佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
「たとえ 世界中が 敵になっても 必ずお前をオレの嫁にする」。人気爆発、結婚ラブ第5巻は婚約者・前VSアイドル・新のひなたを巡るラブバトル!! でも、そんな中、ひなたと新のスキャンダルがネットで炎上・・・!! 前との婚約解消の危機が迫る中、ひなたを救う為に前は驚きの決断を下す。急転直下のウェディングラブをお見逃しなく!
簡潔完結感想文
- 約束の待ち合わせに彼が来ないのも、別の男に連れ去られるのも お約束。
- 10代の一般人御曹司の二股騒動にマスコミが殺到。コンプライアンスとは…?
- スキャンダルにアンチ行動を取る傲慢なファンは、一方で茶番に感動する信者。
世間の注目で愛を叫ぶ 5巻。
元々 日本一の大財閥の御曹司との恋愛という現実味の無かった物語ではあるが、この『5巻』は作中で最も夢みたいな内容である。何と言っても駆け出しのCMタレントに過ぎないヒロイン・ひなた と、御曹司・前(ぜん)が男性トップアイドルの単独ドーム公演にて、5万人を前にしてスポットライトを浴びるのだから。そこに至る経緯、そしてアイドルに対して冷たい視線を送るファンが、あっという間に温かい目で3人の茶番劇を見守る強引で、ご都合主義な展開には唖然とするばかりである。元から掲載誌「Sho-Comi」のなかでも対象年齢が低い部類の作品であったが、今回は これまでにも増して ひなた にとって都合の良い展開の連続であった。
そして やはり2人の恋愛感情は『3巻』でピークを迎えており、その絆はトップアイドル・新(あらた)でも少しも壊れることはなかった。特に前は記憶喪失で2回も同じ人に恋に落ちているし、ひなた もリセットされた恋愛を体当たりで乗り越えたばかりだから、新に勝ち目がない。そして前の兄・創(そう)に続いて2回目の女1男2の三角関係で、いつだって前が(愚かなほどに)真っ直ぐな愛を ひなた に伝えるという既視感も生まれる。
基本的に ひなた が夢みたいにモテるだけの物語に成り果ててはいるものの、歴代の当て馬の中でアイドルの新が人気が高い訳も見えてきた。それが「純愛」である。これまで男女のライバルである創、そして聖奈(せな)は好きな相手を欲するあまり、強硬手段に出て自滅していった。ヒロインに悪意を見せたり悲しませたりした時点で彼らは恋愛戦線から撤退する運命にある。
しかし3人目のライバルキャラである新は作中で ひなた に害意を持たなかった。そして彼は最後まで自分の恋心に蓋をしている。それは新に告白や行動をする勇気が無かったとも言える。だけど彼は ひなた の近くで、彼女が どれだけ前のことを好きかどうかを見続けているからこそ、自分の告白が彼女に戸惑いや悩みを生じさせるだけだと分かっているのだろう。その行動の自制こそ彼の純愛と純情、優しさの証明だと思う。トップアイドルという地位だけじゃなく、作中でトップクラスに優しいから新は人気が高いのではないか。
作中で ひなた は無自覚のままだが、2人の男性は相手と同じ女性を好きだということを認識し、作中劇のはずが本気で争う。ひなた が無自覚に姫ポジションにいる、というのが今回の三角関係が以前と違う点だろう。
新(あらた)の株が上がる一方で、長い付き合いになった ひなた と前には幻滅する部分があった。
ひなた に関しては何と言っても4時間も馬鹿みたいに雨に打たれ続けたこと。それこそ彼への純情という見方もあるが、20世紀じゃないんだから、スマホを握りしめながら その場を離れられないという考え方は柔軟性に欠ける。スマホを持っているならニュースを見て天候、そして前が乗る列車の運行状況を見ればいい。それに この日、デートを約束しているなら、前との一瞬のすれ違いを気にするよりも自分が濡れることで起こる弊害を考えるのが先ではないか。いくら何でも読者の年齢に ひなた の思考力を合わせすぎている。
そして前は いつも ひなた への愛で溢れているが、それが強すぎてコントロールし切れていないのが気になる。毎回、嫉妬や独占欲を理由に ひなた を傷つけているし、彼女のためと言いながら自分が話題の中心に立ち続けようとするのが気になる。『3巻』のテレビカメラの前での生中継キスも、今回の5万人の前でのキスも ひなた に同意を得ておらず、彼女を またスキャンダルの渦中に追い込むような行動に見えてしまう。通常の神経なら恥ずかしくて人前に立てないような行動である。そういう前の自分本位なところが悪目立ちしてきている。
黙って出演したCMの件で距離が出来てしまった2人。そこに入り込む新。2度目の女1男2の三角関係の両天秤は御曹司とアイドルとなる。
無意識で ひなた が前のもとに行くのを引き留めてしまう新だったが、ひなた は彼の気持ちを本気にすることなく前のもとに走る。前もまた自分の嫉妬心ばかりだった自分の気持ちを反省しており、2人は会ってすぐに仲直り。毎回、ケンカと仲直りが同じ理由で飽きてきた。
6月は2人の誕生日月だということが判明する。6月10日が前、6月24日が ひなた である。前が誕生日を迎えた日から ひなた の誕生日までの2週間は2人が同じ年でいられることに ひなた は喜びを感じる。そして前の誕生日には自分の全てをプレゼントしようとする。ハイハイ、問題なく仲が良い時は「するする詐欺」ね、と冷淡に読み進める。
新品の下着を身につけ、準備万端で待ち合わせ場所で前を待つ ひなた。待ち合わせと言えば『3巻』での待ち合わせでは誘拐されて大変な目に遭ったが、今回も待ち合わせ=会えない法則が発動する。そろそろネタ被りも増えてくるか。今回はライバルが派手だから まだ読んでいられるが、これ以降は ここまでの突き抜けた楽しさは演出できないのかな、と作品の限界を感じる。
同日、新はレッスンで集中力を欠いていた。その原因を ひなた だと敏腕マネージャーに当てられる(顔を合わせた描写もないが…)。担当の不調を見過ごせないマネージャーは ひなた への接近禁止を言い渡す。
そして前は帰京するはずだった電車が天候不良で立ち往生し、彼女に連絡がつかないまま時だけが流れる。前からの連絡を待つ ひなた は雨の中、傘も差さずに彼を待つ。少しの間でも その場を離れて、その間に前が来たら、と思うと その場を離れられないらしい。待ち合わせは17時だったが、21時前になっても前は来ないが同じ場所に立ち続ける ひなた(絶句)。体温の低下でトイレに行きたくなるのでは、とか思うが、彼女なら その場でするかも…、などと本気で疑ってしまう。
4時間近く雨に打たれて ひなた は高熱を出す。彼女が倒れる寸前で現れるのが新だった。これは偶然ではなく新はデートの待ち合わせ場所をひなた から聞かされていたからである。自分の仕事終わりが終わり次第、彼女がいないか確かめに行ったのだろう。少しでも会う可能性がある場所に出向いてしまう恋する10代の男の子が そこにいる。
倒れた ひなた を抱えて新は彼女の身体を温めるためホテルに入る。必死で走ったため変装用のサングラスを落とし、彼の素性がバレてしまう。熱があるなら病院に連れて行ってあげればいいのに、ホテルに入るのは不自然。大体、びしょ濡れの女性を抱えた男をホテル側も怪しむだろうに…。
この際の新が ひなた を抱えた写真がスキャンダルの発端になるが、ひなた は昏倒していて明らかに異常事態であるように見えて、一部の人は冷静に そこを指摘するだろう。それなら ひなた を抱える新が途中で力尽きて、ひなた を何とか歩かせて、彼女が新に寄りかかるようにホテルに入っていくような写真の方が良かった気がする。今回の話は色々と不自然で物語を楽しめない部分が多すぎる。
ホテルの一室で新は濡れた ひなた の服を脱がせ、彼女が冷えないようにする。翌朝、目を覚ますと ひなた は快癒しており、その部屋の床に新が寝ているのを発見する。ひなた から心から感謝されて新は照れる。
だが2人はホテルを出ようとすると そこにはマスコミの大群が待ち構えていた。SNSで拡散された情報で集まったらしい。分かりやすくマスコミばかりだが、SNSで拡散されたのなら場所を特定され、ファンや一般人もいて当然だろう。そして集まったマスコミにホテル側も何も対処しないし、マネージャーの連絡も遅すぎる。
マスコミに囲まれた ひなた は條森家の執事によって助けられ、新は芸能人として対処した(と思われる)。
その後、執事によって手配された新しいホテルの一室で ひなた はSNSを閲覧し、新との熱愛報道が出たこと、そして そのせいで前との二股を囁かれていることを知る。『3巻』で婚約会見をテレビで流したし、芸能活動の真似事をしたために すっかり面が割れてしまったようだ。
そしてマスコミは前にも取材をしていた。マスコミの筋書きでは彼は婚約者に裏切られた憐れな坊っちゃんとして取り上げられる。いやいやアイドルの新はともかく、前は未成年の一般人だ。この世界のプライバシーは どうなっているんだ などと思うのは私に分別があるからだろう。小中学生読者は そんなことを気にしない。そして こういう失われない緊張感が売り上げに繋がっているのだろう。
しかし前がマスコミに囲まれるのは、作品的には前のヒーロー演出でもあった。前はカメラの前で ひなた に語り掛け、誰にも渡さない、と宣言する。そんな彼の揺るぎない姿に ひなた は感涙する。
しかし ひなた のホテルの逃亡先にもマスコミが現れ、彼女は それから逃れるためにホテルの屋上に駆け上がる。外観は割と立派なホテルだと思うのだけど、屋上の出入り口が完全に公立学校並の階段と出口で笑える。作者か、背景の人の想像力の無さが原因か。
まるで事件の犯人のように屋上で追い詰められる ひなた。ここも完全に雑居ビルの屋上である。そこに現れるのは やっぱり前。彼はヘリコプターで登場し、ヘリから身を乗り出して ひなた をピックアップする。これ、ヘリは どういう動きをして ひなた に接近してるのかな…?
そして2人が会えれば即、問題は解決。起きる事件の大きさの割に雪解けは一瞬なのが本書の特徴だろう。
その後、ヘリは どこかの屋上に降り、そのビルの一室で2人は過ごす。そこに現れる新。誰が呼んだのだろうか。ひなた が驚いているということは前か、前の意向を受けた執事か。
ここで新は前に ひなた を雨の中、放置した怒りをぶつける(いや、ひなた の判断ミスでしょ)。それに天候不良による立ち往生まで責められる いわれはない。
前は その非難には正面から答えず、3人の危機的状況を打破するアイデアを打診する。それが新の東京ドームでのコンサートで、5万人の聴衆の前で男性2人が ひなた を賭けて戦う劇中劇を演じて、今回のスキャンダルが、このコンサートに向けた茶番であったと明かす、というもの。新は そのアイデアに乗るが、いやいや新の5万人のファンが、スキャンダル女と素人男の登場を喜ぶと思うか?と当然の疑問が湧く。それに捏造されたスキャンダルなんてファンが冷める行動だし…。
この計画は前の誕生日の翌日である6月11日に企画が提案され、本番は6月17日の東京ドーム。それまでの日々、前は したことのないダンスの特訓に励む。新もプロとして、そしてチケットを買った5万人のファンのためにも前にプロレベルのパフォーマンスを要求する。そのために前は誠心誠意 尽力する。その真摯な態度で新は前を見直すことになる。これは新の撤退フラグでもあるだろう。
そしてコンサート当日。新のスキャンダルを心配する観客たちは荒れ気味。
驚くことに、前は最初から新と並んで登場する。これは漫画的な演出を優先したのだろう。ファンからしたら最初から よく知らない お坊ちゃまなど見たくない。新が そのパフォーマンスとオーラでファンの心を掴んでから、前の登場でも良かったのではないか。
しかしファンは集まったけれど、新に厳しい態度で接し、まるでアンチのような行動を出る。新のスキャンダルを知って、彼女たちは声援とペンライトでの応援のボイコットを決めたのだ(何しに来たんだよ…。イジメの加害者みたいなメンタル構造だなぁ)。それに新は これまでもスターの証と言わんばかりにスキャンダルを繰り返している。現実でもスキャンダルや結婚後も ついてくるファンがいるように、熱心なファンは絶対数いると思うが…。
ペンライトが振られない真っ暗な空間の中、さすがの新も動揺で立ちすくむ。そんな中、前だけはパフォーマンスを開始し、新に奮起を促す。でも前の「ひなた ただ一人のため」に新の5万人のファンを利用するという動機はファンの逆鱗に触れるものの様な気がするなぁ…。少女漫画としては正しいが、そんな人に新の舞台を汚して欲しくないと私でさえ思う。この辺りも上述したように前の幼稚な部分で、自分の気持ちを押し通すことを優先するあまり人の気持ちに配慮できていない部分がある。
ご都合主義なので謎の男性と新の2人の圧巻のパフォーマンスは観客の心に火をつけ、そして彼女たちは消していたペンライトを点灯させ一斉に5万個の星を輝かせる。それを ちゃんと見届けてから ひなた はメイクや衣装の準備をするが、最初のダンスから ひなた登場までの時間、前は何をしたのだろうか。謎だ。
そして企画していた劇中劇が始まる。今回のスキャンダルの相手である ひなた の登場にファンは どよめく。だが ひなた もまた圧巻の演技でファンを虜にする。そしてその ひなた の姿に前は演技を忘れて本気で新と戦い始める。ここでも前は我を忘れている。
こうして前の暴走で舞台上で本気で剣を交える2人だが、その無駄なハッスルのせいで彼は舞台装置にぶつかってしまい、それが原因で照明が落下する。前を守ろうと ひなた は体当たりし、前を守れたが ひなた はガラスの破片で怪我をしてしまう。
ひなた 頬の傷を見た前は、そこから流れる血を舐め、そして舞台上でキスをする。あぁ…、テレビ中継の時といい、前って こういう時に舞い上がるよね、と彼のことがまた少し嫌いになる。條森グループの跡継ぎとしての自覚が全く感じられない、ただの初恋に浮かれる若造である。
ハプニングにより劇中劇はアドリブの連続が続き、最後は ひなた姫が結婚相手の決定を宣言し、両手の花で幕を閉じる。劇としては結末がないが、観客は大盛り上がりで ひなた を含め3人に声援を送る。ふーん…。
翌日、マスコミも彼らのパフォーマンスを好意的に受け止め、スキャンダルが演出だと報じる。結果的に捏造であったスキャンダルに振り回されたファンの心理とかは どうでもいいのだろうか…。ただ単に ひなた と前を東京ドームに立たせるだけの目的優先の、派手だがハチャメチャなストーリー展開だった。
後日、世間の注目を浴びた ひなた には更なる芸能界の道も開かれるが、彼女は それを選ばない。それはつまり新との芸能界編の終わりも意味していて、ひなた の心には前しかいないことを思い知った新は撤退を表明する。
そして中途半端に終わった劇中劇は、ひなた姫が前を選ぶという結末で幕を閉じる。3度目の最終回チャンスだが、作者は止まることなく次の展開を用意していた。とんでもない終わり方で、もしかしたら「するする詐欺」以上に続きが気になるのが悔しいところ。これがスキャンダルを捏造した罰、ということなのだろうか…。