《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

カップル+女性の3人同居で彼女の自分が出ていったら、残った男女で過ちが起きるだけ!?

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(10) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第10巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ひなたに最大のライバル明日菜登場で、結婚ラブは三角関係・・・そして前パパの思惑により明日菜も急遽、前&ひなたの部屋で同居=3人同棲状態に!! 仕事を通じて、絆を深めていく明日菜と前に不安が募るひなた! でも、どんな時でも前はひなたの事を1番に思っていて…。そして、前とひなたの運命を変える選択が訪れる! 2人の初めての恋がついにクライマックスへ向かう最終章!!

簡潔完結感想文

  • 3人同居は1話で限界。もしや父親は ひなた との婚約を反対派? と勘繰ってしまう。
  • 黙ってキスしたが、ひなた の背中を押したので女性ライバルは追放処分を免れる。
  • クライマックスは やっぱり遠距離恋愛危機。泣いているように笑う姿が胸を打つ。

しかして明日菜はページを稼ぐだけの存在? の10巻。

作品内で御曹司の前(ぜん)よりも権力を持っているのは彼の父親だけ。その父親によって2人の生活は左右され、最後の試験と最後の試練が言い渡される。最後の試験は正式な後継者になるために必要で、最後の試練は結婚前の遠距離恋愛の危機である。

結局、父親に振り回されるのなら、初登場で遠距離を命じられて、2人が泣く泣く別の場所で暮らすという展開をすぐに初めても良かったと思う。すぐに そうならなかったのは性行為の描写を巻を跨ぐように配置するためではないかと勘繰ってしまう。性行為を聖夜という最高のタイミングで、そして別離という後のない状況でするためだけに ほぼ1巻分が消費されたのかな、と思うのは考えすぎか。

そう思うのは明日菜(あすな)という存在が中途半端だからでもある。昔、一度だけ前に会った事があり、その出会いが彼女を変えて、明日菜は前の隣に立てるだけの能力を持った自分になった。その努力は凄いが、作品的には前が忘れているような出会いで一方的だし、前の幼なじみ枠には聖奈(せな)がいる。10年間ずっと恋していたから黙ってキスはするけど、諦めは良い。だから これまでのライバルの中では その役割が見えてこない。明日菜が本気になったら ひなた に勝機がないから、一足先に同棲して新婚気分を ひなた や読者に味わわせて、その後、同棲中の突発的な性行為が発生しないように監視役として置いておかれたようにしか見えない。

明日菜編によって ひなた が前の仕事の役に立つことが出来て、彼女の存在意義が出た、とも考えられるが、前が倒れたら明日菜が全力で、そして ひなた よりもスマートにフォロー出来るような気がするから、ひなた が出しゃばる必要性を感じない。明日菜は恋心保持の期間も仕事の能力も最強のライバルであるからこそ、本気を出さないまま撤退していったように見える。男性ライバルに対して前が全力で戦い、時に傷つきながらも ひなた を譲らなかったのに対し、ひなた は明日菜に本気で戦うことなく、彼女にフォローして元の鞘に収まっていった。一種のスポーツのような ぶつかり合いがカタルシスを生むのに、ひなた は勝者だけど勝ちを譲られた形になっている。

明日菜からすれば、少女漫画のヒロインの悩みなんて全部「くだらない感情」なんだろうなぁ…。

こうして ひなた が実生活で役に立つことはなくても、前にとって ひなた と一緒にいることが最強という いつもの結末で、結婚後の ひなた の大人としての在り方が見えてこなかったのも物足りない。このままでは家庭に収まって、子供を産むことが女性の幸せという20世紀のような結論になってしまう。最後に彼女に仕事や職業が与えられるか注視したい。

遠距離恋愛という定番の展開も、結局スッキリしないから あまり好きではない。それに これでは『7巻』で ひなた の祖母が言っていたように、結婚前から ひなた は大事な人が傍にいない冷たい家で暮らすことになってしまう。明日菜との3人の生活でも前は仕事を家に持ち込み、ひなた の心を冷やした。そういう配慮のない人との生活は前途多難だろう。
そして今回 ひなた は一緒に行くことも出来ず、そして日本での目標もない。この展開においても ひなた の将来像を明確にして、彼女も前とは違う方向性だが、輝く目で未来を見据えている、という自立を描いて欲しかった。ひなた の抱える問題が解決しないまま、精神論で乗り切ろうとしているのが気になる。まぁ これだけ波乱万丈な人生を送ってきたので、2人は単純な遠距離恋愛破局することはないと、そういう絆の強さは見えてくるけれど…。

記憶喪失やスキャンダル、刺傷事件と これまで何回も最終回チャンスはあったが、その中でも一番 地味で定番の遠距離恋愛で最終回になるのが少し残念だ。刺傷事件で生と死の遠距離恋愛になりそうだったが、復活で涙の最終回となるのが本書らしい勢いのある終わり方だったのではないか。最初から最強ライバルと とんでも展開を用意し過ぎて、正直 尻すぼみの印象が拭えない。


乏な同棲生活を支えるために ひなた はバイトを始める。そんな若夫婦生活を送る2人だったが、前の父親によって この同棲に明日菜が加わり3人の同居生活となってしまう。マジで『L♥DK』展開である。父親は前と明日菜がビジネスパートナーとして信頼を深めるための同居だというが、年頃の男女の同居生活には何も問題を感じないらしい。ちなみに3人での同居にあたって部屋が改装され六畳一間ではなくなる。

家でも仕事を持ち込む前は明日菜と ひなた が入り込めない話ばかり。そこに疎外感を覚え、ひなた は家を飛び出す。公園で自分の嫉妬心の醜さに落ち込む ひなた だったが、そこに前が現れる。彼は ひなた の異変を感じ取っていたのだ。『9巻』の合宿の罠の時もそうだったが、物語も終盤で簡単には壊れない2人の様子が描かれていて安心する(すぐ壊れたが…)。


が明日菜の荷物の中に、子供の頃の前との写真が出てきて、ひなた は2人には秘密の繋がりがあるのではと また胸に痛みを覚える。
そして前の仕事場に お弁当を届けようとした際に、やはり入り込めない世界を感じ、ひなた は声を掛けることなく帰る。やはり明日菜だけが前と同じ景色が見えている。それが真の意味で対等でパートナーという意味なのではないか、と ひなた は自分の無力さや立場・能力の違いを思い知らされる。

前の隣にいるべきなのは自分ではないかもしれない。そう考え、ひなた は自分から前と距離を取る。これは『7巻』で前が ひなた のために別れを選んだのと通じる展開だ。前は ひなた の笑顔を自分が奪っていると思ったし、ひなた は前の輝く顔は自分に向けられないと痛感して距離を取った。相手に輝いていて欲しいからこそ、自分が身を引く。相手を思い遣るという彼らの愛の形が別離を選択させる。


いで ひなた を追いかけようとする前だが過労によって倒れてしまって不可能となる。

ひなた は実家に帰り、ケータイの電源も切ったまま。でも考えてみれば ひなた が出て行った あの部屋は今は前と明日菜だけ。彼が自分以外の女性と密室にいるという状況の方が逃げ出すよりも心が苦しいような気がするが どうだろう。でも万が一にも間違いを起こさないための安全弁として前は高熱で倒れさせたのかな。

そんな ひなた を捜し出したのは明日菜。彼女は過去の写真を見せ昔話を聞かせ、そして前に好意を抱いていることを隠さない。明日菜は前という存在を知ったから頑張り続け、そして だからこそ彼の隣にいる資格を得た。だが その時には もう前には心に決めた婚約者がいた。だから明日菜こそビジネスパートナーで居続けようと自制してきたのだが、ひなた は彼女の狭い視野で動き、逃げ、前に迷惑をかけている。それが腹立たしくて明日菜は ひなた に平手打ちをする。自分が眠っている前にキスをした罪を告白し、ひなた が前から身を引くなら奪うと ひなた に忠告する。

前の一言で人生が変わったという意味では、明日菜の存在は留衣(るい)と対になっている気がする。苦しい環境の中で前に厳しい言葉を掛けられた時、そこから奮起した明日菜と、前を憎むことで生きてきた留衣。どちらも婚約会見で改めて前への気持ちを再燃させた、というのも共通点だ。明日菜と留衣が出会った時、どうなるのか見てみたかった。


日菜に喝を入れられる形になり、ひなた はアパートに戻る。前は体調不良の中、ひなた を捜しに行こうとしていた。そこに彼からの愛を感じ取った ひなた は元の鞘に収まる。

前が体調不良なまま商談に向かおうとするので、ひなた は代役として そこに出向く。一顧だにされない ひなた の商談の延期の願いだが、彼女は諦めずに相手に食い下がる。そうして前のために相手が話を聞くまで根性で粘り、そして その粘りで彼女は事態を好転させる。前たちが経営学なり専門知識を駆使して会社を立て直す一方で、ひなた は体当たりの営業だけが取り柄。かえって2人の立場の違いが鮮明になった気もするが、そこは気にしない。

その ひなた の根性に一番 感化されたのは明日菜。彼女は ひなた を前の相手として認め、そして自分は潔く姿を消すことを宣言する。だが ひなた は明日菜こそビジネスパートナーだと認めており、前の傍にいて欲しいと彼女に頭を下げる。こうして明日菜は、前に告白しないままだし、そしてヒロイン・ひなた から認められることで作品から追放されずに済む。そして前からも これまでの努力を認められ、彼女の精神が救われる形となっている。


談が成立し、前は後継者として正式に認められる。こうして同棲生活も終わる。支え合うことの大切さを知った2人だったが、前の父親は息子をアメリカに戻すと宣言する。どうやら前はアメリカの学校への進学が夢だったということになっているが、作中で そんな目標 聞いたことがない。後継者や條森のトップになる努力はしていたが、学校の編入に向けた努力ではなかったような気がするのだが…。
唐突に少女漫画のクライマックス、遠距離恋愛危機が始まる。でも『4巻』で一度、その危機については描いているから最初から既視感がある。

しかも出発は3日後。本書では予定が急なほどドラマが生まれると考えているみたいで、記者会見やドーム公演など いつもタイムリミットは目前なことが多い。突然の父親の話を聞いて前は心の整理がつかないが、ひなた は彼の夢の実現のためだと考えて彼を快く送り出す。

こうして前がアメリカに出発する前に送別のパーティーが開かれ、これまでのキャラたちが大集合する。久しぶりの聖奈や、島から航(こう)も登場する。前が弱体化した島編からすると航は都会の華やかさに魅力が薄れるかと思ったが、彼は平常心。序盤の ひなた のように、セレブな世界にオドオドした航も見てみたかった気がする。

唐突な学校編入を応援できるなら、前半の仕事に燃える前も心から応援できたのでは…?

なた は強がりだけじゃなく彼の努力が実を結ぶことを本心から応援している。もちろん半分は寂しい。それでも出発の前日の夜、笑顔で おやすみ を言って ひなた は自室に入ってから初めて泣く。ちゃんと我慢できたからこそ、泣いた場面での胸の痛みは倍増する。

泣き崩れてから視線を上げると ひなた のベッドの上には一組の指輪が用意されていた。それは前が用意したエンゲージリング。前が登場し、相手を信じられるから離れられることを聞き、ひなた も同じ気持ちであることを伝え、そして待つばかりではなく自分も成長を誓う。その後、2人はお互いの左手の薬指に指輪を交換する。2人だけの結婚式に彼らは歓喜の涙を流す。

そして この日は聖夜。これまでにない最高のシチュエーションで、いよいよ その時を迎える…。今回は詐欺じゃない、はず。

スペシャル番外編!!」…
バレンタインに(またはバレンタインを口実に)自分から前にキスをすることになった ひなた の2つの話。良くも悪くも低年齢向けに受けるように作られた話で語ることは特にない。過去の話(島でプライドを砕かれる前)なので、前が根拠なく自信満々で滑稽に見えるかな。