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少女漫画と小説の感想ブログです

バイト妃から妃になった後も、目指すべき「花嫁」のため、妃教育を受けたい私。

狼陛下の花嫁 14 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第14巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

臨時花嫁から、本物の花嫁に!第二部・新婚編!!紆余曲折を経て、遂にバイトから本物の「狼陛下の花嫁」となった夕鈴。本当の後宮入りを果たして迎える新生活は、幕開けから波乱がいっぱい…!?

簡潔完結感想文

  • 第1部はバイト妃からバイトを、第2部は正式な妃から「式な」の文字を減らすためにある。
  • 以前は王宮を我が物顔で徘徊する夕鈴にイラついたが、妃となって人と交流少な目で残念。
  • 外国から お越しの初のライバル的な女性と疑似後宮バトル。嫌味を右から左へ受け流す。

2部は蛇足ではなく、ちゃんと目標があるから安心してね、の 14巻。

私は少女漫画の交際編を あまり面白いと思えない人なので、夕鈴(ゆうりん)と陛下の両想い後、というか結婚後を描いた この作品の第2部は人気作ゆえの無用な延長ではないかと心配した。
実際『14巻』は色々なことがあり過ぎた『13巻』に比べると薄味だ。恋愛的なピークを作ってしまったから当たり前といえば当たり前だが、それにしても作品が こじんまりしているように思えた。夕鈴と陛下の場面が ほとんどで、第1部後半の賑やかさが失われてしまっている。

それでも読了して構成を思い返してみると それは杞憂であると胸を張って言える。物語は第1部が「狼陛下の(臨時)花嫁」から「狼陛下の花嫁」と堂々と言えるようになるまでを描いていた。でも花嫁というのは主に結婚式を控えた女性のことを言うのであって、『14巻』の中だけでも2か月以上の時間が経過している夕鈴は そろそろ花嫁の賞味期限も切れてくる頃かと思われた。

しかし、ネタバレを含むことになるが、第2部は夕鈴がもう一度 花嫁になるための道のりだろう。端的に言えば今は妃である夕鈴が「正妃」になるまでを描くのが第2部だ。正妃は本当に1人しかいない立場。勿論、陛下は夕鈴以外を後宮に迎える気が無いが、正妃というポジションは王宮内、また対外的に絶対的なもので、妃よりも格上。

そう考えると夕鈴は まだまだ花嫁修業中とも言える。正妃になるに相応しい素養と態度を妃になってから一層 磨こうとしている。第2部になって夕鈴の生活は少し落ち着いてしまったようにも見えるが、私は彼女が本当に自分が やるべきことに向き合っている印象を受けて嫌じゃない。だって第1部は夕鈴を部外者にしないために彼女は色々と首を突っ込み過ぎていたもの。

作中で1年が経過することで物語が大きく動いた第1部の構成も そうだが、本書の全体的な構成力の高さが私は好きだ。もっと文化的なことを描けないのかとか、隣国の設定が浅すぎるとか色々と言いたいことはあるけれど、基本的に物語に無駄がないのが良い。特に上述の通り、第2部が単なる人気作の延長戦ではなく、ちゃんと第2部を描く意味が用意されている点が本当に好ましいと思った。


た2人の関係性が もう一段レベルアップすることは国内、とくに王宮内の安定に繋がる。陛下にとっては夕鈴を誰にも文句を言わせない立場にすることが本願だし、夕鈴にとっては正妃になることが自分の努力の成果になるだろう。夕鈴が正妃になることは、彼ら夫婦が王宮内に君臨するという意味もある。

また今回 作中で初めて他国との正式な交流が描かれる。そこで国王夫婦が他国と良好な関係を結ぶことが、この国の将来的な平和に繋がる。内外に平和が訪れることは陛下が狼陛下として果たしたかった思いで、その実現のために夫婦は手を取り合っていく。一世代前の荒れた政治を立て直し、国王夫婦は次世代へと平和をもたらそうとしている。そういう作品内での半永久的な平和の実現も第2部の役目だろう。
また外部から女性ライバル的なポジションの人を招くことによって、「疑似後宮バトル」が展開されているのも面白かった。本来なら(陛下以外の王様であれば)妃が後宮に入った後で起こる女性同士の火花の散らし合いが簡易的に用意されているのも、女同士の戦いとは こういうものというシーンを見せたかったからだろう。これによって夕鈴は妃修行の成果も出せている。本当は後宮で こういう会話が繰り広げられるのだろう。

後宮や大奥モノが人気なのは女性同士のドロドロした戦いが見られるから。本書も疑似的に。

あと個人的に私が気になる最後の恋愛イベント・性行為については白泉社作品ということもあり直接 描かれることはないけれど、夫婦になる ということは そういうことだとして、第1部の最終回に それを設定する。実際『14巻』巻末に収録されている「特別編」でも夫婦の営みについて結婚直前の2人が話し合っている場面がある。当たり前のように一緒の寝所で朝を迎えているのだから それは そういうことなのだろう。


婚生活が始まり、陛下は夕鈴への愛情表現を我慢しなくていいのでフルスロットル。ただし夕鈴は本物の妃になったことで修行すべきことが たくさんあり、それどころではない。

ここで久々に夕鈴に刺客に狙われるピンチがあり、それを浩大(こうだい)や陛下が撃退する。思えば序盤は刺客ばっかりだったけど、もはや刺客が懐かしい。陛下は夕鈴を危険に巻き込むことを気に病むが、夕鈴は それを込みで ここにいることを自分で望んだ。

夕鈴はバイト妃時代には悪女と噂されていたが、出戻り妃となってからは「妖怪妃」と呼ばれる。その汚名を返上するためにも夕鈴は一人前の妃になって体裁を整えなくてはならない。

そこで夕鈴は、自分の教育係として後宮暮らしの経験のある陛下の継母でもある蘭瑶(らんよう)を指名する。人に厳しい李順(りじゅん)からしても蘭瑶は最上級の手本となる人。だが自分の計画を阻み、実質的な隠居暮らしを強いる陛下の妃である夕鈴だから、蘭瑶は自分以外に適役がいると やんわりと拒絶する。

だが夕鈴の妃らしくない発言を聞いて蘭瑶は教育係を引き受ける。そもそも蘭瑶は地方に住んでいた時に夕鈴と接触があり、彼女に好感を抱いた。そのための出会いだったのだ。そして夕鈴が蘭瑶を指名したのは「闇商人」事件以降、まともに話せていない蘭瑶と接触したかったのも理由だろう。彼女に望まない形で王都に帰ってきたこと、そして今の心境など、人として聞きたいことが夕鈴には あるはずだ。

これまで夕鈴は下町育ちの異色な性格で王宮の問題に対処したが、今後は そうもいかない。

2か月後に近隣国から外交使節団がやってくるという。これが夫婦となって初めてのイベントである。王宮内の政治的な安定と同じように、隣国との友好関係強化が、陛下の時代が平和であることに繋がるのだろう。作品全体が この国の平和のためにあると言っていい。

夕鈴はバイト妃時代と違って、暇だから掃除婦をしたり、後宮を出て政務室に行って演技をすることもなくなった。正式な妃には やはり居るべき場所というものがあるようだ。

退屈を感じていた時に出会うのが、前半で夕鈴を狙った刺客なのだが、その刺客は体調不良で夕鈴の前で倒れる。そこで夕鈴は後宮で その刺客を介抱するのだが、浩大と張元(ちょうげん)は さすがにマズいと顔色を曇らせる。けれど困っている人を見過ごせないのがヒロイン。災害の対処に忙しそうな陛下には事後報告として、後宮で預かる。そこから度々 夕鈴が面倒を見ると刺客は回復。黙って出ていこうとする刺客に対して夕鈴は仕舞っていた荷物を渡して別れをする。新キャラには いつだって聖女。


よいよ隣国が到着する。だが直前になって隣国は王女が使節団に同行することを告げる。王女の名は赤 朱音(せき しゅおん)。近隣国・炎波国(えんはこく)の第二王女である。ここで先の刺客が炎波国の刺客であることが発覚する。そして王女は陛下のことを落としに来たのだ。

夕鈴は交流の宴の際に朱音と初対面となる。本物の王女を前にして夕鈴は笑顔で迎え入れるが、あちらは身分の違いを歴然と見せ、仲良くする気がないように見受けられる。これまで夕鈴が関わってきた人々は表面上は友好関係を見せる人たちばかりだったので、ここまで敵対行動に出る人は初めてかもしれない。
けれど妃教育を施された夕鈴は、嫌味に対しても落ち着いて対処することで怯まない姿勢を見せる。その一方で夕鈴はバイト妃という偽物前提の時代よりも、いつまでも本物として扱われない自分の身分や立場を感じてしまう。

そのフォローに来るのが陛下。仲睦まじい様子を見せることで、夕鈴を寵愛された大切な妃として格を上げさせる。

そこから李順は王女に対する対策として国王夫婦で対応するように方針を立てる。これは陛下と単独で交流して縁談を持ち込むような隙を与えないため。そして そのためのイチャラブは李順から公式解禁となる。さて どんなイチャラブが見られるのか。

「特別編1」…
正式な妃になる直前、夕鈴が張元から与えられた「夫婦の営み」についての本を読んで困惑する という話。

「特別編2」…
夕鈴を牢屋の中に入れている陛下の心中。陛下は夕鈴を閉じ込めることで少し安堵している自分が父親と似ていることに気づく。だから陛下は夕鈴を後宮から一度 出したのだけど、夕鈴との時間は思いがけないことの連続で やっぱり手放せないのである。