佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第01巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
「オレの嫁になれよ」。オレ様年下御曹司・前くんからのいきなりの強引プロポーズからはじまるヒロイン・ひなたの、はちゃめちゃ胸きゅんウェディングラブ!! “こんな風に迫られたい!!”の声、多数!連載開始直後から、大反響&話題沸騰!! プロポーズの嵐にキュンキュンしちゃいます!
簡潔完結感想文
- 平凡な女子高生の婚約者は、年下で背の低い日本一の大財閥の跡取り。
- 短期連載の3話で描きたいことは描いたので、後は余生みたいなもの!?
- 全ステータスが上の最強の当て馬お兄様が登場しても心は揺るがない。
お腹を抱えるか、頭を抱えるかは読者の年齢次第 の 1巻。
発行部数100万部を突破した作品。私にとって少女漫画で売れた本 ≠ 面白い本ではないのは、これまでの傾向からして明らか。序盤の設定が受ければ後半にどんだけ失速しても内容が無くても売れるのは他作品で証明済み。
本書の場合は対象としている年齢が明らかに低い。掲載誌の「Sho-Comi」の読者層と作風の幅広さに感心する。その中でも小中学生を対象とした作品で、作者は その人たちが楽しめる作品を描くことを念頭に連載を進めているように思う。
なので明らかな対象年齢外の私は本書の内容を決して評価しないが、作品を面白くしようとする作者の姿勢には好感を持った。作品の評価とは別の、作者の過剰なほどのサービス精神は やや過分な称賛かもしれないが池山田剛さんと同じDNAを持っている気がする(特にデビュー長編『GET LOVE!!』)。
どちらの作品も絵が好みじゃないし、幼い顔立ちの割にエロいことばかりさせようとする慎みの無さが苦手に感じるのに、何だかんだで読み続けてしまう力がある。短期連載が長編化して、その僥倖の中で、どうしたら もっと連載が続くか ≒ どうしたら対象読者に喜んでもらえるのかを模索し続けて新しいことに挑戦し続ける姿勢が似ていると思った(さすがに終盤 息切れした感じがあるが)。大人が読んだら失笑を禁じ得ない滅茶苦茶な展開ではあるが、カップルとなる2人が いつでも相手への愛を信じて進み続ける姿勢でいるから、空中分解せずに話が上手く まとまっているような気がしてくる。
過剰なサービスと早い展開は本書が当初は3話までの短期連載で、その後、読者からの人気を得て、すぐに長期連載へとシフトした という連載形態も影響しているだろう。連載継続という千載一遇のチャンスに作者は全力を傾ける。そして湧き出てきたアイデアを全て形にして、物語にスピード感を失わせない。
そして若い読者に受けるのは展開の早さだけじゃなく、数多のライバルをちぎっては投げ ちぎっては投げていく 2人の無双状態が受けているのではないだろうか。確かに本書はヒロインが振り回されるだけじゃなく、2人にとっての危機も多く描かれている。そしてヒーロー側も自分の未熟さを自覚して最後まで成長し続けている。最後まで2人で手を取って結婚という最大の目標に突き進んでいる感じが、読者の爽快感に変換されていくのかもしれない。
ただ やっぱり今回のタイトルにした通り、クルーズ船に乗った2人が数時間後にハワイにいるなど、冷静に見ると おいおい とツッコまずにはいられない。しかしツッコみながらも、毎回がクライマックスのような面白さが確かにある。心配なのは本書で少女漫画の色々な設定(幼なじみや三角関係など)を使ってしまったため、この後の連載作品でネタが枯渇するのではないかということである。
平凡女子高生の中川(なかがわ)ひなた は亡き祖父が生前に決めた婚約者に会う。その婚約者が お金持ちだったという まるで白泉社作品のような展開を見せる。ただし相手への恋心に気づくまでに10巻を消費する白泉社作品と違い、本書は すぐに恋に落ちる。そして白泉社で問題となるような格差問題は気合いと若さで乗り切るのが本書である。
相手は日本一の大財閥、條森(じょうもり)グループの跡取り・條森 前(ぜん)。彼はイケメンだがヒロインより年下で そして背が小さい。この設定でヒーローが理想的イケメンだったら他の連載の中に埋もれてしまったかもしれないが、ヒーローもまた成長途中という設定が斬新で心に残る。
出会ってからは全てが前(ぜん)のペースで進む。7日後に開かれるパーティーのために ひなた は前と同じ学校に通わされ、教育させられるのだが、前に車の中で服を脱がされて制服に着替えさせられたり、テーブルマナーを叩き込まされたりして ひなた は すぐに音を上げる。2人の格差や考え方の違いから2人の婚約は成立前から破綻寸前。状況への適応も早いが諦めも早いのが ひなた である。
だが自分の言い分ばかりの ひなた と違い、前は ひなた が好きな世界を見ようと歩調を合わせてくれる。そして1日一緒にいることで ひなた も前の弛まぬ努力を知る(一緒に入った書店で日本経済の本を読みだす男なんて意識が高すぎて嫌だけど…)。
そして迎えたパーティー当日。前はドレスアップした ひなた の姿を見て赤面。パーティーで前の振る舞いを見て格差を感じるかと思いきや、ひなた は彼の堂々とした姿に惹かれる。だが招待客の中には前を悪く言う者もいる。彼らの前の評価は事実かもしれないし、ただの やっかみ かもしれないが、ひなた は前の悪口に反応し、相手に啖呵を切る。忍耐力のない ひなた のマナー違反にも見えるが、相手が逆ギレしてくれた お陰で前がヒーローとして彼女を守り、そして彼らが正義となる。
前は この騒動を利用し、大衆の前で ひなた が婚約者だと発表。こうして ひなた は前から「俺の嫁になれよ」と「オレ嫁。」宣言をされる。
ひなた が前の良さを知るエピソードは あったが、前が ひなた を認めたのはドレス姿だけ。結局、容姿の問題なのかと思ってしまう。1話で婚約まで到達させるにはページ数が足りないのだろうけど、高齢者に親切、みたいなことでもいいから ひなた の心の美しさを描いて欲しかったかな。
どうなっちゃうの…⁉ と言いながら、ヒロイン街道を進む ひなた。婚約発表の場となったパーティー後も ひなた は都内一の学校に通学し続ける。だが学校で孤立し、一人だけ野生のサル状態。
そして ひなた は婚約を頑なに認めない。そんな彼女を前は豪華客船に連れていく。やっぱり前はドレスアップした ひなた に弱いのか、彼女が着飾ると素直に褒める。そんな お姫様扱いに ひなた も満更ではない。だがドジな ひなた が前から贈られたばかりの髪飾りを落としそうになり、それを取ろうと ひなた が海上に落ちそうになる(このピンチのためだけの豪華客船だろう)。それを前に助けられ、ひなた はピンチによって興奮が冷めない前から自分への気持ちを初めて聞かされる。前は どうやらパーティーでの ひなた の言動が前の お気に召したらしい。どうして少女漫画はキレやすいヒロインが絶賛されるのだろうか。少女漫画で ちょっと悪そうなヒーローが重宝されるのと同じ構造か。自分の世界に 居なかった人だから目に留まりやすく、心を惹かれやすいのか。じゃあ どうせなら財閥の御曹司とギャルぐらい振り切って欲しいなぁ。
そして前は ひなた を自分のものにするためには性的な支配も考える。スピード感のある展開と、性的なシーンを盛り込むことが読者の心を掴むのだろう。乱暴狼藉を働く思春期真っ盛りの前を ひなた は実力行使で阻止する。ひなた が流されるのではなく、腕力的には対等だからギャグになっている。エロい場面でも前が小さいからこそ過激さが緩和されている。
そしてギャグといえば豪華客船でイチャイチャしてたら あっという間にハワイに到着しているのも抱腹絶倒の一級品のギャグだろう。えっ ギャグ、だよね…。作者は船の旅を飛行機と勘違いしているのだろうか。ハワイで前が見せたかったのは花火。朝に日本を出発して、夜にはハワイで花火(船旅)。時差とか船の速度とか もう滅茶苦茶である。
花火が夜空を彩る雰囲気に ひなた は負けキスを許しそうになる。男性が自分に どれだけ豪奢なことをしてくれるかで愛を測るのが女性というものか。だが寸前でキスから逃亡した ひなた は酔客とトラブルになってしまうが、そこに前がヒーローとして参戦。そして酔客の お酒を浴びた ひなた が大胆に服を脱ぎだして前が大慌て。どうやら自分のペースで服を脱がせるのはOKだが、脱がれると思春期が爆発してしまうらしい…。そして酔うことで ひなた は前に言えなかった本音、婚約の前に好きという言葉が聞きたいと彼に告げる。
それだけ言って昏睡してしまった ひなた。目を覚ました後、前夜、彼が問いに答えてくれなかったことに落胆する。しかし前は ひなた のためにチャペルを用意していた。そこで彼は ひなた に ひざまずき、好きだ、結婚してくださいと伝える。その言葉は嬉しい ひなた だが、その前に交際だと順序を踏むことを約束させる。こうして2人は結婚を前提に交際を始めるのだった。こうして将来的な「オレ嫁。」が確定したところまでが当初の3話の短期連載の内容である。
交際が決まってから ひなた は條森家で暮らすことになる。親は娘が玉の輿に乗ることに大賛成で、彼女を快く送り出す。両親というブレーキ(≒現実感)が無いのも低年齢向け少女漫画である。
ひなた は執事から、前が3か月後に正式に跡取りになることを知らされる。そして前から その日に正式な婚約の発表をすることを告げられる(1話のパーティーは飽くまで私的なものだったか)。これによって前にとって後継者として立派に認められ、そして ひなた を嫁にするのが人生の目標となる。
條森家でイチャイチャしながらも、ひなた は前が変わらずに努力をして、そして少し無理をしていることを知る。彼のブレーキ役となるのも「彼女」になった ひなた の役目。その変化が微笑ましい。
そんな時に屋敷に到来するのが前の兄・創(そう)。確かに前は1話から次男の設定で、長男でないからこそ人一倍の努力で正式な跡取りだと周囲に認めさせたいという目標があった。
創は留学中の身。そして ひなた の祖父が婚約者に指定したのは元々 兄の創の方だった。これも1話では祖父の語る婚約者は年上でイケメンだという内容だった。ここは最初の設定を上手く活かして成立させた三角関係である。でも もし作者が こんなにも長期連載になると分かっていたら、創の出番は最初ではなく最後にして、最強の当て馬として用意しただろう。だがネタを温めていたら不発になってしまうかもしれないので、最強の切り札を最初に使ったようだ。
次男の前が後継者になっているのは、長男の創が後継者を放棄して留学したから。だから前は兄に比べられて劣らぬよう努力した。しかし その身勝手な兄は婚約者だけは譲らないという態度を取るから前はその身勝手さに腹を立てる。
そして ひなた は創という完璧な王子様を前にしても、頭の中は自分にストレートな愛を告げる前で いっぱいである。2人の男性を比較して前が勝った。三角関係の勝負は最初から ついている。
ただ ひなた は、あまり仲の良くない條森兄弟の関係を修復しようと お節介を焼く。前とのデートに創を誘ったことで2人のイケメンが自分を取り合う夢の展開になる。
前は創に対抗意識を燃やすあまり ひなた のことを大切にしていない、と創は感じる。そのことを ひなた に指摘するが、彼女は前を全面的に信じている。創を前にしても少しも揺るがない ひなた の強さを知って、創は ますます ひなた に興味を持つ。
ひなた の前で余裕のない自分を前は反省するが、それ以上に独占欲が強くなり、彼女の全てをモノにしたい気持ちから首筋にキスマークを付ける。この際の ちょっとエロい展開が読者に受けているのだろう。ただ こういう手法を繰り返すと2000年前後の有害な描写ばかりになってしまうのが難しいところである。この切り札は濫用してはいけない。それでも一方的に前のペースになるのではなく、ちゃんと仕返しするのが ひなた の強さである。ここでも身長も年齢も女性側が上という設定が ちゃんと安全弁として機能しているように見える。
ひなた は自分が前を好きになっていることを既に自覚しており、そして初めてのキスは前とすることを決めていた。だが創は そんな ひなた の乙女心を打ち壊す…。これは『2巻』も読まないと、と思わざるを得ない王道の手法だが これ以上ない展開である。