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少女漫画と小説の感想ブログです

近距離だと冷たく、遠距離だと優しい彼氏との地元での結婚は、地獄の始まり!?

ちっちゃいときから好きだけど(11) (別冊フレンドコミックス)
春木 さき(はるき さき)
ちっちゃいときから好きだけど(ちっちゃいときからすきだけど)
第11巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

ヘアショーに出演したつばさは、それがきっかけで美容師を目指すことに。そして翔は東京の美大に行くことになり、2人がずっと一緒にいられるのはあと少し…。「いまは翔と離れることを考えるよりも 一緒にいる時間を大切にしたいな…」 遠く離れても大丈夫。次に会うときは、きっともっと大好き! キュンっともどかしい幼なじみラブ、完結☆

簡潔完結感想文

  • 全11巻 全41話の話だけどヒロインの進路は40話目で急遽決定のドタバタ感。
  • 子供と接することで明確になる2人の将来像。子供はヒロインを輝かす装飾品。
  • 2人の交際に両家の親は何も言わないまま。幼なじみ設定のみで逃げ切った…。

んだか店じまいのような慌ただしさを感じる 最終11巻。

結婚させておけば文句はないだろうという作品側からの圧を感じた最終回だった。4年近く作品を描いた割には最終盤は雑に感じられ、もっとペース配分をしっかりしておけば、こんなに慌ただしい終わり方は回避できたのではないかと思う。ここまで作品に付き合ってきた読者としては、せめて遠距離恋愛パートを1話用意して欲しかった。その後、数年後の地元での再会で最終回を迎えれば、彼らの月日を実感できたかもしれない。

そもそも 些細なことで不安になり続けた つばさ が、どうして翔(しょう)との数年の遠距離恋愛を平気だと思えたのか、その違いが全く描けていない。確かに当て馬・兼城(かねしろ)を撃退した後の翔は優しさを しっかりと表現していて、以前よりは安心感を持てるのは伝わる。しかし ずっと一緒にいた幼なじみ兼 恋人と離れ離れになる切なさや不安を どう乗り越えたのかが不明確だ。彼らの幼なじみという関係性や、つばさ が安心できる材料をしっかり描けていないから、遠距離恋愛を難なく乗り切った2人に疑問が出てきてしまう。もうちょっと激しい衝突や、仲直りからの性行為など、次の段階に進んだことを明確に描けたのではないか。前半あれだけ匂わせていた性行為問題を最終的に無視しているのも気になる。

最後までライバル男性への対抗心でしか愛情を示さない翔。割れ鍋に綴じ蓋カップルだよね…。

それに翔は つばさ に第三者の男が近づく時にだけ優しいのも不安材料だ。自分の夢を追うために つばさ を不安にさせて放置してきた翔が、兼城の出現で嫉妬心を見せ、それを動機に つばさ に優しくなっていった。「番外編」での描写でも遠距離恋愛の方が こまめに連絡をして、つばさ に優しいという証言が出てくる。これは遠い場所にいる彼女を束縛したいという気持ちの表れだろう。
要するに翔が つばさ に興味があるのは、自分の目が届かない所で つばさ が男性と近づく危険性がある時だけ。そして この翔の性格からすると、彼が地元に戻り、つばさ と結婚し、ずっと彼女と一緒にいることは無関心の始まりなのではないかと考えられる。
結婚後は あれだけ こまめにしていた連絡もしなくなり、沖縄に帰って来たら芸術家肌を爆発させ、集中したい、作品を仕上げなくてはならない、と高校生中盤の頃のような理由をつけて つばさ を放置する可能性は低くないだろう。


の つばさ への気持ちは ぼんやりしていて、気まぐれ。全11巻で つばさ の成長も感じられなかったが、翔も つばさ への気持ちが募るのは、上述の通り、第三者の男性の出現と、自分たちの交際が遠距離になることが決定的になった時のみ。壊れそうになって ようやく大事にするような男として読めるから、恒常的な平和は つばさ にとっての不幸の始まりに考えられてしまう。

これは私が彼らの愛を信じられていないということである。何度 同じことを繰り返しても、いや何度も同じことを繰り返したからこそ、些細なことで壊れそうになる2人の関係が信用ならない。交際を通じて強固になる関係性は全く描けていない。

また、最後まで幼なじみの家族関係も出てこなかった。2人の交際が両家にどう受け入れられるのか、など描くべきことはあったはずなのに、作者は それを無視して、つばさ の脇の甘さだけを何度も描くばかり。「幼なじみ」という言葉に甘えて、周辺事情を描かないから、物語は薄っぺらくなった。とても狭い範囲での恋愛しか描けないのが、作者の最大の弱点ではないだろうか。こんなに連載が続いたのに、何一つ視点が移動しないのは ある意味凄い。作者は連載期間中の4年弱、つばさ たちは高校生活の3年間で、驚くほど少しも成長を感じられないままだった。読んでないのに厳しいことを言って申し訳ないが、次作が続かなかったのは完全に力不足だからだろう。また5巻以上の作品が完成したら お会いしましょう。


まれて参加するヘアショー本番。緊張で表情が硬くなる つばさ だったが、会場に来ていた翔の姿を見て自然と笑顔を取り戻す。しかし翔が会場に来るのは、美容師の男性の存在があったからではないだろうか。兼城といいライバルがいると つばさ を大事にする性格は どうかと思うよ…。

打ち上げ会場で美容師の男性は翔が隣にいるにもかかわらず「つばさ が ほしい」と言い出し、男性間は一触即発。だが すぐに男性のもとに妻子が現れて、修羅場は回避される。最初に翔が好きだった美術部の女性先輩といい、諸見里(もろみざと)といい、恋人やパートナーがいる、というオチも本書では何回も使われた手法だ。本当にアイデアの少なさが際立つ作品だ。

この美容師が つばさ を欲したのは彼の店で働いて欲しいという意味だった。その言葉通り、つばさ は美容室でバイトを始める。これは元のバイト先では兼城と同じ空間で同じことの繰り返しだから心機一転、ということなのだろうか。兼城と気まずくなる前に学校のクラスを別にして、友達でもいられなくなったら別口でバイト用意する。作者は どこまでも つばさ に甘い(タコス屋のバイトも継続しているらしいが)。飲食業だと兼城と被るから、彼との決別を明確にするためにも別の進路を無理矢理 見つけた という感じか。


休みも多忙に過ごす つばさ だったが、翔からデートの誘いが来る。だが約束は破られるのが本書の掟。翔の家に いとこ の女の子が預けられていて、2人は彼女と過ごすことになる。ハッキリ言って小さい子はヒロインを聖女にする道具である。つばさ は その子と四苦八苦しながら距離を縮める。美容室で習得した技術で子供たちの人気者になる。こうして つばさ は美容師を将来の夢に設定する。彼女の3年間を追った作品の割には夢が最終回直前まで決まらなかったなぁ…。

12月には つばさ、そして翔の進学先が決定する。翔の進学先決定の話を聞きつけ、兼城が久々に顔を出すが、彼は もう2人に距離が出来ても何もしてこない。1回目の告白と最後の告白の何が違うのか私には謎なのだが。

そこから卒業までの時間、彼らは穏やかな日々を過ごす。そして翔の出発前、両家は彼の送別会を開く。…が2人がカップルであることに何も触れず、ただの幼なじみ同士として扱われている。この家族間の話題は もう少し踏み込んで欲しかった。

本書では家族は その周辺にあるだけ。双方の親への気恥ずかしさとか色んな感情が描けただろうに…。

その夜、翔が つばさ の部屋を訪れ、2人は別れのキスをする。この時、性行為をしててもいいと思うが、前半であれだけ性行為を問題にしていたのに、後半では その話題が全くといっていいほど出てこない。これは当て馬の兼城が随分と粘った弊害なのか。性行為の完遂は少女漫画では無敵で、これ以上 恋愛において問題は起きないという終戦宣言ですからね。

そして数年後、翔は沖縄で個展を開くほどの人間になっており、美容師として活躍する つばさ は その会場で沖縄に帰ってきた翔と会い、そして結婚を約束する。えっ!? 駆け足にもほどがある…。


「番外編 好きになるってなんだろう!?」…
兼城と、彼とフラグが立っていた つばさ の親友・しおり(しーちゃん)の物語。彼氏いない歴20年の しおり がチャラ男に惹かれるまでを描く。ちなみに兼城は つばさ にフラれて以降、彼女を作っていないという設定。もはやファンタジーであるが、こうして兼城が恋愛において綺麗な身体でないと、しおり みたいな堅物が彼を好きにならないからだろう。

この話では20歳時点の、遠距離恋愛中の つばさ と翔も登場する。離れている時の方が翔は まめに連絡をしてくれるという。要するに つばさ を放置することで彼女の不幸を演出し、兼城の接近や その後の仲直りなどに都合が良かったから放置していて、少女漫画的な展開が不要になったら、翔は優しくなった、ということか。

しおり は つばさ と翔の関係を見ていたら恋がしたくなり、知り合ったばかりの男性の誘いに乗る。そこで危険な目に遭うのだが、それを助けるのは その現場となったカラオケ店でバイトをしていた兼城の役目となる。強引な男を撤退させた後、しおり は兼城とデートをする。男は危険と言われたそばから兼城の誘いに乗る しおり の危機感の無さよ…。さすが つばさ の友達って感じか?

このデートで2人は本編でのフラグを回収し、しおり の中に特別な感情が生まれる。話として悪くはないが、しおり のための話というより、本書の功労者である兼城に一定の幸せを与えるための話だろう。そして しおり が たった半日の間に好きになろうとしている相手を変えているのが引っ掛かる。兼城だって、他校の生徒で数回しか会ったことのない、よく知らない相手だろう。兼城は つばさ の時同様、女性が弱った隙に彼女たちの心に スルっと入っていくのがホストっぽいというか百戦錬磨な感じで、しおり との恋愛は彼の主導で動いていくのだろう。