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少女漫画と小説の感想ブログです

家の広い方が 狭い方の家を訪問するのが お約束。押しかけ御曹司から押しかけJKへと立場逆転。

高嶺と花 6 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第06巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

高嶺に突如訪れた最大のピンチ! 財閥会長の祖父に、すべての財産を取り上げられ、スーパーリッチから一転、持たざる者に!?高嶺が押しかけてこない事を不審に思った花が様子を見に行くも、拒絶されてしまい…?すべてを失った、素の才原高嶺に花は、どう向き合うのか?転機の第6巻!!

簡潔完結感想文

  • 通常営業は作中で1年と持たず、正月明けから高嶺の大安売りセール開始。
  • マンネリ展開、友人の恋など行き詰まった作品の打開策が革命的である。
  • 押しかけ御曹司から押しかけ女子高生に立場が逆転。いや、立場は一緒に。

中で革命が起きる 6巻

中盤から御曹司が平民に没落する高嶺(たかね)ピンチ編が始まる。
これを仕掛けるタイミング、そこからの騒動、2人の恋愛関係や立場の変化の描写など、全てが秀逸。

高嶺の没落は、絶対的権力を持つ祖父による全地位・全財産の没収から始まった。

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本当に大事なことなので2回 言いました。松が明けたら、高嶺 転落劇場も幕が明けた。

これは作品にとっても革命的な出来事。
なぜなら御曹司と女子高生の交際こそが本書の肝だったからだ。
なのに御曹司が没落し、6畳の1ルームの部屋に住む平社員になってしまった。
作品の売りを、売り払ってしまうのは蛮行にも思える。

だが、このタイミングでこれを仕掛けなければ、この「高嶺と花」王朝は終わっていただろう。
作品のマンネリは酷く、物語の存続を狙った友人の恋も 二番煎じでしかなかった。
この国の終焉は近いと思われた。

しかし危機が迫る中、国名は変えずに一つの「革命」を起こしたことで、
読者という名の国民は、これまで通り国に住み続けることを決意したのではないか。

マンネリ打破のため革命という名の新展開が起こることは、
白泉社漫画の歴史から見て自然な流れではあったが、そのタイミングは私が考えたよりも少し早かった。

私の予想では長期連載開始時の作中の季節が4月の春だったため、
春夏秋冬を1巡させて、季節イベントを消化した後で 新展開だと思っていた。

だが作者は読者の予想よりも早く革命を遂行させたので驚いた。
作中で年が明け、松が明けた途端に、高嶺は転落した。
それだけ作品に残された時間に猶予がなかったのかもしれない。

しかし いくら漫画とはいえ これまで自分が働いた お金すらも没収されるとは…。
いい歳して高嶺は祖父の手のひらで踊らされているに過ぎない。
もしかして高嶺が真の自由を手に入れるには、祖父の暗殺しかないのではないか。
高嶺だけに革命を起こしても、祖父の地位は全く揺るがない。
ここから高嶺は自分の力を蓄え、今度は自分の力で革命を成功させ、
自分を操ってきた祖父の地位を地に落とすという展開になるのだろうか(んなわけない)。

この『6巻』は前後半で御曹司と平民、どちらの高嶺も1冊の内に読める お得な内容となっている。


んな中盤からの騒動からしてみれば、前半の内容は遠い記憶となる。

まずはクリスマス回。
カップケーキを手作りして準備を整えていたが、高嶺は仕事。
花(はな)は家族には高嶺に関する落胆を隠さなくなった。
そして高嶺がいないと食事も味気ない。
花は重い恋の病に侵されているようです。

続いてはインターバルとして友人・水希(みずき)とイタリア人御曹司・ニコラの微妙な関係の続き。
この時点ではニコラは水希に夢中になる予定だったのでしょうか。
作品を横に広げたかったのだろうが、正直、高嶺と花の二番煎じなんで1ミリも興味が持てない。
脇役たちの話がつまらないのも、作品の終焉が近いことを予感させていた。


が、物語は年明け から大きく動いた。

元日は高嶺の鷹羽(たかば)一族の食事会。
ここに集う人々が将来的に高嶺の歩む道を邪魔するのだろうか。
顔ぶれは、これまでに登場した人も、これから活躍する人も、これっきりの人もいる。

この場面で、高嶺が「あいつの事で悩む10ヵ月」と言っているのが気になる。
4月から数えてということなんだろうけど、元日の時点で10ヵ月ということに違和感がある。


そして松が明けたところで、高嶺の転落が始まる。
4月の年度の替わりではなく、1月の年の替わりで、クーデター(?)は勃発しました。

祖父から財産も地位も住居も全てを奪われてしまった。
労働の対価の給料という正統な財産すら奪われたことに抗議しようとする高嶺だが、
祖父は権力を使って その問題をもみ消すと宣言。
この世界は、お金こそ正義。
高嶺はそれを重々承知しているから引き下がらざるを得ない。

花との食事の日だったが、行けないことを告げ、その後 連絡を絶つ…。


父が用意したのは6畳1間、和式トイレの住まい。
御曹司(たち)は、その部屋を玄関ホールとしか認識できないのが笑える。

そして当面の生活費は1万円。
まさか高嶺が交通費の計算をしたり、電車での移動すら躊躇うなんて。
まさに価値観の転換である。

それから1週間。
高嶺は とある企業に転職したが「やる気もない 見て呉れも冴えない」人間として悪評が立つ。
人を作るのは環境か。
自信を持てるのは自分で選んだ道を歩む人だけか。
容姿は変わらないのに雰囲気が違えば、誰も高嶺に一目置くことはないらしい。

実は、その会社は花の父親の勤務先。
大空を我が物顔で旋回していた鷹は、雀に身をやつし地面の物を拾う日々であった。

花の父が出会った、高嶺は壊れていた……。

これまでの長い前振りがあるので、ここは本書で一番笑ったかもしれない。

どうやら高嶺には全てが恥辱の日々らしい。
「こんな惨めな会社で働いてる事が広まったら 恥ずかしくて生きていけ」ないという。

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もはや髪型をセットする気も起きない高嶺。高嶺に憧れる大海が見たら 彼も壊れそうだ(笑)

信不通の高嶺を心配した花に情報を提供するのは、有能なサポート役・霧ヶ崎(きりがさき)。

居なくなった上司(?)を得意の情報収集能力を駆使して探し当て、事情も類推する。
会社のデータベースに侵入して、高嶺の現住所も把握済み。
霧ヶ崎が、花に10日も会っていない高嶺の体調・メンタルを心配するのが良い。
彼は高嶺最初の敵であり、そして高嶺最初の味方でもある。

霧ヶ崎から住所を入手して、高嶺のもとに向かう花。
その道中、花が見たのは、見るからに落ちぶれた高嶺の姿。

花と目が合った高嶺は逃亡する。
高嶺の全速力が見られるなんてレア。
急いで部屋に逃げ込む高嶺に、花は扉の外から本音を告げる。

あなたが心配だと、事情を知りたい、お見合いとの関係は?
そして あなたの役に立ちたい、と。

ここは本音を言わない2人の関係で、花が本心から高嶺を心配していてグッとくる。
異常事態に対しての反応が、笑いにもなるし涙にもなる。
本書の面白さが存分に出ている。


が高嶺は、花を拒絶する。
彼女をガキ扱いし、居られても困る、と門前払い。

ここで祖父が正月に高嶺に言った言葉が効いてくる。

「くれぐれも 守りたいだけの女ならやめておけ
 お前の妻は 守り合える伴侶であってほしい」

この祖父の言葉は『2巻』の短期連載最終回で、
「守られるのが嫌だというなら 尚のこと守り抜いてやる」と言っていた高嶺の言葉にも通じるものである。

ここから見えてくるのは、この話でのゴールや目的である。

つまり、この高嶺ピンチ編の目的は、
高嶺の社会的地位の復活だけでなく、彼の意識の変革が目的であろう。

花という人間にどこまで頼れるか。
誰かに頼ることができることが、高嶺の懐の広さの証明になる。

一方的ではなく、双方向の信頼を育むこと。
それが2人の見合いに課せられた課題となるのだろう。


ちなみに この時、高嶺は花にタクシー代を渡している。
千円。
たった千円だが、これは高嶺の現在の所持金 最大1万円(10日でかなり減っただろう)の何分の一かに相当する額で、
自分の生活の質よりも花の身の安全を優先しているという意味でもある。
口では厳しいことを言っているが、誰よりも大事な人には変わりないはず。

しかし花はそれを受け取らず、悲しみの中を歩いて帰る…。


方ぶりの再会は お互いショックを受けた形で終わった。
それを助けるのは互いの友人たち。

花を傷つけてしまったことに落ち込む高嶺にはニコラが訪問する。
彼は面識のある高嶺の祖父から情報を聞き出し、新居の住所を手に入れたらしい。
ニコラは高嶺を心配するし、高嶺の本心を見透かすし、物質的援助もしてくれる。
高嶺に唯一の友達を設定しておいて良かったですね。
でなければ完全に孤独になってしまう。
『5巻』登場の りの では話がややこしくなるだけだし)

花にはクラスメイトの男子・おかモン。

いつも通りに振る舞う花だが、おかモンには事実を隠し通せない。
それに高嶺の一大事を伝えても粛々と受け止めてくれるから話しやすい。

拒絶されてしまい身動きの取れなくなって、下ばかり向いている花の視線を上げさせるのも おかモンの役目。

高嶺の一言で委縮してしまっている花。
その彼女に これまで高嶺に振り回されてきた花が、高嶺の都合何て気にすることはない、と
本来の花なら思いつくような考え方を示してあげる。

それだけ花は落ち込んでいるのだろう。
今度は花が「助けられるのが嫌だというなら 尚のこと助けに行ってあげる」べきなのだ。

花は再び高嶺の新居に向かう。
そして もう一度向き合った高嶺に対して、
今度はキスではなく(『1巻』1話)彼を奮起させるために、高嶺のネクタイを引っ張る。

とても少女漫画ヒロインとは思えない表情で高嶺に減らず口を叩く花。
こちらは早くも復活しましたね。
今度は高嶺の復活を彼女が助ける番だろう。


2人の関係は、花も語っているが「金の切れ目が縁の切れ目」である。

だが、そう思っているのは高嶺の方。
本来の意味とは違うのは、花が高嶺のお金をありがたがるのではなく、
群がる者は俺の金目当てと身構えていた高嶺が、自分が お金の鎧で武装していること。

その鎧が無くなって、素っ裸になってしまった高嶺は、
その恥ずかしさの余り、花に会いに行くことが出来ない。

ニコラは高嶺に素っ裸でも彼女に会いに行ける勇気や覚悟が生まれることを期待している。