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少女漫画と小説の感想ブログです

鈍感ヒロインが恋をしたのは、自分を心底 好きな幼なじみ、じゃない方という鈍感

幼なじみと、キスしたくなくない。(2) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
幼なじみと、キスしたくなくない。(おさななじみと、キスしたくなくない。)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

幼なじみの関係が、大きく変わりはじめる…。ひよこ、伊輝(いぶき)、千紘(ちひろ)は小さい頃からの幼なじみ。このままずっと変わらない関係だと思っていたけれど、高校生になったひよこは伊輝への恋に気づく。初めての恋にひよこは戸惑い、どうしていいか分からない。そんなひよこを小さい時から想ってきたのは千紘。千紘はひよこの初恋に誰よりも早く気がついていて・・・。3人の想いが複雑に絡み合う、目が離せない第2巻!

簡潔完結感想文

  • 告白や交際の前から出現する元カノライバル。でもファーストキスはヒロインのもの。
  • ライバル同士が すぐに仲良くなるのは、どちらも加害者で被害者という同族だから。
  • 頑張っても自分は彼女の眼中に入れないと悟った当て馬は、彼女の眼前から姿を消す。

の始まりは幼なじみの終わり、の 2巻。

『2巻』は幼なじみの男女3人の間に恋愛感情を持ち込んだ結果、幼なじみが終焉するという悲しい結末に至るまでが描かれる。三角関係モノというと1人の女性に対して、2人の男性が張り合うかようにアプローチを重ねていくものだと思ったが、本書は そのセオリーから大きく外れる。
その原因となるのが伊輝(いぶき)と千紘(ちひろ)の男性たちの配慮だった。どちらの男性も優しすぎるから自分の気持ちを優先できず、その結果 誰の恋も成就しない。好きな人に振られる形となったヒロインの ひよこ は自分だけが世界で一番 辛い経験をしていると思っているだろうけれど、それは ひよこ以外の2人が自分以外を優先できる優しい人間だったからだ。ひよこ が自分の視野の狭さや幼稚さを理解する日は来るのだろうか。幼なじみ属性以外に ひよこ の良い部分が発見できない私としては この2人の男性は視野を広げて、もっと魅力的な女性と恋に落ちればいいのに、と思ってしまう。

ひよこ の人知れず泣く涙は千紘に発見されるが、千紘の この涙は本当に誰にも知られない

伊輝は千紘が どれだけ ひよこ のことが好きか熟知しているから、千紘の気持ちの大きさに対して自分の気持ちに自信が持てない。伊輝は千紘を優先した。その千紘は ひよこ が伊輝に恋をしていることを痛感したから、自分が ひよこ に近づくための努力を伝えずに、彼女の背中を押し続ける。その上、自己存在まで否定して、幼なじみの3人から自分を引き算しようとする。それが2人のためだという勝手な結論は千紘の視野の狭さであるような気がするけれど。

王道展開じゃない面白さと、王道展開に飽き飽きしながらも それを見せてくれよ と思う気持ちが拮抗していた。『2巻』までの第一ラウンドでは男性2人が互いに身を引くという展開だったが、今後もし第二ラウンドが展開されるなら今度は遠慮なしに ぶつかり合って欲しいと思う。特に本気を出すことなく不戦敗状態になった千紘には きちんと伊輝に ぶつかって欲しい。ただ実は万能な千紘が本気を出し過ぎると伊輝が単純な人間に見えすぎてしまうのではないかという恐れがある。千紘が伊輝をフルボッコにしても三角関係モノとしての面白さが欠けてしまう。


回、面白いと思ったのはヒロインと女性ライバルの関係。一般的に女性ライバルはヒロインを出し抜いたり意地悪をすることでヒーローに近づこうとするのだが、本書の場合、ヒロインである ひよこ もライバルの まゆな と同様に意地が悪いのには笑った。ただ意地が悪いぐらいで意地悪をしている訳ではない、という匙加減が良かった。誰でも恋をしたら このぐらいは利己的になっちゃうよね、という共感の範囲で収まっている。

そして まゆな だけが意地悪をしている訳じゃないため、彼女は女性ライバルでありながらヒロインの友達になるという少女漫画では珍しいパターンに落ち着いている。一般的にヒロインに害意を持った女性ライバルは作品外に追放される宿命にあるけれど、まゆな はヒロイン・ひよこ が同程度の性格の悪さだったため気の合う友人として作品内に残留する。女性ライバルを一方的に悪く描かない姿勢は これからの少女漫画界の手本になるような気がした。悪役令嬢ぐらいキャラが立っていればいいが、ヒロインを清純に描きたいがために嫌な人間を出すという手法は別の意味で嫌な気分になる。仲良くならないにしても、その世界から追放しないようなシステムになって欲しいものだ。


『2巻』から新キャラが登場する。それがバスケ部のマネージャーとなった橋本 まゆな(はしもと まゆな)。彼女は伊輝の中学時代の元カノ(1か月間)という設定。ひよこ が伊輝への好意を意識した途端にライバル登場である。ひよこ は自分から伊輝にキスをしてしまってから彼を意識し過ぎてしまう。やがて伊輝に捕獲されてしまうが、この日の逃亡の理由は風邪と誤魔化す。その嘘に対しても伊輝は優しく自分のジャージを ひよこ に着せてくれる。

まゆな という元カノの存在は ひよこ も認識済み。だが その時は ひよこ に伊輝への興味が無かったため気にならなかったし、1か月で別れたことで幼なじみは元通りの関係になった。まゆな と接触した ひよこ は、中学時代の彼らの破局が伊輝はバスケに夢中で まゆな が寂しさを抱えたためだと知る。しかし まゆな は もう一度 伊輝の彼女になりたいという。中学時代と同じ女性の接近だが、今の ひよこ には その状況は望ましくない。伊輝が まゆな に優しくする場面を見て ひよこ の心は大きく揺さぶられる。


んな状態の ひよこ に伊輝が遊園地の招待券を差し出し、週末に幼なじみ3人で行くことになる。まゆな は伊輝へのアタックを続け週末にデートに誘うと ひよこ に伝えるが、ひよこ は伊輝には「用事」があると彼女の行動を牽制する。どちらかと言えば ひよこ の方が女性ライバルっぽい意地の悪さが出ている。

決して嘘ではないが上手く まゆな を排除したいというギリギリのラインを攻める

しかし当日、伊輝と一緒に まゆな が現れる。嫌とは言えない ひよこ は彼女と4人で遊園地を周ることになる。ひよこ が絶叫系の乗り物が嫌いと知ると まゆな は伊輝・まゆな組と そのほかの2人と2グループで行動することを提案する。それを阻止したかった ひよこ だが伊輝が賛同してしまい、自分の思い通りにならない展開に ひよこ は怒って逃亡する。誰が一番 幼稚か明白である。

そのまま ひよこ は少女漫画において一番 大切な乗り物・観覧車に千紘と乗る。そこで千紘から自分の恋心を見抜かれ、行動を促される。この時、千尋は、ひよこ と同じモデルになるために体調を崩してまで無理をしたことと、その合格を伝えない。、少しは ひよこ に意識してもらう存在に近づいたのに千紘は他の2人のキューピッドになろうとしている。


輝も ひよこ を探しに出る。伊輝は まゆな が ひよこ と仲良くなりたいから同行を許可したのに、その ひよこ と別行動を取る まゆな に不信感を覚えたらしい。
互いに相手を探す2人は園内で出会う。その勢いに乗じて ひよこ は伊輝に告白するが、本気に受け取って貰えない。幼なじみの期間が長すぎたのだろうか。

その膠着した関係を変えようと ひよこ はイメチェンを図るが伊輝には無意味。そういう変化に気づいてくれるのは千紘の方なのだ。ひよこ の気持ちは周囲に伝わるほど あからさま。気づかないのは伊輝本人だけ。千紘の他にも周囲の友達、まゆな にも伝わる。

その まゆな が部活終わりに相談があると ひよこ を呼び出す。しかし それは まゆな が仕組んだ罠。彼女は ひよこ が来る時間を見計らって伊輝にキスをしている場面を見せつけた。まず思ったのが、ひよこ の登場が2分も3分も遅れたら ずっとキスしているのかというタイミングの問題。そして この伊輝のキスが用意されていたから、彼のファーストキス(かどうかは分からないが、少なくとも作中の最初)を ひよこ に奪わせたのだろうか。他の女性とキスしている場面を見てから2人がキスをしても ひよこ も読者も まゆか を思い出して気持ちが濁るからか。それなら ひよこ が先に済ませてしまえ(たとえ広義の女性による性加害でも)という感じなのだろうか。


撃的な場面を見て ひよこ は逃亡するが、遊園地に続いて今回も伊輝は まゆな を放置して ひよこ を追う。そこで伊輝に号泣しているところを見られた ひよこ は自分も負けじと伊輝にキスをして、本気の気持ちを伝える。今度こそ伊輝に恋愛感情が伝わったけれど、伊輝は ひよこ に対して家族愛しか持てないと告白を拒否する。

伊輝は ひよこ と これまで通りの幼なじみとしての関係を望み、ひよこ は それを承知し、笑顔で彼と別れる。が、もちろん ひよこ はショックで、雨に打たれながら泣く。それを発見するのが千紘で、彼は ひよこ に寄り添い、彼女を家まで送り届ける。

雨に濡れたせいで ひよこ は風邪を引く。そこに見舞いの客が訪問するが、それは何と まゆな だった。彼女は自分の企みと、それが破綻したことを ひよこ に報告しに来たのだった。その正直な告白に対し、ひよこ も自分の現状を素直に伝える。ライバルだった2人は同じ男性に振られた同士になったのだった。それに ひよこ も常に正しかったわけではなく、まゆな を牽制する動きを見せていたので同罪。加害者と被害者という区分ではなく全く同じ気持ちを抱えるから2人は仲良くなれるのだろう。

伊輝の前に現れるのは千紘だった。千紘は伊輝が本気で告白を拒否したのではないと考え再考を促す。しかし伊輝は その千紘が自分よりも強く ひよこ を想っていることを知っているから、ひよこ と距離を取ったのだった。だが強く想えないと自信がないだけで伊輝は確かに ひよこ が好きだと考えた千紘は…。


「オレ嫁。 スペシャルストーリー 前後編」…
2巻連続で前作の『オレ嫁。』で前作ファンを釣ろうとする企画なのか。
ヒロイン・中川 ひなた(なかがわ ひなた)はトップアイドルの南雲 新(なぐも あらた)からアイドル活動を要請される。フェスに参加するはずの妹分アイドルグループの1人が体調を崩したため、ひなた がサポートメンバーに抜擢された。本編ではヒーロー・前(ぜん)が即席の練習で新のドーム公演に立っていたが(ひなた も)、今回は逆の ひなたバージョン。前は ひなた が自分のものだけじゃなくなるので不機嫌。ただし本番を前にミスを連発する ひなた を奮起させるのも前の役割だった。

ひなた に付き添っていただけの前もアイドルとしての資質を見抜かれ、女性アイドルグループに加入する(笑) 2人は練習中に周囲には巻毛が姉妹と詐称しながら直接・間接的にイチャイチャする。それにしても臨時メンバーで新曲CDを作るって どういう世界なんだか…。

CD発売時の握手会ではファンが全然 集まらず、しかも悪質なファンと前が撃退しまう。その騒動で本来のメンバーは落ち込むが、ひなた と前が彼女たちを奮起させ、ステージに上がる。すると撃退動画は武勇伝として拡散され、フェスでの出番は大成功を収める。急遽CDを発売するけど売れない、けれどトップアイドルのフェスには出場するという このグループの立ち位置が定まっていない。握手会に人が集まらずメンバーはアイドル業界の厳しさを熟知しながら、フェスに出るのは腰が引けるという姿勢のズレも気になる。『オレ嫁。』はツッコみながら読む作品だと思い出させてくれる内容になっている(褒めてない)。