《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

何度 出会い直すことになってもオレは、毎回 お前を嫁にしたいとプロポーズするだろう。

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(3) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

1・2巻が連続緊急重版で10万部を越えた今、最も勢いのあるウェディングラブコメ!!年下オレ様な前くんの一途なプロポーズに中毒者多数!! 3巻は、記憶を失った前にひなたが、逆プロポーズ!?でもでも、前くんの新たな婚約者が現れて?? オレ嫁。最大のピンチが訪れる中、2人の恋に奇跡が訪れる・・・。

簡潔完結感想文

  • 祖父の決めた本来の婚約者の次は、相手の母親が決めた本当の婚約者登場。
  • 知人に誘われて ふと参加した撮影が華々しい芸能生活の第一歩だなんてッ!?
  • さすが中学生。婚約は何回でも発表したいし、すぐにエロいこともしたい。

2回目の出会い直しと、2回目の最終回チャンス、の 3巻。

『3巻』ラストは まるで最終回のようで、次回で2人の一夜が語られて、それから数年が経過し、2人の結婚式の場面になっても全く変ではない。それを証明するかのように、この『3巻』の次に最終『11巻』を読んでも それほど違和感がないだろう。2人で迎える初めての一夜という共通点があって、驚くほどスムーズに話が繋がっている。
…ということは、作者には失礼だが『4巻』~『10巻』は読まなくても大丈夫、ということでもある。もしタイパを追求する人がいたら、邪道ではあるが『3巻』→『11巻』を読むことを お薦めする。それで本書のエッセンスは吸収できるだろう。そのぐらい『3巻』は2人の心が初めて、そして しっかりと重なるまでを描いていて、心情的には ここがピークだと思わせてくれる。

『3巻』で作者が やりたいこと、作品が やるべきことが終わっているのは話の構成的にも言えることで、最初に最強の当て馬・創(そう)を蹴散らして、次に登場するのが幼なじみ かつ 社会的地位が同じの芸能人級に可愛い女性ライバルとなっている。しかも結婚を目的にしている本書において最大の障壁であるヒーロー・前(ぜん)の母親まで登場し、2人の結婚の阻止しようと動く。そんな2人の最強の女性を たった1巻で蹴散らしてしまうので、もう作品的に「最強」は存在しないと言える。実際、作者は考え得る最強のカードから切っているので、徐々に手持ちのカードが弱くなるジリ貧構成になってしまっている。最初からラスボス級の戦いが続くので、どうしても後半はライバルが勝つ見込みが感じられないから恋愛漫画としてハラハラしない。その代わり荒唐無稽な展開には手に汗握ることが出来るが…。

自分の本来の婚約者の創の次は、相手側の家族が望む婚約者が登場。でも婚約者キャラは2人が限界。

実質的な最終巻とも言える『3巻』で良かったのは、記憶喪失になった前が何度 ひなた に出会っても彼女に恋に落ちるという前側の純情と運命性が描かれていたところだった。だからこそ2人の愛が強固に感じられ、そして最終回感が滲み出ていた。当初は3回の短期連載だったので あっという間に前は ひなた を好きになり、そこから猛アタックを繰り返していたが、今回、記憶喪失によって改めて1巻以上を消費して彼女に恋に落ちる様子を描いていて彼の恋心に説得力が増した。

それは ひなた に関しても同じ。これまでは前に愛されるだけのヒロインで、彼を好きになる自分に戸惑って彼を拒絶してばかりいたが、今回は攻守交代が見られて、ひなた にとって前が どれだけ大事な存在であるかが描かれていた。今回、ひなた は大きな事件に巻き込まれ、前がヒーローとして登場するのだが、それだけでなく ひなた も前と一緒に共闘するような場面があって2人が真の意味で並び立っている感じが見られて良かった。

上述の通り『4巻』~『10巻』は恋愛としては虚無である。ライバルが現れ、それを撃退するの繰り返し。だけど そんな長期連載が出来たのは作者が最初から読者を楽しませるために工夫を凝らしたからだ。ある意味で中盤は作者の ご褒美タイムと言えよう。そして その中盤の展開には唖然とするばかりだが、作者が手を抜いている訳ではないので、それがマイナスの評価にはならない。ツッコまれつつ愛される、というポンコツ具合が中盤の良い部分なのではないか。


の記憶が戻らない内に、前の母親が屋敷に戻ってくる。彼氏の母親は、結婚への最大の障害になり得る人。兄・創に続いて またも最強の身内の登場である。

そして開口一番、前の母親は息子が勝手に進めていた婚約の解消を申し出る。しかも それは庶民の ひなた の否定だけでなく、新しい婚約者がいるからという理由があった。お相手は名家の御令嬢の有栖川 聖奈(ありすがわ せな)。前とも幼なじみで旧知の仲。名家+幼なじみ の女性ライバルの最強コンボである。ひなた は将来の姑である母親、そして幼なじみの御令嬢、2人の女性を相手にしなくてはならなくなった。

母親は住んでいる世界が違う ひなた とは一緒に住めないということで、彼女を屋敷から追放する。本来の記憶のある = ひなた を好きな前なら全身全霊で彼女を守ってくれるが、今の前は冷酷にも彼女に背を向ける。まぁ『2巻』で創に そそのかされた ひなた は、前に一方的に婚約を破棄したのだから、これは当然の報いとも言えなくもない。同じ痛みを味わって当時の自分を反省するが良い(しないけど)。


一晩泣き明かした ひなた の現状を聖奈が気遣い、彼女を外に連れ出す。目的地は超売れっ子中学生モデル(!)でもある聖奈の撮影現場だった。彼女は急病で来れなくなったモデルの代役を ひなた に依頼する。
だが当然 場慣れしていない ひなた は失敗の連続。彼女への冷たい視線が増える中、聖奈は謝罪する。だが それは ひなた が無理に撮影に同行してくるような目立ちたがり屋で、自分は断るに断れなかった、という ひなた への追い打ちだった。

聖奈の悪意は前への好意から。だが少女漫画においては悪意をもってヒロインを傷つける人は その時点でライバル失格。ショックの余り倒れそうになる ひなた を助けに前が登場する。未だに以前の記憶はないが、不器用な言葉で ひなた を元気づけ、彼女を笑顔にする。そうして ひなた は再度、撮影に臨み、周囲の人を魅了する。これが次の展開の伏線になるとは思いもしなかったが…。

前も また ひなた の笑顔を見て胸が締め付けられる。記憶のない前もまた ひなた に惹かれ、婚約の解消を心苦しく思っていた。そして撮影現場のスタッフから一枚の写真を渡され、そこに映る ひなた の前にいる自分が彼女に熱い視線を送っていることを知る。だから眠っている彼女に前はキスをする。この能動的な行動が全ての答えである。


てが好転するような予感はあるが、現実は厳しく、1週間後には ひなた は実家暮らしに戻り、学校も転校させられていた。ここが自分の本来の場所だと思い、前から贈られた左手の指輪も外そうと思うのだが、涙が溢れ それは出来ないことを思い知る。

一方、ひなた を惨めにさせるはずの撮影で自分が彼女に喰われてしまった聖奈は前の前で下着姿になり、彼を誘惑し実力行使に出る。だが前は性的な衝動よりも ひなた への愛が勝っていた。またも ひなた に近づく悪い虫を撃退し、ヒーローとなって参上し、彼女を奪い去る。記憶は戻っていないが、何度 出会い直しても自分は彼女に惹かれてしまうことを思い知ったのだろう。そして今の前も彼女に告白する。こうして2人は両想いになるのだが、ひなた は今の前を別人とは思わないのだろうか、という疑問もある。


が そんな両想い状態の2人の前に母親と聖奈が再び現れ、3日後に聖奈との婚約をテレビで大々的に発表するという。誰が興味あんだよ、そんな情報。中学生の婚約情報なんて、きっと視聴率0%台だよ。それにしても本書は3日後の婚約発表とか、5日後の継承式とか、小刻みにスケジュールを立てるなぁ…。短期的なタイムリミットが読者の焦燥を増幅させるのだろう。この手法は福山リョウコさん『悩殺ジャンキー』でも採られていたように思う。

こうして2人は母親によって引き裂かれ離れ離れのロミオとジュリエット状態になる。だが前は ひなた に俺を信じろと言ってくれ、ひなた は彼を信じる。
やがて大財閥・條森(じょうもり)家の跡取りの婚約発表は全国ニュースになり、ひなた は すぐに不安になってしまう。だが彼女が不安やピンチになったら それは前が登場する兆候。自室で膝を抱える ひなた の前に前は姿を現す。話し声と物音を不審に思った親から隠れるため一つの布団の中に2人で隠れたりした後、前は自分の計画を発表する。それはテレビ会見で前が聖奈ではなく ひなた との婚約を発表するというもの(聖奈の惨めさは考えてる…?)。そして会見後の密会を約束して前は嵐のように去っていく。前ってさ、力任せの作戦しか出来ないの? と彼の賢さに疑問を感じる。読者の対象年齢が低いから仕方ないが、もう少し自分の立場を考慮して、周囲が納得するような手法を採って欲しいものだ。

「信じてる」から2日、ページにして2ページで不安になるヒロイン。私は お前が信じられんが…。

見当日、ひなた は前との待ち合わせ場所に赴くが、そこで聖奈の息のかかった輩に拉致されてしまう(なぜ聖奈側は集合場所を知ってるのか…?)。薬で昏睡した ひなた は、前から贈られた指輪=愛の結晶を指から外され、それを路上に捨てられてしまう。約束の時間に現れない ひなた を探し回る前は その指輪を見つけて ひなた に何かあったと推測する。輩の人も、犯行現場付近に物証となるような物を捨てるとは頭が悪い。

目を覚ました ひなた の前に現れたのは輩と聖奈。聖奈は輩の男たちに ひなた への暴行を命じる。だが聖奈を慕って動く男たちは聖奈の悪態にキレ、今度は聖奈が辱めを受けてしまう。
そんな彼女を助けるのは火事場の馬鹿力を見せる ひなた。聖奈への恨みは脇に置いて、彼女を助けるために立ち上がる。奮闘虚しく捕まる ひなた の前に現れるのは当然 前。この場所が分かったのかはヒーローだからなのだろう。その辺を深く考えてはいけない…。だが ひなた に刃物を突き付けられて前は屈服せざるを得ない。プライドの高い彼が土下座をすることで ひなた の無事を確保しようとする。そんな前に輩たちは一方的に暴行を加える。

ひなた は どうにか自分を掴む男の手から逃れようと暴れるが髪を掴まれてしまう。そこで彼が落とした刃物で自分の髪を切り落とし、前のもとに駆け寄る。抱き合った2人に奇跡が起き、前は記憶を取り戻す。そして「完全体」となった前は輩を圧倒し、ひなた もまた守られるだけじゃなく、自分でも男を のしていく。この共闘に2人の明るい未来と彼らの夫婦像が見えた気がする。


察の到来によって事件は解決する。
前は傷だらけの姿のまま婚約発表の場に立つ。止めようとする母親を振り切って、前は ひなた との未来に進んでいく。無数のカメラの前に立つ2人。ひなた は緊張で足が すくむが、その手を前が握ってくれることで勇気が出る。そして前はカメラの前で ひなた こそが未来の花嫁だと紹介し、彼女の左手に再度 拾った指輪をはめる。そして問題解決の証明として ひなた にキスをする。

それが済むと2人は記者たちの追及を避け、逃亡する。感動の最終回である…。結婚相手が相手が誰なのか、よりも、なぜ御曹司が傷だらけなのかという疑問の方が先に立つと思うが、その辺は無視。そして傷=事件性を見せることで條森グループの信用性に瑕がつくと思うのだが、その辺も無視。スキャンダラスな事件が起きれば それでいい。前も作者も後処理のことなどは考えないし考えられない。


親は子供たちの暴走を決して許さない。立腹する彼女の前に ひなた は膝をつき、自分が前に ふさわしくなれるよう努力を誓い、その猶予をもらいたいと願い出る。
それでも母親は聖奈を婚約者に推すが、この場に現れた聖奈は ひなた こそ前に ふさわしいと援護射撃をする。そして自分の罪を告白し、その上 ひなた に完敗したことを母親に告げる。ひなた から どんな罰も受ける覚悟の聖奈だったが、ひなた は彼女を でこピン だけして許す。誘拐現場に警察を呼んだのは聖奈だと推理した ひなた は、それで彼女を勘弁する。

そんな ひなた の裁定に前は笑顔を見せ、その前の笑顔に母親は彼が どれだけ ひなた に心を許しているかを思い知らされる。こうして ひなた は最強の身内である母親、そして最強ライバルの2人を味方につけてしまう。いや、母親は前の心の問題ではなく、條森家の立場を考えて動いていたはずだが、その考え方の軸のずれを作品は全く考慮しない。2人を邪魔する敵が撤退していけば それでいいのだ。

騒動が完全に解決した夜、2人は会見場所のホテルに宿泊する。そこで前が欲するのは ひなた、からの「好き」という言葉。ひなた は『2巻』でのバレンタイン回で彼に告白しているが、それは記憶喪失の前に対して。だから前は完全体である自分への告白を強く望み、そして ひなた も改めて彼に気持ちを伝える。

そして作品的にやることがなくなったら、性行為を匂わせるのがお約束(以下、次巻)。実に あざとい構成である。