星森ゆきも（ほしもり ゆきも）
ういらぶ。ー初々しい恋のおはなしー
第02巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★☆（5点）
幼なじみの優羽と凛。凛は優羽のことをあまりに好きすぎて、ついイジメてしまう。素直になれないけど、優羽を溺愛している！
一方の優羽は凛のことが大好きだけど自信がなくて…
そんな2人だけど、、、、、凛がある決意を！
2人の恋が大きく動き出す遠足編からスタートの第2巻です。
簡潔完結感想文
- 遠足回。既成事実を積み上げれば、いつしか それが現実になると思う凛。
- 偽装交際。これまで優羽にやってやりたい優しさを素直に出したのに…。
- 破局と引っ越し。当たり前の日常のヴェールを捨てて初めて分かる恋心。
どちらが裏で、どちらが表かは自分次第の 2巻。
『2巻』こそ作者の描きたかった内容ではないか。
今回、描かれる主人公たちの特殊な関係性のために、
こんなにも極端な設定はあると言っていいだろう。
主人公の女子高生・優羽（ゆう）に罵詈雑言を投げつける、
隣人で同級生で幼なじみの凛（りん）。
彼の道化としての悲哀が引き立ちます。
好きな子に対して意地悪をしてしまう小学生（または幼稚園児）並の精神を持つヒーロー・凛。
彼は、ずっと想ってきた優羽に対して悪態をつくことが日常になってしまった。
凛は純情さも小学生並で、彼は人一倍、優羽への想いが強い。
凛にとっては胸の奥に大事にしまってある優羽を大事にする心こそが本心で、
どうしても意地悪をしてしまう見栄っ張りな自分は裏腹な心でしかない。
だが今回、優羽にとっての裏と表が凛とは一致しないことが判明する。
優羽にとっては意地悪な凛こそ自分だけに向けられる本当の顔で、
彼が自分に優しくする顔は欺瞞に溢れていると感じてしまうらしい。
今回、偽装交際の機会を得た凛は、
これを機に、ずっと優羽にしてやりたかったことを心置きなく奉仕する。
そこから凛の偽装が偽装ではないことを、優羽が思い当たればいいと思っていた。
しかし優羽にとっては、優しい彼氏の凛など役者に過ぎなかった。
凛の本心は優羽にとって演技であり、居心地の悪いもの。
そこで優羽は彼女の方から偽装交際の解除を申し出るのであった…。
ずっと北風だった自分が、太陽になれると喜んでいた凛は天国から地獄に堕ちる。
偽装交際の嘘が本当になる前に、
自分がこれまで演じてきた意地悪な継母役がシンデレラの優羽には本物に思えたらしい…。
それもこれも凛の因果応報ですね。
むしろ勧善懲悪のカタルシスすら感じましたよ…。
そんな素晴らしい『2巻』でございましたが、
本書が残念なのは、当初の構想が明らかに『3巻』（正確には2.5巻分）までの内容だということ。
あとは連載の好評を受けて、急遽、話をこしらえた印象である。
2人の特殊な設定を活かした展開は それほど見られません。
では、各話の感想を少しずつ。
6話。遠足回ですね。
非日常の学校イベントは告白の絶好の機会でもある。
今回は凛に告白する女子生徒が登場。
その告白の場面に出くわしてしまう優羽。
そして優羽が隠れていることを承知で、告白の返答を聞かせる凛。
「…ごめん 俺 付き合ってるヤツがいるんだ―――……」
彼女は同じ学校かと聞かれた凛は
「つか 幼なじみの―――……春名優羽」と答える。
「両片想い（背表紙の名キャッチコピー）」の2人による偽装交際が始まります。
6話で気になったのは、このアスレチックの名物であるすべり台の場面。
すべり台の頂上（?）から凛の背中を蹴った蛍太（けいた）たちが、
凛たちよりも先に下に降りて待っているのは どういう仕組み？
蹴って、即、一目散に坂を下って、息も切らさず笑顔で彼らを出迎えたのだろうか。
こういうワープでもしなきゃ無理な場面転換は少女漫画でたまにあります。
頭の中でシミュレーションしてないんですかね。
ベテラン作家さんで こういう違和感はまずないので、
新人作家さんの想像力の欠如、または客観性の不足だと思います。
7話。遠足回その2。
この頃、凛は告白される機会が多く、断る理由に優羽を利用する。
両片想いでなければイケメン男子と平凡な女子の、よくある少女漫画の偽装交際だ。
ただし2人にとっては渡りに船、願ってもない夢見てきたシチュエーション。
嘘から出た実（まこと）ではなく、本心や願望を隠した嘘、というのが本書のミソ。
凛は偽装の中で優しさを滲みださせて、今まで出来なかったことをしようとする。
嘘の中でしか優羽に触れることを許されない悲しい生き物ですね。
日本昔ばなし などに そういう妖怪、いそうですよね。
「めちゃくちゃ可愛がって 優しくして 大事にして
そしたら――… …俺のこと好きになってくれるかもしんない――…」
これまでは凛が優羽のことを虐待していたように思ってましたが、
このセリフだけ抜き出すと、凛は自分に愛情を注いでくれない親を
何とか自分の方に振り向かせようと必死な子供のようである。
まぁ、後半の展開を加味すると、当たらずも遠からずなのですが。
しかし、偽装交際の開始直後の この時点で既に優羽の中で違和感が生まれている。
凛の出来た彼氏役は優羽にとって演技なんですよね。
そういえば偽装交際から本物の交際に至らなかったカップルって、
少女漫画の世界に存在するのだろうか。
同居すれば両想い、偽装交際すれば両想い、それが少女漫画か。
8話目。2人でお留守番回。
それにしても優羽の母は娘の部屋に男がいることを何も言わないのだろうか。
後半の展開で、娘を守ろうとする姿勢との整合性が取れない。
放任主義でないなら、幼なじみだけど、もう年頃の男女であることを優羽に もっと言い聞かせないと。
如実になる凛にとっての裏が、優羽にとっての表という事実。
凛は偽装交際に乗じて隠していた表の顔を優羽に見せられるはずが、
優羽にとってはそれは裏の顔でしかない。
だから優羽の方から、幼なじみに戻りたいと申し出る。
ありのままの凛を好きだという明確な気持ちが、凛に対して初めて反抗する推進力になっているのだろう。
断る時の文言も酷いもんだし、それで幸せなのかという疑問は残るが、
取り敢えず、優羽にとっての本物を獲得するための行為である。
彼女が強さを出したことを誉めてあげなければ。
描いた未来が崩壊し、停電並みに目の前が真っ黒になった やけくその凛は、優羽にキスをする。
いよいよ性的暴行に走りましたね、この男。
悲しきモンスターであっても、女性の敵、モンスターであることは変わらない。
9話。キス事件の事後を描いた話。
優羽にとって裏の顔を見せる偽りの凛とは付き合えないが、凛が誰かと付き合うのは嫌だ。
そんな優羽側の焦りが描かれる。
体育の授業で優羽が転んで、それを凛がお姫様抱っこをする胸キュン展開。
口は悪いが、態度だけは優しい凛。
身体が触れ合ったことで、この週末に言えなかったことを素直な気持ちを言えるようになる。
2人の間の風通しが良くなります。
これで凛の寝具もカビが生えませんね。
にしても凛は舌をよく出してますね。あざといです。
自分の決め顔として設定されているんでしょうか…。
10話。物理的距離を置いて、相手を新鮮に見る話。
優羽の家がリフォームのため、1か月間、隣町に引っ越し。
引っ越し当日に新しいマンションの玄関で会った、顔の描かれていない男性が和真（かずま）だろう。
本書では主要な登場人物、全員マンション暮らしなのかな？
中距離恋愛になって、珍しく電話で交流する2人。
凛は間違い電話を装って優羽に連絡を取る。
離れることで出来なかったことが出来る新鮮さが浮かび上がります。
この辺りから連載のラストが次回予告的な思わせぶりな文章で締められる。
次も面白いよ！という作者の必死な宣伝に思えてしまう。
たしかに当初の構想以降の続投がかかった大事な時期だろう。
（和真が登場しているこの時点では、和真編は確保できたのかもだけど）
11話。中距離恋愛編その2。
別々の家なので登校は一緒に出来ず、
下校の際も優羽が委員会（何をやっているのか詳細不明）のため1週間ずっと一緒に帰れなかった。
学校は一緒だが、これまでの四六時中の関係から比べると希薄な関係になる。
ただモーニングコールやら、今までになかったイベントもある。
そして1週間ぶりの下校で、凛を これまでとは違う視点で見る優羽がいた。
当たり前のものを失って、初めて大切さに気付いたのかもしれない。
このリフォームは凛にとって大変にありがたい環境の変化ですね。
そうして偽装ではなく、本当の交際のために一歩を踏み出す優羽。
そのために彼女は夜、家を飛び出して凛の家の玄関の前に立つのだった…。
やっぱり交際前までが少女漫画の醍醐味ですねー。
