《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

結婚を邪魔するライバルや親族を退けた後は、後回しにしていた学校生活や人間活動に挑戦。

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(8) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

人気爆発中!100万部突破目前の結婚ラブコメ第8巻は、いきなりヒロイン・ひなたが前を押し倒して、まさかの…!? 幼なじみの航との初恋にも決着が。夏休み編クライマックス!! そして、2学期が始まり、学校へ戻った前とひなたに新たな出会い。あの前クンが部活で青春!? 新章開幕!!

簡潔完結感想文

  • 島の人間の洗脳によって弱体化したヒーローだったが、もう呪いに負けない。
  • 近づいてくるのはライバルか親族だけだったので、今更ぼっちが判明する2人。
  • 学園祭の後は部活動の合宿。青春を ちゃんと謳歌した後に結婚をすればいい。

2人だけの世界から、学校生活に舞台を移行する 8巻。

この『8巻』の中盤で、序盤からずっと当て馬やライバルとの戦いに興じていた恋愛バトルは小休止となり、新章が開幕する。さすがに ひなた と前(ぜん)、2人の結婚・婚約を反対する親族が双方で登場し、幼なじみや婚約者・初恋の人という強力なライバルたちも出し切ったので作品を仕切り直したようだ。以前も言及したが、交通事故による記憶喪失、アイドルとの競演、刺傷事件などなど話がエスカレートし過ぎて2人が死にかねない状況なので、彼らに穏やかな日々を与えたかったのだろう。

多くの読者が望んでいたであろう恋愛バトルの代わりに何が始まるかというと普通の学校生活である。これまでもアイドル・新(あらた)がライバルだった頃に球技大会が行われたことはあったが(『4巻』)、それは飽くまで ひなた を巡る男たちの争いの一環だった。
しかし今回は恋愛のライバルがいない状態での2人の学校生活が描かれている。怒涛の展開の連続で作品に落ち着きのなかったため これまでじっくり描いてこれなかった部分を描いており、そこが新鮮に感じられる。スピード感や緊張感は無くなったかもしれないが、2人が普通の高校生カップルとして学校を満喫しているのは嬉しく思う。

前が島への「留学」で積極的に人と関わったように、ひなた も学校で自分を出す勇気を持ち始める。

そして それは夏休みの島編で指摘された前の欠点の補強にもなると思う。ずっと一人で努力を続け、自信を深めてきた前だったが、人間として未熟な部分があることを島の人々(ライバルの航(こう)や ひなた の祖母)に指摘された。それは前が独り善がりであるという指摘で、彼は自分の願望を優先するあまり大事な ひなた の笑顔を奪うような愚行を犯した。前が目的だけを優先し、人の気持ちに配慮できないのは厳しい環境に身を置いていたためであり、周囲を見渡す余裕がなかったからだろう。

だから今回、前が学校生活を満喫することは自然の流れのように思えた。こういう普通の人がする青春という名の人間活動を通して、彼は視野や器を広げることが出来るだろう。ひなた のためなら恥をかくことも厭わず、そしてコスパやタイパを考えずに行動できる前は自分一人では見えてこなかった景色を目にすることが出来ている。
夏休みに島に「留学」したことで外の世界、庶民の暮らしを知り、その後 学校内で同年代の人々と交流することで無駄の中に意味が生まれることを学んだだろう。ひなた と一緒にいようとすることはライバルや困難を生むばかりでなく、前が興味の無かった周囲や日常に彩りを加えていくという展開は新章の名に相応しいと思った。

人を恋路の邪魔者として排除するばかりではなく、人と一緒に行動し自分たちも彼らも この世界の=学校の一員として行動しているのが新しい。2人が(特に前が)排他的ではなく内包的になっている転換点が新章の意味だろう。未熟を思い知った彼だから、この新しい視点での学校生活が成長の大きな糧になるだろう。


頭は またも「するする詐欺」。ひなた から誘惑されてムードに流されそうになった前だが、その前に未熟な自分を叩き直す必要があった。
だから前は ひなた の親族である祖母を納得させて彼女と都会での暮らしを再開したいと考える。この財閥や御曹司の威光が通用しない土地で認められることが自分の成長になると直感しているのだろう。そこで前は明日、島で遠泳レースが行われることを知り、そこでの優勝を誓い、自分が島の男よりも強いことを証明しようとする。

翌日、ひなた は巫女としてレース会場に現れる。そこでナンパしてきた男たちを前と航が撃退する海での お約束を終えてからレーススタート。ひなた の2人の男による戦いが始まる。だが航は3年連続の優勝者。やはり日常的に泳いでいる人と争うのは分が悪いか。

実行委員長である ひなた の祖母は優勝者に巫女=ひなた を嫁にできる権利を発表する。これは女性の意思や人権を無視した旧態依然の制度で残念に思う。こういう女性が賞品・物として扱われる場面は ある意味ではヒロインの優遇なんだろうけど、時代に即していないように思った。低年齢向けの作品だからこそ、男に従うような描写には気を配って欲しい。


してレース開始。ここで気になるのは『7巻』の航の足の怪我が早くもなかったことになっているのと、前がネックレスをしたまま泳いでいること。ネックレスが光る=ひなた のために泳ぐことなんだろうけど、海で紛失したら もう二度と見つからないだろう。『7巻』では森で失くしてたし。

レース中、天候が荒れだす。2人きりのトップ争いになった時、航は『7巻』と同じように前の未熟さを指摘し、彼を心身両面で突き放そうとする。だが今の前は以前とは違う。分が悪くても、格差があっても、絶対に ひなた の隣に立つと固い決意を持っており、その心の強さを泳ぎに変換していく。

しかしゴール地点に最初に現れたのは航。そして彼は前を肩に抱いて登場した。前が負傷したため航が担いで来たのだが、優勝は前となる。それは航が そう宣言したから。前の怪我は流木から航を護ったためで そんな前の正しさと、そして ひなた を心から信じている前に、航は負けたことを宣言したのだった。航は前のメンタルを攻撃した気はするが、結局 卑怯な手を使わず、正々堂々と戦い抜いたと言えるのではないか。当て馬の中では新の次ぐらいに人気が高い、はず。

こうして前は優勝者として認定され、島の神社で紋付袴に着替えさせられる。それは祖母が前を正式に認めた証でもある。一つの問題が終わると するする詐欺か結婚式をしようとする本書だが今回は後者で、何回目かの疑似結婚式の中で初めて和服の装束となった。お決まりの流れの中にも ちゃんと変化をつけている点が良かった。ドレスは何回も着ているが和装は ここでしか見られない。


かった夏休み編が終わり、2学期に突入する。そして ここから物語は新章に突入するらしい。

初めて落ち着いて学校生活に焦点を当てると、ひなた は転校から数か月が経過しても学校に馴染めないという事実が明らかになる。確かに この学校で ひなた が同性の友達を獲得した描写はない。前は違う学年だし、同じクラスの新はアイドルとして多忙で学校に来ない日が多い。だが前が慣れない島の暮らし=御曹司として扱われない状況でも島で奮闘したように、ひなた も上流階級の中での奮闘を誓う。

そんな時に学校イベント・学園祭の準備が始まる。そこで ひなた はコスプレカフェを提案するが、そういう俗物的な催しに上級国民の皆さんは興味を示さない。その ひなた の苦境を知り、前は力を貸すと宣言。こうして前の協力によって ひなた のクラスの生徒たちはコスプレカフェに賛同してくれた。この時、前はプライドを捨てて協力してくれたが、やはり「女装メイド」は屈辱的だったらしい。


して あっという間に学園祭当日。ひなた の提案から火が点いて、今年は どのクラスも様々な催しを企画して学園祭は華やかになった。その裏には前が学校と交渉してくれたという裏がある。この時は前が頑張った、というより多くの寄付金を出しているであろう條森グループの力を使ったというのが正しいだろう。純粋な頑張りじゃないのが残念だ。

ひなた のコスプレは前の願望が詰まった衣装。作品も読者も お忘れでしょうが少し前まで芸能活動をしていたような ひなた がスカートが短すぎる衣装を着たらどうなるか、を前は考えていなかった。来客に囲まれ、そして盗撮犯も出現する事態になり、前は再び女装メイドとなり、彼らの脅威から ひなた を穏便に守り続ける。

この回で新が久々に登場する。彼はまだ ひなた を好きなようで前とは一触即発寸前。これまでのライバルの創(そう)は海外留学に戻ったし、航は島から出られない、となると残るのは唯一告白をしていない新だけで、彼だけが作中に居場所があると言える。

そして ひなた と前がクラスを離れている際に、コスプレ喫茶に悪漢が登場。お上品なクラスメイトたちは暴力に屈しそうになるが、クラスに戻った ひなた と前が彼らを退散させる。こうして ひなた はクラスメイトたちに認められ、こうして学校は ひなた にとって息苦しい場所ではなくなった。自分の居場所を自分で作る、というのが新章の意味だろう。


園祭を経て ひなた には友達と呼べる人が出来たが、今度は前に友達がいないことを ひなた は気にし始める。

そんな考え事をしている際に ひなた は階段で足を滑らせ、剣道部主将の3年生・香月 留衣(こうづき るい)の右腕を怪我させてしまう。しかも剣道部は部員が3人しかおらず、来月の大会に出られないために廃部になる危機を迎えていた。廃部を回避するためには次の大会での優勝が条件だったのだが留衣の怪我によって廃部が濃厚になった。ひなた は責任を取って自分が出場すると言い出すが、素人という理由で拒絶されてしまい、せめてもの罪滅ぼしとして剣道部のマネージャーの仕事を請け負う。剣道部に関わるようになった後に、ひなた は女性だと思っていた留衣が男性であることを知る。

弱小剣道部は他の部活からもバカにされ、嫌がらせを度々受けている模様。その場面に出くわした ひなた もピンチになるが、そこにヒーローが登場し、彼らを一瞬で撃退する。その後、ひなた の事情を知った前は「夫婦」の連帯責任として剣道経験者の自分が部活に加入することを宣言する。

池山田剛作品といい、低年齢向けの作品では特にヒーローが悪を成敗する場面が多いような気がする。

して始まる剣道部の合宿。そこで ひなた は部員たち3人の関係を知る。留衣の家は大きな剣道の名家。そして2人の部員は その家に仕えていた一族。だが留衣の家は大企業に買収され潰され、続いて剣道部も廃部の危機であることに部員たちは心を痛めていた。このままでは留衣は学校側から放校を言い渡されかねない状況なのだ。

ひなた も前も剣道部のメンバーと交流を重ね、互いに理解を深めていく…。この合宿では ひなた は料理も担当するのだが、『2巻』のバレンタイン回では ひなた は決して料理が得意とは思えなかったが、ここでは急に料理スキルが上がっているのが気になった。これは社長を支える良妻賢母=料理上手という図式を完成させたいからなのかなぁ…。作者が このぐらいの取り柄・スキルを付与させてあげたのか。

しかし留衣の怪我は嘘だということが最後に発覚する。彼は前に近づくために ひなた を利用していたに過ぎなかったのだ…。結婚や交際のために近づくのとは違う、単純な悪意を持った者たちの接近に彼らはどう対処するのか。どうも階段で落ちて怪我(したふり)から交流を重ねる男女という展開に既視感があると思ったら、『2巻』収録の読切短編と重なる部分だからか。これは無意識で引き出しが少ないだけなのか、それとも意図的な共通項なのかが分からないなぁ。