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少女漫画と小説の感想ブログです

モラハラ・DV気質の元カレ王から洗脳を受けた意識を改革させる今カレ王子

砂漠のハレム 4 (花とゆめコミックス)
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム(さばくのハレム)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

海賊船を占拠したカルムたちだったが、新たな敵に襲撃される。それはミーシェの奴隷時代の主、アナトリア国王アーレフだった! 海賊を始末しようとするアーレフをミーシェは止めようとするが、奴隷時代の記憶がよみがえり…!?

簡潔完結感想文

  • 本編は海賊編の解決編だけで全体の2/5のみ。特別編では王子が壺かぶったりパンツ見せたり。
  • まさに王様気質の男性たちは、自分に従順な人よりも反抗的な目をした人が忘れられない。
  • 読切は『夏目友人帳』と『学園ベビーシッターズ』を2で割った「妖怪ベビーシッターズ」。

しかった恩師に その後の成長を見せる 4巻。

『3巻』でも書いたけれど、隣国の王・アーレフはヒロイン・ミーシェにとって元カレのような存在であり(実際は奴隷なんだけれど)、王子・カルムにとっては嫉妬の対象で仮想敵である。

まさに王様気質のアーレフには、かつてミーシェがカルムにしたように、自分に言い返すぐらいの気質を女性に求めているのかもしれない。奴隷時代の経験があったからミーシェはカルムに反論(と暴力)をする余裕が生まれ、それが2人の縁になった。その点ではアーレフに感謝だ。もし過去にミーシェがアーレフに言い返していたら、カルムと同じ過程を辿ったのだろう。アーレフがデレる様子も簡単に想像がつく。

従順なだけでなく、自分に媚びるだけでない、強い個性を持った女性を2人の王族は探している。それは さながらアイドルオーディションと同じかもしれない。量産型の可愛い子よりも分かりやすい個性を持っている子の方が選ばれる。アーレフはミーシェの中にある輝きを見い出せなかったし、ミーシェもまた個性を殺していた。しかしカルムがミーシェの中の宝石を磨き上げ、彼女に成長の伸びしろを与えた。

これも『3巻』でも書いたけれど、この頃からミーシェは ただ暴力や感情に訴えるのではなく、自分の側妻としての立場や過去を利用して困難を乗り越えようとしている。彼女の働きが事態の打開に一役買っていて、初めてカルムに迷惑をかけるだけでない展開になっている。それは人としての成長と共に側妻から正妻への第一歩であるように思う。大きく分けると ここまでが第一部で、ここからは正妻オーディションへと話が移行するように読める。

女性の自立を描くならば、自分のトラウマ克服にカルムを巻き込んでは意味がない

もそもミーシェはアーレフという存在によって王族が嫌悪の対象になって、それをカルムにも適用した。カルムが どんな人物か知る前に王族というだけでカルムに反抗的な態度を取っていた『1巻』のミーシェは愚かとしか言えないのだけど、それだけアーレフの奴隷としての日々が彼女にとって辛苦を与えられたものだったと考えることで擁護が可能か。

そしてアーレフの存在が作品にとって大事なのは、ミーシェが2人の王族を比較対象として並べることが出来る という点だろう。辛苦の日々の中にあった価値観があるからこそ、ミーシェはカルムの女性の待遇を改善する革新的な方針を支持する。
これまでもカルムは(本書は)女性が生き方を選べる、経済的に困窮しない、男性に依存しない社会の実現を目標にしてきた。ミーシェにとっては物の例えになるけれど、アーレフというDV夫の支配から脱却して、自分に新しい価値観と存在理由を与えられるという自己革命の話になるのだろう。

今回で終了する海賊編はミーシェの成長の中間発表。トラウマ的な存在であるアーレフに対峙して、カルムの側妻(そばめ)となった期間で習得したスキルによってアーレフが与えたものではなく、カルムの妻として成長した部分を見せた。それはミーシェの精神支配からの脱却を意味しているのだろう。まだまだ部分的であるが、アーレフに委縮するばかりではなく恐怖を克服して、否定されてばかりだった彼に新しい自分を認めさせたことはミーシェの大きな一歩となる。


ルムが海賊船を掌握し、事態が収拾に向かうと思われたが、そこにアーレフがやって来る。彼は奴隷だったモルジアナとミーシェにとって因縁のある相手。

登場で その場は一瞬でアーレフによって支配され、彼の判決によってモルジアナは斬りつけられる。他の海賊たちもアーレフの国によって殲滅されそうになり、その状況にミーシェは逆上する。アーレフに切りかかろうとするミーシェだったがカルムが身を挺して守る。そして彼だけがアーレフと対等に話せる状況で、海賊を生んだ社会情勢に非があり、それは この国の問題だとアーレフを退けようとする。

海賊保護を訴えるカルムに対して、明け方までの数時間で自分を説得して見せよとアーレフは告げ、負傷したモルジアナを人質として連れていく。これで海賊を逃がすことが出来なくなり、全滅か救出かの二択となった。


ーレフ軍の強襲となったが幸い死者はゼロ。モルジアナも致命傷ではなく明け方まで命に別状はなさそうという見立て。この数時間の猶予で、ミーシェは海賊たちの治療をし、カルムに過去を語る。ミーシェにとってアーレフは、その妻を目指した存在。奴隷だった当時の自分にとって それが唯一の存在証明のように思えていた。しかし従順であり続けた結果、見捨てられた。今回もミーシェの行動はアーレフの失望を買った。ミーシェの中にはアーレフに影響される部分が根強く残っている。

自分の過去と、刃物を取り出してカルムに迷惑をかけた失態に落ち込むミーシェにカルムは今後の成長で自分とアーレフを見返して見せろとミーシェに前を向かせる。ミーシェがカルムの妻として対外的に どう振る舞えばいいかと考え始めるのも長編化によって変化した点だ。

2人で夫婦になる暗黙の約束のもとにカルムはミーシェに実地でスパルタ教育を施す

前上はカルムの属するジャルバラ王国とアーレフが国王のアナトリヤは友好国。だから もしカルムの妻(の一人)であるミーシェがアーレフを刺したりしたら国家間の問題になっていただろう。カルムが傷を負ってもミーシェを止めたのは王族としての務めもあるだろう。

カルムは その国家間の関係性を利用してモルジアナ救出作戦を立案する。そのためにはアーレフの目をそらす必要があり、ミーシェは自分が謝罪に行くことで気を引き、その間にカルムに船内のモルジアナ捜索をしてもらうことを提案する。

アーレフの性格を知っているミーシェは彼が海賊を殺そうとすると考えている。だからこそ自分の説得が重要であることも分かっている。アーレフは個人的にミーシェへの関心を持っているようで、ミーシェは早々にアーレフと個別に対話することになる。カルムは船内から早々に出されそうになるが、機転を利かせて船団員に なりすまして、モルジアナの幽閉されている牢の鍵を入手する。しかし それ以上に派手な行動は出来ず海賊船に戻り、モルジアナの側近に彼女の救出を託す。こうすることで借りを作らせず、海賊の絆を強固にする意味もあるのかもしれない。


ーレフは対話の内容次第で問答無用にミーシェを切るつもりでいる。その非情さはミーシェが知る彼と変わらない。しかしミーシェは今、カルムという「良い王族」のことを知って、「悪い王族」であるアーレフに彼を侮辱されることが耐え難い。

だからミーシェは自分の妻としての素養を見せることでカルムの名誉を守ろうとする。楽器は不評に終わったが、アナトリヤでは禁止されている剣舞を披露してアーレフの気を引く。これはミーシェが後宮に入ってから教わった者。奴隷時代に仕込まれたもの以外を提示することで それをカルムが妻に付与した価値とする。


ルムは海賊船が地元海軍から強奪した経緯を利用して、海賊船に海軍の旗を立てた上で それを炎上させる。それによってアーレフが友好国の船に攻撃しているように見える状況が生まれ、彼は これ以上の手出しが出来なくなる。しかも誤解を解く重要人物であるモルジアナは行方不明という報告が入る。全ての事情を察したアーレフはミーシェがリスクを冒して時間を稼いでいたことを知り、一層 彼女への興味を強くして この海域を去る。

この騒動によって海賊は、第二王子・ユーゼフの配下になる。これはモルジアナが前に進むためでもあった。ミーシェは恐怖の対象であったアーレフに身をすくませることなく、カルムの役に立ったことが成長の証になる。

「特別編1」…
海賊編への旅路の話。砂嵐で幽霊が出るという いわく付きの宿に泊まることになった一行。そこから幽霊譚が始まるのかと思いきや、物語は完全にコメディに振り切る。確かに作者が心配していたように本編との温度差が かなりある。
カルムは特殊な状況下でないとツンデレのミーシェと一緒にいられないと、その状況を楽しんでいる。幽霊話も2人が一緒にいる材料となる。一緒に旅行しているのはミーシェが そこそこ仲良くなった3人の側妻とはいえ、他の側妻が憐れでならない。
1話完結らしい分かりやすい胸キュンが発生する構成だけど、作者もキャラに慣れてきているので笑いを取る余裕があるので、序盤のエピソードよりも わざとらしさが軽減されている。ミーシェがオチにケダモノ!と言わないと それはそれで寂しい。

「特別編2」…
ミーシェは占いが得意な側妻から最悪な一日になると言われ、更にカルムに災いが もたらされると知り、それとなく彼を守るために尽力するミーシェだったが…。

この話もコメディ100%。序盤はミーシェが暴力的でカルムを拒絶しつつも空回りして彼に助けられるパターンにイラついていたけれど、今の彼女はカルムを厄災から守りたいという気持ちの上で空回るから安心して読める。この話はオチにケダモノ!と言う。

「妖怪ファミリア」…
両親が事故死して一人暮らしで金欠の女子高生・安達 沙耶(あだち さや)が斡旋されたのは住み込みでの子守と家事全般の仕事。しかし そこは妖怪の孤児たちが住む妖怪屋敷だった。その上、同年代の男性、烏天狗の烏丸(からすま)に人間と暮らすことを反対され…。

白泉社は両親の死亡率が異様に高い。金欠などの動機が主人公を特殊な状況に動かしやすいのだろう。本当に悪い大人に騙されて行方知れずになっても誰も本気で探さないのではと心配になる状況だ。
妖怪が絡む確率も高い(この短編は雑誌に合わせたからだろうけれど)。子供が関わる確率も高い。これは子供の無謀な行動によって物語が簡単に動き、ドラマが作れるからだろう。

白泉社の読切短編を読むと あわよくば連載化を狙っている気がしてならないけれど、かなり面白い この短編は何が悪かったのか。掲載誌の問題なのか。「妖怪ベビーシッターズ」として1人1人の個性を紹介していけば人気が出そうなのに。