《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

L♥DKって何の略? 利益♥大好き 講談社。連載の当初の予定は8回で♥どんどん続いて 96回。

L・DK(1) (別冊フレンドコミックス)
渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

一人暮らしの女子高生・葵(あおい)の隣に引っ越してきたのは、親友をフッたばかりの超ワガママな学園王子!! パニック寸前の葵に、「ハプニングのせいで“同居”しなくちゃならない」という、とんでもない運命が降りかかる!! 冷血漢で大嫌いなヤツ……のはず……なのに──。揺れるココロはもうドキドキ。ひとつ屋根の下、青春ラブストーリー。

簡潔完結感想文

  • 嘘感想文。隣に越してきた学園の王子。お近づきになるためにわざと火を起こしてみた(計画通り)。
  • リビングに友人がいる状況で浴室でイチャイチャしてみたという大人の映像を少女漫画に落とし込む。
  • 私たち繋がってるー⁉ 手錠で繋がれたまま水着を試着。必要性の全くないドキドキの連続を見逃すな。

めて会った時から昔の男の面影と 既視感がちらつく 1巻。

完結24巻発売時には発行元の講談社が累計発行部数1000万部を突破と うたっている大人気作。
どこにでも人気作を批判することで憂さ晴らしをしたり自分の心の安寧を保とうとする輩はいるものですが、
今回は私もその一味に加入せざるを得ません。

初読時から これは二度と読み返さないだろうな、と思う作品も珍しい。
絵も展開も全てが及第点なのだが、悪い意味でページを めくる手が止まらない。
読者に手や視線を止まらせるほどの求心力や深みに欠けるのだ。

当初の連載予定の8回を過ぎてから、登場人物をいたずらに増やしたり、
ヒーローの過去に設定を全部乗せしてみたりと手は尽くしているが、いかんせん土台が脆い。

良くも悪くも無味無臭の主人公カップルに感情移入する余地は少なく、
イケメン同級生との同居というシチュエーション以上のドキドキは伝わってこなかった。
私としては、もっと恋をする胸の高鳴りや喜びを重視して欲しい。


1、2巻のシチュエーション優先の展開は、私に みきもと凛さんの『近キョリ恋愛』を連想させました。

『近キョリ』の感想文でも書いたが、この手の漫画は良くも悪くも「胸キュンシーンの見本市」を読まされている気分になるのだ。
作者は主人公たち2人の心がどう通うかよりも、あの手この手で特殊環境を作り出すことに腐心する。
編集者側からの課されるハードル設定は多分そこにあるのだろう。

奇しくも本書も『近キョリ』も掲載誌は「別冊フレンド」。
なるほど私が嗅ぎ取ったのは「別冊フレンド」臭なのか…。

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胸キュン見本市 その1。付き合ってもないのに入浴タイム。

数えてみると私が感想文を書いた「別フレ」作品は本書で5作品目。
『影野』『私モテ』・『近キョリ』・『スプラウト』
どれも設定こそ命という感じで、1話目で考案した1(ワン)シチュエーションで押し切る感じが似ています。

最初に特殊な状況下の恋愛を描かせて、人気が出たら当初の予定から引き延ばす方式っぽいですね。
そこに抒情性や作家性は、あまり必要とされていない。

作家に問われる技量は毎号、面白い話が描けるか。
長期的な計画性よりも瞬発力が必要となるお仕事だ。

もちろん否定はしない。
作家によって得意不得意があり、こういうアドリブに強い作家さんもいるだろう。
本書も中盤、ギャグに特化した回などは作者のセンスを大いに感じた。

ただこれからは掲載誌にも注意して作品を選ぼうとは思った…。


体の統括が長くなりましたが、いよいよ本編の感想です。

本書はいわゆる「同居モノ」。

ある日、アパートで一人暮らしをする高校2年生の女子・西森 葵(にしもり あおい)の隣に越してきたのは、学園の王子と呼ばれる久我山 柊聖(くがやま しゅうせい)。
ある日、隣の部屋で転倒した柊聖は王子という称号とは裏腹の苦学生であることが判明。

一人暮らし歴も1年以上が経過し料理もお手の物になっていた葵は彼に料理を振舞い、一緒に食すことに。
食卓を囲んで見えてきたのは王子でも冷酷な人間でもない久我山柊聖という人の顔。

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胸キュン見本市その2。2人だけに分かるサインで感謝の気持ちを伝える。

自分の食事を美味しそうに食べる柊聖に気をよくした葵は再び柊聖の部屋で料理をするのだが、
不注意から火を出してしまい、スプリンクラーを作動させてしまう。

なぜかフローリングの葵の部屋と違い、畳敷きだった柊聖の部屋は暫く住めない状態に。
そこで当初は修繕の間だけ、責任を取って柊聖と同居することになる…(その後ずるずると同居)。


同居というシチュエーションへの展開はそれほど不自然さはないように思われる。
ここから続く「胸キュン見本市」の連続に比べれば驚くほどスムーズ。

ちなみに、どう見てもワンルームの部屋での同居なのに題名は『L♥DK』なのは、
「ラブ♥同居」という造語の略称だかららしいです(『8巻』ごあいさつ より)。
なので、現段階では『L♥DK』でもなく、「1R」=「ひとりぼっち」なんですかね(苦しい…)。


定重視の作風は理解できるとして、人物描写の薄っぺらさは否めません。
主人公2人ともに魅力を感じないのだ。

葵の性格は、親友の萌(もえ)を にべもなくフッた柊聖に対して抗議する義侠心を見せ、
倒れた柊聖に料理を振舞うことで優しさや母性を演出しようとしている。
更に柊聖の部屋の前でたむろして盗撮しようとしている上級生に対しても毅然と立ち向かう勇気を持つ。

1話では葵の性格を見せようという努力が見られるが、
その後は柊聖のペースに巻き込まれ、ギャーギャーと騒ぐばかり。

胸キュン シチュエーションに巻き込まれる、没個性の主人公になってしまいます。
少女漫画の凡庸な主人公という面さえあれば葵は代替可能な部品のようです。


そして、私が最も残念なのは久我山柊聖という男。
マジで、ガッカリだぜ!(本書後半のネタ)。

作者としては現段階では簡単に素顔を見せない、底の知れない男として描きたかったのだろうが、
それ故に、読者には無機質なロボットのように思えてしまう。

不愛想で女性に冷淡な面を強調したかと思えば、葵に対して胸キュンモードで接する性格の安定しないポンコツ ロボット。
葵もさすがに「想像と違う」「矛盾してる」とツッコむが、
その性格の複雑さが柊聖に立体的な魅力を引き出しているかというとそうではない。

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胸キュン見本市その3。手錠に繋がれたまま入る更衣室。設定の創出お疲れ様です…。

顔も含めて、やっぱりどこか平板で、好きになる糸口が見つからない。
なので葵の恋心も、その真剣度もいまいち伝わってこない。

多分、作者としては柊聖の冷血漢のギャップに葵が興味を持つようにしたくて柊聖に口の悪い冷淡さを加えたのだろう。
磁石のように反発していた2人がいつの間にかに引き合う仲に転じていた流れを描くのが目的だったはず。

だが、結果的にヒーローである柊聖が性格的ドSではなく、人でなしに 映るのは大失敗ではないだろうか。
子供のような柊聖の笑顔に惹かれる葵だが、柊聖は「ような」ではなく、子供なのだ。
自分の興味の外にいる人間の気持ちを思い遣ることの出来ない人を誰が好きになるだろうか。

初手で躓いてしまったが故に、後半は1冊10分で読み終えてしまうことになった作品。
読者の作品への没入力・補完力が問われるのかもしれない。


そんな柊聖と私がどうしても比べてしまうのが、咲坂伊緒さんの『ストロボ・エッジ』の蓮(れん)くん。
黒髪、長身、学園の王子様っぽい立ち位置が似ている。
もっと言えば蓮くんもロボットっぽさが否めない。

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参考画像 蓮くん。咲坂伊緒さん『ストロボ・エッジ』より。

だが、私には蓮くんが1巻だけでとても魅力的に映った。
主人公の仁菜子(になこ)ちゃんが蓮くんに惹かれる様子が手に取るように分かり、共感できた。

それは好きになるだけの情報を作者が提供してくれたからでもある。
王子という記号ではなく蓮くんという一人の人間を立体的に浮かび上がらせてくれたからだ。

共通点が多いだけに、かえってこちらの作品の足りないところが目についてしまう。

これは好みの問題だけではない。
やはり描写力の問題だと思う。
環境設定だけじゃなくて、もっと登場人物を大事に育て上げて欲しかった。


かに同居は設定であり最終目的だから仕方ないが、
登場人物の性格や恋心に関しては看過することが出来ない。

「俺のこと よく知りもしないで 告ってくるやつの方が気味わりぃよ」
と、モテ男ならではの悩みを吐露する柊聖。
まぁ確かにストレスは溜まるだろうし、盗撮やら色々と被害にも合うのだろう。

だが私からすれば、相手が原因で火事になった部屋からといって、
知り合って一日で女性宅に上がりこむ お前の方が気味わりぃよ、と言いたい。

この場面だけで柊聖が自分がモテることに胡坐をかいて、
自分がして許されることを拡大解釈している感じがして嫌だ。

葵にしても柊聖にしても、どんなに相手への好意を書き連ねても、
結局、外見が好みの異性だから一緒に暮らしたという軟派な思想しか伝わってこない。

例えば柊聖が全く好みじゃなかったら、葵はどんな手段を使っても同居はしなかっただろう。
いくら葵に義侠心があると言っても、結局は計算のもとで動いている。
泣く泣く親元に帰ったかもしれないし、借金をしてでも相手の生活を保証したかもしれない。

無理くりなシチュエーションを作れば作るほど、
後半、自分の作品の首を自分で絞めかねない状況に陥る。
特に進路など人生に関わる問題との相性が悪い。
本当にその人にとっての たった一人の人間なのか、疑問が湧き出す。

本当に「別フレ」漫画の冗長さや、作品内での再放送の多さ、後半に向かって満足度の逓減は問題だ。
まぁ1000万部売れたら、もうそんな悪評も どうでもいいのかもしれないが…。


細かい部分だと『1巻』では葵の母のデザインが違いますね。
後半で登場する際はもっと若く描かれている。
父親の方は『1巻』と同じような印象ですね。


ちなみに私は作者の描く横顔が、とても苦手です。
表情が いっそう平板に見える。
もっといえば『進撃の巨人』感があって怖いとすら思う。

おでこの凹凸が無さすぎるのか、目の位置や大きさがおかしいのか、
間延びした横顔がとても気になります。
後半の巻だと、そんなでもないんですけどね。

また遠くいる時の表情や、手を抜いた時の顔がまた苦手です。
雑というかモブキャラ感が一層強まって、オーラがない。
特に柊聖は無感情に見えてロボット感が増します。