《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

いよいよ性描写が解禁されましたが、過去作と違って性暴力では絶対にありません。

今日、恋をはじめます(9) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
今日、恋をはじめます(きょう、こいをはじめます)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「昭和女」と学校一のモテ男。最悪な出会いの2人が、生まれて初めての「恋」を知って変わっていく――。女子からの絶大な人気を誇るリアル少女漫画決定版!!
修学旅行で沖縄の波照間島を訪れたつばきと京汰。しかし、京汰が南十字星を見るために島に残ると言いだし、止めようとしたつばきも一緒に島に取り残されてしまった!2人で迎える、初めての夜が始まる――。

簡潔完結感想文

  • 安定の巻を跨いでの「するする詐欺」だが 性行為の解禁条件が変更される。
  • 羞恥心で拒絶していたら遠距離恋愛状態。会えない時間が心の準備を整える。
  • ヒーローも作者も女性側に最終確認をすることで生まれ変わった自分を示す。

1巻かけて 丁寧にヒロインの緊張する心を ほぐしていく 9巻。

冒頭は安定の「するする詐欺」で性関係の話で読者の興味を引く あくどい戦法かと思ったが、この『9巻』の内に2人は性行為を完遂する。展開は予想外に早かったが、それが性急だとは思われないように作者は配慮している。

本書の連載における作者の目的は過激な性描写の封印。これまで二度 ヒロインの つばき は恋人ではない男性から性暴力を受けそうになるが、どちらも未遂に終わっている。といっても身体を触られており恐怖心を覚えたので性暴力だと認定される可能性は高いが、これまでの作者ならヒロインの下半身に男の手が伸びていたと思われる場面なのに、その遥か手前で行為を終えている。

だからといって作者は性描写そのものを封印している訳ではない。愛する者同士が互いの身体を求め合うのは自然なことだという考えで、本書でも性行為を描いている。
ただし そこで絶対に間違ってはいけないのはヒロインが俺様彼氏の言いなりになって性行為に及んでいると思われてはいけない ということ。だから作者は つばき に一つ一つ段階を踏ませ、そして身体の反応と心の反応の違いなどに直面した つばき の戸惑いを完全に払拭させてから行為に進んでいる。

さらに その日に性行為をすると決めたのも つばき自身である。これもまた男に流されるまま決意が固まらないのに嫌われたくないから恐怖や緊張に耐えて行為に及ぶという印象を消すためだろう。この日、ヒーロー・京汰(きょうた)は つばき と普通のデートをする心づもりで、彼の方に前のめりな性欲は無かった。純粋に夏の最後の思い出として つばき と花火を見たいと思っていた京汰に、つばき の方から彼の部屋に行きたいと提案し、性行為への第一歩としている。
この日は つばき にとっても予想外の京汰との再会で、下着などの事前準備が整っていなかったのだが、そんな彼女の悔いや恥を残さないために、京汰は彼女の下着姿を見ないように配慮する。最初から つばき に服を脱いでもらって、彼女の準備が整ったところで一緒の部屋で行為を始める。これも つばき が見られたくない下着を京汰が見て、それを脱がしていくという辱めを受けさせないためだろう。「見ないで」とか「やめて」などという不同意と取られかねない言葉を言わせないために完璧な手順が踏まれている。ここが水波作品らしからぬ部分で、作者が本当に過激な性描写と決別したことを示している。
この回の雑誌掲載は2010年だが、性暴力に関する法律や倫理観が大きく変わった2024年現在から見ても問題が無いように思う。というか今回の京汰のように完全に相手側の同意があっての行動ということを示さないと、後々に訴えられかねないような社会状況が続くと、少女漫画内の性行為も同意を確認するようになっていくのだろうか…。

本人が望まないことは絶対にしない。それが京汰と作者の性描写の誓い(京汰の性格は別問題)

このように作者は2000年代までの自分の作風に厳しい視線が注がれていることを よく分かった上で、細心の注意を払って本書での性描写に挑んでいることが分かった。ただ気になるのはヒロイン・つばき のこと。彼女が羞恥を越えて、そして遠距離恋愛状態を経験したことで京汰との性行為に及んでいるのは分かるが、この日を選んだのが つばき の頭でっかちの結果のように思えてならないのが残念だ。京汰にとって予想外の日に行為に及ぶことで つばき の前のめり感が鮮明になっているが、つばき は この日と決めて(正確には その前日なのだが)、ムードや京汰側の気持ちは一切 考慮することなく、「したい」ではなく「しなくてはならない」という勝手な義務感や焦燥感が生じているように見えてしまう。マニュアル人間の つばき らしいのだが、2人の愛情が最高潮になった という印象は皆無なのが残念だった。これでは京汰の方が性行為におけるマシーンのようではないか…。


学旅行で訪れた離島・波照間島で天体観測のために この島で夜を越すという京汰。つばき は それに反対するが京汰の説得中に船が出てしまい、2人は島で一夜を過ごすことになる。朝一の船で合流すれば バレないだろうというのが京汰の計画。修学旅行中の2人きりでの お泊り回という入れ子構造が面白い。

つばき は肉体関係を意識し過ぎて空回り。自分だけドキドキしていると思っているが、実は京汰も平常心を保つので精一杯。そして2人で同じ星空を見て、流れ星に感動する つばき に京汰の理性は飛んでしまう。そんな京汰を つばき は受け入れ、2人は部屋に戻る。

いよいよ、と思いきや結果的には今回も「するする詐欺」に終わる。理由はコンドームが無かったから。京汰は つばき にそれがないこと指摘され、それを理由に行為を中断するが、つばき の頭の片隅が冷静でなければ京汰は完遂していた。でも彼にとって嬉しいのは つばき が頭でっかちに性行為を拒むのではなく、その先の関係を受け入れた中での拒絶だったことあろう。

間違いなく「するする詐欺」なのだけれど、これは きちんと段階を踏んでいるとも言える。1話でのキスは性暴力だが、その後のキスは優しさに溢れ、そこからディープキスへと発展していった。そして その後も性行為に一気に進むのではなく、露出した肌と肌を重ねる感覚や、今回のように裸を見せ合ったり、愛撫されたりというのも一歩ずつ進む関係を描こうという作者の意思が見える。

これまでの作品なら あっという間に下半身を まさぐられていたところだろう。そして これまでのヒーローは いついかなる時もコンドームを持参しているという意味不明なルールがあったから、こういう場でもポケットや財布・荷物の中から取り出したことだろう。つばき は京汰がこれまでのヒーローとは違う種類の人間であることに感謝した方が良い。ここで彼がコンドームを取り出したら中途半端な覚悟や羞恥心が勝ったまま行為に及ぶことになったかもしれない。そして京汰がコンドームを用意してなかったのは、彼の中で本当に この島で つばき と一晩 過ごすことが予想外で、頭の中を性欲に支配されていないという証明にもなるだろう。

そして翌朝に無事に他生徒たちと合流し修学旅行は終わる。わざわざ取材旅行に行った割には短い。何なら学園祭のエピソードの方が長いのではないか。2人の距離が縮まり、いよいよ性行為まで あと一歩というエピソードとして修学旅行が使われる。学校の一大イベントを前座として使ってしまう贅沢さである。


ばき に性行為への覚悟が出来たのかと思ったら、自分のコントロールを失う感覚が嫌で、拒絶の日々が続く。性行為を巡る攻防は以前も読んだけど…。
ただし今回は深歩(みほ)を先生として つばき は自分の性行為への不安や羞恥を洗いざらい話す。こうすることで自分だけの感覚じゃないことが分かり、性行為に お互いの愛を確かめる意味もあることが分かってくる。肉体的な面だけじゃなく精神的な面でも つばき に少しずつ覚悟が芽生えることを描いている。

久々に深歩が親友役している場面。ただ妹と代替可能で、名ばかりの親友感が拭えない。

だが決意を固めて京汰を花火大会に誘った つばき だったが、彼は夏休み中にアメリカ旅行に行くという。急な報告に つばき は会えなくて寂しいのが自分だけだと思い、勝手をする京汰に対して冷たく接してしまい、そのまま離れ離れになる。相変わらず自分ばっかりで可愛くない人間である。

京汰と行きたかった花火大会には深歩と行くが、深歩が彼氏と合流してしまい、つばき は孤独になる。落ち込んでいたら救われるのがヒロインで、とぼとぼ歩く道すがら、京汰から予想外の連絡が来る。そして京汰の方も会いたい気持ちを抱えていることを知り、つばき は自分の中の愛おしさを表現する方法に思い当たる。


こからの1か月、つばき は京汰の無事を祈りながら過ごす。そして つばき は京汰の帰国する日に自分の全てを彼に捧げようと準備を整える。だが本来の帰国予定日の前日に京汰は飛行機に乗ったことが判明し、その飛行機が事故に遭ったかもしれないと連絡が入り頭が真っ白になる。出発前の彼に悪態をついた自分を呪い、少しでも彼に近づこうと空港へ向かおうとする。しかし そんなパニックの中に京汰は現れる。

彼が早く帰ってきたのは行けなかった花火を別の場所で見るためだった。しかし つばき は自分の決意を彼に伝え、2人は京汰の家に向かうのだった。えー、京汰は花火大会のために帰って来たんだから行くことに前向きになれよ、と思ってしまう。これでは愛情を確かめるというよりも自分の決めたスケジュール通りに動きたいだけに見えてしまう。融通が利かない つばきっぽいが、またも京汰のことを考えていないエピソードに思える。

しかも自分でコンドームが用意できなかったことを知ると、笑って誤魔化して花火大会へと目的を勝手に切り替えようとする。相変わらず自分の思い通りに物事が進むと思っている感じが嫌だ。

京汰は そんな つばき を問い詰め、彼女の計画の失敗と性行為に前のめりな理由を聞き出す。つばき は今、目の前にいる京汰に自分の気持ちも身体も さらけ出すことで後悔のない人生を選ぼうとしている。それを聞いた京汰は彼女をベッドに運び、自分の部屋の中の買い置きしてある(大量の)コンドームを見せる。そして京汰は つばき が気にしている準備していない服装や下着を彼女に脱がせ、少しの後悔もない体験を心掛ける。しかし この大量のコンドーム、この1年間は使用していないんでしょうけど、それ以前の京汰の派手な性体験や この部屋でも それがされていたとか つばき の心を折るような品である…。

行為の最中で、彼がコンドームを装着したことと間接的に描いたところで、もう一度 つばき の決意を確かめるのも京汰の優しさと同意の最終確認だろう。そんな京汰が自分を大切にしてくれる気持ちに触れた つばき には怖いことは何もない。

行為を終えてから京汰はアメリカで購入した品を つばき に渡す。選んだのはブレスレットで8月末の彼女の誕生日に合わせて それを贈る。京汰は自分の彼女を縛るような品を贈ったのは初めてだと言う。彼にとって何もかもが初めてではなくても、つばき は京汰にとって たった一人の大切な人なのである。