《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

何の取り柄もない女性は、男性の隷属になるしかないよね、という少女漫画による女性蔑視。

蜜×蜜ドロップス(1) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
蜜×蜜ドロップス(みつ みつドロップス)
第01巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

HONEY…その甘い響きとはウラハラな、九華科のお坊ちゃまの世話をさせられる普通科の生徒=僕?のこと…。夏休み、バイトの最中に九華科の可威(かい)とトラブっちゃった柚留(ゆずる)。2学期に柚留を待っていたのは可威のHONEYに指名されたという究極の仕返し…??ワガママ可威の世話役…って何それ??

簡潔完結感想文

  • もっとカオスな作品を期待してたのにセクハラ・パワハラの肯定以外は まとも。
  • 白泉社漫画の世界観で男性が女性の下半身を まさぐる作品。ただ それだけ。
  • 一度は この異常な学校制度に対して正論を出すが、その声を封じる狡猾な構成。

者にとって、いい男とは性欲旺盛な人間なのか。 1巻。

本書は史上最低の少女漫画『レンアイ至上主義』と同じ作者による、その次の作品。
今回も どれだけ酷い作品なのかと、悪趣味に期待していたが、
短期連載が長編化した前作と違って最初から連載を意識して作られている上に、
作者も自分が読者に何を望まれているかが分かっているので、あざとさ を感じた。

これは「天然」が売りの芸能人に自分から笑いを取りにいくような余裕が見られて、
そうじゃないんだよ、という視聴者側の落胆と似ている気がする。

前作は主人公がカップルになってから、頭のおかしい新キャラが次々に学校に集い、
滅茶苦茶な展開の中で、ヒロインが なぜか下半身を まさぐられ続けるというカオスな展開で目を離せなかった。

今回もヒロインは下半身を まさぐられ続けるのだが(失笑)、
後述するように作品内を覆う変な価値観には違和感があるものの、
最初から世界観がしっかりと構築されていて、
普通の少女漫画としても通用する内容に、過激な性描写が挿まれているだけであった。

頭がおかしいのはヒーローと もう1人の男性だけ。
人数が多ければ良い訳では決してないが、何だか物足りない。
しかし、ヒーローがセクハラ大王にしたのは大失敗だった。


前作は良くも悪くも もっともっと頭が悪かった。
今回はエロ描写がなくても成立する中で、
約2回に1回のエロ描写をノルマとしており、狙って炎上させているのが悪趣味に映った。
そうした計算から生まれた、ただただ中途半端な作品だった。

白泉社漫画っぽい上級国民の主従設定も、作者と小学館の手にかかれば、セクハラ・パワハラの温床。

わらないのは作品における作者の価値観。
本書において格好良い男の条件は、

・女性のブラジャーを片手で外せる男、
・問答無用に女性の股間をまさぐる、テクニックのある男です。
・いつでも どこでも発情できる人並み外れた性欲の強さ

だと思われる。

そして男性たちの行動思想はセクハラ親父そのもの。
本書の男性キャラは、なぜか自分は価値ある存在だと思い込んでいる。
その自信があるからか、
先に自分が無礼を働いたにもかかわらず、それに正当に抗議するヒロインに対して面子が潰されたと思ったのか、
その仕返しをしようとする。
これは難癖をつけて女性にセクハラをする人間の思考そのものである。

増長する自尊心を少しでも傷つけられたら徹底的に仕返しをして己の見栄を守るばかり。
更に年齢や社会的立場を得てきたのなら自尊心が育つのも分かるが(セクハラは言語道断だが)、
本書の登場人物たちは15 ,16歳・高校1年生の人間なのである。

親に社会的立場があるという ただ一点の理由で学校のヒエラルキーの上にいる事を忘れ、
自分が偉いと思っている勘違いした若者が、
そのプライドを守るために自分に反抗する者に恥辱を与えていくだけ。

この自分の精神構造に無自覚なまま、ヒーロー気取りで性暴力を与えるばかり。

今回の特徴として、なるべく犯罪的な性暴力を回避するような節が見られるが、
女性の同意なしに身体を弄(もてあそ)んだ時点で性暴力は成立している。
いくら将来的にパートナーになるから、男性側からの愛の表現だからといって許される訳がない。

ノルマのように性描写などを挿もうとするから作品が歪になるのだ。


して女性の特徴は、相手が誰であれ身体を触られることが常に快感らしい。
そして頭が悪いのも特徴か。
ヒロインの頭の悪さ・無能さだけは前回から相当パワーアップしているように思えた。

そして少女漫画によく見られるダメ男に ハマってしまう人間である。
セクハラを繰り出す相手の論理に対して反論が出来る賢さがないから 言いなりになる。
そして いつしか その男を好ましく思い、彼の笑顔を見るだけ全てを許してしまう。

作者は こういう女性像を描いていて嫌にならないのだろうか。

男性は どれだけセクハラをしても許され、
そして自分の与えた快楽で女性たちの身体は反応する。
まるで中高年層が好んで読むような週刊誌の中のようなシチュエーションである。

そう、本書の何が気持ち悪いって、
性描写よりも、女性が男性にとって利用されるだけの立場であることだ。

自分が どんなに頭が悪くても無能でも、イケメンから肉体的快楽が与えられる。
そんな状況に読者の少女たちは満足していたのだろうか。
少し考えれば女性にとっても不快な内容だと思うが、
読者が過激な性描写を支持することで、そこをも肯定しているようになってしまったのではないか。


して相変わらず作者は自分が大好き、という事が文章の端々から伝わる。
最終『8巻』によると作者は本書の連載中、メンタルがボロボロで大変だったらしいが、
そんな事を感じさせないほどの自己愛が前に出ている。

『1巻』の中では、
「『水波 イコール スポーツもの』という図式が『真珠の鎖(過去作・未読)』あたりから定着してしまいましたが…」
という文章に目を丸くした。
いや、それ あなたの中の自分像でしかないから…、と思わずにはいられない。

厳しい世界で成功して、人気も実力もあるのだろうけど、
漫画に没頭し、制作陣と編集者、そして読者からのファンレターという狭い社会で生きていることを感じる。
今後、年齢を重ねていくと作者コメントの内容やスタンスが変わっていくのかが今後の楽しみである。


容・設定には白泉社感を感じる。
幼稚園から大学まで存在する私立学校の中にいる庶民の女子生徒・萩野 柚留(はぎの ゆずる)が、
とある理由から上級国民ならぬ上級生徒だけが集まる「九華科(くげか)」に呼ばれることになるというのが物語の始まり。

そこで柚留は九華科内の「HONEY」制度、「DROP」制度を知る。
この制度に振り回されて、柚留の学校生活が賑やかになる⁉ というパターンである。

その設定に小学館特有の過激なエロ描写が加わる。
でもエロなしでも結構 面白い内容なのに、エロを入れたことで台無しにした。

自分の思い通りにならないから人に当たり散らす。幼稚な人間に性欲と権力を持たせると危険。

て一番の問題は、どこで相手を好きになる要素があるのか全く分からない点である。

ヒーローである煉夏 可威(れんげ かい)と柚留の出会いは、彼女がバイトをしていたホテルのプールサイド。
注文をカード払いに出来ないと知ったワガママなお坊っちゃん可威は、いきなりプールサイドで柚留を転ばせる。

転倒によってホテルの高価なグラスをプールに落とした柚留は、無傷を助けるために躊躇なくプールに飛び込む。
そして柚留は可威が同じ学校の特別な存在とである事を知った上で、可威の無礼に対して、コップの水を浴びせる。

この行動によって、可威の目に彼女が留まるのは 分かる。
人に怒られたことないだろう甘ったれた可威にとって、初めての洗礼であっただろう。

柚留には、可威が特別な生徒(親が上級国民)と分かっても、可威に対して怒る正義感や勇気があるもの。
その後の可威の自分のための行為に対しては キチンとお礼を言える素直さもある。

だが、その逆は全く分からないから問題だ。

まずは初対面での可威の行動。
いくら作品的に印象的な場面が必要な1話であっても、可威の行為はヒーロー失格。
第一印象最悪、大っ嫌いの後の大逆転が面白い少女漫画でも、人としてナシだ。

その後にバイトの制服が水に濡れ、下着が透けいるのを見て、彼女を好奇な男性の目から守ろうとしても無駄である。
だって、落としたの お前じゃん!?

これは幼稚な少女漫画によく見られる、
ヒロインをイジメるのも助けるのも同一男性という、マッチポンプ行為による好きと嫌いの乱高下です。
こういう行為で胸キュンするのは思考力を奪われた おバカなヒロインしかいません。
自分の苦境を作った原因を考えず、イケメン男性に助けられたという状況に幸福を見出してしまう。
(連想したのは同じ「Sho-Comi」連載の星森ゆきも さん『ういらぶ。』。あれも酷かった。)

可威は一瞬で柚留を気に入ったらしく、シャワー中の全裸の柚留に近づき、強制的にピアスをはめる。
これが この学校の「HONEY」制度の始まりであった。

可威はMASTERになり、柚留が そのお世話をするHONEYになった瞬間。
だが これは完全に理不尽な契約である。
本人の了承を取っていないんだもの。

ここも不快。
社会的に弱い立場の女性を、その権力をもって隷属させる。
それはパワハラ・セクハラそのものではないか。

しかも柚留は最初から可威に少しでも触れられると快感を覚える描写がある。
女性は こうされると悦ぶ、といった間違った観念を植えつけられるパワハラ・セクハラ推奨漫画の始まりの1話である。


況説明のためもあり、少なくとも学校に半年在籍する柚留は「HONEY」制度を知らない。
九華科を知っているなら、彼らの制度も知っていそうなもんだが。
この場面で説明を受ける柚留が「さぶそーな制度」と言っているのは作者の本音か。

そして九華科の子息は全員が傲慢で怠慢な人間という前提なのが笑える。
自分がここに入れられたことは名誉でもなく、
自分を律せないダメ人間だと親や学校から思われている、本来なら恥ずべき制度なのである。

柚留が奴隷制度とも言える この とんでもない制度を引き受けるのは、学費が全額免除だから。
親が連帯保証人によって借金があるという設定の柚留は、お金を必要としている設定なのだ。
これだけが柚留の動機となる。
貧乏人は お金持ちの お恵みによって生活する という嫌な社会の縮図でもある。

HONEYの役目にはMASTERの授業出席率の向上が含まれているため、
教室内にいない可威を探して、柚留が学校内を走り回る場面がある。

ここで柚留は屋外でバスケットボールが転がってくるのを見る。
「バスケットボール…? …ってことは!! 可威!」
という思考が分からない。
この時点では可威がバスケを たしなむことは柚留は知らないはずだ。

ボールを見て、誰かがいる、と類推するならともかく、可威だと断定する根拠に乏しい。
これは作者の脳内設定が先に漏れちゃったのかな?

教室に入って欲しい柚留と可威の間にパワーバランスの違いが成立してしまう。
ここから可威のセクハラは爆発していく…。

最初は、問答無用のキスから始まった。
「いくら… いくら学費免除がかかってるってったって
 こんな身売りみたいな真似なんかできない…っ!」という柚留の反応は正しい。

だが「HONEY」をやめると宣言した場合、退学になる規則がある。
これが「DROP」制度である。
要するに権力者の愛人枠に指名されると、その地獄は続くということである。

こうして柚留の恐喝の材料ばかりが揃っていく。
この後、柚留が可威に依存していくのは、誘拐犯と被害者の間に奇妙な連帯感が生まれる症状のようなものなのか。
どちらにしろ真実の愛とは 程遠い。

柚留が この学校の生徒であることに固執する理由が全くないまま話は進む。エロ描写より そこに力 入れなよ…。

HONEYによって学費免除というが、柚留が この学校に固執する理由が欲しい所。
ただ それに背景が全く用意されてないから、切実さが生まれない。

受験勉強を頑張ったとか、入学のために親が投資してくれたとか、
この学校が幼い頃から憧れだったとか、表向きは超難関校であるとか色々あるだろう。

それを一切出さず、この金ばかりかかるであろう私立校に固執するのが不自然に思った。
奨学金など他の手段を使って他の高校に通い続ける選択しを一切 考慮しない。
自分がバイトをしてまで家計が切迫しているような状況なのに、そこに対する言及がないのが気になる。
こうして作者が進ませたい道を進ませるだけだから、作品として薄っぺらい。


まだ この頃はまともな柚留は、セクハラに対して柚留は学校をやめて働く覚悟でいる。
だが両親は可威によって買収されていた。
借金を肩代わりし、柚留の弟に楽器を与え、私立中学進学の夢を見させてしまう。

これによって売られたのは柚留。
事実を知らないとはいえ、家族は柚留のHONEY就任を喜ぶばかり。
こうして親公認の立派な奴隷が誕生する。
退路は塞がれて、女性は奉仕するしかないという構図は、昔の遊郭などと同じではないか。

柚留の両親は本書で一番の最悪な毒親だと思うが、
借金をこさえても、生活レベルを落とそうとしないところが まず間違っている。


が その地位すらも安泰でなくなるのが「DROPゲーム」。

半年に一度、MASTERとHONEYが一組になり、2 on 2でバスケ対決をする。
だがバスケとは名ばかりの爆発物を持ち込んだりと何でもありの対戦。

この回から登場するのが百合丘 千駿(ゆりおか ちはや)。
彼はHONEYがいない。
自分の事は自分で出来る、と他の生徒とは違う自立した部分を見せる千駿。

それにしても九華科のクラスの生徒が、恒例行事をやる意味も分からない。
長ければ もう10年以上連れそうHONEYと別れる儀式を行う理由は何も明かされない。
柚留がピンチになる展開が用意できれば それでいいのだろう。
ヒロインのピンチとエロ、それだけ描ければ読者から支持される、とでも思っているのか。

この回では、可威の少年っぽさが見え隠れする。
可威にとってはHONEYは使い捨てではなく、彼なりに大事にしていること。
そしてバスケが心から好きだということ。
まぁ、バスケの特訓でもセクハラを受けるんですけどね…。


DROPゲームを前にして、本書随一の常識人である千駿が柚留を自分のHONEYにしようと勧誘。

千駿は高校から入学した人。
多くが幼・小等部から学校に在籍するのとは違って
立場的には、2学期から九華科に参加した柚留に一番近い存在と言える。

精神的にも自立しており、HONEYがいなくても学校生活を送れる人。
だから千駿のHONEYになれば、学費免除の恩恵を受けたままセクハラは免除されるという夢のような展開なのだ。

MASTERを変えるためには「DROPゲーム」で最下位になればいいのだが…。


千駿の柚留への接近によって、捻じれた可威の愛情は暴発する。

彼の愛情表現は女性の身体を触る事。
この回から、可威による下半身の まさぐり が始まる。
これでセクハラなんて言葉からも逸脱し、立派な性暴力となる。

可威に精一杯 好意的に考えれば、千駿というライバルの登場で焦ったから彼女を縛りたいのだろう。

だが、性暴力を続ける可威が、
「主人(マスター)だけを見て 主人の言うことだけを聞いて従ってりゃいいんだ」
「『HONEY』は学費免除って肩書の金で買われた」

と、性奴隷宣言をしているのだから、有罪は確定する。
これも素直じゃない可威の、この行為への言い訳の言葉だというフォローも出来るが…。


述の通り、どんなに嫌悪感があっても、女性の身体は男性の愛撫に反応するのが本書。

柚留は泣く。
だが、それは快感に負けそうな自分を嫌悪しているだけで、
可威に性暴力を受けていること自体に泣いているのではない(勿論 ゼロではないが)。

柚留が泣いて初めて可威は自分の行為を反省する。
可威にしてみれば、自分が女性を苦しめているなんて意識がなかったかもしれない。

可威による詫びが肩車によるダンクシュート。
柚留もバカだから、その爽快感と可威の笑顔に性暴力を許しかける。
2人とも好きになれない愚かさである…。


して始まる「DROPゲーム」。

この期間中、柚留の気持ちは揺れる。
わざと負けて千駿のHONEYになるか、それとも可威の笑顔を間近で見るか(ただし性暴力つき)。

このゲームの中で柚留は、可威の友人から自分が可威の過去のHONEYの中でも特別な位置にいる事を知っていく。
間接的にだが、可威に「大事にされてい」る、と聞かされれば心は大きく揺れる。

ダメ男と一緒に転落していくダメ女の話は始まったばかり。
どこにも憧れない恋愛模様は、ネタとして消費していくしかない。

作者には性描写に依存せず、もっと漫画家としての技量に自信を持ってほしいものである。