夜空に花火が打ち上がる(なぜか屋根に上がると一瞬で夜になる不思議現象)。花火に近い場所で一緒にラムネを飲み、夏の夜を満喫する。そして男性の方は気の強い たいが を気に入って突然キスをしてラムネを口移しで飲ませる。その官能を長く味わった後、たいが は男性に平手打ちをして別れる。杏璃が無理矢理 たいが にラムネを飲ませるシーンに色々と含意があるような気がするのは私が汚れているからだろうか。

夏の夕方なのに1ページで真っ暗になる。30分ぐらい叫び続けてたのかな…

りを覚える たいが だったけれど転校先の学校で その男性と再会する。彼は「手なずけ不可能の絶対君主様」の4人の内の1人。高校2年生の伊勢谷 杏璃(いせや あんり)という。他の3人は同じく2年生の御條 黒鉄(ごじょう くろがね)、鳳 樹人(おおとり みきひと)、神楽坂 瀬那(かぐらざか せな)という。

たいが だけは絶対君主に言い返すだけの度量があることが杏璃の お気に入りポイントらしい。彼の口から餌付けとかペットとか唐突な単語が出てきて作品の方向性が決められる。


璃の戯(たわむ)れで絶対君主の ご主人様と認知された たいが は周囲から距離を置かれてしまう。その上、杏璃たち4人に遊びの道具にされた たいが はキレて、女性関係にだらしない彼らの被害者の会を立ち上げる。4人が たいが で遊ぶために本物の警察官が出てきたのは、政治家を動かせるぐらいの4人だから警察官も同様ということなのだろうが、やや説明が足りない。

転校したばかりの学校で たいが は教師を使って元カノの住所を知りたいと調べさせる(どこに そんなデータベースが存在すんだよ…)。集まった女性たちは、男性4人に口八丁に騙されたと自分たちを被害者ぶるが、実際のところは彼女たちが夢を見ていた部分もあるだろう。
そんな たいが の反逆に対して まず頭の回転の速い杏璃が動き、杏璃の本命が たいが だという演技を始める。他の3人もそれに乗っかり、今度は女性たちの怒りは たいが に向かう。

杏璃は自分が たいが を追い詰めたのに、女性たちの怒りを一身に買い、たいが を守るナイトとなる。こういう自作自演のヒーローは低年齢少女漫画誌に多い。そのカラクリを見抜けない間抜けな たいが は杏璃を心配し、笑い合う。かと思えば一瞬で強気を取り戻し格好つける。人格の安定しない人である。

女友達は出来なくても男友達(イケメン限定)は出来る。それが少女漫画ヒロインの特権

2話目のラストから杏璃は たいが の部屋のクローゼットの中でペットとして暮らす。当初は反対する たいが だったけれど、またも杏璃のペースに乗せられて劣勢。そこで今度は杏璃のスマホの電話帳にある連絡先に全員に杏璃の振りをしてメッセージを送り呼び寄せて、杏璃を引き取ってもらおうとする。自己解決しようという意識はないようだ。

最初に到着したのは黒鉄。絶対君主4人の中で最も強面(こわもて)の黒鉄に恐れをなす たいが だが、先輩の彼を呼び捨てしているのだから本当は怖くないのかもしれない。しかし すぐに嘘はバレる。
その上、母親が帰宅して男性2人といる場面を目撃されかねない(しかも3人のいる場所は風呂場)。母親が家の中にいるだろうに、そのまま3人は風呂場で話し始める。そこで たいが は杏璃の家は最初に出会った洋館で、たいが によって窓や屋根が壊されて住めなくなったことを知る。

やがて男性の声がすることに母親が気づき、またもや危機一髪というところで、杏璃を救出に来た人たちが たいが の家に集合する。黒鉄の手引きによってパニックになりかける家から たいが は脱出でき、一番に駆けつけた義理堅く頭の良い黒鉄のことを たいが は意識し始める。
騒動の後、黒鉄は杏璃を引き取る意思を見せるが、またもや杏璃の口車や たいが の性格を利用した誘導に引っ掛かり、たいが は正式に杏璃をペットとして買い始める。少なくとも母親がいる家で同居人が一人増えるリスクや問題点(食事やトイレ)などは何も描かれない。


キンシップをしてくる雄のペットのセクハラに たいが は一線を引く。ここまで来ると困ったとか怒ったとかは ただのポーズで、本当は こういう状況を楽しんでるんでしょ、と言いたくなる。杏璃を突き放す機会は何回もあるけれど、そこでも杏璃に発言を誘導されて、杏璃を捨てることなど出来ないように追い込まれている。

相変わらず友達が出来ない たいが だけど、誰も近づけない学校のトップ4の男性たちとは接触の機会を持つ。そして杏璃の他に黒鉄とも身体的な接近やスキンシップがあり、ドキドキする毎日を送る。