《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

この漫画のこと好き?と聞かれても正直、好きって いえないよ。

好きっていいなよ。(1) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

16年間、彼氏も友達も作らずに生きてきて、周りからは暗いやつと思われてる、橘(たちばな)めい。ある日、ひょんな誤解から学校一のモテ男・黒沢大和(くろさわやまと)にケガをさせてしまうが、なぜか大和はめいを気に入って一方的に友達宣言、むりやりケータイ番号を押しつける。めいがストーカーにつきまとわれた時、呼んだらすぐにきてくれた大和は、めいを守るためとキスまでしてきて……!? 大人気、リアル初恋ストーリー!!

簡潔完結感想文

  • 主人公。蹴り一つで興味を惹かせ、キス一つで恋に落ちる。堅牢で脆弱な人。早くも没個性化してる…?
  • ヒーロー。キス魔。女性が弱っている時に近づいてくる悪い男 疑惑あり。どこを好きになればいいの⁉
  • 群像劇。2週間で別れそうなカップルの話を読ませられるよ☆ でも作者の寵愛を受け、恋愛フォーエバー。

達は いらないけど、恋人ができて、結果 友達もできる「わらしべ長者」の 1巻。

まずは総評から。
フツー。

決して酷評するような作品ではないが、
正直、私の心には一本の矢も刺さらなかった作品です。

私は小説や少年漫画など、売れている作品をちゃんと面白いと思うのですが、
殊(こと)、少女漫画に関しては それが当てはまらない。

出版社によると本書の累計発行部数は950万部に達するという。

2020年で私が読んだ37作品中の「ベスト10」の中で、
本書より売れた漫画は、『君に届け』の3300万部(!)ぐらいだろうか。

本当、少女漫画に関しては売れる作品と そうでない作品の違いが分かりません。

私の中で似た印象を受けた『オオカミ少女と黒王子』『L・DK』と近い売れ方なのかな、と思います。

本書を含めた3作品の共通点としては、学校一のイケメンと急接近して、
学校で地味な存在の自分を選んでくれて、そして末永く幸せになる、という点が挙げられるか。

友達のいない主人公をイケメンが掬い上げてくれる内容は『君に届け』に似ています。
本書の序盤は『君に届け』を10倍速にして、10倍 下品にした感じです…。

君に届け』の連載開始が2006年、本書が2008年、
L・DK』が2009年、『オオカミ少女と黒王子』が2011年、
2000年代後半の少女たちが求めるヒーロー像に、
本書の黒沢 大和(くろさわ やまと)が上手くマッチしたのだろうか…?

ちなみに『君に届け』以外の3作品は、
どんどんと主人公カップルの個性や棘(とげ)が抜けていく展開も類似性を感じる。

当初の元カノ問題やら遊び人設定はどこへやら、ヒーローは聖人化して純愛物語に路線変更します。

女性側は一人の男性によって掬い上げられる、
男性側は一人の女性によって真実の愛に目覚める、

そういうデフォルト展開まで含めて、読者層に受けているのだろうか。

繰り返しになりますが、フツーです。


人公カップルが没個性化するのは、早くも『1巻』から見受けられる。

まずは主人公の橘 めい(たちばな めい)。
彼氏いない歴 っていうか 友達いない歴16年」という彼女。

少しでも信頼して手酷い目を見るぐらいなら、
「友達はいらない、いても自分が傷つくだけ。自分には不必要なものだって気づいたんだ」
と、排他的になることで自己保身をしているような女の子。

だが ある日、自分に嫌がらせをする男子生徒に制裁を加えようとしたら、
別の男子生徒・黒沢 大和を怪我させてしまう。

そんな黒沢は なぜか めい に興味を持ったようで、何かと話しかけてくる。
彼からケータイ電話の番号を渡されるが、めい は一切 掛ける気がなかった。
だが、バイト先からの帰路で男に付きまとわれた時、唯一 知っている他人の番号は黒沢だけで…。


当初は短期連載だったのかと思うほど展開が早い。
そして早すぎてついていけない部分もある。

それが、2人の心情が移りゆく経緯。

なぜ、頑なだった めい の心が、いとも簡単にほぐれたのか、
どうして排他的な めい が大和だけには執着を見せるのかなど、
物語の核となるような部分が、いまいち見えてこない。

めい の16年間を考えれば、もっと彼女の精神は閉ざされているはず。

私の予想では、その強固な意志を、大和が何か月に亘って変化させていく、
という内容なのかと思ったら、恋愛問題の心理的葛藤はキス一つで全て乗り越えてしまった。


というか、スカートを引っ張られただけで回し蹴りをした女性が、
合意も無しにキスをされても赤面するだけ、という展開が矛盾している。

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女子生徒のスカートを引っ張って楽しむような精神年齢の人たちの恋愛群像劇。最終巻ではみんな良い人!

子供じみた嫌がらせには暴力をもって反論するという めい の信念は、
大和の無配慮で強引なキスによって呆気なく瓦解してしまった。

信念を持った人間が、ただの「女」になった瞬間を見た気がして、
そして、それを肯定するような作品の構成に、ただただ落胆するだけである。


めい は人間不信だが恋愛に のぼせちゃうタイプなのだろうか?
これまで適度にモテを経験してこなかった女性が、
ホストなど悪い男に騙されるパターンと酷似していて、
大和という人に対して身構えてしまった。

結局、大和も謎の聖人化をするので、悪い人では決してないのだが、
あまりにも予定調和の流れの中で、めい の個性が早々に消えていくのは残念に思う。


まぁ、友達がいらない という言葉は、めい の虚勢だった、という解釈もできます。

自己保身のための自己欺瞞
今回、大和に改めて手を差し伸べられると、
自分が思っている以上に人恋しかったのだと思い知らされたのかも。

そんな描写ありませんが…。

というか めい は人を見る目があるようで、その人そのものを見てなかったタイプかもしれない。
全てをネガティブに捉えていた彼女が、大和が味方になることで、物の見方が変わったのだろう。

もちろん大和という触媒が彼女の心を変質させた、という事実もあるが、
めい の視座が変わることで否定が肯定になっていく方が大きいように思う。

どちらかというと大和は人と人を結ぶコネなんですよね。


んなヒーローの大和。

デザイン的には頭を盛った当て馬キャラっぽい。
だから当初は信用が置けない人に映った。

そのうち手酷く めい を裏切りそうな気がしてならなかった。

大和のキャラは「学校一モテる男」。

この陳腐な形容が、大和のすべてなような気がする。

作者は読者に大和の何が良いのかさっぱり教えてくれない。
女性からモテる、学校一モテる、という言葉で彼の価値を高めているだけ。

大和が めい の何に興味を持ったのか、
どこが他の人と違うと感じているのかが、いまいち分からない。

一番の謎は、大和の男友達が めい に体当たりして怪我をさせても謝らないのに、
2回目の嫌がらせで、めい が誤って大和を怪我させた時は、なぜか大和から謝罪に行く展開。

この差は何?

1回目の体当たりでは無表情で物事を静観しているだけの大和。
この時点で、彼は聖人君子ではなくなった。

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友人の体当たりを謝罪もなく静観しているヒーロー・大和。この時点で私の興味はゼロ。

で、2回目では謎の謝罪。
これは 誤解で大和を怪我させた めい の罪悪感を利用しようとしているように思える。

少なくとも1回目よりは相手の話を聞く責任が生じた めい。
そこで大和は優位の立場から話を一方的に進め、ケータイ電話の番号を渡すことに成功している。

何だか、めい が窮地に陥るのを待って、救いの手を差し伸べている気さえ してくる。

まさか、あのバイト帰りのストーカーも大和の差し金⁉
と思うほど、この2回の暴力沙汰での対応の違いに大和が策士なのではないか、と疑ってしまう。


また、大和のモテ設定の補完材料なのか、
「ウワサでは うちの学校の ほぼ全員の女の子とキスはした」という風説も よく分からない。

大和 曰く ウワサはウワサらしいが、そのような描写も結構ある。
この行動についての理由は一切ない。

当初は基本パリピで、軽薄な感じのする大和だが、
どんどん めい に一途になっていき、聖人化して、そして個性が死ぬ。

めい の項でも書いたが、どうして好きになったのか、
もう少し詳細なエピソードを積み重ねて欲しかった。
作者の設定したゴールに駆け足で滑り込んでいる感じが否めない。

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役得に乗じて本当にキスをしてしまう大和。女性側に配慮の出来ないダメ男…⁉

い を主人公に据えているものの、本書は群像劇だと私は思う。

その証拠に、3話目から早くも次の登場人物たちの模様がお送りされている。

縦軸としては主人公カップルたちがいるが、
次々に違う人に焦点が当てられている。

中には、もはや違うジャンルの漫画なんじゃないかと思う回もあった(特に中盤~終盤)。

そして、女性登場人物の ほぼ全員が大和を好きになる精神的姉妹なのも気になる。

だから当初は めい に反発したりもするのだが、
いつの間にか仲良しワールドの一員となっていく。その繰り返し。

また、作者がこの人とこの人はカップル、と決めたカップルは別れないし、
そうでなければ、すぐに別れる運命なのも気になる。

高校生活の間はともかく、だいぶ時間が経過する最終巻までそうなのは ちょっと疑問。
仲間内では誰も彼も別れないで、高校時代に本物の愛を見つけたのでした、というのは お花畑が過ぎる。

イジメの描写だけはリアリティ満点で、愛する登場人物たちは不幸にさせないという頑固さが見える。

こういう作者が考える、清浄な脳内ワールドを押し付けられている感じが拭えない。

特に各 巻末の「あとがき」を読んで、あぁこういう作家さんなんだなと納得した。

作品の解説と自分語りが長い。
漫画という手段で自分の過去を清算してないかい?と思ってしまう。

同様に、作品と作者の距離が近すぎる。
作品で描こうと思ったことを、わざわざ再度 文章化しなくてもいいのに…。



そして、この学校、治安が悪い。
あまり勉学に力を入れている学校ではなさそうだ(間接的表現)。

肉食女子 多め。
ホント、嫌な女性を描かせたら天下一品なのではないか。

あとは個人的には顔の描き方に、別の作家さんの模倣を感じた。