《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

君の良さをクラスメイトに届ける俺の好意は、君にはうまく届かない。

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椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第1巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

陰気な見た目のせいで怖がられたり謝られたりしちゃう爽子。爽子に分けへだてなく接してくれる風早に憧れている。風早の言葉をきっかけに変わっていけるみたい…。夏休み前、爽子は肝試しでお化け役をやることに!?

簡潔完結感想文

  • 主人公の爽子は見た目こそ陰気に見えるが実は前向きな人で好きになる。
  • 爽やか男子・風早は爽子の一番のセールスマン。爽子の良さは皆に届く。
  • クラスメイトの輪が広がる描写で涙が出そう。爽子の努力の賜物です。


言わずもがなの平成少女漫画の金字塔。

ちょっと陰気な風貌のため周囲から誤解されて「貞子」の呼び名で敬遠されてしまう黒沼爽子にも、学校有数の爽やか男子・風早翔太だけは分け隔てなく何かと話しかけてくれる。
彼の存在は爽子の学校生活を、彼女の意識を少しずつ変えていく…。

本書は読みきり短編から始まって長期連載化した作品。
しかも作者の裏話によれば読みきりが好評につき連載化した訳では全くなく、新連載用のネタが決まらなかったために読みきりを延長したらしい。
これがまさか大ベストセラーになって全30巻の作品になろうとは人生って不思議なものですね。

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爽子と風早 の 初登場シーン この落差。
基本は、陰気に見える女の子・爽子と「爽やかから出来てますって感じ」の男子・風早の恋物語だ。
類似作品は後にも先にも色々あるだろうけれど、本書の美点は爽子が実は暗いわけじゃない前向きな人物だという設定の絶妙な塩梅があって、その上で作者が情を描くことに秀でているところだと思う。

序盤はクラスメイト達の爽子をあからさまに避ける描写が目立つ。
読み返すとなかなか過酷な状況だが爽子はそこに傷つく描写はほとんどない。
爽子が挨拶して逃げていく人たちにもタイミングが悪かったとか、上手く言えなかったとか自分の反省ばかりして今後の精度の向上を誓う
。そこに落ち込みなどのマイナスな感情はない。

実は爽子にはクラスの人気者・風早にも負けないぐらい前向きさが備わっており、そこに気づいた風早が彼女の良さをクラスメイトにセールスするというのが基本的な構成。
人気者の威を借りて「キャラ変」したとか、恋が爽子の全てを一変させたとかの大きな変化ではなく、そのままの爽子が段々人に受け入れられていく様子が読み所だろう。
風早が爽子を変えたのではない。
彼は爽子の魅力に一番に気づいただけなのだ。

もちろん風早側は好意に因るものという意識があるが。
爽子側の好意は読みきり時にそう読み取れるような描写があるものの、連載時には上手くリセットされて明確な好意としては扱われていない。
どうやら1巻の時点では風早の親切に対しての尊敬に近い感情らしい。


「episode0.」として収録の読みきり短編は単体でも素晴らしい出来。
目を合わせると呪われるジンクスを上手に使って風早の気持ちを表してる。
爽子の気持ちの面では本編開始の1話目よりも少し踏み込んでいる。
後の解釈は違うがこの短編での「惹かれた」は間違いなく好意でしょうね。
肝試し後にクラスメイトの面前で冷やかされる爽子が風早のために自分の気持ちを正直に淀みなく喋る姿勢にこちらも惹かれる思いだ。
彼女の誠実さと賢さがよく表れていると思う。
そして最後の場面が2人が最初に出会った場所というのもベタだけどグッとくる。
風早にとって印象深い場所なんでしょうね。

主要な登場人物の設定に変化はなく容貌も固まっている。
矢野と吉田もここからの登場人物。彼女たちも容貌や性格が変わっていないのが凄い。
初期メンバーとしては龍とピン、くるみは登場してません。
この後に本編に登場したかも定かではない小・中学校が同じ幼なじみが登場してますね。
読みきり短編の風早は連載化の風早に移行する際に夏休みに黒沼に会えるチャンスを消失したようです。
短編の風早は夏休みにはもう恋人との思い出がたくさん出来ていたはずなのに連載に振り回されて可哀想だ…。


私が好きなのはやはりクラスメイトの爽子へ手が差し伸べられるシーンや誤解が解けていくシーン。
クラスメイトに結構な事を聞こえよがしに言われて爽子も珍しく傷つく席替えのシーンは特に印象的。

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席替えにより黒沼シフト完成 キミのとなりで青春中。
ここでも助けてくれるのは風早で、爽子への好意だけじゃない誤解を恐れない行動力に読者もまた彼に惹かれること請け合いだ。
主要な登場人物が爽子を囲む便利な席順と共に彼らの優しさが胸にしみる。
その後、風早以外にも爽子の影の努力を気付いた人(平野・遠藤)が表れ、彼女を手助けするシーンはその前の爽子の誤解も相俟って感動を覚えるシーン。

またテスト前の自習シーンも大好き。
1巻を通じて仲良くなった面々、まず風早が口火を切って、それに矢野と吉田が反応して、その後、平野と遠藤が入ったところでクラスメイトの警戒感がグッと下がっていく。
そんなクラスの騒ぎに乗じることのない飽くまでマイペースで、だからこそ黒沼に偏見もなさそうな龍も気になるところ。

ちなみに自分の中の脳内人物に勉強を教えるという爽子の勉強法は本当に学習効率が良いんですよね。
脳内の対話によって自分の不明確な点が浮き彫りになるらしい。

君に届け 1 (マーガレットコミックス)

君に届け 1 (マーガレットコミックス)

  • 作者:椎名 軽穂
  • 発売日: 2006/05/25
  • メディア: コミック