水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第17巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
呪詛(じゅそ)の種が京にあると気付いた あかね は京へ! 一方、神泉苑に集結した八葉に、アクラムが操る神獣・黒麒麟が襲い掛かる。絆を失ったままの八葉と、あかね の運命は⁉ そして あかね には ある人物への思いが…⁉ 大人気、恋と戦いの平安絵巻、堂々完結!!
簡潔完結感想文
最終回の続きが、×月発売の本誌で読めちゃう!の 最終17巻。
最終回なのに、その続き(正確には前後譚)があるという不思議な最終巻。
※単行本を前提とした話です。愛蔵版や電子書籍版では補完されてます。
10年全17巻に亘る物語なのに最終回がかなり駆け足で残念に思う。
特に主人公・あかねが目的を果たした後の話は もっと読みたいと思っていた。
そんな渇望感を満たすのが、戦い後の日常を描いた「特別編」の存在。
単行本発売から間を置かずに発売される雑誌の方で それが読めるという。
相変わらず商売の臭いがプンプンする作品ですね。
本書を あくどい商法で売ろうとする人に穢(けが)れを感じます。
神子(みこ)に浄化して欲しいものです。
作品ファンには嬉しい誘導なのだろうが、
単行本派には完結して、全巻揃ったと思った作品が早くも不完全な存在になるという悲しい お知らせ。
思えば『1巻』・『2巻』もゲーム ⇔ 漫画を行き来させようとして、
短期連載や時系列が一致しない読切短編での形態で、漫画が中途半端な出来になっていた。
メディアを横断するのも良いが、単独での美しさを壊さないでよ。
単行本で揃えた人は、愛蔵版か電子書籍版で読むしかないのかな。
せめて単品売りでも してほしいものだ(あるのかな?)。
読者のいる現実時間では1年半(2007年9月号~2009年3月号)もいた鬼の洞窟。
あかね たちは そこから脱出し、神泉苑(しんせんえん)に関係者が集合する。
あかねが神子として八葉(はちよう)を従わせるのではなく、
記憶も絆もない彼らを突き動かしていく様子が描かれています。
神子と八葉としての関係が除去されても、
あかね自身の行動力と強さが彼らの気持ちを動かす。
最終巻にして本当の総モテが完成したと言えるのではないか。
中でも友雅(ともまさ)にとって神子の帰還は奇跡の象徴だろうか。
これまで何にも心を動かされてこなかったニヒルな自分を変え得るかもしれない出来事。
私は友雅からの「モテ」が成立したのは、この時かな、と思います。
ただ、そう思った時には、彼女の心は決まっていたけどね…。
そう、あかね は「気持ちに決着がついたから」、神気が澄んでいる。
これはアクラムとの決然とした別れと、恋愛的決着の2つの気持ちの決着だろう。
アクラムとは分かり合えないことが分かった。
だから彼女に迷いがなくなり、龍神の力への恐れも消え、
力の発動が京を救うことに繋がっていく。
そういえば、当のアクラムは あかね のことをずっと神子として見ていたんですよね。
これは八葉が関係性から脱却し、あかね その人を認めるのとは逆の構図である。
思えば あかね も『1巻』でアクラムの素顔も名前も知らないまま、
彼に惹かれていった(声フェチ疑惑あり)。
アクラムは白龍の神子として あかねを異世界に召喚した張本人。
そして その存在を渇望し、傍に置きたかった人。
だが この『17巻』に至ってもアクラムは あかね の名前を呼ばない。
彼にとって名前は意味を持たないから。
意味があるのは、彼女が白龍の神子であること、それだけである。
初期の あかね も鬼イケメン鬼エリートの鬼アクラムにステータスで惹かれた感じがするが、
アクラムもまた彼女の特別性しか見ていなかった。
あかね は考えを改め、八葉との絆を育み、
それを失ってもなお、彼らと人と人として向き合う。
そしてそれが自分の迷いを消し、彼らとの新たな関係さえ築くことになった。
あかね は成長したのに、その彼女の変化など意に介さず、
彼女の生来の気質ばかりを追っていたアクラムは振られて当然ですね。
この考え方は、あかね の成長に戸惑い、
それを快く思っていない風であった初期の天真(てんま)に似ている気がする。
女性の自立や社会進出を認めなければ、
例え平安の人間であっても、21世紀ではやっていけません(時系列がおかしいが)
そんな あかねが最後に選んだ人物は…。
頼久(よりひさ)でしたね。
洞窟クエストで八葉の中から選ばれた時点で頼久エンドは決定的だったかな。
ただ、私は あかねが頼久を好きになったのは ごく最近、
彼女が頼久の強さを認めた辺りかな、と思います。
まぁ、正直に言えば恋愛の要素は薄いですよね。
総モテ状態維持のために、作者の側も堂々と恋愛フラグを立たせるわけにいかない事情もあったでしょう。
それにしても、あかねが誰を想っているのか、という描写が少なすぎる。
ミスリーディングのためなのか、それとも恋愛要素がそこにしかなかったからなのかは分からないが、
天真フラグの方が多く見つかるぐらいだもの。
中盤がずっと男性(八葉)視点で、あかね に惹かれる様子に消費されていってしまい、
あかね は天真爛漫に彼らの気持ちを無視し続ける運命が定められてしまった。
多少、あかねが移り気に見えてもいいから、
この人のこういう所が好きだ、こんなイベントがあったと、
8人8様の恋愛絵巻を見せて欲しかった。
以前も書いたが、どちらかというと減点法で八葉が描かれている。
例えば天真なら積極的だが、あかねの変化を認めず檻に閉じ込めているとか、
鷹通(たかみち)はマザコン気味、
詩紋(しもん)や永泉(えいせん)は想いを伝える勇気を持たないなど、
悪い点ばかりが目についてしまった。
そんな中で無口で忠実な頼久が、目立った欠点を持たないという理由で選ばれた気がしてならない。
もしくは高熱によるキス事件という最大の恋愛イベントを引き起こしたからか。
そういえば『17巻』でも深手を負い熱が出始めた頼久は饒舌でしたね。
今後、あかね は頼久とのコミュニケーションが不全になったと感じたら、
寝ている彼に水でも浴びせて、熱を出させればいい。
そうしたら日頃、胸に溜め込んでいる不平や不満を口にしてくれるだろう…。
これも以前に書きましたが、洞窟クエストの前をセーブポイントにして、
あかね の脱走を見咎める人を別人にして、そこからの物語を8パターン作って欲しい。
例えば鷹通なら、鷹通さん、マザコン気味なのに身を挺して私の願いを叶えてくれた、強い、好き!
ってな感じで8人分のエンドを、どうか…。
自分が選ばれなかったと悟った男性たちの対応は2つに分かれる。
回復した絆と宝珠を通じて、自分の失恋を間接的に知るのが八葉。
あかね の総モテというのは、逆を言えば男性側のほとんどが振られるということ。
ただし龍神の神子として便利なのは、
彼女が誰か一人を選んだことが、自動的に他の八葉に伝わるところですね。
これで、いちいち告白を断らなくても良くなりました。
意地悪な見方をすれば、とことん あかね に都合の良いシステム・作品だ。
通常なら、これだけの男性に想われると断る方にも勇気と労力がいるが、
天真爛漫な鈍感設定で、好意に気づかず、自分の想いに素直になればいいだけ。
そう考えると天真の告白は唯一 あかね に恋の難しさを教えてくれた事例ですね。
というか、天真以外は告白していないも同然か。
もう一人、告白しそうになった鷹通は その前に出鼻をくじかれた格好となった。
泰明(やすあき)は、2歳児らしく、彼女への好意も嘘も自分に構って欲しかったことが判明。
あれっ、もしや泰明も鷹通と同じく あかね の中に母性を見出しているのか。
泰明、2つ目にして最大の嘘に関しては、徐々に疑念が濃くなる濃淡の色付け方が上手いですね。
八葉たちは未練がましく詰め寄ったりせず、
自分の敗戦を潔く認め、祝福ムードに気持ちを切り替える。
彼らにとっても宝珠を通じた失恋は諦めやすかったのではないでしょうか。
一方で、振られたことに納得がいかないのがアクラム。
アクラムは あかね ではなく、彼女が選んだ頼久を憎む。
想いが遂げられないのなら、せめて相討ちという危険思想ですね。
好きな人ではなく、その人に選ばれた恋人を襲っちゃうストーカー気質 丸出しのアクラム。
選ばれなかったのなら、選ばれた相手を潰す。
それも叶わないと知ったら、世界そのものを壊す。
やはり過激派思想のアクラムなのでした。
そんな彼の思惑を阻止するために、あかね は最初で最後の白龍の力を全開放をする。
この場面から時空が行きつ戻りつするのが読みにくかったなぁ。
そして駆け足すぎて読者が時空の狭間に落ちそうになってしまった。
なぜネオロマンス漫画の最終回は ハッキリしないのだろうか。
『金色のコルダ』も随分とぼんやりとした幕引きだと思ったが、
本書は恋愛成就すら怪しく、更にそれの上をいっていた。
『コルダ』は続編があるので、その最終回も救済された感じがあるから、
本書も無印の方の続編を希望します。
今のところは、例の「特別編」しか彼らの姿を拝めないのかな?
頼久が今更、主従関係を持ち出して問題と向き合わない問題を割愛し、
蘭(らん)には悪いが、黒龍の問題とか有耶無耶でいいんで、
もっとイチャラブを見せて欲しかった。
いきなり白龍の神力は万能でしたという終わり方。
白龍のお陰で問題が一挙に解決している。
それにより平和になって こうなりました、という早送りのような描写じゃなくて、
せめて1話まるまるエピローグを確保して欲しかった。
そうか、それが「特別編」なのか…。
「特別編」を読むためには、もう1冊ほぼ同じ内容の漫画を買う羽目になるのか…。あくどい。
恋愛に関しては、これといって決め手のないまま突入した最終巻だったから、
『17巻』の表紙って結構なネタバレだと思う。
一縷の望みを抱いた発売当時の各八葉ファンは、
書店で表紙を見た時に、膝から崩れ落ちたでしょうね…。
しかし感想を書いているからという理由もあるけど、
17巻も彼らと付き合っていると八葉の名前を全部言えるまでになりました。
下記の名前も調べずに書けました。
漢字変換も一発で出るし。
17巻分、感想文を書いてきたので愛着がどんどん湧いてきます。
別れるのが惜しい。
『遙か』シリーズじゃなくて、この八葉が好きなんだなぁ。
では、最後に八葉各人の感想を。
天真:恋愛を引っ張ってくれたスタートダッシュの人。親友に彼女を奪われた当て馬。
詩紋:『コルダ』の志水くんといい勝ち筋が見えないキャラ。
続編があるなら、平安で男を磨く修行して現代に戻ったら あかねを奪っちゃう展開希望。
イノリ:鬼の架け橋。以前も書いたが、彼とのエンドは即、結婚だと思う。
あかね じゃなかったら最終的に鬼の一族と結婚しちゃうんじゃないかな。
永泉:血筋はエリート。彼もまた勝ち筋が見えない。神泉苑でのみ活躍。
永泉の現代エンドになったら、兄の子孫とか調べそうだ。悲劇とか なきゃいいけど。
泰明:本書で一番ズルいキャラ。ずーーーっと活躍していたし、弱体化しないし。
彼には子孫を残す能力はあるのか。老けるのだろうか。やはりロボットとの恋愛っぽい。
頼久:沈黙は金、だったのではないか。ある意味で一番あかね のコントロールしていた。
ワガママを聞いて欲しい、でも時折、叱って欲しい。そんな女心の掌握が上手い⁉
鷹通:表面上、女性に優しいが、実は一番 厳しいキャラなのではないか。理想化し過ぎ。
一緒に部屋に居ても一時も気が休まらなさそう。現代エンドでも公務員でしょうね。
友雅:後半ドSイケメンに目覚めて、一番 少女漫画のヒーローっぽかった(年齢は高校生の約15歳上だが)
現代なら50を前にして年貢を納めるのだろうが、平安の平均寿命って…。
アクラム:誘拐魔、ロリコン、ストーカー、色々と疑惑の湧き出る人。
『16巻』で浄化されるアクラムエンドも見てみたかったなぁ。
八葉全員が恋愛で敗退。虚無の中、四神を召喚する目が死んでいる八葉たち。
勝負に負けて、試合に勝ったアクラムは、八葉に見せつけるように幸せな恋愛生活を満喫するのだ(笑)