《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作品内に 二度と夜が来なかったとしても、オレは君の発する光を見失うことはない。

流れ星レンズ 10 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
村田 真優(むらた まゆ)
流れ星レンズ(ながれぼしレンズ)
第10巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

夏休みも終わり、文化祭の準備が始まる頃。凜咲は壁新聞の編集長をすることになりました。はじめての責任ある仕事に頑張ろうとする凜咲を応援する夕暮くんだけど…!? たくさんの気持ちが詰まった初恋物語、完結! 【同時収録】流れ星レンズ 番外編 グラマラス スター/流れ星レンズ 番外編 two star/流れ星レンズ 番外編 Endless STAR

簡潔完結感想文

  • 真夏の大冒険が終わり、最後の学校イベント文化祭。2年生の2学期で早くも卒業っぽい。
  • 想いが叶う人、叶わない人、新しい自分で新しい関係を築く人、全ての人が集う文化祭。
  • 後日談は7年後。でも まだ20歳。統牙の提案よりも近年まれにみる進学率の低さに驚く。

ガラスが割れたら会いに来てよ、の 最終10巻。

作中でヒロイン・凛咲(りさ)の担任教師は生徒1人1人に優しい視線を送り、その成長を見守っているのだが、それと同じ視線を作者に感じた。凛咲と統牙は きちんと作者に見守られ、良いところを引き出してもらったな、と作者という存在に感謝したい気分だ(そもそも生みの親なのだが)。

人生で最も強い光を見た半年弱をギュッと閉じ込めた作品も これにて完結である。最初の短期連載中に交際するし、時間経過もゆっくりだし、中学2年生設定や掲載誌「りぼん」の制約があるしで、連載作品としては八方塞がりだったと思われる本書。高校生設定なら より自由に行動が出来るし、お泊り回や性体験の描写も匂わせられる。だけど中学生であるヒロインたちに過激なことは させられない。けど こんなにも中学生の空気をギュッと凝縮した作品を知らない。親や教師、そして金銭感覚を無視した高校生が多い中、本書には しっかりと それらが存在していた。ヒーロー・統牙(とうが)の容姿の中学生はリアルには いないかもしれないが、2人の優しく強い愛を紡ぐ中学生は どこかにいるのではないか、というリアルさを感じた。そういう地に足の着いた描写が対象読者たちの心に刺さったのではないか。

そして私は本書の世界が少しずつ広がっていく感覚が好きだった。初めは学校内での物語。それが2人での下校時の近所の散策になり、皆で出掛けるようになった。そして統牙の過去という踏み込めない領域に踏み込んだり、統牙と出会わなければ絶対に行かなかった高校の学園祭に行ったり、海に行ったりした。そうして世界を広げた後に再び舞台を学校に戻す。この原点に戻っていく感じが良かった。

最後の場面は、海と同じく どこまでも世界と繋がる空が広がる学校の屋上というのも良かった。それに統牙的には凛咲の屋上の思い出を最初のライバル・蜂野(はちの)から書き換えられた訳だし一石二鳥だっただろう。学校の どこでも統牙との思い出があるという終わり方は本当に美しく思えた。

まるで卒業式のような雰囲気だったが、これは まだ中学2年生の文化祭。統牙と出会ってまだ半年ぐらい。それでも2人なら この先何があっても大丈夫という確信を持った。それは最後に2人が心の「境界線」を越えて何でも話せる間柄になっているからだろう。だから番外編で2人の進路が高校から違っても そこまで驚きはしなかった。2人なら恋のために進路を同じにするような真似をしなくても納得できる。お互いの学力や希望する進路を第一に考え、自分に合ったことを優先できる人たちである。それは作中で凛咲が本編では最後まで携帯電話を持たなかったことに繋がる姿勢である。凛咲は親の許諾を得ているし、統牙とお揃いになったスマホケースも持っているので携帯を持つことのハードルはないのだが、自分のペースで常に考えている。それは統牙も同じ。凛咲が携帯を持ってくれれば いつでも連絡が取れる。特に彼が母の闘病中に嫌な印象を受けた夜などは その気持ちが強くなるらしい。それでも彼は凛咲に携帯を強制しない。でも持って欲しい、そんな素直な葛藤が中学生らしい。

この辺は高校生ではなく中学生だからこその描写だと思う。初めての感情に自分でも振り回されながら少しずつ成長していく彼らを見られて本当に良かった。やっぱり卒業式ではないのだけれど、卒業式のような清々しく生徒たちを見送る気持ちになった。


咲の夏休みの終わりの大冒険(?)を挿んで、2学期に突入となる。2学期は この学校の文化祭。作品的には環たちの高校の学園祭に続いて2回目。そして これが本書最後の お祭りであることが予感される。

凛咲のクラスの出し物は合唱。その伴奏は蜂野となる。スポーツも出来て、成績優秀、ピアノも弾ける御曹司、でも性格に難あり。設定全盛りって感じですね。この設定はマキノさん『黒崎くんの言いなりになんてならない』を連想した。
そんな蜂野は『9巻』からトモに対して心を開いている。これまで自分だけの隠れ家だった学校の屋上にトモが入ることを許している時点で彼の気持ちは決まっているのだろう(トモは最後まで不安だが)。

合唱の他に凛咲はクラスごとに出す壁新聞担当になる。これは体育祭では不完全燃焼だったという思いが凛咲にあり、今度こそイベントに全力を出したいと思うことが動機になっている。凛咲は新聞のアイデアを出したことからクラス内で編集長に任命される。そして『10巻』に入ってから急に凛咲が作文を書くのが好きという設定が乗っかるが、これは将来の布石のためだろうか(巻末の「番外編」)。

統牙のクラスは劇を上演し、統牙はイケメン役だという。だが統牙は凛咲が頑張っていることで暇になる。でも統牙は そんな寂しさを埋めて欲しくて凛咲の邪魔をしたりしない。ちゃんと彼女が役目を果たしてから構ってと予約するだけ。なかなか人間が出来ている。

体育祭では統牙が輝いていたので今度は凛咲の番。2人は互いに刺激を受けながら成長するのだろう。

して早くも文化祭当日となる。ここで それぞれの恋に決着がつけられる。

まずは武智(たけち)と愛美(まなみ)。最後のイベントで この学校の あちこち で恋の花が咲き乱れる中、武智は1人。そんな彼の寂寥感を察知したのか愛美が登場する。こういう察しの良さは抱え込みやすい武智にとって癒しになるのではないか。
そして急に愛美は武智の「ダテならぬ盾」であるメガネを奪い取る。これは凛咲には絶対できない行動だろう。武智にとって世界を直視しないようにするためのメガネを了承もなく奪取する愛美に対して彼は苛立つ。だが愛美も意味深なことしか言わない武智の自己愛に苛立っていた。確かに誰かと対話を始める前から諦めているのに、トラウマを匂わす武智は「かまってちゃん」でしかない。そうして年上女性に説教をされた武智は大いに笑い、自分のことを話すために愛美とのデートを約束する。もう彼の新しいメガネのレンズは曇ることはないかもしれない。

続いては文化祭準備期間中に勢いで ゆっこ に自分でも予想外の告白してしまったフジモン。ゆっこ は初めて自分に告白してくれたフジモンへの返答に困るが、覚悟を決め彼女の方から逃げるフジモンを壁ドンをして捕獲する。そして自分の言葉で彼の告白への誠意ある対応をする。凛咲といい、こうやって真剣に自分の想いに向き合ってくれれば、例えフラれても その想いは成仏できるはずだ。たとえ叶わなくても告白した経験や勇気が自分の勲章になる。

そして蜂野はトモを探していた。彼女は告白大会で複数の男性から言い寄られていた。そんな告白大会に割って入るのかと思いきや蜂野はドS対応でトモを自分のもとに引き寄せる。ただ乱暴なだけでなく、ちゃんと交際を申し込むのが良い。蜂野の凛咲への当て馬発言なんて なかったんや…。


咲が編集長として奮闘した壁新聞は、これまで統牙の天敵として登場した男性教師の行動を変える。教師についての生徒の声を載せる際、凛咲が「ラブリー変換(©『悪魔とラブソング』)」することで波風を立たなくして、誰も傷つかないように配慮した。要は物は言いようの「みんなが嬉しい微調整」なのだが、統牙を含め、誰にも偏見なく その人の芯をしっかりと見つけられる凛咲だからこその作業だ。それを見た男性教師は統牙に嫌味を言うことなく立ち去る。凛咲のヒロイン力は遂に中年男性にも発揮された。

廊下を歩いていた凛咲の前でガラスが割れ、それを目撃した統牙が窓から現れる。1話と全く同じ場所での再現らしい。違うのは1話では偶然の出会いだったが、今の統牙は凛咲を探し、凛咲しか視界に入っていないことだろう。

そして統牙は、最初のライバル蜂野から渡された屋上への鍵を使い、この学校で まだ2人での思い出がない場所に思い出を作りに行く。そこで統牙は自分の母の闘病中の過去もあって夜に会いたくなること、凛咲が文化祭に打ち込んで楽しそうにしていることへの複雑な思い、自分ばっかりが好きすぎて吐きそうな気持ちを抱えていることを正直に話す。これは心の境界線を無くす最後の作業だろう。

好きすぎて吐きそうは以前の凛咲の言葉。それに対する統牙のリアクションも凛咲は鮮明に覚えている。彼と出会った日から世界は一変した。でも この屋上と同じく世界には思い出のない場所があり、2人でしたい希望がいっぱいある。統牙の部屋、次の休みの日のデート、テスト勉強、そして これから流れる膨大な時間、統牙と一緒に過ごしたい。ただ統牙が そばにいてくれる、真っ白な明日を凛咲は願っている。

こうして それぞれの頑張りが実を結んだ文化祭の終了が宣言される。終わらないのは繰り返される相手への大好き という気持ちである。

「流れ星レンズ 番外編 Endless STAR」…
それから7年後。20歳前後の凛咲は大学生で、統牙はアクセサリーショップの店員になっていた。今後の凛咲の夢は児童書のライター。そういえば『10巻』前半で凛咲が絵本好きだったり作文好きだったり夢に繋がる素養を見せていた。ただ本人は夢で終わると思っているらしく、現実的な別の道も模索中だという。

何と2人は高校から別の学校に進学している。統牙は そんなに勉強は好きじゃないだろうが、『9巻』でのテストの点数を見る限り、壊滅的に成績が悪い訳ではない。ここは上述の通り、わざわざ自分に合わない高校に行く必要は無いという彼らの良い意味での個人主義からだろう。

そして大学に進学しているのは仲間内8人中3人のみだという(凛咲・蜂野・トモ)。しかも蜂野とトモは海外の大学に留学中。あとの5人は専門学校に進むでもなく、高卒で働きだしたらしい。21世紀の少女漫画で こんなに進学率が低いのも珍しい(※別に全く悪いことではない)。

武智は古着屋の店員。愛美とは友達以上恋人未満でつかず離れずの関係を続けている。武智も蜂野と同じく いつか根負けするのだろうが、作中では絶対ヒロイン・凛咲に忠誠を誓わないと彼女の存在価値が落ちるから他の女性と交際する訳にもいかないのか。当て馬は最後まで当て馬役を義務付けられる宿命だ。

フジモン・ゆっこ は飲食業。由井(ゆい)も働いているらしいが実家の金なのか旅行三昧だという。ちなみに統牙の兄・環(たまき)は学園祭の頃に発表していた通り美容師になっている。校長先生や凛咲の担任は まだ同じ中学にいて ちょっと顔を出す。出てこないのは ゆっこ の彼氏・ハルぐらいだろうか。

最初から大人っぽいので7年経過でも皆あまり変わらない。少しは身長 伸びたのか心配なぐらい。

この頃の統牙は何かを考えており、凛咲は その異変を察知する。そこでバイト終わりに彼に連絡を入れる。丁度 その時、統牙も満天の星空を見上げながら決心し、凛咲に連絡を取ろうとしていた。
凛咲が連絡したのは統牙の1人暮らしの家の前で、その手には統牙から贈られたスマホケースが嵌まったスマホがある(巻末のQ&Aによるとスマホは高校の頃に買ってもらった設定だが、そこから5年、少なくとも7年前の機種を使っているということなのか!?)。

それを発見した統牙は彼女を家にあげ、そして会いたいと思っている時に会いに来てくれる凛咲にキスをする。そこで統牙は ずっと悩んでいた凛咲との同居を提案する。凛咲は快諾。成人し、独り立ちした統牙が凛咲と新しい家を作ることになる。

ここで同居止まりにするのも統牙の配慮のような気がしてならない。本当は結婚したいが、凛咲は まだ学生で結婚が負担になりかねない。だから ここでも「葛藤」の末に、同居という案を出したのではないかと思う。変わらない統牙の優しさが見える。

そして統牙が決意するのが「夜」というのも本書では大事なポイントだろう。『10巻』の本編では夜の描写はなかったが、ここでは恋の時間である夜に満天の星空を見上げた後、思いがけずに凛咲と会うことで彼は愛しさが募り、そして凛咲に気持ちを打ち明けることが出来た。窓ガラスが割れた後から統牙が突然 現れたように、凛咲は流れ星となって統牙の目の前に出現した。