
松月 滉(まつづき こう)
王子と魔女と姫君と(おうじとまじょとひめぎみと)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
前世から繋がりのあるイケメン男子達に囲まれ毎日を送る、王子系女子・昴(すばる)。夏休み満喫中のある日、突然おばあちゃんが訪ねて来て…⁉ 仁(めぐみ)も巻き込んで予定外の1日に! さらに、イケメン達の”作戦会議”や昴の誕生日も…♥ 恋真っ盛り第5巻!!
簡潔完結感想文
- 日常回はプリンスが1巻につき1人 告白するターン? 残り3人で3巻分は何も起きない?
- 亡くなった親の聞けなかった話、医者の息子の当て馬など前作と重複のエピソードたち。
- 個人回が なかなか回ってこないプリンスもいる中で女性キャラの個人回が続いてく…。
毎巻 誰かに告白されるんだからドキドキするでしょ? の 5巻。
どうやら作者は、ヒロイン・昴(すばる)がプリンスの中から誰かに告白される場面を各巻の読みどころにしていくらしい。『4巻』では隼人(はやと)がプリンスの中で最も早く本気の告白をしたけれど『5巻』では夢路(ゆめじ)の告白が胸キュン場面ということらしい。
隼人と夢路の先輩組から告白したのは初登場が1巻分 遅かったビハインドを埋めるためだろうか。この早々の告白を物語にとって あまり重要じゃないから一時的な盛り上げ要員として利用された、と思ってしまうのは意地悪が過ぎるか。


『6巻』でも誰かが告白すれば この説は一層 補強されることになるけれど、そうなると1巻につき1回の告白が延々と続くことを意味し、5人のプリンスたちの告白が揃うまででも随分と先のことになる。初登場で惹かれて、その気持ちが決定的になっての告白という流れなのだろうけど、熱心なファンではない私にとっては同じことの繰り返しに過ぎない。しかも夢路なんて個人回が2回目で大したエピソードなく昴に告白している。その一方で仁(めぐみ)の個人回は7回目に到達しているが、彼はトラウマのせいで恋心にロックが かかっている状態が続く。
一応、男性キャラ全員にトラウマっぽいものを用意することでだれてもヒーローになれる資格を用意しているが、さっさと告白するような男性のトラウマはトラウマじゃない。結局、トラウマの重さで正ヒーローが決まるという いつもの少女漫画方程式が適用されるようだ。男性キャラたちの扱われ方の不均衡が酷い。
完全に横並びじゃないのに、プリンスたちは全員に均等に告白の機会を与えようという妙な優しさが物語を冗長にしていく。初回×5、告白×5、そして ここから風邪回も蔓延し、学校イベントで連載が消化されていくことも多くなる。
ただでさえ こなすノルマが多いのに『5巻』の中盤からは女性キャラの個人回が続く。特に思い入れのない、特に本筋と関係のない脇道ばかりで物語が前進している実感に乏しい。あまり話を進めないようにするためなのか各話の前半はキャラが入り乱れて意味のない言い争いをするというパターンが散見される。物語の見届け人である理事長が出てきて思わせぶりな台詞を言うのもフラストレーションが溜まるばかりだ。
それに昴や仁をはじめとした各キャラの背景も どこかしら前作『幸福喫茶3丁目』を想起するところがあり新鮮味に欠ける。前作が作者の全てを注いだものであり 2025年の段階でも作者が『幸福喫茶』を こすり続けるのは当然のことなのかもしれない。
引き続き夏休み。そんな ある日、昴の家に祖母が突然 訪問する。この祖母は亡くなった昴の母・陽(ひなた)の親。厳しくて苦手意識のある祖母だけど今の昴は祖母も懐柔してしまう、という いつものパターン。
届け物をした仁を巻き込んで祖母と接する。仁回6回目だろうか。昴の母・陽は生まれつき心臓が弱かったが、昴を生む決意をし、僅かな時間であったが娘を育てた。父親の名前は光(てる)で娘は昴。光とか星とかに関係する名前なのか。このエピソード、決して悪くはないのだけど、片親と死別したヒロインの いい話ってのも前作と同じことの繰り返しに思えてしまう。
母のエピソードを初めて祖母から聞いた昴は母親の墓参りに行く。そんな昴不在の間に男子会が始まった直後に仁の風邪回となる。ここから始まる人を替えてシリーズ化する風邪回の第1回目だろうか。ここで恋敵でもある男子達の絆が補強されて、誰が選ばれても友情は続くことが暗示される。
夜になり昴が帰宅し、仁の看病をする。結局、仁回7回目か。仁はドキッとするような思わせぶりな台詞を吐くマシーンと化している。


なぜか夏休みは終わらず出校日となる。どうして新学期にせず出校日なんて回を作ったのか疑問だったけど、後半で この日が昴の誕生日であることが明かされる。
久々に登場人物が一堂に会し、騒がしさでページを埋めていく。ここで『3巻』で登場した音鞍(ねくら)が再登場し、彼女が小説を創作していることが明らかになる。これは後の伏線。
理事長に呼び出されて恋人選びの進捗状況を尋ねられるが、昴は一歩も進んでいないと正直に告げる。教室に戻ると、昴の誕生日を この日 知った皆が即席のパーティーを開いてくれる。「宗教団体・昴」の中では まさに生誕祭。後に真夏のクリスマスと呼ばれるようになるのだろう。
続いては夢路(ゆめじ)の個人回の2回目。誰よりも遅い個人回。隼人(はやと)に続いて2回目の真面目な告白なのだろうか。それで物語が進んでいると思えるのは作品ファンだけだろう。
夢路には特にトラウマや家族問題が設定されておらず、エピソードが弱い。物語が暗くならないのはいいけど、作品からの愛され具合は夢路は最下位だろうな、という印象が拭えない。性格的にも一番 普通で人畜無害。だけど本書では その個性のなさが弱点となってしまうのか。
現世でのプリンスたちの親の仕事の話は珍しく夢路の実家は医者家系だということが明らかになる。一般的に考えれば将来有望なのは夢路なのだろうか。親が医者って設定は前作の一郎(いちろう)と一緒。
昴は自分の誕生日の1週間ほど前に米子(こめこ)の誕生日があったことを知り、彼女のためにプレゼントを用意する。新学期に それを渡す米子回の始まり。本題に入る前のキャラたちが入り乱れる意味のない会話の連続も飽きてきた。
米子も感情が分かりづらいキャラで、零時と同じく攻略に時間がかかるタイプ。だけど今の昴は米子のことを理解しつつあり、米子は現世でも よい友人に恵まれる。米子がいることで昴の逆ハーレム成分を薄めている。
最後は隼人を通じた吉野(よしの)回。彼女は昴と一定の距離を取りつつも、盗撮を通じて物事が よく見渡せている。プリンスとの接触が多い昴に女子生徒による嫉妬に気を付けた方が良いと忠告する。
一方で吉野は隼人の心の動きも分かってしまうから切なく、自分の恋が叶わないことを理解している。それでも吉野は昴を攻撃しない。そして昴は吉野を傷つけようとする相手を容赦せず、吉野を守る。吉野の初回と同じような展開で辟易したけれど、その先に新たな展開があった。
