《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

早くもヒロインの身の安全が確保されて一段落ついたので「するする詐欺」はじめます。

今日、恋をはじめます(5) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
今日、恋をはじめます(きょう、こいをはじめます)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

京汰(きょうた)ファンの有砂(ありさ)たちに嫌がらせをされるようになったつばき。ちょっとした誤解から、親友の深歩(みほ)ともケンカしちゃった…。マラソン大会の勝負を口実に、つばきは深歩にきちんと謝ろうと決意。ところが大会当日、有砂たちの企みで、男2人に襲われた!危ないところで助けに来てくれたのは!?

簡潔完結感想文

  • 京汰とはトラウマが恋愛成就を阻み、深歩とは嘘が真の友情成立を阻む。
  • 自分を脅迫してきた人を逆に手駒にすることで学校の裏番長にレベルUP。
  • 当面の敵が消滅したら今度は2人に すれ違い発生。性の匂いで読者を釣る。

際模様を描くとヒロインの悪いところが鮮明になる 5巻。

ヒロイン・つばき は生真面目すぎて失敗も多いという特徴を持っていて、その生き方が不器用なところがヒーロー・京汰(きょうた)の目に留まったと言えよう。作品は そんな つばき が誰かの問題に巻き込まれたり振り回される様子を描いてきた。序盤は京汰の自作自演の意地悪によって つばき は苦しめられて助けられる。
そして交際後からは京汰に憧れ、勝手に団結して「同盟」を結んだ女子生徒たちからの反感を買って、それが原因で友人・深歩(みほ)との関係が悪化し、つばき は肉体的にも精神的にも追い詰められていく。真面目に生きているだけの彼女が誰かによって不幸になるから読者は応援したくなる構造になっている。ヒロインを不幸にする者の中にヒーローがいるのが本書の構造的欠陥だと思うのだが、そこは全く問題にならない。

『5巻』前半は一気に雲行きが怪しくなった つばき の学校生活が再び安定するまでを描き、その話で つばき は過激な京汰ファンの女性からの嫌がらせに対する抑止力を得る。かつて敵だった者すら手駒にすることで つばき は早くも この学校で無敵の存在になっていく。その上、この世界で最高の彼氏と、紆余曲折を経て嘘のない関係で結ばれた友情を確保し、もはや最強の名を ほしいままにしていると言えよう。

今回は友人・深歩(みほ)との友情の再締結の流れが上手かった。彼女たちは相手に対して それぞれ罪悪感を抱いていて、2人とも悪いからこそ それをキチンと水に流して前に進む。ここで つばき だけが良い子だと彼女だけが不利益を与えられたことになり、それが読者の腑に落ちない要素になるから、事前に つばき を間違った道に進ませたのが周到だと思った。
京汰が過去のトラウマを抱えたまま つばき と接していた時は理不尽だったがトラウマを共有したことで彼らは恋愛成就した。同じように深歩も つばき に言えないことがある時の友情ではなく、嘘のない関係性を初めて構築できた、という問題の解消が明白で読みやすかった。

トイレでのピンチを助けて真の友情が結ばれる、そんな『君に届け』っぽい展開も ここまで。

に言えば、もう つばき に敵はなく、この学校で やることが無くなってしまったと言える。
そこで何が起こるかというと『5巻』後半からは『4巻』前半のような つばき の空回りが始まり、そして再び京汰が幼稚性を爆発させることで彼に振り回される日々が繰り返されるのである。

そこで持ち出されるのが性行為の匂わせである。その攻防戦は長きに亘って続く。それはつまり完遂まで「するする詐欺」が続くことを意味している。作者は本書で暴力的な性行為を描くことを封印していると考えられるが、恋人たちが相手を求めることは自然なことで同意を得た行為なら それを真正面から描くつもりらしい。

初デートの後に つばき に災厄をもたらすような「敵」が登場し、物語を大きく動かした彼女たちが退場すると、今度は性を匂わせて読者を繋ぎ止めようとする。この流れから考えるに次の「敵」が登場するまで この流れは続き、その撤退後に また同じことを繰り返すのだろう。

もはや作者が当初 考えていたプロットは使い果たし、既に連載を続けながらアドリブで話を作っていく段階に入っている(友人・深歩(みほ)の京汰への想いも後付けらしいし)。
早くも描くことが尽きた影響なのか『5巻』の後半から話の密度が著しく低下する。そして つばき が空回り、京汰が彼女を悲しませる役割を担って再び横暴になることで彼らへの好感度もまた低下する。悪循環が始まったような気がしてならないが、ここから どう立て直していくのか。物語は まだ全体の1/3を過ぎたばかりである。


ばき がトイレに拉致され、性的暴行を加えられそうになる直前、深歩が登場する。彼女が ここで登場するのは、深歩もまた改めて つばき と話し合う機会を求めていて、そんな彼女の姿が見えなくて捜索に出たからなのだろうと脳内補完をする。

つばき のピンチを察した深歩の機転で つばき は助け出され、その後2人揃ってマラソン大会でゴールする。そうして つばき は ようやく深歩に謝罪が出来る。つばき が深歩に対しての信頼感を維持できなかったのは、この後の深歩の告白を前に喧嘩両成敗の土壌を醸成するためなのだろう。こうすることで彼女たちの友情はイコールで結ばれる。

つばき の謝罪を受けて、深歩は つばき に あるお願いをする。それが自分の髪のカット。深歩の髪を切りながら つばき は、深歩と京汰の中学時代の話を聞く。そして深歩が京汰と どうか関わっていたのかを知る。京汰は中学時代から地味な女性=自分を裏切らない、「女」を見せない女性を狙っていて、深歩は今回と同じように その地味な女性を京汰から守る振りをして彼女たちが京汰の反感を買い嫌われていく様子を見てきた。そうすることで自分だけが京汰にとって特別な女性でいられる気がしたから。

それは つばき に対しても同じ。つばき が深歩に感じていた友情を深歩は抱いていなかったことを正直に伝える。その現実に つばき は言葉を失う。しかし その上で深歩は つばき と友達になりたいと願ってきた。自分には持てない勇気を持つ つばき を深歩は尊敬している。こうして 2人の間に隠されていた嘘を除去して、改めて友情を結ぶ。

つばき に髪を切ってもらって身も心も軽くなった深歩は京汰に恋心を抱いていたということを ちゃんと伝える。それもまた関係性を改めて構築する儀式。京汰を過去のことにして、今の彼氏との交際を本物にするために わざわざ深歩は京汰に伝える。そうすることで卑怯な深歩は つばき とも京汰とも変わらない友情を維持している。


た つばき は拉致や暴行を主導した女子生徒とも新たな関係性を構築する。特に首謀者の女性は自分の行動を反省しており、つばき の性的暴行未遂を記録した携帯電話を取り返して、つばき に記録の消去を勧める。

それでも京汰に嫌われたくない人もいて、つばき に口封じを頼もうとする。それに対して つばき は ある交換条件を出す。それが今回の事件の首謀者をボディガードとして雇うというもの。引き続き つばき に嫌がらせをする女子生徒から自分を守ってもらうことで つばき は秘密を厳守することを約束する。早くも ある意味で つばき が この学校の裏番長になったということなのか。学校での安全も確保でき、交際の反対勢力も これで大人しくなる。

学校一のイケメン・京汰を彼氏にして、一軍女性たちを手駒にすることでヒロインの支配体制が確立する。

その場面を京汰が見て、首謀者たちが感謝されることで、この一件は終わる。この首謀者と奇妙な友情が続いたりしたら面白かったが、彼女は すぐに姿を現さなくなる。折に触れて この女性を登場させるぐらいの世界観が維持できれば もっと作品は面白くなるのに、作者は目の前のことしか描けなくて、新しい登場人物は すぐに いないものとされてしまう。

この話の最後に つばき が暴行未遂の件を京汰に話すのが謎なのだが、これは嘘のない関係性のためには必要なのか。いや、性的な暴行を受けそうになったという話から、2人を性的な関係に持っていきたいだけか。


辺が落ち着いたら出てくるのが性行為にまつわる話。だが つばき は鉄壁の誓いがあり、結婚まで性的な行為をしないという。
そこから物語は性行為について まつわる話が続くのだが『4巻』の初デート回と同じく、つばき が空回りするだけの お話で読んでいて楽しくない。これが今後のために価値観の違いや交際について2人が意見を擦り合わせていくという話でもあると思えばいいのだろうか。

今は共通の敵がいないので、つばき が以前よりは穏やかにではあるものの京汰に振り回される お話となっていく。しかし この話は いつも上手(うわて)の京汰が つばき をコントロールすることで彼女の方から性行為の解禁を持ち出すのを待って、結果的に京汰は最短距離で欲望を達成しようとしているのではないかと思える。
その狙い通り、つばき は京汰にキスしたいという衝動が抑えきれず、彼に完敗した形になる。しかし ここで性行為にまで至らないと分かると京汰の幼稚性が爆発して、妥協するぐらいなら全部いらないと つばき を悲しませる言動をする。

自分がしたくないことは しないまま、彼に嫌われたくないという難しい問題に直面する つばき。そんな悩みを抱えたまま試験を迎え、首位・京汰に続く次席という地位さえも失ってしまう。
その現実を認めたくなくて掲示された試験結果を破ってしまう つばき。そんな つばき に追い打ちをかけるように、京汰と肉体関係のあった先輩女性が、つばき が性行為を拒絶することでフラれれば、自分の出番だと彼女を脅す。それに焦りを覚えた つばき は…。

でも このエピソードの真実は逆で先輩女性が何度 誘っても京汰は愛情のない性行為をしないことを誓っていた。経験豊富なヒーローが すぐにヒロインにだけしか性行為をしないと誓うのは、俺様ヒーロー少女漫画あるある である。何が彼らを そこまでヒロインに夢中にさせるのか分からないのも全作品の共通点であるのだが…。