《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

もしかしたらヒロインよりも失敗ばかりの御曹司ヒーロー。強いのは劣情だけ!?

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(6) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

60万部突破の大人気結婚ラブ第6巻は、緊迫の急展開! 新のファンに逆恨みから刺されてしまったひなたの安否は・・・!? 前の一途な想いが奇跡を起こす? そして、前とひなた、2人の恋が一歩先へと進む新章開幕!! ひなたの幼なじみ男子登場で波乱必至!!お見逃し無く!

簡潔完結感想文

  • 刺されても好きな人。意外にも簡単に、ダイヤモンドは砕けちゃう!
  • 騒動と騒動の幕間は、疑似結婚式かエロいことをして埋めるのが お約束。
  • ヒーローに幼なじみがいるのなら、ヒロインにも当然いるものです、わ。

キャンダルで心身が摩耗したので、田舎で隠遁生活、の 6巻。

これまでテレビでの婚約発表、そしてCM出演、男性トップアイドルとのスキャンダルと世間の注目を集め続けた ひなた と前(ぜん)のカップル。ついに2人はアイドル・新(あらた)を踏み台にして東京ドームで5万人の観客の前に立つところまで来た。自分たちの恋愛を世間に公表するカップルYouTuberみたいな足跡を残す2人だが、アイドルを利用した報いなのか ひなた が包丁で刺されるという大事件が起こる。私は心配よりも失笑した部類の人間なので、ある意味で楽しく読んでいるが、ここまで お話の規模がエスカレートしていくと、最後は どちらかが死ぬぐらいしか選択肢がなくなる。

作者も2人が世間の注目を集め続けることで起こるリスク(悲劇の拡大)を恐れてか、刺傷事件を最後に お話のスケールは小さくなっていく。恋愛のピークを『3巻』とするならば、話のスケールは この『6巻』がピークと言えるだろう。短期連載3話と その後の連載決定直後から全速力で飛翔した物語は、ここから静かに滑空し続ける。そして ここからが劇薬とも言える荒唐無稽な展開に頼らないで読者を どう楽しませられるかという作者の本当の腕の見せ所となる。まぁ ここまでくるとリアルな低年齢読者たちは ひなた と前のカップルが騒動を繰り広げているだけで喜んでくれるだろう。少女漫画は「初速」が命。「あらすじ」の情報によると1巻辺り10万部以上売れた作品だから しばらくは連載は安泰だろう。実際に『6巻』を折り返し地点にして物語は まだ半分 残っている。


だし『5巻』でも指摘したが長期連載の弊害として、ひなた と前の成長の無さが気になってくる。特に前は ひなた を好きすぎる余り子供っぽさが隠せず、その反面、劣情を催し続け、ひなた が入院してようが、彼女の祖母宅だろうが、彼女の身体を まさぐり続ける。今回は それが2人の距離を生んでいて、話をスムーズに流れさせる作者の構成力に感心もしたが、すぐに ひなた と結婚もしくはエロいことを目標にしてしまう極端な前が嫌いになりそうである。このところ彼が将来に向けた勉強をしているシーンが無いのも気になる。口ばかりで中身の伴わない男性に見えてきてしまっている。
これは本書の連載時は2022年の改正前の民法が適用されるので、高校2年生の新はともかく、18・19歳のライバルたちは ひなた と今すぐにでも結婚が出来る年齢だということも影響しているのだろうか。前が強く望むのは ひなた を嫁にすること。自分が それが可能になるまで2年あるから、その間に ひなた が誰かと結婚する可能性があり、だからこそ彼は ひなた と疑似結婚式や結婚の約束を繰り返す。「オレの嫁になれよ」というよりも「オレは夫になりたい」というヒーローの前のめりの結婚願望が失敗の根本にある気がする。

逆に良かったのは3度目の女1男2の三角関係。構図も新しい当て馬が入り込む隙が出来る流れが新の時と全く同じで目新しさは皆無かと思ったが、おそらく今回の三角関係は新ではなく、『3巻』の女2男1の三角関係だった聖奈(せな)の時と対称性を帯びるものだと思われる。

『6巻』の中盤から始まる、夏休みの ひなた の祖母の住まう島での出来事で ひなた の幼なじみが存在するという。その人物の名は岩谷 航(いわたに こう)と言い、前は彼が ひなた の好きな人だと島の子供たちに聞かされて動揺して三角関係が始まる。

創・新・航とライバルは全員 年長。だからこそ前は焦燥するのだろうが、かえって幼稚さが際立つ。

航は、前の幼なじみ・聖奈と対になる存在だろう。この島への帰省は、幼なじみの聖奈、そして前の母親の反対を何とか翻そうとした ひなた の頑張りを描いた『3巻』と立場を逆にしている。今回は幼なじみポジションが航、そして親族の反対勢力として ひなた の祖母が配置される。ということは頑張るのは前の出番なのだが、彼は幼稚さから空回りし失敗し続けている。もしかしたら ひなた よりも視野が狭くて、彼女をフォロー出来ない情けない存在かもしれない。優秀だったはずなのに どんどん性欲ばかりが強くなっている。この感じは同じく「Sho-Comi」で中学生ヒーローだった、くまがい杏子さん『放課後オレンジ』の翼(よく)を連想した。彼もまた童顔で背はヒロインよりも小さいけれど思春期男子の性欲が爆発している。

ひなた の不完全さより、前の方が重傷のように思え、彼が どう汚名を返上していくのかを見届けたい。


イドル・新と ひなた のスキャンダルは東京ドーム公演の宣伝の一環だったと聴衆を納得させられたはずだが、それを鵜呑みに出来ない熱心な(あるいは狂信的な)新のファンから ひなた は刺されてしまう。

作中では『2巻』の前に記憶喪失を もたらした交通事故に続いて2度目の病院送りである。前の次は ひなた。交互に不幸が起きれば話のネタは尽きないか。そういえば ひなた が芸能界に入った後、前も東京ドームで踊ったしなぁ…(遠い目)。

意識を失い三途の川を渡りそうになる ひなた だったが、その世界でも前がヒーローとして彼女の死のピンチを救う。こうして3日間の意識不明の状態から ひなた は回復する。前も3日間寝ないで ひなた の病床の横にい続けてくれたが、最後には力尽きて眠る。
ひなた が目覚めたことを知った前は力強く彼女を抱きしめ(傷口が…)、大粒の涙を流して生還を喜ぶ。ここでの「この腕の中は 奇跡で あふれているんだね」というモノローグは、水瀬藍さんっぽい。というかSho-Comiクオリティなのかな。


その3日後には ひなた は車椅子での移動が可能になり回復は順調。だが一方で壊れてしまった物もある。それが『2巻』で前から贈られた、愛の象徴の指輪。ひなた の左手の薬指に輝いていた指輪だが、一番 大きなハート形にカットされた宝石部分が死傷事件の騒動で真っ二つに割れた。『5巻』で刺された際に ひなた の指から指輪が抜け落ちた描写はあるが、いつ割れたのかは不明。騒動で人が集まって踏まれてしまったのか。私は宝石が割れるって、ガラスじゃあるまいし、などと前の贈った指輪が安物なのではないかと疑ったが、たとえダイヤモンドでも踏んだら割れることもあるらしい。私の方が庶民の浅知恵だった。


院中の ひなた を前は甲斐甲斐しく看護する。着替えを持ってきたり清拭をしたり。作者は清拭を2人のエロチックなイチャラブに利用したかったのだろう。ひなた は傷口の醜さを前に見られたくないが、どんな ひなた も前は宝物だと言ってくれる。一生 残ってしまうような傷かもしれないが、刺されることが重要で その後は刺されたことを思い出すことも、傷口が話題になることも一切ない。その辺はザ・少女漫画展開である。

そして前は割れてしまった宝石を再利用し、2人で1つのハートになるペンダントを作っていた。自分にとって特別な指輪だったということを、前が気づいて気遣ってくれたことに ひなた は涙を流す。本来の宝石部分のハートよりも一回り以上 大きいハートが完成するのは2人の愛の成長を示しているのだろうか。そして そのペンダントトップの裏側には相手の名前が彫られており、今まで以上に相手が傍にいるような感覚が得られる。ひなた は誕生日に相手の大きな愛に気づいた。

実質的な婚約指輪が割れたということは まだまだ結婚は先で、連載が終わらないという宣言?

れからの日々、ひなた はリハビリに励む。その中でアイドル・新が見舞いに来る。新は事件後、自宅に軟禁された状態で この日も監視の目を抜け出してきたという。一切、描写はないが二股騒動のスキャンダルがあれほどマスコミに騒がれたのだから、アイドルのファンによる凶行はマスコミが注目しただろう。新は ひなた が傷ついた心労と責任感で少し痩せたようだ。彼は深々と頭を下げ ひなた に謝罪する。だが ひなた は逆にアイドルとして新はファンを安心させて と彼を思い遣る。そんな ひなた に新は抱きつき、傷が残ったらという条件付きで、責任を取って嫁にもらう、と言ってくれるのだった。新としては精一杯 恋心を忍ばせた告白だが、その言葉を ひなた が深く考えるより前に前が登場し、自分の所有を主張する。

ひなた は新の告白を責任感からだと思うだけ。やはり新は告白することがない当て馬のようだ。けれどフラれることがないから、いつまでも  ひなた を想い続けるトップアイドル、という地位も手に入れられる。こういう点が作品の中で新だけが この作品で永遠の当て馬でいられる部分である。


1つの大きな騒動が終わって暇になると、前は ひなた を教会に連れて行くのが お約束。この教会の訪問は2回目だし、短期連載終了の3話でハワイの結婚式場で ひなた と疑似結婚式みたいなことをしていた(『1巻』)。暇だと、永遠の愛を誓うか、性行為に及ぼうとするかの二択しかない。今回は ひなた の傷のこともあるので前者が選ばれた。次はまた「するする詐欺」かな…?

驚くことに この2人だけの結婚式もまた「するする詐欺」だった。ウェディングドレスを着て前を待ち構えていたのは ひなた の祖母。ひなた が婚約したと知って心配で様子を見に、田舎から出てきたという(入院中の祖母からの手紙が伏線だったか)。そして祖母は ひなた が幸せかどうか條森(じょうもり)の屋敷で一緒に暮らして確かめてみると言い出す。これ まさか ひざまずいて丁寧に挨拶をした前に惚れて同居生活をしたい 老いらくの恋、ではあるまい…。


3週間後の同居生活では ひなた は退院して歩き出している。
ひなた は祖母に條森家での生活、そして前の隣にいられる この場所が自分の居場所だと認めてもらいたくて、パーティーで上手く振る舞おうとする。だが失敗の連続で祖母には ここの生活が合っていないと田舎に帰ることを提案されてしまう。前は それに反対せず、今度は逆に前が ひなた と一緒にいるところを見せることで自分の想いの大きさを伝えようと意気込む。

でも今回の ひなた の失敗の最大の要因は靴の高すぎるヒールである。前は それを贈って自慢げだが、ひなた の苦痛に無反応だった。このパーティーで ひなた が この靴を履く必要性はあったので、前がすべきことは彼女の足の痛みを見抜き、フォローすることではないか。しかも少し前まで車椅子生活が続き、足の筋力は弱っているはずだ。前は それが出来ていないのに、彼女を可愛いと溺愛するばかりで、自分のミスを考えもしない。甘くて強めな言葉を吐くだけのヒーロー業だけじゃなくて、もう少しスマートな生き方を前に望む。これでは いつまで経ってもバカな御曹司のままだ。


がて始まる夏休み、ひなた は前と祖母の家のある島に帰省する。前は祖母に認めてもらおうと必死。だが ひなた の初恋の人が島にいることを知り、その彼に年齢も身長もピンチの時の動作も負けて前は劣等感に苛まれる。
そして その劣等感と焦燥感を前は劣情に変換させる。エロい場面はリアル読者には刺さるんだろうけど、前の未熟さの象徴みたいで好きじゃない。気持ちをコントロール出来ないから どこでも発情しているだけである。それは愛や恋とは少し違う。ちなみに さすがに この時には ひなた のお腹には傷跡が残っている。これが いつまで残っているかをチェックしていこうと思う。

前の劣等感は、ひなた を助けようとする自分の横を駆け抜け、今回ひなた のヒーローとなったのが航だったから。そして ひなた は航に抱えられて忘れかけていた初恋を思い出すのだが、これは忘れかけていたというか後付けの初恋でしょ…とツッコまずにいられない。
航は ひなた の2歳上。ということは前の3つ上で年齢は19歳ということか。前の兄・創(そう)と同じぐらいの年齢だが創よりも童顔で子供っぽく見える(身長などのスタイルは前より良いが)。

彼らは7年ぶりの再会。ひなた は航が大きくなったと驚くばかりだが、航の方は ひなた の美しさに赤面している。ひなた に近づく男は誰であれ敵意を隠さない前は、航にも自分が彼女の婚約者だと開口一番 牽制する。だが この島のヒーローポジションは航が握っていて、前は自分の力が全く上手く発揮できない。屋敷や学校の外だと財閥パワーが発揮されずに無力なのか…?

そんな前の焦燥は再び劣情に変換され、前は ひなた を自分のものにすることだけを目的に彼女の身体を まさぐる。その暴力的で一方的な行為に ひなた は恐怖し、涙と絶叫で彼を拒絶する。こうして出来た心の隙間に入るのが航である。うーん、この辺は新と同じ展開で、しかも2回連続の女1男2の三角関係だから既視感が半端ない。