《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

記憶を失ったヒーローたちを見習って、ヒロインも初期型に戻してみました。

遙かなる時空の中で(14)
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第14巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

四神開放の儀式の最中、アクラムの呪詛を宿した矢が八葉(はちよう)を貫く! 心を砕かれ、八葉としての過去や あかね との記憶を失い、衝突しあう八人。絆の喪失に苦しむ あかね は…⁉「劇場版 遙か 舞一夜(まいひとよ)」多季史(おおのすえふみ)の特別編も併録。大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミック)、第14弾!!

簡潔完結感想文

  • 愛・おぼえていませんか? 記憶を失った八葉を巡回。八葉福祉士・あかね。
  • 手を取り合って。人と鬼との部分的協力。恋愛成分は鬼の回想から補給。
  • 座して待つより脱出して出向く。それが初期の あかね の行動様式だよね。

ンチはチャンス。愛されヒロインからの脱却と脱出、の 14巻。

八葉が自分との記憶の消失し、最大の窮地に陥った主人公・あかね。
だが、それは あかね の再起の契機となった。

これは あかね の2つの意味でのリセットだと思う。

これまでは与えられた神子(みこ)の役割を通じて、八葉に補佐されていたいた。
だが、彼らの記憶から自分が消えてしまった。
そこで彼らなしでも立ち上がり、一人で道を模索することが あかね の試練。

そして もう1つのリセットは、物語としてのリセットだと思う。

短期連載という連載形態の問題から、異世界「京」にきてからの苦労が割愛され、
八葉という仲間探しと、敵対する鬼の実態を知ることがメインだった初期の あかね。

それによって物語はテンポ良く進む利点もあったが、
あかね が苦労するという異世界ならではの描写がまるでなかった。

それが今回、14巻の時を経て少しだけ実現したように思う。
これまで構築されてきた関係性や絆は全て破壊されてしまった。
しかし そこから再生することが あかね を真のヒロインに再生することに繋がる。

壊れたのは八葉の心なのに、あかねが生まれ変わっている。
この構造が見事としか言いようがない。


クラムの企みにより四神開放の儀式に望んだ八葉だけが、
あかね が京に来てから期間の一切の記憶を失った。

彼らは あかねを覚えていないだけではない。
八葉間の関係性もリセットされてしまった。

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失われたのは記憶だけではなく、あかねが育成しようとしていた八葉間の連帯も同じだった。

だから仲良くなった詩紋(しもん)とイノリも、出会った頃のように険悪な状態になってしまった。

とはいえ、あかね のことを誰も覚えていない訳ではない。

詩紋と天真(てんま)の現代人組は、京に来るまでの記憶は保持しており、
彼女の存在を全て否定したりはしない。

そして儀式に立ち会わなかった藤姫(ふじひめ)は これまでのことを全部覚えているし、
神子と八葉の最大の後ろ盾である主上(おかみ)も、その場にはいたが八葉ではないので記憶は保持されている。

あかね の現状を保証するものはあるが、
彼女を一番近くで守ってくれる盾となる者たちは居なくなった。


あかね は これまでは八葉が自分の補佐してくれたことを痛感する。
だけど独りになったからには、自分の足で動かなければならない。

自分の存在を否定され、自他ともに傷つくとしても八葉全員に会うことのは彼女の強さですね。

記憶を失った天真が 今の あかね を見て受ける戸惑いは、
現代から京に来た あかね の経験や獲得した強さの証明となるのかな。

もちろん、生来の天真爛漫さが鳴りを潜め、
「この世の不幸全部 背負ってます」という暗い表情をする彼女への違和感もあるだろう。


あかね が唯一面会できていない八葉・友雅(ともまさ)は、
彼女との面会によって、自分の胸に痛みが走ることを嫌っての行動なのだろうか。

自他ともに傷つかない生き方を好むプレイボーイ・友雅だから、
自分の胸に痛みが存在することを認めたく無さそうである。
まさか自分の中の「特別」があることを認めるのを恐れるから逃避するのだろうか。


葉とは絆が断ち切られてしまったが、新しい関係性も生まれる。

それが鬼の男性・イクティダールとの連携。

小天狗の事件のこともあり、憎むべき相手であったイクティダールとの対話が実現する。
これは あかねが窮地に陥って、手に手を取るしかないという消極的な理由だけではないはず。

あかねが小事に拘らず、大事を見る視点を得たということもあるだろう。

そして あかね の個人的興味もある。

それが彼と彼と交流・交際をしていた人の女性・セリとの関係性。

八葉・イノリの姉でもあるセリに、
鬼であるけれど不器用な優しさを持つという彼に興味が湧いたのだろう。

もしや あかねって、実直で不器用な男性が好みなのか。
イクティダールもセリがいなければ、確実に攻略対象になるのではないか。
きっと友雅よりも年長で、最大の年の差がある男性だろう。
父と子のような年齢差の枯淡の境地の恋愛をどうぞ(笑)


その中で語られるイクティダールとセリの過去回想。

セリとの出会いからイノリに反対される語られなかった部分。
これは作者が いつか描きたいといっていたことだと思うが、ここで実現したのかな。


クティダールとの協力によって、現在の異変の原因が判明する。

呪詛(じゅそ)の種は、鬼によって長い年月をかけて編み出された呪具(じゅぐ)らしい。

ただその反面、白龍の神子が触れるだけで呪いが解ける。
白龍、万能過ぎだなぁ。

また鬼側も長い年月かけた割に白龍に対する防壁が無いのが気になる。

アクラム自身の、あかね を生かさず殺さずというスタンスは分かるのだが、
それ以前の鬼も白龍に関しては無防備でいるしかないのだろうか。
これでは鬼の天下が取れない訳だ。

実力が均衡していないところが大きな争いとしては残念なところ。


それでいて白龍の方にも穴がある。

最終盤の展開を知っているなら、
あかねが神泉苑(しんせんえん)を訪れた時、
こうなるのではないかと思うところがあるのだが、白龍は無反応。

物語としてはミスリーディングが用意されているが、
神力、神力という割に肝心なところで力を発揮しない。
この後にちゃんと理由が説明されればいいのだが…。

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自分を守ってくれるナイトがいなくても、自力で解決しようという現代的なヒロインの あかね。

詛解除のために、鬼の本拠地に出向く必要性があると感じている あかね。
だが、彼女に下されたのは、内裏への出頭の命だった。
リスクを取らないのは1000年後の未来も同じですね。

内裏で丁重に軟禁され、身動きが取れなくなってしまっては、
呪詛の解除も遠ざかるばかりと焦る あかねは屋敷からの脱出を試みる。

これは初期の あかね によく見られたことですね。
彼女も またリセットしているように見える。
中盤は八葉が目立ってましたが、終盤にきて主人公としての地位の奪還です。


しかし、もし あかねが内裏に出頭して、主上との交流が頻繁になったりしたら、
主上まで心を奪われてしまうところだった。

そして主上は跡継ぎも作らず、あかね にばかり御執心。
これで現代エンドになったりしたら、一国の主がいなくなってしまう。

あかね の内裏への出頭は、
アクラムの計略よりもずっと差し迫った傾国の危機だったかもしれない。

そして彼女は1000年後の未来では傾国の美女として語られるのであった…。
なんてね。

遙かなる時空の中で 特別編」…
本編の10年前、当代きっての一流の伶人(れいじん・雅楽を奏する人)で舞の名手・多 季史(おおの すえふみ)のお話。

『14巻』の表紙を見て、天真?じゃないよなぁ、と思っていたが、
この多季史さんでした。

この結末には驚かされた。
本編よりも暗い内容ですね。
しかし これを読んでゲームで攻略しようという人がいるのだろうか。

彼が専門バカで、人付き合いというものを知らないのは、
あかね の好みのような気がしますね。

あかね は彼も攻略対象とすると異世界だけでなく、色々な次元を超えての恋愛になるのか⁉
まぁ、白龍の力は万能みたいですから、何とでもしてくれるのでしょう。