
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム(さばくのハレム)
第07巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
何者かに攫われたミーシェとハルカは砂漠の遊牧民・赤の部族の元にいた。一方のカルムは、ミーシェの無事を信じ事件解決に向け奔走する。だが、ジャルバラとカタートの関係は悪化し、戦争の危機……? ミーシェとカルムはジャルバラを救う事ができるのか!? 運命が大きく動く第7巻!
簡潔完結感想文
- 自分の不安や恐怖を優先するのではなく、大局的に物事を見る第三王子と その側妻。
- 2つの事件の人質を1つの場所に集める犯人側の お粗末さで2人は久々に再会する。
- 1話で側妻になったけど正妻になるまで性行為は封印か。何のためのハレムなのか…。
身分が気にならないほどの実績と人気を先に獲得する 7巻。
隣国との戦争間近という国際問題にまで発展しかねなかった今回の誘拐劇。その解決に一役買ったのが第三王子・カルムと その側妻(そばめ)・ミーシェ。以前の海賊編(『3巻』)が この国の西州、そして今回は北州と、南州を治める王子夫婦の活躍は全土に広がりつつある。そして その地方を統治する王子たちより目立った実績を上げることはカルムの国王になる夢の実現に近づくということなのだろう。本書は かなり早い段階から、ミーシェが正妻を目指すと同時にカルムが国王になろうとする物語だということが分かる。
つまりミーシェが正妻になる頃にはカルムは国王になっており、ミーシェは王妃にもなるということなのだろう。さすが男性側はトップ オブ トップにしか人権がない白泉社作品である。その世界の頂点にならなくてはヒーローになる資格がない。また どうやら世界の頂点になるまで性行為が許されないのも白泉社作品の特徴か。何度も誘拐されて、何度も心臓を掴まれるような恐怖を味わっても彼らの関係性は進まない。妙齢の一国の王子なのに現代高校生と変わらない基準が適用されているのが気になって仕方がない。
この全国行脚といえる各州への事件によって2人は実績と経験と人気を獲得していく。特にミーシェはカルムの庇護や援助なく一人で功績を上げたことは、実施中の正妻オーディションでの大きなアドバンテージになるだろう。ただコレルをはじめとした他の側妻には得点の機会すら与えられていない不自然な審査のような気がするけど…。


そして今回の遠出と その事件でミーシェは、カルムの最大の政敵といえる第一王子・メフライルの妻・ハルカと懇意になる。これは正妻オーディションの次に開催されるであろう(将来的な)王妃オーディションでのライバルとの遭遇といえる。しかし次の審査が開催される前からミーシェはハルカを骨抜きにして、ミーシェが王妃になる将来でハルカが不満や嫉妬を持たないような良好な関係性を構築している。本来あるはずの女同士の遺恨を残さないように設計されているのが本書である。国家間の火種を生まないように努める国際政治のように、ミーシェもまた最初から火種を排除している。争わずに勝つ。それが聖女ヒロインの素養であろう。
ミーシェの単独での胆力を描くために別離が義務付けられた夫婦だけど、その期間が余りにも長くならないように腐心した痕跡が見えるのが良かった。よくよく考えると そうなった要因は犯人側の杜撰な計画で、話に隙が多すぎる気もするけれど、杜撰だからこそ真犯人がメフライルではないと考えられることも含めて許容できる範囲になっている。
寿命が縮むほど心配したから距離を近づけ、距離を近づけ過ぎた反省から距離を置く。そういう揺れ動く2人の関係性が大きな事件を背景にして描かれているのが良かった。そして再読すると この事件もまた最後の事件の布石になっていることが分かる。今回、大人しくしていた人は いつか動くのだろう。
カルムは兄である第一王子・メフライルが国家間の紛争を招くために その妻を殺害したとは考えていない。そう思うのは信頼感からではなく兄の犯行にしては計画が杜撰だという私見。そしてカルムはミーシェ殺害という事実に到達する恐怖を乗り越えた上で、事態の収拾を最優先する。
まずカルムは妻たちの殺害とメフライルの陰謀を証言した臣下への尋問を行う。そこで彼が脅迫を受けて証言した事実を突き止めたカルムは、遠回りに見えてもミーシェの救出に最善の手段を取り続ける。
一方、誘拐・監禁された場所からの脱出に失敗するミーシェ。その上、誘拐実行犯である部族の者が、この一連の事件を企てた者によって誘拐されてしまう。彼らの狙いは第一王子の妻であり隣国の姫であるハルカの殺害。黒幕は どうしてもハルカに死んでほしいようだ。
誘拐劇の中の誘拐によって、部族内が一枚岩ないことが判明し、ミーシェはハルカの生存の可能性が高くなる道を選ぶために部族と取引する。ここでもミーシェの自己犠牲の精神が見える。本書における聖女は自分を危険に晒す勇気のある者のことなのか(カルムが泣くよ)。
それぞれにタイムリミットが設けられている中、それぞれに自分のすべきことを着々とこなす2人。遠く離れているけれど2人が同じ方向を向いているようで嬉しい。
実際に同じ方向に進んでいたようで、2人は思わぬ場面で再会を果たす。これは漫画的にも そろそろ2人が一緒にいる場面を作る必要性があったからなのだろうか。また戦力的にも訓練を受けているとはいえ実践経験の乏しいミーシェだけでなく、カルムという最強の戦力が協力することで救出を用意しにしている。それにしても真犯人側は2つの事件の人質を同じ場所に監禁することで共通の黒幕の存在を教えているようなものではないか。最初から やや間抜けに描かれているとはいえ お粗末である。
人質の救出後、カルムは さすがにミーシェを自分の手元に置こうとする。しかし自分がカルムに寄りかかることでハルカが今 捕らえられている部族内で疑念が生じる。だからミーシェは部族に戻ろうとするし、カルムに強引な手段を取らせないために部族側もミーシェを確保する。


束の間の再会になったが、ここから2人は自分の すべきことに専心する。
予想に反してミーシェが戻ったことで族長は感謝の意を示し、2人の解放を実行する。だが2人は独力で宮殿に帰らなければならない。雇われたとはいえ王族の誘拐犯が おいそれと宮殿に近づくことは出来ないのだ。ラクダで半日かかる行程を徒歩で歩こうとする妻たち。やがて満身創痍となり希望を失いかけるが、そこに族長の長男が現れる。彼が危険を冒すのは、同じように危険を冒して人質を無事に帰還させたミーシェへの恩に報いるため。ただミーシェがカルムのもとに帰らなかったのは、この長男の強制的な行動があったからではないか。完全にミーシェが仁義を通したと作品側がするのは いかがなものか(抵抗しなかったことに感心したらしいけど)。
北州の宮殿では第一・第三王子に加えて、王が病床の身である現在実質的な最高権力者である王妃が集合していた。ハルカの父親で隣国カタートの国王が帰国するタイムリミットが迫る中、関係者が一堂に会して真犯人が名指しされる。
犯人の特定に大いに役に立ったのがカルムの行動。脅迫されて証言されていた臣下の人質を奪還することで、今度は その臣下に犯人の犯行を証言させた。犯人の直属の部下も確保しているカルムだったが、犯人に切り返されて、二国間の疑心暗鬼は頂点に達する。
そこに無事の確認が重要なハルカをミーシェが連れ帰った上に、犯人に繋がる証拠を持ち帰っていた。こうして事態は解決する。カルムはミーシェが本当に無事であることを確認し、安堵もあって これまで以上に激しいキスで彼女を求める。
犯人の狙いは舞台となるジャルバラ王国の挟撃。カタートとアーレフの治めるアナトリヤ、ジャルバラと隣接する2つの国が手を組んでジャルバラの崩壊を画策したようだ。今回は未遂に終わったが、隣国は常に狙っているとジャルバラ国は警戒心を強める。
ミーシェは今回の事件で重要な役割を果たしたことで北州の国民にも人気を得て、王妃からも褒美が出るという。しかしミーシェは熱いキスを交わしたカルムが自分との距離を作っていることが気になる。国民的ヒロインになったからといって調子に乗らせないためなのか。
そんな2人の仲を縮めるのはメフライル。夫婦に距離があると感じた彼はドッキリを敢行する。お風呂での遭遇は何度目になるだろうか。同じネタは飽きるし、不自然なタオル巻きが気になって仕方がない。
こうして2人の距離が縮まるが、ドッキリの仕掛け人・メフライルの登場によって何も起きない。ハレムとか後宮とか言いながら健全すぎる関係性は続く。白泉社作品だもんね…。
「特別編」…
少女漫画においてヒロインは料理上手か下手かの二択しかない。ミーシェは後者。体育会系努力ヒロインだから楽器とか料理とかはダメにしてバランスを取っているのだろうか。
