《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

連載を完結させたくない作者による究極の恋愛リセット。ヒロインの不幸を望むのは神!?

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(2) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

1巻発売直後に緊急重版!Sho-Comi本誌でも人気爆発中のウェディングラブ、待望の第2巻!! オレ様年下御曹司・前の強引プロポーズに“お付き合い”からはじめたヒロイン・ひなた。でも。そこに前の兄・創が現れ、ひなたへ突然のキス! 兄弟に取り合われちゃう三角関係がはじまっちゃった!! そして、前とひなたの初めての×××も・・・!?

簡潔完結感想文

  • 弟では兄に勝てないと思って結婚相手を変えるヒロイン。当て馬は勝ち馬?
  • 日本一の大財閥の豪邸なのに安普請? 九死に一生を得たはずが再びの九死。
  • ヒロインが好きと言ったら連載終了ですよ。オレ嫁の次はワタ婿のターン。

レ嫁は実質 終了して、次は「ワタシの婿になれよ(通称・ワタ婿)」が始まる 2巻。

以前の感想文で、「長編化した少女漫画は ほぼ少年漫画」説を提唱したが、まさに本書が そんな感じである。短期連載の3話で結婚への道筋が付いたのに、そこから始まる長期連載を長く続けるために、どれだけ彼らの結婚を遠ざけるかに作者は労力を傾ける。そこで登場するのが数々のライバルたちである。結婚というラストシーンの前にライバルを投入し続ければ物語は完結しない。だから作者は考えられるだけのライバルを生み出し、2人の前に立ちはだからせる。
しかし そんなネバーエンディングな展開が許されるのは読者の支持がある間だけ。だから作者は読者が注目するような人や展開を矢継ぎ早に繰り出す。出し惜しみはしていられないので、自分の考えられる最強のカードを最初から出す。最初に投入される最強のカードがヒロイン・ひなた の本来の婚約者である創(そう)だった。最初にラスボス級のバトルを見せることで一気に読者を引き込んだみたいなので、作者の方策は間違っていなかったのだろう。

作者が創を出した もう一つの目的は2人の両想いを阻止するため。上述の通り、絶対的なハッピーは物語のエンドに繋がってしまう。だから創に悪役になってもらい、ひなた が今の婚約者で創の弟の前(ぜん)に顔向け出来ない状態を作る。これによって既に成立している両片想いから両想いへの移行が難しくなり、彼らの苦悩は続く。

そして最強の当て馬の創を蹴散らした後も、最終回直前に使うことを許される禁断の手法で両想いを阻止する。私は本書を冷ややかに見てるので絶句、もしくは失笑してしまったが、この辺は作者の連載継続の熱意の表れだということも分かるぐらいには大人なので、荒唐無稽な展開も割と楽しめた。こうなると もはや作者は、2人の恋愛を成就させてなるものか、という女性ライバルキャラのようなポジションと意地悪さを持ち合わせていると言えよう。作者は絶対に ひなた を大切に思っていない訳ではないが、ひなた が不幸でいてくれなきゃ困るのである。なんだか歪んだ愛情を感じる。

作者は これをやったら物語が陳腐になる、と多くの人が踏みとどまる展開にも果敢に挑戦する。

その上 作者は『2巻』のラストで、事態が解決してないのに更に新規キャラを投入して、消化しきれない量の情報を読者に過剰サービスしてくる。ただし その中で ひなた が前が示してくれた愛を今度は自分が示そうという攻守の逆転が見られたのが良かった。このターンで私は彼女のことを少し好きになれた。このアイデアは最終回付近に取っておいても良かったと思うが、作者は ずっと全力全開。早めに ひなた を自立させるのも悪くない。そして作中の ずっとフルスロットルな雰囲気が内容の稚拙さや荒唐無稽さを上回る爽快感をもたらしてくれている。


にキスをされたことで前に顔向けできなくなった ひなた。ここで間違えてはいけないのは、創は本気であるという点だろう。単純な前への嫌がらせが動機ではなく、創は子供の頃に出会った ひなた が忘れられずに、その想いをキスに託したのだ。このキスが ひなた を傷つけた事実は消えないが、性暴力ではなく純情な行動であることも忘れてはならない。創は一方的なヒール役ではないのだ(この時点では、だが…)。

『1巻』の定期連載開始直後に正式な後継者発表は3か月後ということだったが、物語のスピード重視のためか、創の帰国期限のためか、急に5日後に変更される。招待客も暇じゃないだろうに…。

その場は2人の婚約発表の場でもあるので、ひなた は創との関係を きちんと清算して前に向き合える自分であろうとする。出会い方が違えば婚約者だった創だが、今の ひなた には前がいる。だから きっぱりと創に「お断り」をしたはずなのだが、創は ひなた の隣に立つために跡取りへの再度の立候補を表明する。こうして創は前から全てを奪うことにしたのだ。
そして それは ひなた への脅迫でもあった。前の後継者としての努力を踏みにじられたくなければ、俺のモノになれよ、というのが創の上から目線の命令だった。だから ひなた は前のために彼を遠ざける…。

好きな人も自分も傷つける ひなた の行動は間違っているけど間違っていないのが苦しいところ。ここでは ひなた は勝手に後継者の権利を放棄してカムバックした創の自分勝手さに幻滅しなくてはならなかっただろう。そして長男や才能に胡坐(あぐら)をかいている創よりも、努力家の前の勝利を信じなくてはならなかった。ひなた が前の「彼女」として弱かったことが騒動を大きくしていて、彼女の悲しみは自業自得である。
ひなた は前の努力を知っているからこそ それを無駄にして欲しくなかったのだろうが、前の才能は信じ切れなかった。この問題は最終回前に もう一度 提示して欲しいな。努力だけじゃなくて自分の将来の夫は誰にも負けないことを信じられることが ひなた の心の強さにもなるだろう。


切り とも言える ひなた の選択にショックを受けたはずの前だが、彼は諦めない。どうやら條森(じょうもり)兄弟は諦めが悪いようだ。そして玉砕しても立ち上がる前は まるでヒロインのようである。

そして始まる継承式。一族の大事なイベントなのだが、話がややこしくなるためか前の両親は登場しない。当主のいない式など招待客からすれば児戯に付き合わされている気分になるだろう。

その式の途中、條森の屋敷が火事になる。前から贈られた品を収めた ひなた の宝箱が燃えてしまうことを阻止しようと彼女は煙が蔓延する中、自室へと戻る。自室に到着した瞬間、天上の崩落に巻き込まれそうになるが、それを前が助ける。その後、前は2階の窓から ひなた を抱えて飛び降りることを選ぶが、ひなた は その恐怖に震える。そこで前は彼女にキスをすることで自分を信じさせる。

色々とツッコみ所の多い本書だが、日本一の財閥の屋敷が いとも簡単に火が燃え広がり、崩落するのは安普請に見えて仕方がない。そして一番 残念だったのは前も ひなた の意思を確認する前にキスをしたこと。これでは創と同じである。ずっと してこなかった待望のキスなのだから、ちゃんと両想いを確認した後で して欲しかったと思った。でも これもメタ的には ひなた の意思を確認すると両想いが完成してしまうので、ひなた が前に「好き」と言わないことが重要なのだろう。

誰も気づかぬ火事も不自然だが、どういう燃え方をしたら2階の天井が真っ先に崩落するのか…。

2人で降り立った庭で、ひなた は酷いことをした自分を守ってくれる前に涙する。ひなた は前の後継者としての立場を優先したが、前にとっては ひなた のいない人生に意味はない。だから何度だって「俺の嫁になれ」と言い続ける。ここで2回目のキスをする感動的な場面だが、ここでも ひなた は好きを封じられている状態。構成的には正しいのだろうけど、心情的には順序を追って欲しいと思う。


承式の翌日、創は この三角関係から撤退を宣言する。それは彼が前の ひなた への愛の深さに完敗したからだった。火事が起きた時、創は自室に向かおうとする ひなた を止めようとしたが結局 彼女を見送った。そのことを知った前は激怒し、創を殴り、彼女を守り抜くために火の中に飛び込んだ。だから創は それぞれの心の中に誰がいるかを痛感し、彼らの前から立ち去る。後継者への立候補宣言は一体 何だったのか、と事情を知らない周囲の者たちからすれば創の信用は地に落ちただろう。

最強の当て馬が出走不能になり、物語は ここで完結しても良いぐらい。ひなた は自分が火の中に飛び込んだのは、前から贈られた品を守りたかったからだということを彼に知られる。これは大切なモノを守りたいという前と同様の覚悟と勇気を示しており、2人の気持ちが重なったことを意味している。

だが ひなた には前に懺悔しなくてはならないことがある。それが創とのキス。その ひなた の涙の告白に前は「これから死ぬまで俺以外の奴とキスするな」という罰を与える。そうして2人は最幸のキスをする。おそらく全11巻と作者の予想以上に長くなった物語だが、果たして本当に ひなた は前以外とキスをしなかったか、覚えていない…。再読で確かめてみようと思う。


スの次は性行為を匂わせるのが お約束。早くも お泊り回が計画され、ひなた は自分が前と「結ばれる」ことで頭がいっぱい。
行き先は條森家の別荘。貞操の危機を覚える ひなた(満更でもないが)。だが前は、條森家代々の結婚式会場となった教会があるという意味で「結ばれ」たいと願っていただけだった。前のめりな前は早くも ひなた にウェディングドレスを試着させ、教会に立たせる。物語のゴールとなる場面だが、短期連載の最終話だった『1巻』3話でも見た光景なので、あまり感動はない。

残された課題は ひなた が前に好きだと伝えることだけ。だが別荘地付近で ひなた が猫を助けようと道路に飛び出し、彼女を車から守るために前が飛び出す。ひなた と猫は無傷だったが、その横で前は頭から血を流していた…。

前がICUに入って2日目。ひなた は不眠で病院内で彼の目覚めを待っていた。「神様 私はどうなってもいいから前君を助けて」という願いが聞き入れられたのか、やがて前は目を覚ます。滂沱の涙を流しながら前に飛びつく ひなた だったが、前は彼女の記憶を失っていた。頭を強打したことで記憶障害が起こり1年ほどの記憶が失われている。その回復は不明。その事実に ひなた は目の前が真っ暗になる。


退院後、ひなた は気丈に振る舞い前に明るく話しかける。だが前にとって ひなた は知らない人。ひなた が語る自分たちの愛の記憶も彼には財産目当ての嘘に聞こえる。今の前は婚約は事実として認めるが、ひなた に少しの愛情も示さない。

その現実を前に悲嘆に暮れそうになる ひなた だったが、前が自分を振り向かせるために諦めなかったように、自分も諦めないことを誓う。ずっと求愛されてきた ひなた だが、今度は自分から求愛する。

そして立場が入れ替わったことを証明するかのように、ひなた はピンチから前を身を挺して守る。そして前の中に変わらない優しさを認めた ひなた は彼に初めて「好き」だと伝える。そして彼のために手作りしたバレンタインのチョコを口移しで食べさせ、彼の視界に自分が入るまで努力を続けることを誓う。確かに このチョコの口移しは前がやりそうなことである。ひなた が ずっと前を拒絶したと同じ回数以上に、彼女は前に想いを届け続けなくてはならない。


「その目で見つめないで」…
学校一の優等生の右京 霧(うきょう きり)は皆川 咲也(みながわ さくや)という後輩の男子生徒を怪我させてしまったことから彼の絵のモデルになる。霧はモデルとして皆川に見つめられ続けることで自分のペースを乱される。そして皆川が絵が好きだが絵に縛られてない生き方をしていることを知る。「好き」という気持ちに従って動く彼のような存在に接して霧の世界は揺らぐ。その影響か成績も低下し、霧は絵のモデルを辞めたいことを申し出て、自分の世界に戻ろうとする。すると皆川は もう怪我が完治していることを白状し、霧を描くのも つまらなくなってきた と告げ立ち去る。霧の心に訪れたのは解放感ではなく、成績が落ちたショックよりも皆川の言葉に傷ついている自分と、そして彼を好きになっている自分に気づく…。

最後に明かされる皆川の気持ちは、それを感じさせるエピソードがなく唐突で ご都合主義に見える。その補完として彼がずっと霧を見てきたこととして彼女の状況を全て理解しているのだが その把握は偏執的でストーカーチックに見える。おまけにナルシストで自信家だから今度は霧が皆川のどこに惹かれたのか分からなくなる。優等生が新しい世界を知って一時的に浮かれているだけで、この恋愛は長続きしそうにない、などと冷めたことを思ってしまう。