星森ゆきも(ほしもり ゆきも)
ういらぶ。ー初々しい恋のおはなしー
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
残念系美少女優羽とこじらせイケメン凛が、遠距離恋愛!?
優羽との旅行のためにバイトを始めた凛。
そんな凛の姿を見た優も、凛の反対をおしきって
バイトをすることを決めて・・・・!?
そして、運命を変える1本の電話が・・・!?
簡潔完結感想文
- 久々に主人公カップルの恋愛がぎっしり詰まっている。次の巻は嫌な予感が…。
- 大好きな人に会えない日々を原因である母親に当たる。愚かしい僕等がいる。
- 相変わらず歩いているだけで容姿を褒められる登場人物。美しさは正義の証。
友人の恋愛 → 主人公の恋愛 → 友人の恋愛の中間地点の 8巻。
作品世界を友人の恋愛を利用して広げようとして、
選民思想が丸出しの狭小世界が露わにになる本書ですが、今回は原点回帰。
『8巻』では久々に ほぼ1巻丸ごと優羽(ゆう)と凛(りん)の恋愛模様が見られます。
今回はドS男子の性格が歪んだ原因である、
母の愛情の欠乏を埋めるような、ヒーローのトラウマ克服編も兼ねている。
重くなり過ぎず、長くなり過ぎず、良い密度を保った内容でした。
ここで終わっても良かったような気もするぐらい。
そして この編は、話の流れや構成も好きです。
まずは凛の親の不在を上手く利用した遠距離恋愛の構築が上手い。
そして そこで親子の関係を修復するという自然な流れが出来ている。
更に優羽の存在が凛親子の鎹(かすがい)となり、
彼らがもう一度、手を伸ばし合う契機となっている。
優羽の行動が確かに凛の運命を変えたと思える内容になっている。
更に遠距離の交通費を優羽が、その前に一歩 足を前に踏み出したバイトの賃金で賄っている点も素晴らしい。
学校では会話する友達も作らせてもらえない優羽ですが、
バイト先の人々に温かく迎えられる様子には嬉しくなった。
こういう当たり前の世界の広がりが見たかったのだ。
凛の家の親の不在に上手に乗っかった話だが、疑問も出てくる。
凛の両親は、1か月に1回しか家に帰宅しない母に、父は海外在住(多分)。
なら なぜ同級生たちの家族は何で凛に手を差し伸べないのだろうか。
もちろん様々な援助を割愛しているだけ、という逃げ道もあるが、
彼らが凛を自宅に招いて夕食を共にしたり、食事をおすそ分けしたりする場面は一回もなかった。
なぜなら親の存在は本書では黙殺してきたから。
これまで高校生たちの生活や恋愛を自由気ままにさせるために、
親を排除してきたのに、こういう形で利用して、親の存在を呼び戻すから、
様々な不自然さに目が付いてしまった。
もう少し最初から世界に奥行きを感じさせるような、
様々な場所に目の行き届いた作品にして欲しかった。
あと気になったのは、全体的な話の流れが
小畑友紀さんの『僕等がいた』に似通っているところ。
話のスケールは1/10ぐらいなんですが、
母の事情(病気)で遠距離恋愛を余儀なくされるとか、
彼女に会えない苛立ちを母にぶつけてしまうとか、
その暴言の次の日に目の前が真っ白になることが起きるとか、
連想せずにはいられない箇所が多かった。
あと、ここら辺から、絵に変な癖が付いてきたように思う。
優羽の顔が(更に)溶けかけて輪郭は丸くなり、目も大きくなって位置が下がり過ぎている。
初期の頃よりも顔に意思が見えなくなっているのが残念。
そして男性陣の鼻が高くなりすぎているのが最も気になる。
↑ の凛なんて、鼻が上がり過ぎていて 怖い。
これでは正面からでも鼻の穴が丸見えではないか。
ましてや背の低い優羽から見たら、穴しか見えないだろう。
でも、この絵によると鼻の陰にあるのが穴なのか。極小。
完全に想像ですが、絵を描くスピードは上がってるんでしょうけど、
初期の頃にあった丁寧さは失われているような気がする。
それでは各話の感想を。
38話。優羽のバイト奮闘記。
物語上、優羽に失敗させるためなので仕方ないが、
臨時のバイトに回す仕事が変である。
このバイトは優羽の成長と そして軍資金の意味がある。
39話。
ほぼ一人暮らし状態の凛のもとに、離れて暮らす母親が倒れたという一報が入る。
トラウマ編発動、って感じですかね。
どうやら凛の「こじらせ」は育ってきた環境に理由がありそうだ。
ここでも少女漫画の俺様ヒーロー、母親の愛情を十分に浴びなかった説が証明される。
他には代表的なところで言いますと、『L♥DK』の柊聖(しゅうせい)、
『オオカミ少女と黒王子』の恭也(きょうや)くん、などですね。
この回で改めて思い知ったが、凛は家事全般を一人でこなす能力があるのか。
それだけで かなり人として出来上がっている。
溺愛系とか こじらせ とかより、表に出さないハイスペックっぷりに一番 感動してるかも。
実質、一人暮らしだが自堕落にならず、
家と身なりを清潔に保って、生活のリズムも崩していない。
実は凄いヤツなのかもしれない。
40話。遠距離恋愛編。
今回は実際に距離が遠いけど、遠距離恋愛と同じ構図は『2巻』でも一度使ったネタなのが残念。
母親に対して距離感がつかめない凛は、母に対して つい嫌味で返してしまう。
そんな母が翌朝、廊下で倒れていて…。
前述の通り、暴言からの後悔は、悲劇度があまりに違いますが、小畑由紀さん『僕等がいた』を連想。
ただ、凛の気持ちが理解できる母親の態度は冷淡すぎる。
彼女もまた関わってこなかった自分の意思を持つ個体にどう接していいのか分からないのだろう。
それにしても言い方が酷い。
個人主義で独立独歩、が凛の家の家訓っぽいが、凛がこじれてしまう理由がよく分かる。
ただ、この親子、離れて暮らしているが性格が激似。
だからこそ反発してしまうんでしょう。
もしかして凛の父親は優羽みたいな人なのか⁉
「お、俺が仕事が出来る優秀な社員でゴメンなさい…っ!
海外の仕事を任されちゃうから単身赴任になってゴメンなさい…っ!」
あれっ、謙遜しながら自慢している(笑)
凛の後悔は今後の優羽に対する態度の変化の伏線でしょうか。
大事な人に優しくしないで反省するよりも、その瞬間に大事な言葉を紡ぐことが大事だと分かる日が来るのか。
いつも読者に凛を理解させるために、
優羽は凛の本心を察しているのだが、それ以降に継続しない。
凛の強がりのメカニズムや、言葉の裏に潜む優しさを理解しながら次の回にはリセットしている。
なかなか帰ってこれない凛に会うために、優羽は自分から動く。
1日バイトが良い伏線になっていますね。
ただ、これも夜中に隣町の凛の自宅に行った『3巻』と内容が被るんだよなぁ。
41話。
凛に会いに行く交通費のためにバイトに勤しむ優羽。
にしても優羽は貯金がゼロなのか??
こういう所も小学生っぽいですね。
遠出をすることを説明するために優羽の父親が初登場(多分)。
計画では日帰りなのに了解を取るのは大袈裟ではないかと思ったが、
(以前、深夜0時まで遊び歩いていても、それほど問題にしない家族なんだし)
これは結果的に連泊することに大きな反対がないように、事前説明と了解で先手を打った形なのかな。
優羽の出発の連絡が凛には届かず、結果的にサプライズ訪問になる。
この辺は演出ですね。
優羽が訪問したことに喜びを隠せない息子の様子を見た凛の母が優羽の親の了解を取り、
優羽が宿泊することになる。
ここで初めて親同士の連帯が見られました。
もちろん初対面ではないけれど、
優羽が彼氏の母に挨拶することで結婚フラグが立ちましたね。
あっ、でも彼女として挨拶してる訳じゃないのか(バレバレだろうけど)
42話。
凛母の暮らす家から近いリゾート施設で1日デートの回。
これにより優羽の帰宅は翌日の朝になるが…。
初めて行くところでは主人公たちの容姿が褒められるのがデフォルト(いい加減 私も慣れた)。
その施設は凛の母が仕事で再生を請け負った場所であった。
それを知って凛は離れている母の仕事を目の当たりにした気分であった。
親の仕事を身近で感じて、大人として尊敬の念が湧いたのだろう。
凛の家は母子家庭設定でも良かったかもしれませんね。
父親は最後まで登場しないので、離婚や死別でも構わないかも(酷い)。
そうすれば母が働かなければならない理由や家に帰らない理由にもなるし。
この一連の経験を通して優羽は、
「…ずっと探してた 私が凛くんに出来ること
…凛くんのそばで 見つけられた気がするよ――…」
という まとめをするのだが、分かるような分からないような…。
更には凛が自宅に帰ってくることによって
「17歳 一生忘れられない夏休みが
凛くんと一緒に はじまりました――…!」
とこの回を閉める。でも あたかも色々なことが起こると見せかけて起こらない本書。
この煽りは止めた方が良いと思う。
ハッキリ言って、優羽ならば16歳の冬休みも一生忘れられないし、
18歳の夏休みも同じことを言っているだろう。
43話。
幼なじみの蛍太(けいた)が体育祭実行委員に選ばれたから
夏休みの間だけ塾に行く、という謎の理論を展開する。
どちらも今後の伏線のためなんだろうけど、
委員会で勉強の時間が取れないなんてことがあったら、部活やバイトしている人はどうなるんだ。
己の効率の悪さを見直せ、と言いたくなる。
しかし勉強するのも、高校生活も折り返し地点に差し掛かり、
少しずつ その先を考える時期になっていたからである。
そして あからさまな新キャラが初登場。
初登場時は容姿が褒められ、登場人物の価値を上げる試みをするのが一連の流れ。
確かに、その美しさに蛍太も目を奪われて、目で追ってましたもんね。