《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

どうしても部外者になる後発キャラは 姻戚関係で補強する。そこに恋情の質は問わない。

ういらぶ。―初々しい恋のおはなし―(7) (フラワーコミックス)
星森ゆきも(ほしもり ゆきも)
ういらぶ。ー初々しい恋のおはなしー
第07巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

いつも一緒にいるけれど、修学旅行ってなんだか特別…。
ドキドキとワクワクに胸をふくらませる優羽と凛。
一方、優羽の親友・暦も、想いを寄せる他校の和真と…⁉
それぞれの想いを乗せた京都への修学旅行編。
残念系美少女とこじらせイケメンの修学旅行!!

簡潔完結感想文

  • 修学旅行編。今日は四六時中 一緒にいられる、のはいつもの日常…。
  • 早すぎる両想い。縁結びのお寺の力を借りて、この恋は永遠になる。
  • 欲望に火が付いた凛は旅行を計画。その実現のためにバイトをする。

められたゴールに向かって最短距離で猪突猛進の 7巻。

高校生活最大のイベント修学旅行編が収録された『7巻』。
…なのだが、盛り上がらない。

彼らにとって24時間、顔を合わせることも、
遠出して外泊するのも特別なことではないからだ。

作者は精一杯、修旅の特別感を演出しようとしているが、
やはり他の漫画のような高揚感は生まれない。

そして初めての喧嘩も仲直りもしてしまい、
残る初めての恋愛系イベントは肉体関係だけになってしまった。

だが、この件に関しても、
親が不在がちで、何度も彼女を自室に呼んで、
ベッドで並んで寝ている2人にとっては、日常の延長線上のようなことである。

するか しないかは当人たちにとっては大きな問題ではあるし、
それを特別なことにしたい気持ちも分かる。

しかし私のように乙女心のない人間からすると、
いつでも可能な状況なのに読者の興味を維持のために先延ばしであると捉えてしまう。

同じく親が不在で、部屋に自由に出入りしていた
八田鮎子さん『オオカミ少女と黒王子』でも同じような感想を持った。

やはり、する/しない ではなくて、2人きりになれる非日常の緊張感が物語を盛り上げるのだ。
自由にイチャラブできる環境が作品を苦しめているように思う。

では各話の感想を。


34話。
修学旅行編スタート。34話は準備編。
「いつも みんなで一緒に過ごしてきたけど
 やっぱり修学旅行は トクベツな気がするの―――…」

と、イベント感を演出していますが、そう思えないのが本書の辛いところ。
だって優羽(ゆう)にはクラスに友達が一人も出来てないんですよ?
宿泊に班行動(この学校には ないのかな?)、緊張する場面の連続だ。

これなら幼なじみだけで過ごす時間の方が良いに決まっている。
一緒に夜を過ごしたことのない彼氏やクラスメイトと過ごすから、修学旅行は非日常感になるのだ。

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作品からの退場か結婚か、どちらかを即座に選べと、自分も中途ハンパしている人からの恫喝。

修旅の出発前に蛍太(けいた)は和真(かずま)を問いただす。
「君のその 中途ハンパな態度や言動が 暦を傷付けてんだよ」と。

幼なじみ4人の平和を守るのが蛍太の役目。
唯一、大局的に物が見られる人ですからね。
といっても身内びいきが凄すぎて、和真を最初から悪者として扱っているが。

それに、蛍太も結果的には和真の妹・実花(みか)に対して中途ハンパなことをしている。
スキンシップを咎めなかったり、修旅のお土産を買ってくる約束をしたり、
期待を持たせるだけ持たせて、自分の本当の恋を見つけたら捨てる。

あれっ、蛍太も相当イヤなヤツに思えてきた。
あんまり深く考えないで、表面上を楽しむのが本書の正しい読み方かも…。


35話。
修学旅行2日目。和真が暦(こよみ)と逢引きを計画する。

おみくじ の愛情運のお告げも、このお寺にまつわる逸話も用意して、暦の恋の成就は約束されました。
これは和真にとっては優羽の恋は比較対象となり、暦への想いが本物だと分かったということか。

でもさ、やっぱり余りにも気持ちの変化のスパンが短すぎない?
偽装交際したら好きになるって、安直すぎる。

『6巻』の感想でも書いたが、暦の恋愛は一度、BGMのように物語の後ろで静かに流して、
蛍太の恋愛を先にして、暦の恋は幼なじみの中で最後に成就させれば良かったのではないか。

和真が暦を好きになるエピソードが弱いから、やはり説得力に欠ける。
彼に彼女の好きなところを10個 言ってもらいたい。
どれほど暦という人を理解しているというのだろうか。

一連の流れは、和真を正式なファミリーと迎えるために急ぎ足だったのではないかと邪推してしまう。
完璧な布陣の幼なじみ4人組と比べると、どんなに設定を盛っても弱い立場にある和真。
それを補強するために4人組の1人の「つがい」としたのではないか。

暦との恋愛問題が長期化し、揉めると、作品の平和のために和真は物語から離れなければならなくなる。
(実際、和真は『6巻』で幼なじみの雰囲気維持ために身を引こうとした)。

他人となるぐらいなら姻戚関係にしてしまえ、というのが本書の採る保身術なのかもしれない。
そうやってでも、どうしても「あったかい世界」を創出したいのだ。


36話。
2人で宿泊先を抜け出して、夜の京の町を散策する。

悪いことと分かっていながらも、凛(りん)に手を引かれると従うしかない知性を奪われた優羽。
少しも反論や躊躇しないところが怖いですね(正確には1コマだけ躊躇してるが)。
「あんた 凛が死ねって言ったら死ぬんでしょ⁉」といった感じに、
絶対服従を義務付けられている優羽なのです。

夜の京の街は幻想的で少し緊張する感じが ありますね。
作者の地元だからか、メジャー観光地を出さないで、地元に密着した京都修旅でしたね。
なので、地元でない私からすると京都感が薄かったようにも思えた。

夜の河原で、いよいよ発情しだす2人。
気持ち的には2人とも覚悟が出来ており、あとは するか しないか。

それを特別なものにしたいという凛のロマンチストな男の一面は理解できるが、
修旅を含めて、外泊、一緒に寝ることに特別感が薄いのが残念なところ。
慎み深い男女が初めて同衾するから興奮は高まるというもの。

凛の発情は、おかん役の蛍太に咎められて終了。
これは母親にエロ関連グッズを見つかった気持ちでしょうか。
凛は一気に気持ちが冷めて、河原から撤退します。

そして修学旅行後はバイトして2人の旅行の軍資金を稼ぐことを宣言する凛。

ラストは、次の展開も面白いよ、とばかりに、
「…私は まだ知りませんでした… 修学旅行の この夜の続きが
 あんなカタチで私たちに訪れるなんて――…」で終わる。

読了した私は、どんなカタチだったか全く覚えてない/分からないのですが…。
こういう煽り文を見る度に、手探りで物語を作っている印象を受けます。

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少女漫画のヒーローが文化祭かバイトで一度は着るウエイターの制服。働く凛は ちょっと好き。

37話。
宣言通り、凛はファミレスでバイト。
社会で揉まれる凛の姿が見られます。

凛なりに悪戦苦闘して、旅行の準備をしてくれることに申し訳なさが生まれる優羽は、
「私に なにか できることない…っ?」と尋ねる。
凛の答えは、旅行の日までスキンシップおあずけ。
当日まで俺に触られたくてモンモンしとけ、だそうだ。

そして優羽がバイトすることは禁止される。
他の男に接触する機会を、オレが許すと思うか?、だそうだ。
いよいよ女性の社会進出を許さない旧時代的な思考を前面に押し出してきましたね。

その人の願望や希望を、自分の独占欲を優先して潰していく。
そういう人と「一生一緒にいる」ことになる人生は、果たして正しいのか。


そういえば凛は蛍太に全ての愚痴や悩みを相談しているけど、
相変わらず優羽は暦に相談したりしないんですね。
その男女の非対称性が気になります。

優羽は飼っている文鳥には話しかけているので、彼女に悩みがない訳ではない。
暦は優羽を全肯定するだけで、悩みの共有などしていない。
表面上の言葉だけでキャハハウフフしているだけ。

『6巻』で優羽と暦が真の親友になったので、ちょっと関係性が変わるかと思いましたが、
そういう変化の描写も見られない。残念。


ういらぶ。番外編」…
優羽と凛の、交際後初のバレンタインを巡る お話。

掲載誌が違うので挨拶代わりのイケメン&かわいい彼女だと第三者に絶え間なく言わせる。
こういうことでしか登場人物の価値を高められないんです…。

凛の素直じゃないところは、物語を成立させるには便利ですね。
ずっと優羽が凛の強がりの言葉を信じるから、
アタフタして、不安になって、でも凛は そんな優羽を温かく包むこんで…。

こういう読切短編だったら、いくつでも物語が作れそうである。

まぁ、何度も言いますけど凛の自作自演なんですけどね。
しなくてもいいことを して、優羽が勝手に凛を見直してくれるからイージーですよ。

ただ型にはまった恋愛は、ワンパターンの危険性をはらむ。
毎回 しなくてもいいこと、を読ませられるから、
読者には凛を好ましく思えなくなってしまう。

読みどころは、チョコにお酒が入っていて、本音が炸裂する凛ですかね。
こういう本音を聞いても、優羽は翌日には溺愛されていることも忘れてしまう。

愛され系ヒロインのためには全てはリセットしなければならない。
そして同じ毎日は繰り返されるのであった…。