《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

00年代前半まで許されていたエロ描写は止めたけど、作者好みのモラハラ男は つづけます。

今日、恋をはじめます(1) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
今日、恋をはじめます(きょう、こいをはじめます)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

妹の髪をかわいくしてあげるのが大好きなつばき。でも、自分にはオシャレなんて似合わない…。高校の入学式の日、最低最悪のロン毛男・京汰(きょうた)と隣の席になったつばき。ひどいコトを言われて、思わずハサミで京汰の髪を切っちゃった★「責任とって体で払え」って言われたけど、どーすればいいの!?

簡潔完結感想文

  • 自分の髪形の選択に口を出されたくないが、他者の髪形にはハサミを持ち出す。
  • 女性が絶望する寸前まで静観した後に助けてあげて自分をヒーローに演出する。
  • 自分の見たい映画しか見ない女と、自分の着せたい服しか許さない男のデート。

る意味で少女漫画の無法地帯は つづいている 1巻。

私の中で史上最低の少女漫画の一つだと思っている『レンアイ至上主義』と、性的暴行が合法な学校モノを作った『蜜×蜜ドロップス』の作者の、最長連載となった作品。
2000年代前半までは掲載誌少女コミック(現・Sho-Comi)」を中心に少女漫画は過激なエロ路線で読者を釣り上げていた。しかし やがて それが社会的に問題になり、エロ路線への視線は厳しくなる傾向になった。未読だが『蜜×蜜』と本書の間に発表した作品が3巻で終わったのは そういう風潮に負けた面もあっただろう。作者の路線変更は『1巻』の中でも見られ、後半の映画館デートでヒーローがヒロインの下半身を まさぐらないことで それは鮮明になった。既読の2作品だったら絶対に下着の中に手を入れるために映画館はあるのに、と ここで作者や雑誌が生まれ変わったことを実感した(苦笑)

早くも1話でヒロインに魅了される俺様ヒーロー。不器用な純情なら性的暴行OKが作者の倫理観。

そこから仕切り直しを求められ、起死回生を狙ってヒットさせたのが本書。エロが求められれば より過激な内容を、それが駄目なら何が世の中に求められているかを直感的に見抜くのが、賛否両論ありながらヒット作を連発する作者の嗅覚の鋭さだろう。
陰気な女性(≠地味)がヒロインであることが画期的だった椎名軽穂さん『君に届け』(2006年)に、00年代後半から流行の兆しを見せていた俺様ブームを乗っけたという感じか。更には既に大ヒットしていた講談社作品『ライフ』(未読)のようなイジメの描写も用意して売れる要素を逃さない。

中でも本書が発表された2007年以降に俺様ヒーローが少女漫画界で流行するのを見ると、本書のヒーロー像は確かに間違っていなかったと言える。この後に葉月かなえ さん『好きっていいなよ。』(2008年)、八田鮎子さん『オオカミ少女と黒王子』(2011年)など最悪の出会いから永遠の愛が生まれる作品が多く生まれる。またマキノさん『黒崎くんの言いなりになんてならない』(2014年)は1話でヒロインがヒーローの髪を いきなり切る、という展開が全く同じである。当時、この類似性は問題にならなかったのだろうか。プリキュアや特撮のようにリアル視聴者や読者は数年おきに入れ替わるから、その人たちが卒業すれば同じモチーフや展開もOKな業界なのだろうか…。


だし このヒーロー設定は作者が完全に狙ったかは怪しいところ。なぜなら作者の描くヒーローはエロを封印する前後で変わっていないからである。今回の連載にあたって作者は これまでに描いたことのないヒロイン像を模索したが、ヒーローの方は私が既読の2作品と何も変わっていない。私からして見ると完全にモラルが崩壊した自己中心的な人間なのだが、おそらく作者は俺様ヒーローになるような ちょっと不器用な愛情表現をしてしまう男性が好きなのだろう。これまでは不器用な自分を糊塗するためにエロに走って、女性の下半身に猥雑な行為を勝手にしていたのだが、そのエロ要素が封印されてしまったために、今回のヒーローはヒロインに対して小学生のようなイジメながら心を満たすという行為に走る。エロいシーンの有無という差はあれど、ヒーローの幼稚性は変わっていないというのが私の感想である。そして作者の作品世界では、なぜか こういう男がもてはやされる。美形で成績優秀であればモラルなど必要がない、という世界観は相変わらずで辟易とした。

そんなモラハラ男は2010年前後の少女漫画界では「俺様ヒーロー」として もてはやされ、どの作品も大ヒットを記録する。ただし俺様ヒーローの構造的な欠陥は出オチであること。その性格の悪さや、まさに俺様と言える根拠のない自信や高慢な態度がヒーローの売りなのだが、それがヒロインとの出会いを通して丸くなるのは定番で、段々と初期の勢いは失われていく。その意味で私は俺様は出オチだと思っているのだが、本書も基本的な展開は同じである。井の中の蛙だったヒーローが常識人になっていく様子を見るのは胸をなでおろす部分と それを つまらないと思う部分が混在している。
「俺様モノ」は出会いも恋愛の様子も似たように感じられてしまうため、取り敢えず絵の好みから1作選ぶのが良いかもしれない。その中では本書は最後まで良くも悪くも登場人物たちの自我が消えていない作品だと思う。男女ともに、急に聖人になってしまうのではなく、どこまでもワガママで、どこまでも面倒臭い性格をしている。

そして時代も進み、現在2024年になると女性側の意識改革も進み、俺様ヒーローは完全にモラハラと呼称されるものとなっている。『1巻』で描かれる初デートの様子もデートDVでしかない。特に2020年前後は溺愛系の流行もあって、こういう男性像は時代遅れに感じられるだろう。でも流行は長く続く訳ではないから、文化の流行のように30年ぐらいのサイクルで この時代のような男性がエモくなったりするのだろうか。確かに優しいとか美しいとか絵では表現できない部分よりも、多少 行動や性格が破綻していても派手な動きをしてくれた方が連載作品としては助かるのかな、と思う部分はある。ハラスメントに対する女性の意識の変化が本物かどうか、俺様ヒーローの復活の成否で分かるのかもしれない。

また、作者は この『1巻』の表紙を描き下ろせなかったことが悔いの残るものらしいが、私は今回の表紙が1番好きだ。失礼を承知で言うが、作者の絵のクドさが上手い具合に限定されていて、初恋っぽい淡い色合いで統一されている。これ以降の巻の表紙は色味が濃すぎて、人物と背景が混在していて絵が うるさい。表紙のサイズ感やレイアウトを一切 考えていないから題名と人物が被ってしまっていることも多い。ヒーローの性格の破綻も変わらないが、作者の隠しきれない自己愛も変わらないなぁと思うばかりであった。


ロインの日比野 つばき(ひびの つばき)は今日から高校生になる。しかし つばき は新天地での生活に夢見ることなく、高校デビューをせず これまでの自分を貫き通す。その理由は1つは自分が お洒落をするのが似合わないと思っているからで、もう1つは自分の進学先が望んだ学校ではなかったから。志望校での受験に失敗した つばき は すべり止めの高校に進学を余儀なくされ、その学校でも入試結果が1位ではないことを母親に嫌味を言われる。だから彼女は校則違反をせず、少しでも親の望む自分でいられるように真面目さを支えにする。

この毒親によって つばき は まるでシンデレラのように耐える女性であるかのように見えるが、つばき もまた母親同様、周囲への軽蔑を胸に生きているから困ったものである。序盤の彼女の思考が偏っているのは、母親の影響と見るべきなのだろう。枠に はまっていれば誰からも非難されない安全圏にいられる。それはいいのだが、その枠を超えた人々に対して見た目で判断して、その人に負けたくないと心に誓っているのが痛々しい。
そして自分の理想は外見で判断しない男、なのに、自分は外見だけで判断している。そういう矛盾に気づかないのが つばき の視野の狭いところで、この凝り固まった考えが少しずつ柔らかくなっていけば良かったのだが、どうも最後まで つばき の自分だけが正しいという姿勢は変わらなかったのが残念。作者には学校生活を もうちょっと広い視点で描いて欲しかった。エロを封印しても結局メインの2人の恋愛と関係しか描けないのは作者の弱みではないか。

親に洗脳されていることも気づかない人が、今度は男性に洗脳されていく という悲しい本質。

んな性格に難がある つばき が目の敵にするのがヒーロー・椿 京汰(つばき きょうた)である。彼は つばき が母親から望まれていた入試トップの人。だが そんな京汰が長髪であることが つばき に生理的嫌悪をもたらす。
そんな苦手意識もあって、妹の髪型を毎朝セットしてあげることが幸せ☆なんてヒロインっぽい思考ながら、隣の席となった京汰が筆記用具を欲しても お気に入りのペンは貸してあげない。そして相手に対して卑下する気持ちで鉛筆を持ち出し、それを笑われたら つばき は機嫌が悪くなる。この時点では京汰に非が全くなく、失礼な思考と態度をしているのは つばき である。地味というよりも単純に性格が悪く、彼女は母親によく似ており、だからこそ最後まで好きになれない。

京汰に関しては、作者が理想としている素直になれない男性を具現化したものだろう。これまでのヒーローはヒロインへの愛を愛撫に変換して不器用な恋心を伝えていたが、今回はエロが封印されているため、小学生男子みたいにイジめて快楽を得ている。

どっちもどっちの性格をしていて、この時点で割れ鍋に綴じ蓋カップルではあるが、京汰の嫌らがせに つばき はハサミを取り出して、自分が嫌いな彼の長髪をザックリと切る。完全に傷害事件である。

その蛮行に京汰は つばき を校舎裏に連れ出し、法律を持ち出して脅迫し、金銭か性的行為での補填を要求する。刑務所に入るとか発想が中学生レベルだが、つい先日まで中学生だったから仕方がないか。
その脅迫に対して つばき は京汰を逆に誘惑して、彼を誘導し、大人しく座らせ更に髪を切る(まだ長いが)。髪に関わることは つばき に幸福感を与えるらしく、この時の つばき は弱気や内気を克服して、京汰とも対等に話せている。そんな自然体の つばき の素顔に触れて京汰は一層 彼女に惹かれ、少女漫画恒例の1話でのキスをお見舞いする。これで君も性的暴行の罪に問われるでしょう。

京汰がダッサイ捨て台詞を吐いて1話は終わる。


日から京汰は つばき に狙いを定める。それは彼が単独で つばき に嫌がらせという名の幼稚な愛情表現をすることを意味しており、彼は周囲の女性たちに つばき に手を出すことを許さない。そして京汰は つばき の初日に京汰が奪ったリボンの返却要求は呑まないが、つばき を自分の女にすると宣言。

この学校では6月に学園祭があるために入学直後から準備が始まる。つばき は京汰ファンの女性からの嫌がらせで学園祭実行委員に推薦されてしまう。つばき は入学初日にハサミを振り回したことで早くもクラスメイトたちから浮いており、彼女とペアを組みたい人間は誰もいない。

そんな時に つばき を助けるのはヒーローである京汰。つばき が困ってから ようやく助けるのが京汰という人間で、性格が破綻している部分である。彼は つばき に恩を売ることで彼女の心を縛ろうとして、自分の協力の対価にデートを約束させようとする。しかし つばき は京汰の協力を必要ないと独力で頑張る。

だが治安の悪い学校の生徒たちを つばき が一人でまとめ上げるのは無理。なかなか決まらない学園祭の出し物に つばき が苛立ち非協力的なクラスメイトを見下す発言をして八方塞がり。それに反感を覚えた女子生徒たちが つばき の おさげ髪を切り落とそうとするが、そのピンチに京汰がストップをかける。そして京汰の鶴の一声で出し物は決定され、京汰はデートの権利を獲得する。この時点ではタイトルは完全に『椿くんの言いなりになんてならない』である。


園祭の方向性は決まったものの、クラスメイトは好き勝手に意見を出すばかり。今度こそ京汰の協力なしではクラスがまとまらないことを認めたくなくて つばき は一人で奮闘する。だが頭の固い つばき が はじき出した経費は度を越しており、クラスメイトは反発。彼らは つばき が自分のメンツのために動いていることも見抜いていた。
そうして追い詰められた つばき は京汰に縋る。彼にデートを申し込み、間接的に協力を仰ぐ。ピンチになるまで手を差し伸べない人に精神的に支配・調教される話なのだろう。こんな人を優しいと思うこと自体が洗脳の始まりである。

しかし京汰の一声でクラスメイトは動き始める。つばき は そんな京汰を尊敬し始めるが、それもまた つばき の視野が狭いからのような気がしてならない。同じ委員なのに責任を つばき に押しつけ、最後に助けるだけなのに。
そして最後まで京汰のリーダシップに頼り切って学園祭の準備が整う。しかし尊敬し始め、少しずつ意識した京汰の行動は全て遊びであることが判明し、つばき は少なからずショックを受ける。


して始まる学園祭。つばき は京汰に命じられるまま浴衣の着付けを覚え、クラスメイトの髪型をアレンジしていく。こうして つばき は奮闘が認められクラス内で一定の評価を得るのだが、この後 特にクラスメイトと交流するような場面は設けられていない。作者は特定の人物しか動かせないのだろう。恋愛だけじゃなく青春をして、彼女に成績だけでは測れない人との交流の楽しさを味わってほしかった。

そんな つばき の活き活きとした様子に男子生徒も彼女への評価を改めるが、それを察知した京汰は彼らが つばき に好意を持たないように仕向ける。本気じゃないと言いながら、本気になっているのが京汰である。

学園祭には つばき の妹・さくら が来訪。明るく美人な さくら は学校内でモテモテ。そして彼女の恋愛アンテナは京汰に敏感に反応し、彼へのアタックを始める。これ以後、さくら は つばき の仮想敵として設定される。最初のライバルが身内なのは、この段階では つばき が この学校の生徒たちを見下す気持ちが否定できないからか。


園祭は無事に終わり、遂に京汰とのデートの約束が果たされる。
最悪だ、と言いながらも つばき は初めてのデートの服装に悩む。結局、デートだが いつもの自分でい続け、映画の選択でも決して譲らない。文句を言いつつも京汰が簡単に折れるところを見ると、2人は こうやって婦唱夫随で進むのではないか。

印象的なのは映画館で つばき に性的な いたずら をしようとして京汰が踏みとどまるシーン。作品的には京汰が つばき のダサいTシャツを見て、その気が無くなったという場面だが、これは これまでの作品との決別を意味しているシーンに思えた。これまでなら この場面では絶対に愛撫が始まっていた。しかし その妄想をするだけでしない、というのが作風の変化を如実に表していた。

Tシャツの おじさんが性欲の邪魔ならば それを脱がすまで。自分の欲望優先のバカ男。

だが京汰は性的な行動が取れなかった恨みを つばき の服装にぶつけ、炭酸飲料を彼女の頭の上からかけて、服装を一新させる。京汰が選び、彼が買い与えた服で変身した つばき はシンデレラ。そこから2人は まるで普通のカップルのように一日を過ごす。つばき は自分の見たい映画を見るし、京汰は自分の理想の姿にさせようとする。我が強い2人だなぁ…。ってか、炭酸飲料を頭から かけられた時点で つばき は帰るべきなのに、そこから服を着替える展開になるのは不自然すぎる。

その後、誰もいないダーツ場で京汰は肉体的接触を試みる。彼女にキスをし、舌を挿入し、身体をまさぐる。押し倒された つばき は京汰に褒められるままに抵抗を止めるが、心までは譲らない。そして彼が自分を夢中にさせて捨てるつもりだと その目的まで きちんと見抜く。洋服代も返し、貸し借りがない状態に戻し、つばき は この恋愛をリセットさせようとする。

だが つばき は帰宅後、京汰が選んだ服を妹が着たいと言っても譲らないし、京汰は学校の先輩が つばき に近づくことを全力で阻止する。素直になれない2人だが、自分の中の気持ちに気づき始めたところで1巻は終わる。印象的な出会いは演出しているものの、えっ、どこで相手を好きになったの!? と意味が分からないのが俺様モノの定番である。上述の俺様モノ作品は全て映像化されたが、この手のヒーローを演じるのは難しそうだなぁと若手俳優の苦労が しのばれる。ある意味、サイコパスと同じぐらい思考がトレース出来なくて、演技の取っ掛かりがない。