《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

影野に届け。私が青春してどうすんだ。影野だってモテたい。先行作品の影なんて払拭したい。

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北川 夕夏(きたがわ ゆか)
影野だって青春したい(かげのだってせいしゅんしたい)
第1巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

彼氏いない歴15年なうえ、友達が一人もいない高校生活を送る影野由輝。そんな影野はあるとき、学校一のイケメン・光永さんに「彼女のフリをしてほしい」と頼まれて!? カッコよくて、優しくて…でもちょっとイジワル。こんなキラキラ☆イケメンの「彼女」だなんて、大丈夫なわけ…ない!! 超ネガティブ少女×神モテ男子の、日本一の格差ラブ!!!

簡潔完結感想文

  • シンデレラにはならないシンデレラストーリー。影野は影野、ありのままで。
  • 全体に漂う陰湿なムードが作品からカタルシスを奪う。イジメられるのは違う。
  • 決め台詞は「光永さんはわたしがお守りますので」。水戸黄門的少女漫画。


「これを買っただけで地味な私に、素敵な彼氏が出来ました。」

ただし二次元世界で。
というのが少女漫画という経典のご利益だと思う。
そのためのお布施で、必要なのは信仰心。
それは否定してはいけない真理であり教義である。

だから隣の席の学校一のイケメンが、ぼっち主人公に彼女のフリをしてくれないか、とお願いしてくる急展開があっても白眼視してはいけない。
そんなこと、この世界では交通事故や記憶喪失と同じぐらいありふれた日常なのだから。

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善行はしているが、密かに見返りも期待している影野。
そんな感じで幕開けする本書。
まずは主人公・影野のポジションが独特だ。
影野は正真正銘の陰気な人なのだ。
自分を卑下して下を向いてばかりいる内向的な主人公はかなりいるが、影野はそれを超えて、成績優秀・スポーツ万能の光永に対して、逆恨み的な嫉妬までしている。

しかし嫉妬するのは「青春」や「恋愛」を諦めていない証拠。
だから彼女役をこなすのに適役な「友達」と光永に見込まれ、影野も大いに空転しながらも頼まれた彼女役をこなそうと懸命に務めようとする。
影野は「彼女」という名のもとに、一方的な女性トラブルで苦しめられてきた光永の壁になろうと決意する。

そしてその覚悟は作品を通じて使われる「光永さんはわたしがお守りしますので」という言葉になって強く表れる。
初出は#3だと思うが、この一見、発言者が逆ではないかという言葉こそ、本書の核である。
影野は光永という王子様に見いだされてシンデレラになるのではなく、ずっとあらゆる困難に独力で立ち向かう。
そこがとても現代的なヒロインだと思う。

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序盤の光永さんは結構 ヒドい男。新手の いじめかなと思うほどに。
そして影野に声を掛けた隣の席の光永陽太。
後に恋仲になる彼だが、作品初期の彼はなかなかに打算的で、そして感情を豊かに表現する人だ。

影野に対しては喜怒哀楽がちゃんとあって、ただ包容するだけじゃなくて叱咤激励しながら向き合っていく。
出来過ぎた善人というキャラクタではなく、影野を冷静に見て対等な立場で物を言うという関係がいいですね。
読み返すと、意外にも1巻では光永の影野への好意はそれほど見受けられない。
本当にお友達出発だったのか。


しかし終始、残念なのは影野のデフォルメ描写。
その率は全体の60%に達しようかという勢いで、これによって文字通り等身大の影野というものが全く感じられなくなっている。
デフォルメはパニックや精神的ショックを受けた表現とは分かるのですが、光永の横にいる時もデフォルメされると、影野が小学生、はたまた幼稚園児にさえ見え、光永に犯罪性すら漂ってしまう。

本当にこれは問題で、影野の単純化・幼稚化が過ぎて、影野を通して読者に伝わる光永の「胸キュン」な場面の効果が損なわれてしまう。
光永の背の高さ、横にある肩、見上げる顔などなど、影野を通じた光永のリアルというものが浮かび上がってこない。
故に没入感や感情移入が難しくなるのだ。

作者の手間が大幅に省かれる以外のメリットが見受けられない。


そしてもう一つ残念なのは、作品全体の陰湿さですね。

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光永と関わったことで、脚光浴び、嫉妬を一身に浴びる影野
不器用な影野が光永のために一直線に空回るスラップスティックが本書の強みなはずなのに、その途中で影野に浴びせられる陰湿な言動のせいで時折それを上回る嫌な気持ちが生まれてしまうのだ。
作者のあとがきによると影野は作者自身がモデルらしいが、作品の節々で本当に作者は暗い人なんだな、という事が如実に感じられる(失礼ですが)。

『1巻』でも影野は罵詈雑言が書かれた紙を服に貼られるとか、集団で囲まれて因縁をつけられ、そして本当に暴力を振るわれる。
それはもう、ただのイジメでしかない。

しかもこの後、影野の世界が広がった証しとして、その首謀者と友達になるのだが、度が過ぎてちっとも素直に喜べない。
そういう方面ばかり想像力無制限で思いついちゃうんだろうな…。