《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ハーレムや遊郭を舞台にすれど ヒロインの純粋性は保たれる花とゆめCOMICS

砂漠のハレム 8 (花とゆめコミックス)
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム(さばくのハレム)
第08巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

北州にて、カタートとジャルバラの同盟解消の危機を救ったミーシェ。その功績を認められ、カルム王子の正妻候補に昇格する。戸惑うミーシェだが、王妃から“ある”褒美が届いており…?

簡潔完結感想文

  • 妃教育を受けて物語の背景と兄弟関係を再確認。ここ クライマックスに出るぞ~。
  • 正妻候補に昇格した途端、寝室に召喚。するする詐欺というか最初から しないつもり。
  • 連続する2人の過去編で共通するのがアーレフの無慈悲。彼は2人のトラウマの源泉。

期構想ですので勘違いなさらないで下さい の 8巻。

『8巻』で開催中の「正妻オーディション」が次の段階へ進む。最初からオーディション参加資格はヒロイン・ミーシェとコレルの2人しか持っていなかったけれど、改めて他の28人の側妻の前で この2人が正妻候補だと発表される。
最初から出来レースの雰囲気が漂うオーディションな上に、ヒロインがピンチを助けた女性はミーシェに道を譲る、という法則が成立しているように見えるので、過去にミーシェにピンチを救われている(『5巻』)コレルが道を譲るのも分かり切っている。それでも具体的な前進は嬉しいけれど。

またミーシェが正式な正妻候補になったことで、彼女は妃教育を受ける。そして作品はミーシェに教えるという建前で、この世界の情勢や王子・カルムの親族を整理する。いよいよ正妻候補になってミーシェが知るべき必要性のある情報が増えたから学ぶ、という必然性があるのが良い。

親族関係を知るのも本当に正妻になる可能性が高くなってから。その前に会ってるけど

どうも終盤に差し掛かろうという この時期に新たな設定が続出しているように見えるけれど、作者の中では連載初期から構想されていた設定らしい。てっきり急遽こしらえた背景なのかと思ってしまった(すみません)。『8巻』で語られる2つの過去編は作者が ずっと描きたかったエピソードであるようだ。確かに これまでの会話にも そういう因縁を感じさせるものがあった。
2人が出会う前の2つの過去編で共通しているのはアーレフ王の存在。彼は それぞれにとって恨みの対象であるが、既に その私怨や私情を乗り越えていることも読み取れる。その状態で改めてアーレフに向き合った時、何が起きるのか。やはりラスボスはアーレフになるのかなど今後の展開が気になるばかりだ。


ーシェへの教育の中で明かされることで一番 驚いたのは、カルムを含めた この国・ジャルバラ王族の家系図で判明する第一王子・メフライルと第三王子・カルムが実の兄弟であること。てっきり異母兄弟だとばかり思っていた。髪の色からメフライルは第四王子のヨハネの兄とばかり思っていた。早く言ってよ、と思わなくもない。

この設定を今更ながらに出すのは、カルムの実母が王妃ならばメフライルも その子供にしないと血統的にカルムの方が強くなってしまう恐れがあるからだと邪推する。国王が病床にあることもあり物語の中で王妃が絶対権力者になってしまったので、彼女の実子じゃないと王妃が国王と認めるのが難しいので、メフライルが実姉にスライドしたのではないかと疑わずにはいられない。

でも作者のコメントによると全てのエピソードは連載当初から出す予定で設定は しっかりあったようなので私の推理など下衆の勘繰りでしかないのだろう。この構想が きちんとした形で発表できるまで連載が延長して良かったねと素直に思った。


州を後にする際にミーシェは、第一王子・メフライルの正妻であるハルカから今度は同等の立場で会えるようにとミーシェが正妻に就くことを願われる。

南州に帰るとミーシェは国難を救った人として敬われ始める。それに応じてカルムもミーシェを正妻に近い立場に昇格させるが、同時にコレルも同じ立場となる。正妻オーディションは実質この2人の戦いなので読み手としては変化がないが、物語の中では また一歩 ミーシェは正妻に近づいたようだ。
昇格により部屋が広くなりお付きの侍女も用意される。これまでのように何でも自分でやろうとするミーシェの振る舞いは威厳を損なわす立場にそぐわない行動となっていく。

物理的に広くなった空間と裏腹の精神的な窮屈さや持つべき意識の変化にミーシェは戸惑うが、カルムは甘やかすのではなく叱咤することで彼女に前を向かせる。任命したカルムに責任があり、そしてミーシェの後ろには28人の選ばれなかった側妻がいて、カルムは彼女たちに対して選ばなかった責任や負い目がある。


分を立て直したミーシェにカルムは家庭教師(ララ)を紹介する。これは王妃からの褒美。これはミーシェを正妻に近づけることを王妃が許可したということにも取れるだろう。
ミーシェはカルムと会う時間を減らしてでも知識を自分に染み込ませようとする。いよいよ正妻または正妃になる際に勉強するのは可歌まと さん『狼陛下の花嫁』でもあった展開。基本的に白泉社ヒロインは「妃教育を受けたい私」なのである。
ここで四人の王子の他に2人いる姉妹は それぞれ隣国に嫁に行ったことが初めて発表される。

昇格したことでミーシェはカルムの妻としての役目を再確認し、いよいよ夜伽の相手に呼ばれる。長編作品の1回目の性行為チャレンジは未遂に終わるし、ましてや白泉社作品なので そもそも夜伽ではなかったオチとなる。ハレムに居ようが『遊郭』に居ようがヒロインは性行為をしないのが花とゆめCOMICSである。

この性行為への躊躇はミーシェが恥ずかしさを克服できない他、相手に全部を預けると捨てられてしまうのではないか、というアーレフの奴隷だった頃のトラウマが残っているから。それを乗り越えようと努めなくても、ミーシェの身体と心はカルムに対する愛おしさから勝手に動く。でも性行為には至らせないというヒロインの鉄壁性を見せる。


ルムがミーシェを私室に呼んだのは、異母妹・ヤスミンについて語るため。
6年前、当時13歳だったヤスミンはアナトリヤの王子だったアーレフに嫁ぐことが決まっていた。6年前のカルムとアーレフは現在日本で語ると高校生、もしかしたら中学生ぐらいに見えるけれど、現在20歳そこそこと そんなに若い設定なのだろうか。ミーシェも年齢設定がないけれど、この2人、特にアーレフは30歳ぐらいの貫禄に見えた(アーレフの方がカルムより年上というのは公式設定らしい)。作者の想定年齢が全く分からないけれど、6年前の2人を ちょっと若く描きすぎじゃないか。

転生ブームに乗っかって、若き日のカルムとアーレフが現在日本に来てくれまいか

海賊編で(『4巻』)カルムがアーレフと親交があるとは言っていたけど、青年の頃から会話を交わす仲だったのか。
ヤスミンは無口で無愛想なアーレフとも上手く関係を築けそうな、芯の強さがある。2国間の友好を示すための政略的な結婚には違いないが、もしかしたら妹は幸せになるかもしれない、そう思ってカルムは送り出したように見える。

しかしヤスミンはアーレフの国の内乱に巻き込まれる形で死亡する。その内乱を画策したのは、当時の王の何のある性格を憂慮していたアーレフなのではないかとカルムは思い至り、彼の計画にヤスミンは巻き込まれ、それを承知でアーレフはヤスミンを黙殺したと考える。けれどカルムは私怨よりも国家間の安定を求める。それは両国の架け橋になろうとした妹の遺志であり、隣国を正しく導くであろうアーレフへの信頼にも思える(すぐに即位した訳ではないけれど)。

ヤスミンの話を聞いたミーシェは号泣。そして その涙に巻き込んでトラウマが残っているであろうカルムを癒やす。


いてはミーシェの過去編。
ミーシェは砂漠の真ん中で数人の女の子の遺体に囲まれて衰弱しているところを隊商に発見された。それはアーレフが奴隷を捨てたこの一環で、ミーシェは本当に運よく助かっただけ。だからミーシェは王族を嫌悪していたし、王族の妻になることで再び権謀術数に巻き込まれる可能性があるけれど、カルムはミーシェの幸福を守るために尽力することを誓っている。ミーシェもまた側妻以外の生き方を提示されるが、カルムの一番 近くにいたいというのが今の願いであり希望である。

カルムは、ミーシェが少しずつ力を蓄え、弱かった過去を克服しつつあることを確認して、彼女を この国を訪問していたアーレフに対面させる…。

「特別編」…
カルム王子の「お付きの人」の役割と名前を知りたいミーシェにカルムがクイズ形式で出題する。

「こころノート」…
大きな目標を達成するためには目標を細かく順序立ててノートに書くことを実行している山城 花(やましろ はな)の現在の目標はクラスの人気者の石崎 幸人(いしざき ゆきと)と仲良くなること。人見知りの自分に助言をして世界を広げてくれる石崎に段々と惹かれていき、好意をノートに書き連ねるが、それを本人に発見され…。

ヒロインが絵のモデルになる話をどこかで読んだと思ったら『3巻』の作者の読切だった。遊園地の観覧車ぐらい、モデルと画家には両想いになるジンクスが成立している。花が作っているノートは恋愛だけじゃなく自己実現やビジネスとかにも役に立ちそうと思った。