《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

えー、結婚相手に望む条件ですかー? 容姿や収入は気になりません。あっ、職業は寿司職人 限定で。

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小村 あゆみ(こむら あゆみ)
ミックスベジタブル
第1巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「寿司屋の息子とつき合いたい」 不純な動機は恋の予感――。明日葉花柚は追河高校調理科の1年生。実家はケーキ屋だけど、将来の夢は寿司職人。同級生の寿司屋の息子・日向隼人とつき合い、嫁入りすることを企むが…ハプニング発生!

簡潔完結感想文

  • 実家のケーキ屋より お寿司屋さんの方がもっと好きです。主人公の花柚は夢へ向かって一直線!
  • だから寿司屋の息子に好きって言わせる方法を探す花柚。そんな時、彼の方からアプローチが⁉
  • 自分の夢のための交際に罪悪感が生まれる花柚。夢か罪か、って何でその二択? 疑問の多い漫画。

ーキ屋さんの娘と寿司屋さんの息子のお話。って、ベジタブル 関係ねぇー、の1巻。

では、なぜタイトルが『ミックスベジタブル』なのか、『6巻』の おまけマンガによると、
当初考えていたタイトルが却下されたため、別の読切漫画(普通の恋愛モノ)で使うはずだったタイトルを、
本書が食べ物関係の漫画だから と流用したらしい。

調理科のある学校が舞台なので、その実習などで野菜も頻繁に出てくるのかなと思っていましたが、
もしかしたら本書でちゃんと扱われるベジタブルは『1巻』1,2話の きゅうり ぐらいかもしれない(マジで…)。

物語が進むと学校を舞台とすることが極端に少なくなり、出てくる食材もお寿司関係かケーキ関連ばかりになっていった。

主人公の男女2人の実家の家業がお店で、2人が目指す夢もそこにあるので、当然の流れではあるものの、
もう少し調理科高校のあるあるや、学校の授業を通じて成長する彼らの姿も見たかった。


突猛進。登場人物も作者も若さゆえの勢いと荒さの混在する漫画である。

主人公の明日葉 花柚(あしたば はなゆ)は町で有名なケーキ屋の娘として生まれた。
だが実は彼女、幼い頃に衝撃を受けて以来ずっと寿司職人になりたい。
実家の家業を継ぐよりも彼女が心からなりたいのは寿司職人。

そんな野望を持ちつつ入学した高校の調理科で出会ったのが寿司屋の息子である日向 隼人(ひゅうが はやと)。
彼に惚れてもらって順当に嫁になり、日向家に入れば穏便に寿司職人の道が拓ける。
だから、今日も花柚は隼人の前で、寿司屋の嫁として相応しい自分をアピールし続けるのだが…。

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自分が寿司職人になるために残された道は寿司屋に嫁ぐこと、と思い込む主人公の花柚。

本書を未読で、この感想文を読んで頂いている皆様も疑問に思ったことでしょうが、
なぜ、寿司職人の道がクラスメイトとの恋(というか結婚)になるのか、まずそこを疑問に思ったことでしょう。

その障害は主人公のように迷うことなく飛び越えてほしいと思います。
例えば女性が男装して男子校に入る漫画なども、設定を乗り越えないとつまらないでしょう?

…と懸命なフォローをしつつも、なんで そうなるの?と私も大いに疑問に思いました。
そして「この漫画(と思考がいっちゃってる主人公)、ちょっと無理かも…」と思いましたよ。

花柚が自分の道を進めない理由は『2巻』以降に出てくるので納得できなくはないが、
だからといって、寿司屋の息子に嫁入りするために今からアプローチするというのは、どう考えても変だ。
ケーキ屋さんって毎日ケーキ食べられるんだー、と憧れる幼稚園生みたいな思考だもの。

そうやって目的のために近視眼的になってしまう主人公も、
連載のインパクトのある出だしを創出するために試行錯誤している作者も若さが溢れている。

しかも実際に1話で良くも悪くも読者に何かを残している訳ですし、
夢に向かっていく力だけが物語を強く牽引しているのも確かだ。

Wikipedia 情報によると本書は、アメリカ図書館協会部会が選定する「2010年10代向け推薦グラフィックノベル(2010 Great Graphic Novels for Teens)」にノミネートされたらしい。
確かにそれも納得の、10代の子が夢を形にしていく物語である。

ただ後半、この牽強付会な花柚の論理が作者を苦しめているような気もしますが…。


人的には『1巻』のように恋愛 ー 調理科の学校モノ ー 将来の夢、
この3つの要素がバランスよく描かれていたら良かったのに、と残念に思う部分は大きい。

当初は調理学校を舞台とした学園モノ、とも読めなくはないが、段々と本題に注力されて話が限定的になっていく。

出来れば高校の三年間という選択の余地のある期間を存分に使って欲しかったが、
まだまだ駆け出しの漫画家で、当初の構想を描く前に連載が終わってしまう危険と隣り合わせの作者にはそんな悠長なことを言っていられなかったと思われる。

本書は読書の人気を得て(多分)全8巻に及ぶ物語になったが、作中では約8か月しか経っていないのも驚き。

だからこそ花柚の嫁入りという野望もそうだが、全てが一足飛びの解決を望み過ぎなのが残念だ。
学校で調理を学んで、成長していく中で将来の夢を明確化、そしてその夢に対してどう動くかを描いて欲しかったなぁ。

駆り立てられるように夢に邁進する姿は眩しいが、やはり猪突猛進という感じが否めない。


なみに料理漫画として、どうかなーと思ったのは『1巻』の開始4ページ目のコレ ↓ 。

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献立とは無関係に得意分野を披露する主人公。指導のためとはいえ食材を粗末にする教師。何だかなー。

ギャグシーンの一つなんでしょうけど、ここは最低限守ってほしいマナーではないか
主人公の思考と並んで、1話目にして鼻白んでしまった一因である。
時には生徒に手をあげるような先生ですが、それよりも引っ掛かったのはこの場面です。


愛漫画としては隼人に近づくほど苦しむ花柚の姿が印象的だ。

花柚は隼人の恋人になることを想定していない。
なりたいのは嫁であって恋人ではない。

だから、隼人から交際を申し込まれた時は夢に近づいたことを喜ぶが、
段々と隼人個人を知っていくと、彼を利用している自分に気づき罪悪感に苛まれる。

奇天烈な思考の持ち主の花柚が、この問題を自分で気づいただけでも驚きである。
机上の空論と実践は違ったということか。

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日向の人となりを知るほどに罪悪感が増す花柚。欲しいのは彼女ではなく嫁という地位。

花柚の姿勢の半分ぐらいは金持ちの御曹司に近づく玉の輿狙いの女性の物語にも読めなくもない。
まぁ、花柚は自分が働くという明確な意思があるので一緒にするのも可哀想ですが。

または学校一のイケメンなど肩書きに惚れる上辺だけの恋でもありますね。
花柚はこれから真実の愛に目覚めていくのか、
それが将来の夢とどう関わっていくのか。

物語の展開には疑問が多いけど、興味も多い漫画なのです。


者にとってまだ3冊目の単行本ということで絵は線がやや硬めですね。
隼人の顔に比べて花柚の顔が安定していない気もします。

でも新人作家ならではの丁寧さが好感が持てる。
この丁寧さを保ちつつ絵が上達していけばいいのだが、いかんせん少女漫画家は人員の問題もあるからか省エネ作画に走りがち。
作者も自分で書いていたが、中盤辺りはお話作りに悩み、顔のアップが多用される箇所もあったとか。
ここは漫画職人としてプロの技を保っていってもらいたい。

一番気になったのは、袖口の広がり。
連載当時(2005年)にはそんな言葉 流行ってなかったでしょうが、いわゆる「萌え袖」というやつが散見される。
ニットなら分かるのだが、制服のシャツでそれだから気になる。
常時、萌え袖仕様で袖口が広がっているかというと、そうでもないから余計に気になる。


なみに私なりにタイトルを考えること小一時間。
難しいですね、タイトルって。出てきません。
『和洋折 chu-』『寿司ロールケーキ』『嫁に来ないか、お寿司屋へ』『夢色 パティシエー(略)』。

既存のものであれば内容的には『とりかえばや物語』なんですけどね。

これは『2巻』以降の内容のネタバレになりますが、
なぜ『とりかえばや物語』なのかというと、
花柚と隼人は生まれついた役割と得意なこと、将来の夢が一致しないからである。

気になった方は『2巻』も読みましょう。