《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

結婚を前提した御曹司との交際を描く作品で、一度は彼が没落するのは お約束?

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(9) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

100万部突破の人気爆発JK結婚ラブコメ!! 剣道部を救うために頑張る前とひなたに、留以の闇が襲いかかる・・・!! 隠された留以の過去と真意が明らかになる時、ひなたに危機が迫る。絶好調ウェディングラブ、最終章へと向かう緊迫の第9巻!!

簡潔完結感想文

  • 夏休みに島で自分の弱さと向き合った前は成長し、揺るがない不動の心を獲得。
  • ダンスでも剣道でも集中的に練習すれば、その道の最強の人を倒してしまう前。
  • 初登場の父によって六畳一間の『L♥DK』展開。たった2話で16巻分を消化する。

落社長から没落御曹司の話にバトンパス、の 9巻。

『8巻』に引き続き人間活動をするヒーロー・前(ぜん)の様子が描かれる。この本書初の学校編では ひなた よりも前の成長に焦点が当てられ、彼が未熟さを知った『6巻』以降の夏休みを経ているからこそ言える言葉や考え方が多く出てきて、あの前の弱体化にも意味があったことが分かる。初読の時はアイデアの枯渇で今更 学校生活を始めたとばかり思っていたが、前の視野の広がりを表現するためにも ここで恋愛を抜きにした人と人の交流が必要だったのだろう。
特に夏休みに弱い人の心を自分の経験を通して学習していたことが、この学校編のラストで大きな意味を持っていたように思う。また ひなた を巡る男たちの争いではないから、どうしても ひなた は前のサポートに回ることしか出来なくなるが、それでも大事な場面では前と対等になるように配慮されているのが嬉しかった。そこに ひなた の成長を感じ、守られるだけでなく ちゃんと自分の意思で動けていた部分が良かった。
そういえば剣道部員たちが当て馬にならないのは留衣(るい)をはじめとして全員 名前が二文字だからだろうか。これまでの当て馬は創(そう)・新(あらた)・航(こう)と一文字だったので名前が出た時点で当て馬にならないことは明白だったのかもしれない。

そして前が普通の人間として弱さと強さ、学校に友達を獲得したからこそ、次の展開の扉が開いたと言える。それが條森(じょうもり)財閥の後継者として前が相応しいか、前の父親が用意した最終試験である。自分の弱さを克服し、他者への理解、そして自分が生きる意味や原動力を理解した完全体の前になったから、その試練を受ける資格が生まれたと言えよう。

母親は ひなた に試練を、父親は 前に試験を課す。最高の結婚のためには親族の賛同が必要。

盤は ひなた が條森財閥のパワーによって婚約やら屋敷での同居やら自分の環境が激変するシーンが多かったが、今回は前よりも完全な上位存在として父親が登場し、彼によって前の環境が激変する。ひなた は巻き込まれる形になるが、彼女は前を支えるために離れないことを自分で選ぶ。これによって2人は一足早い新婚生活や、その中での それぞれの役割を担うことになる。前の試練でありながら、将来の ひなた に起こり得る心の隙間を描いていて、まさにクライマックスに相応しいと思った。

しかし どうにも この展開に既視感が拭えない。六畳一間での同棲生活は渡辺あゆ さん『L♥DK』を連想するし、金持ち御曹司が没落する展開は師走ゆき さん『高嶺と花』と同じ展開だった(ほぼ調べてみたら同時期(2016年末)に同じような展開になっていたようだ)。
いや、今回だけでなくアイドルとの恋愛とかも類似作品はたくさんあって、そんなシチュエーションを盛れるだけ盛ったのが本書というのが正しいのだろう。おそらく『高嶺と花』以外にも お金持ちのヒーローが一時的に没落生活を送る作品は多いだろう。まぁ財閥の御曹司が赤字企業を立て直すことを命じられる、というのは連想するのが自然なほど共通点が多いが。

そして結局、作品は恋愛バトルに戻っていくようで そこが残念。クライマックスだから戦う他ないのだろうけど、これまでの当て馬やライバルが派手だったので ちょっと地味に思う。
最後に気になるのは ひなた の立ち位置。前の両親のように共働きで稼ぐという展開は見えにくい。ただ今回 登場した最後のライバルと前が結婚すれば前の両親像になることが出来ると言えるだろう。そうではないなら ひなた は どんな結婚像や将来像を描くのだろうか。精神的には同等に描かれている2人だが、どうも ひなた は いつの間にかに料理上手になっていて古いタイプの良妻賢母に収まる気配がある。彼女にも ちゃんと明確な将来が与えられると信じたい。


道合宿も2日目。1日目と違うのは、読者は もう留衣が前に復讐心を抱いていることを知っている点。ほのぼのとした逆ハーレム合宿かと思っていたが急に緊張感が漂う。

剣道部員の3人は まず ひなた を罠にはめて、そこから前を破壊することを計画する。彼らは ひなた に愛の告白をしてきたり、浴室で鉢合わせて裸の ひなた が部員に迫っているような写真を撮影して彼女の心を揺らす。その後、前に ひなた の浮気の証拠写真を見せるが、前は少しも疑わない。もう それぐらいの妨害ではビクともしないぐらい2人の関係は強固なのだ。でも それとは別に前は ひなた の あられもない姿の写真を熱望していた と思うが…(笑) この写真を渡すから100万円出せ、と言ったら出すのではないか。

剣道部員3人の中で復讐心が一番強いのは やはり留衣。彼は前がパーティーで合宿所から出た日を狙って、怪我をしていると虚偽申告している右腕の包帯の巻き直しをしてもらうために ひなた を留衣の部屋に招く。留衣の部屋には父親が獲得したトロフィーが並び、自然と父の話が出る。留衣の父親は道場の師範であり、かつては大きな会社の社長でもあって、その2つを両立させていた父を尊敬していた。その父親の人生を破滅させた前への復讐として ひなた を手刀で昏倒させ、彼は動き出す。


衣は ひなた の電話を使い前にビデオ通話をする。そこに映ったのは肌を露出させられ拘束された ひなた の姿。そして留衣は動機として以前、留衣は前から心無い言葉を掛けられていたため、現社長ではなく前をターゲットにしたことを話す。このタイミングで復讐を始めるのは『3巻』での前の幸せな婚約会見を留衣が見たからだった。

しかし ひなた も前も動じない。これまで彼らはピンチの連続を経験しているから、心臓が強くなっている。特に ひなた は前の到着を信じているから、泣き叫ぶことをせず、冷静に留衣と対峙する。

前は通話を切って駆け出したが留衣の居場所は分からない。だが そこに剣道部員の1人が現れ、留衣を止めて欲しいと彼の居場所が描かれた地図を渡す。これで前が ひなた の監禁場所を知る流れは自然になったが、一方で剣道部員が前と遭遇するのは都合が良すぎると思ってしまう。


の到着までは時間がかかるためか、ひなた は自力で拘束を解き、逃げ回る。だが監禁場所は出口が全部 塞がれており ひなた は隠れることしか出来ない。だが留衣が全ての場所を探すのも時間の問題。そこで ひなた は自分も戦おうと動く。そうして ひなた が勇気を示したところで前が到着する。ここで ひなた が守られるだけじゃないのが2人の対等な立場を示しているようで良い。『8巻』の学園祭でも人を守ろうとしていたし、『7巻』で前が身を引こうとしても ひなた は許さなかった。2人の強さが同じで、ヒロインが能動的なのが本書の長所だろう。

そして ひなた を守るためなら前は無敵。
男性2人は外に出て剣道勝負となるのだが、前は武器として持ったホウキを放棄し(意図しないダジャレ)、留衣の打ち込みを全身で耐える。なぜなら復讐に燃える留衣の攻撃は痛くないから。更に留衣の父を愚弄し彼を逆上させるが、前は倒れない。前は留衣が恨んでいるのは、父親や過去に向き合えない自分だと指摘し、彼を混乱させる。まるで『7巻』で前が航から受けた精神攻撃のようである。前は夏休み中の島の生活で力任せに体当たりする自分ではなく、その人の弱さを指摘して動揺させる という特技を身につけたのかもしれない。また、戦わないことが これまでサッカーや遠泳などライバルと戦うばかりだった前の これまでとは違う点のように思える。

そういえば前も ひなた も留衣の怪我が嘘であることに驚いてもいないし、指摘もしていないのが気になる。『8巻』でも航の あっという間の怪我の回復がスルーされていたなぁ。となると ひなた の刺し傷も完全に痕も残らず癒えているに違いない。

留衣の、自分の願望で 単純に相手を全力で潰そうとする姿は かつての前の姿かもしれない。

神が混乱した留衣は高所から落ちそうになるが、前が手を伸ばし彼を助け、そして ひなた も2人が落ちないように重しとなる。
そして絶体絶命の中、前は自分の過去の発言を撤回する。その発言は金や地位に物を言わせた御曹司の発言そのもの。だが成長した彼は その発言の過ちと、強さの本当の意味を理解したのだった。御曹司として扱われなかった島での経験が活きている場面である。
そこに残りの剣道部員の2人が到着し、彼らも手を伸ばし、大切な家族の一員である留衣を助けようとする。孤独だと思っていた留衣は大切な人に気づかされ涙を流す。

こうして留衣は救出されるが、その直後 前は数多の殴打によって倒れる。彼が目を覚ました時、ひなた はベッドの横におり、そして前の無謀さを叱る。それについて謝罪する前だったが、前は きっと この先、同じような場面に遭遇したら何度でも命を懸けるであろう自分を予感していた。

そして試合当日、剣道部員は3人で決勝まで勝ち上がる。だが3連覇中の学校の強さに留衣は気持ちで負けてしまう。そこに喝を入れに現れるのが前。彼は剣道部を優勝に導くという「友達」との約束を守るために ここに参上した。
その約束を守るために前は勝利する。何でもパーフェクトな前であるが、新の時の東京ドームコンサートといい付け焼刃の人が活躍するのは本業の人からすれば面白くないだろうなぁ、と思う。留衣たち剣道部員に変な劣等感が残らなきゃいいけど…。


して前に友達が出来て、人間的に成長した後に現れるのが、條森グループの現当主である前の父親である。以前は母親が単独で登場したが、今回は初めて父親の登場となる。留衣にとって父親が尊敬すべき人だったように、前にとっても、交流こそ少なかったが父親は追いつき追い越したいと思う憧れの対象らしい。

ある日、2人が目を覚ますと そこは條森の屋敷ではなく古びたアパートだった。それは前の父親の仕業。初登場の前の父親はオーラこそ凄いが、子煩悩で ひなた にも優しく接する。そして今回の騒動は獅子が千尋の谷に我が子を落とすように、前を一文無しから這い上がらせるための計画の一環だった。父親は前に倒産寸前の子会社を、條森の名前を使わずに前の力だけで立て直すことを命じる。そして これが後継者への試験だと言う。
その際に父親によって手配されたのが藤崎 明日菜(ふじさき あすな)という女性だった。また父親は良識的な人で ひなた に実家に帰る選択肢を提示するが、彼女は自分の意思でここに残り、前を支えることを選ぶ。


うして始まる六畳一間の同棲生活。これまでも大きく言えば一つ屋根の下で暮らしていたが、今回は より一緒に暮らしている感じが強くなる。ひなた は『8巻』から急に料理スキルが上がったので、朝食作りも お手の物。

当初は、寝食を共にし、一緒に買い物に行く生活を早く到来した新婚生活みたいだと浮かれていた ひなた だが、前と多くの時間を共有する明日菜の存在には思うところがある。そして自分と一緒にいても仕事を優先する前の姿は、将来的な孤独を予感させる。まさに ひなた の祖母が指摘した通り(『7巻』)、家に独りでいる時間が多いのが、前の妻という立場なのかもしれない。

そして ひなた の心配通り、明日菜は前をビジネスパートナー以上に思っており、過去に2人の繋がりも見える。疲れ果てて眠ってしまった前にキスをする明日菜は、まるで ひなた のファーストキスを奪った創のようである(『1巻』)。ヒーロー以外で同意のないキスをする者を少女漫画は許さない。明日菜の敗北は 彼女が一線を越えた時点で決まったと言えよう。

『L♥DK』みたいな展開が始まったと思ったら、すぐに前の父親によって その中盤の展開まで飛ぶようだ…。