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少女漫画と小説の感想ブログです

物理的か、女性に縛られるか、その2択でお送りする とらわれの八葉。

遙かなる時空の中で (8) 花とゆめCOMICS
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

鬼の少年セフルの策謀に嵌(は)められ、投獄され刑を待つ詩紋(しもん)。そのころセフルは あかね を攫(さら)うことに失敗し、友雅(ともまさ)に捕らえられていた。詩紋を案じる帝と友雅は、セフルを身代わりにしようと謀り…⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミック)、さらなる波乱の予感、第8巻。

簡潔完結感想文

  • 投獄。捕らわれた詩紋。外見的特徴、状況証拠が揃う中、どう救う⁉
  • 奪還。詩紋・セフル、双方の陣営が仲間を助けるために大集合。開戦。
  • 具現。鬼側の一大計画と八葉の神力が京の町で相次ぎ発現。次章に続く。

変わらず男同士の人間関係ばかりが描かれる 8巻。

「少女漫画分析」のために、少女漫画、それも恋愛漫画ばかりを読んでいる私にとって、
本書における非常に大きな誤算は、恋愛描写の少なさ、である。

割と早い段階から主人公に好意を寄せる面々が出てくるのはよいのだが、
それが発展する様子がまるでない。

それもこれも主人公・あかねを守るために存在する八葉(はちよう)の中から、
誰かを選ぶという私が定義する「少女漫画4分類」の内の「Ⅳ類 恋愛成就型」の漫画だからだろう。

それは同じ形式の『金色のコルダ』を読んでいるから分かっていた。

最後の最後に誰が選ばれるかが本書の醍醐味であって、
中盤は、彼らが八葉本来の責務を果たすことに使われていても不思議ではない。

が、それにしてもだ。
彼らの仲が深まる恋愛イベントが少なすぎる。

以前も書いたが、男女よりも同性である八葉間の距離感が縮まる様子の方が詳細に描かれているぐらいである。

鬼との争いの場面になるとそれが顕著で、もはやジャンプ漫画。
努力・友情・勝利に力点が置かれて、恋愛は4の次といったところ。

『8巻』における詩紋(しもん)の個人回でも、あかね と彼の交流の場面は極端に少なく、
恋愛フラグが立った形跡もない。

そう思うと現代劇である『コルダ』は恋愛パートの配分が私好みだったことが分かる。

本書も漫画としては佳作だと言い切れるが、
恋愛漫画としては胸キュンが足りないと言わざるを得ない。
もっと個人回で距離を詰めてもいいのに…。


かね が直面する事件としては友雅(ともまさ)の軟禁に続いて、
詩紋が捕まるという、囚われの八葉が続く。

ただし自ら捉まっていた友雅と違い、
詩紋は この時代の警察に児童への暴行などの容疑者として捕まるという違いがある。

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内気グループの詩紋と永泉。この後にあったであろう会話もカット。ある意味で共演NG⁉

そして現行犯であることと、その外見、そして八葉という特殊性が詩紋に不利に働く。

京を守る八葉であっても、その存在はごく一部にしか知られず、
投獄された詩紋を八葉だからといって治外法権的に救い出す手段は彼らにはなかった。
彼らのバックには主上(おかみ)や皇子(みこ)がいるのに、である。


そんな膠着状態を打破したのは、単独行動クイーンの あかね。

町中で鬼の子の姿を見かけ、追いかけることで逆にピンチになるデフォルト展開。

しかし八葉の面々って、ボディガードとして無能ですよね…。
目を離した隙に、あかね に単独行動を許し、事態を悪化させている。


けれど その鬼の子・セフルが あかね を連行しようとする現場を、今度は八葉が捕縛する。
そして鬼の外見をした少年が2人揃うことで、詩紋の救出が可能になる。
これは あかね のファインプレーなのでしょうか?
彼女は そんなことまで考えてはいないが、状況を打破するコマは これで揃った。

八葉を助けるため主上たちが考えたのは、投獄された詩紋とセフルの入れ替えであった。

この鬼の人権を無視した決着の方法に対して、大人組と子供組の差が鮮明になりますね。

苦渋の決断とはいえ、それを認める主上や友雅、そして天真は大人組だろう。
それを心苦しく思う永泉(えいせん)は子供組ですね。

子供組候補の あかね・イノリ・詩紋が同席していなかったのは、きっと強く反対するからだろう。


フルの刑罰決定を前に、鬼が集合し、都の空気は張り詰める。

その中の一人に、イノリの姉に会いに来た鬼がいた。
ずっと仄めかされているイノリの姉と鬼の一族の者の恋。
こういうのってアニメやゲームだと声バレしちゃうんでしょうか。
漫画読者だけが楽しめるのは こういう叙述トリック(?)ですね。

セフルと詩紋の関係性は、黒龍の神子に選ばれた蘭(らん)と あかね の関係に似ていますね。

鬼子として人間社会から爪はじきにされたセフルと、
人がいいだけの軟弱物なのに恵まれた暮らしの中にいる詩紋。

なまじ外見・環境が同じであるという共通点があるだけに、
本人同士の人生の格差が明確になり、一方的に恨みが増すという構図が似ている。


アクラムが準備していた四神の開放(?)が成され、その一つ・朱雀が京の空を舞う。
その中で神力が具現したのが朱雀グループのイノリと詩紋だったのは偶然ではあるまい。

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具現した力で能力バトルが始まるかと思いきや、お宝探し。作中の技の発動は1人1回だけ⁉

詩紋は友達になれたかもしれないセフルを失ったが、
この時代に生きる初めての同年代の友達を得た。


鬼への偏見と個人的体験から、鬼と同じ外見をした詩紋を毛嫌いしていたイノリ。
詩紋が囚われている間、イノリは自分の心を整理することに努めた。

イノリは、自分の恋心に振り回されて八葉内で内輪揉めをしている天真と同じく、
詩紋に対しての誤った敵意を育ててしまったことを、イノリは反省する。

相手が大変な目に遭っていることで、反省し、その人との絆を思い出すイノリ。
恋愛漫画ならヒーローがヒロインへの恋愛感情に気づく、といったところか。
なら あかねが囚われたら、八葉は積極的な行動に出るかな?
でも その展開は最後の手段か。
どうやったら恋愛が盛り上がるのだろう…。

しかし内気グループが、熱血・武闘派グループにイジメられているなぁ…。
その点では詩紋と永泉は、性格的には同じグループなのだが、彼らの会話って記憶にない。
場面としては盛り上がらないし、会話としても ほんわかし過ぎるからだろうか。
詩紋って、あかね と同じく性善説に生きるヒロイン体質ですよね。


んな あかね は鬼を嫌うのではなく、アクラムを嫌っていることが分かる。

性善説に立つ あかねでも彼を嫌いになり、分かり合えないと踏ん切りを付ける過程が『1巻』なのか。
やや荒唐無稽かなと思っていた『1巻』もしっかりと長編の一部になっていたんですね。


京に四神が登場して「四方のお札」編が始まる。

このお札は「四神を従わすことのできる霊力あるお札」で、
100年前の八葉が隠したっきり、隠し場所が分からない物。
それを探すという暗中模索のミッションが八葉に与えられる。
この辺はRPGっぽい、分かりやすい章の転換ですね。

このお札、本書における八葉も、完結後には100年後の八葉(『遙か2』)のために隠したのだろうか。

ちなみにシリンが最近、物語に登場しなかったのも、お札の調査をしていたかららしい。
鬼の留守中の行動は事後報告がデフォルトです。

そのシリンは変身能力で、あかね に化けて八葉に近づく。

にしても彼らは八葉の名前やら役職、個人情報をどうやって集めているのか。

例えばシリンが個人的に恨みのある鷹通(たかみち)に近づくのは分かるが、
ラストシーンのように永泉に近づくのは疑問が残る。

色仕掛けをすればOKという単細胞なシリンの計略に、
総モテという条件が重なって上手くいくが、
彼らの背景など知らないはずなのに、話が どんどん進んでいくのは違和感がある。


ここまでくると登場人物たちにも馴染んできたので、
読切短編の日常回がとても楽しく思える。
補強される一方の藤姫(ふじひめ)と友雅のフラグ。

天真は自分は現代人で未来に帰るという意味でも、
あかね の恋人は自分しかいないと思っている節がある。
普通に考えればそうなのだが、色々と彼氏面していることが あかね に不快感をもたらしている気がする。