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少女漫画と小説の感想ブログです

王子様が30番目の妻ばかり寵愛して博愛の後宮が崩壊。ヒロインはサークルクラッシャー

砂漠のハレム 2 (花とゆめコミックス)
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム(さばくのハレム)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ケダモノで俺様なカルムの側妻になったミーシェ。好きな気持ちを自覚しつつも、遊ばれているだけだと不安に。そんな中、訪問した育児院で事件が発生!そこで出会ったのは、ミーシェの過去を知るあの男で…!?

簡潔完結感想文

  • 連載の都合で カルムが正妻未決定まで状況がリセット。でも内定のような現状。
  • ヒロインも王子も自分が居るべき場所から離れてトラブルに巻き込まれに行く。
  • 兄王子の顔を覚えていない元奴隷ヒロインは、隣国の王に顔を覚えられている。

かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ、の 2巻。

読切や短期連載から連載延長によって長編化した白泉社作品の『2巻』って一番つまらないのではないか。まだまだ連載の展望が見通せないから新たなゴールを作る訳にはいかず、更に連載環境が変わると新規読者への再説明をする必要があり内容の重複が多い。また一度は閉じた物語を強引に継続するために設定の改変が行われる。

本書での設定リセットは、第三王子・カルムがミーシェを正妻にするとは言っていない、というもの。下手をすればミーシェが自覚した恋心ごとリセットされかねない状況だったけれど、ミーシェ側がカルムの正妻になるという決意まではリセットされなかったので軽いリセットで済んでいる。また鈍感で強情なヒロインが好きを自覚するまで長い長い時間をかけるのかと危惧していたから、そこが回避されただけでも ありがたい。特にミーシェは暴力的な衝動が抑えられない人なので、ただただ意地を張っただけの暴力は見ていられない。現状でもスキンシップが苦手でカルムを拒絶しているけれど、それは照れ隠しなので可愛げがある。

考えてみれば増えていくのは王や王子たち男性キャラである。長髪俺様・短髪ドS・弟系・お笑い系などなどハレムというより逆ハーレム状態。しかも男性たちはミーシェのことを絶対に忘れない。ヒロイン優遇が世界観を壊していまいか…。


妻には選ばれていないけど、実質的にミーシェは正妻扱いされている状態。ここで再度 問題となるのが他29人の側妻(そばめ)不要説である。『1巻』の感想文でも書いたけれど、もはや30番目の妻というのは連載の引きとして用意しただけの設定に成り果てて、作品は ただの溺愛モノでしかない。折角、設定をリセットしたのに結局「ハレム」設定は使わないのが勿体無い。

モブとなった現状の29人の側妻たちの胸中を思うと胃が痛くなる。もしかしたら本書で一番切ないのは放置された妻ではないだろうか。明らかに平等ではない世界になってしまい作品が楽しめない。ミーシェの登場前は平等で平和だったということだったのに。さながらミーシェはサークルならぬハーレムクラッシャーである。

『2巻』の中で1話、後宮内でのバトルが描かれているが、それはミーシェにライバルであり友である存在を作らせるための話だったし、内容も『2巻』で最もコメディ寄りになっていた。おそらくミーシェの登場により力学が変わってしまった後宮内だけど、嫉妬により高まる陰湿さなどは一切 描写されていない。

側妻たちは それぞれの特技を使ってカルムを援(たす)ける存在になるはずだったのに、カルムが重用・寵愛するのはミーシェだけ。女性として愛されている様子もないし、妻として夫を援ける場面もない。彼女たちは自分が何の為に存在するのかが全く分からなくなり虚しさを抱えているだろう。カルムも心が決まっているなら一日でも早く他の側妻の処遇を考えればいいのに、そういう考えを持たないようだ。

せめてカルムが他の側妻を平等に扱い、心理的なケアするような場面があれば彼の度量の大きさや、ここまで後宮が平穏だったのは背景にカルムの配慮があったことを描けた。しかし そうするとミーシェが病み、少女漫画的な爽快感が減じてしまうから描けないのだろう。

側妻(そばめ)じゃなくてヒロインの特別性を演出するためのモブ妻(モブめ)という屈辱的な扱いをされている彼女たちの存在が物語を心から楽しむことを阻害している。連載の延長で作者が一番リセットしたかったのは根本的なハレム設定じゃないかと思ってしまう。


ルムは30人の側妻たちを従え、孤児たちが集まる育児院に出向く。こういう幼稚園・保育園回はヒロインが心のSOSを発信している口の悪い子供と知り合って、その子がキーパーソンになるという展開が お決まり。またヒロインは子供目線で仲良くなるという、心が純粋なんです という展開も定番で、現在の高校生ヒロインなら この成功体験から保育士になるルートも一定数存在する。

育児院には領主と提携し孤児たちを密売していたという裏の顔があり、その秘密を知っている孤児と偶然 居合わせたミーシェが巻き込まれる。何もカルムたちが来訪する日に動かなくても、と思うけど、その日に動かなきゃ物語が動かないのだろう。

乱暴なミーシェは、懐かない孤児のようにカルムを遠ざけ、話を聞かないことで 隙間風が生まれ、トラブルに巻き込まれることで その誤解を解く、というテンプレ展開を見せる。トラブルに巻き込まれた中で想いが通じ合うことで「吊り橋効果」のように、恋心は一層ドラマチックに演出されるのだろうか。


かしカルムがミーシェを救出する前に、彼女の乗った馬車が崖から転落。
そこに現れたのは、奴隷だったミーシェを買い受け、彼女に訓練を施した隣国の王・アーレフ。なぜ こんなところにいるのかというと、彼が領主の取引先だったから。しかし取引を放棄したから関わりがないとアーレフは何も話さない。アーレフは奴隷の身分だったミーシェの顔を覚えている様子。何か印象に残る事件があったのだろうか。

昏倒したヒロインの横で魅力的な男性たちが彼女を取り合う、という魅力的な場面

怪我をしていることもありカルムの救出班とは別行動をしていたミーシェだったが、領主の隠れ家が もう一つあることを突き止める。それを報告するためミーシェはカルムと合流して彼と一緒に一つの拠点に向かう。
『1巻』の水路に落ちた時も そうだったが奴隷時代の経験からミーシェは暗くて閉鎖的な空間が苦手。そのアーレフから受けたとも言えるトラウマはカルムと一緒なら乗り越えられる、ということが示唆される。

発見した子供たちは大人への不信感でいっぱい。それを同じように王族への不信感で支配されていたミーシェが、かつてカルムが自分にしてくれたように自分から心を開くことで彼らを安心させる。

事件が解決したことで、カルムは崖下に落ちたミーシェの傷を手当てを始め、カルムはミーシェの身体の あちこちに隣国にいた期間に受けた傷があることを気づく。男女どちらでも身体の傷がある場合、相手が それを愛おしく触り、コンプレックスが消化されるという流れは定番である。


宮内で側妻たちがカルムとのデート権を賭けたマラソン大会を実施。カルムが他の側妻と過ごして欲しくないミーシェは参加を決意。しかし大会は実質 障害物レースとなり、カルムの寵愛を受けていることが明白なミーシェは妨害の対象となる。
妨害をという自分の心の汚さを見せつけ合ってミーシェは3人の側妻たちと仲良くなる。拳で語り合う的な、一度ぶつかり合って喧嘩をしてこそ仲良くなるという展開となる。珍しく王宮内で場面が固定され、そしてコメディ色が強い。

ド根性で勝利をもぎ取ったミーシェはカルムの発案により入浴中の彼のお世話をすることになり、蜜月タイムが始まる。

今回、ミーシェが仲良くなるのは29人中3人。30人の側妻という設定が あまり活きているとは言えないので、全員とは言わないまでも連載中にミーシェが段々と認められるエピソードが もう何回かあっても良かった気がする。


ルムが触れてこないことが気にかかるミーシェ(『1巻』でもあったな)。ミーシェはスキンシップに弱いが、されないと欲求不満になる。ミーシェも事態の打開のために自分から近づくことを考えるが気恥ずかしさが勝つ。恋愛の成就、正妻への道を本気で考えるなら気恥ずかしさを克服するのが第一だと思うけれど、そうしてしまうと物語が終わってしまうので少女漫画ヒロインは なかなか動かない。面倒臭い人だ。

2人に隙間風が吹いている最中に第二王子のユーゼフが訪問し、彼がミーシェに惹かれていることを知ったカルムはストレスを溜める。だから なんとかユーゼフとミーシェの接触を断とうと必死になるが結局、カルムの言いつけなんて守らないミーシェが王宮内をウロチョロしていたためユーゼフと接触。しかしミーシェはユーゼフを覚えていないという設定。あれだけのことがありながら、しかも第二王子という身分の人を覚えていないのは記憶障害か何かかしら。そんなんじゃ正妻になれませんことよ、ミーシェさん!

ヒロインは男性を身分と容姿で選別。選ばれなかった人の名前を覚える必要あります?

そのピンチと言えないピンチにカルムが登場して兄王子を退散させ、ミーシェとの本音タイムに突入する。カルムは自分のスキンシップがミーシェを怯えさせてしまうので、ミーシェから近づくまで我慢していた。そうしてスキンシップ再開。毎回、ケダモノ!と言って話を落としている気がする…。

「砂漠のハレム 特別編」…
ララDXからララ本誌への出張ということで状況が一から説明される。
この日はカルムの誕生回。ミーシェは日頃 言えない感謝の気持ちをプレゼントに託そうとする。しかし手持ちが少ないため日雇いのバイトを始める。けれど目星を付けていたプレゼントは他の側妻から既に王子に贈られており、落ち込んでいたところにカルムから突き放されたような言葉や側妻たちからの冷淡な言葉を浴びて落ち込む。落ち込ませてから回復させるのが少女漫画の手法で、カルムは金額ではなく想いを受け取る姿勢を見せてハッピーエンドになる。ちなみにケダモノ!オチは今回も健在。