葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第15巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
大事な思い出がこれからもたくさん できますように――。高校3年生になった橘(たちばな)めいと黒沢大和(くろさわ・やまと)。みんなの進路も決まっていくなか、めいは蓮(れん)と彼の妹・ひろと遊ぶことに。でも蓮と話しているあいだに、ひろが迷子になってしまう。ひろを探すためにみんなが集まったけど…。18歳の誕生日を迎える、めい。そして季節はめぐり……。
簡潔完結感想文
- 上級生を補佐するための下級生たちの恋も卒業を前に終了。思った以上に盛り上がらなかったぞ。
- 卒業式。思い出がいっぱい詰まった校舎を散歩。あれっ、思い出が序盤にばかり固まってるぞ。
- 続投。確実に球威が落ちているにもかかわらず続投を希望する作者。肩と人気と評判を壊すぞー。
まだまだ作者は この漫画を やめへんで~。卒業詐欺の 15巻。
『15巻』では遂に主人公・めい たちが高校を卒業します。
…が、最終巻ではありません。
そのことに関して作者は、あとがき によりますと、
「だってこれからですよ。人生ドラマがはじまるのは。
生活の深みが出てくるのは。」、だ そうです。
更には学生という守られる立場から卒業して、
「自分で自分を管理(コントロール)して自分の限界を知って
そしてどこまで挑戦できるか。スリリングだけど楽しい」んだそうです。
なるほどー、本書は作者の限界への挑戦なのか。
ぶっちゃけ、作品を管理(コントロール)出来ているとは思えませんが…。
作者の言うところの「人生ドラマ」「生活の深み」、
それを漫画で表現できる作品構成と技量をお持ちなんですか?
一人立ちや仕事、社会の厳しさを、お得意の お説教を交えて作者は展開したいんでしょうが、
完全にスタートダッシュ漫画である本書にそんな余力があるとは思えません。
だって、卒業前の数巻も、めぐみ海外編 以外は出涸らし状態だったというのに。
作者は自分の主義・主張を伝えるのが表現だと思っているのかもしれませんが、
そんなのはブログでやって下さい。
長い講釈が続く あとがき もそちらでお願いしたい。
この1年で私が読んだ37作品を例にとってみても、高校卒業後も物語が続いたのは、
本書と小畑友紀さんの『僕等がいた』ぐらいでしょうか。
『僕等がいた』も数年後が経過した後を後編・社会人編としてますから、
時間経過無しで、物語を継続させている本書は本当に稀有な作品。
要するに、多くの作家・作品にとって そこが引き際なんだと思います。
その選択をしなかった作者。
ということで次巻以降「見せてもらおうか、作者の人生ドラマの神髄とやらを」、ってな感じです。
動きの取れない めい たち3年生たちに代わって、
物語に動きを生み出すためにいる年下組(2年生の海(かい)、1年生の双子の凛(りん)と蓮(れん))。
が、近日中に上級生たちの卒業で出番が無くなるからなのか、
彼らの恋も一気に清算モードに入っていきます。
『14巻』では凛が海との交際に終止符が打たれましたが、
今回は蓮の恋に決着がつけられます。
早い段階で めい が失った陰気キャラを引き継いだような蓮。
そして今更 めい を不幸にする訳にもいかないから、本書の中の嫌なことを全部 被る蓮。
恋敵である めい の彼氏・大和(やまと)にネット上で陰湿な嫌がらせをする蓮。
これは、めい が絶対にしない行動ですね。
そんな彼もリアル(現実)で行動できたというのが、成長の証なんでしょうか。
双子の実らぬ恋は 停滞する物語に恋愛要素を付加しなければ、
という いかにも浅はかな応急措置で好きではありません。
この漫画はエピソードが弱すぎる。
にしても大和のカメラは相変わらず めい ばかりを被写体にして、
それを どんどんブログに上げているんですね。
めい の許可は撮っているのか?
大和に降りかかった蓮と同じように、ネットの悪意に彼女を晒す危険性はないのか?
『1巻』ではパン屋のバイトからストーカー被害に遭った めい。
ネット上で女性の写真を貼る危険を大和はちゃんと考えているのか問いただしたい。
卒業式恒例(本書では当日ではないが)の校舎内の思い出散歩。
いやー、見事に学校の印象的な思い出は前半(それも序盤)に偏っている。
回し蹴りとか、ネクタイキスとか、前半は少女漫画してたのになー…。
言い方が最悪なのは重々承知してますが、
結局、めい って元・イジメられっ子キャラの一点突破なんですよね。
理不尽にイジメられていた私が、「いろんな人と出会って」「楽しいことが多くなって」
「自分の行動や考え方ひとつで」「明日の自分は変えられる」ようになった。
作者の主張って、ずーーーっとこれ。
そして めい が遭遇する恋愛の問題も、友情の問題も、
他者の恋愛相談も、人生相談も、全部 回答はこれ一つ。
今回も蓮に対して、まるで蓮には友達がいないように、
「あたしも つい2年くらいまえまでは 全然笑わなくて 青井さん(蓮のこと)みたいだったんですよ。」
と上から目線のアドバイスをしている(本人から一度 注意されたのに)。
自分が変われたことを全ての免罪符にして人の心に切り込んでいく。
どんな登場人物を出しても、どんなエピソードを盛り込んでも、結局 答えは一つ。
私は変われた、だから あなたも大丈夫。
この1つのパターンだけで講演会が行われているのが本書だ。
そりゃ、皆、飽きてくるはずだ。
浅いメッセージを強く押し出すところに、天邪鬼な私は反発してしまうのかもしれない。
そしてイジメられたことに今でも固執しているのは めい なんじゃないかと思ってしまう。
あと甘味処で、蓮の想いに応えられないことを大和と話している際に、
めい が涙を浮かべるのも、正直、気持ちが悪い。
全ての人に平等な愛を与えられないことに懊悩する聖母 気取りか?
優しくなった めい は好きだが、弱くなった めい は見ていられない。
こんなにヒロイン気質の人でしたっけ…。
だから思い出散歩しても、感情が揺さぶられない。
事あるごとに3組のカップル、男女6人で行動しているが、
彼らの間に友情を感じることも ほとんどない。
めい と大和以外の男性2人(中西(なかにし)と雅司(まさし))なんて会話は ほぼゼロだし。
女性陣3人の友情もエピソードが乏しい。
恋愛面でも同じことが言えるが、作者の中で関係性が確立した間柄にはその後の変化は見られない。
前半には少し見られた、愛子(あいこ)は視野が広く、大和に意見が言えるとか、
そういう特別な関係性を どんどん付加して欲しかった。
何だか、あさみ は ずっと めい に付和雷同しているキャラだし、
めい が大和とばかり一緒にいるから、今更、自宅で女子会を開いても形式的なものにしか映らない。
卒業式自体も最終回じゃないから、お別れの お涙頂戴効果が低減している。
ここから後の時系列のお話や各登場人物の動向は、
番外編として1冊にまとめてくれたら理想的だったかな(『ひるなかの流星』方式)。
でも現実は あと3巻も続くんですもの。「生活の深み」ねぇ…。
- 作者:葉月 かなえ
- 発売日: 2015/10/13
- メディア: コミック