《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彷徨(さまよ)える洞窟の中で、遡(さかのぼ)る記憶の中。そこで知る鬼の実情。

遙かなる時空の中で(15)
水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第15巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

アクラムの呪詛(じゅそ)により あかね と八葉(はちよう)の絆は崩壊! 呪詛解除のため、あかね は頼久・イクティダールと共にアクラムの下に向かうが、途中で二人と はぐれてしまう。暗闇の中を彷徨(さまよ)う あかね の前に、アクラムが現れて⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミック)、第15巻!!

簡潔完結感想文

  • 潜入。籠の中の鳥は嫌だと行動したら囚われの身の上。デジャブを感じる。
  • 逢瀬。実体アクラムとの久々の対面。ドS首領の弱点を見つけて反撃開始。
  • 脱出。潜入捜査が失敗したので脱出を試みる。読者も外の光が恋しいぞ…。

役は洞窟。1巻分 洞窟の中にいる 15巻。

いよいよロールプレイング風になってきた本書。
今回のダンジョンは鬼の霊地である洞窟。

チーム編成は主人公・あかね(無抵抗主義)、お供の頼久(よりひさ・特殊能力封印中)、
そして鬼側の内通者・イクティダール(オジさん)、
そしてゲストキャラの泰明(やすあき)の式神(妖狐)の4人。

その4人が増減を繰り返してダンジョン内を進むのが『15巻』の内容です。

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八葉の中から ただ一人 選ばれたのに、戦力外通告を受け イジられる頼久。不遇キャラ。

物語も終盤なので一つのダンジョンが奥深くなっているのは予想済みでしたが、それにしても長すぎる。
『15巻』が終わっても まだダンジョンの出口を探している段階。

しかも本来の目的は遂行できずに、
撤退するようにダンジョン内を彷徨っており、
洞窟内という息苦しさも相まって、爽快感がない。
「鬼の胎内」と称される この場所から出たら、新生の喜びを味わえるだろうか。

八葉の記憶と神力が封印されてしまっているので、
戦闘力的にも不利だし、漫画としても地味になってしまっている。

あかね の主義と そぐわないかもしれないが、
バトルもの としては、派手な能力の乱発が見たかったところ。

恋愛イベントも少ないし、かといって戦闘が繰り広げられるわけでもなく、
八葉の能力の封印は漫画としては今のところマイナス面ばかり。

今は力を溜め込んで、一気に開放するための前段階だと信じたい。


述の通り、鬼の霊地に出向くメンバーは最小限。

あかね が最終決戦だと気合を入れて、
八葉に声を掛ければ、記憶を失っているとはいえ彼女と同行する者は いただろう。

しかし、この時点でメンバーに選ばれる八葉は一人でなくてはならなかったはず。
きっと ここが最後の分岐点だったのでしょう。

未体験だがゲームなら直前のセーブデータは大切にとっておくヤツですね。


今回、あかねが お供に選んだのは頼久。
屋敷からの脱出を見咎められたという理由もあるだろうが、
彼だけを連れていくことにしたのは あかね の意思だ。

今回は 頼久が八葉ではなく、ただの男として行動を共にするのが重要なのかな。
運命づけられた八葉と神子(みこ)という関係性ではなく、
人と人の絆を もう一度 結び直す意味があるのだと思われる。

ただし やっぱり頼久だけでは戦力不足なので、泰明の式神も密かに同行していた。

アクラムが神泉苑(しんせんえん)に黒麒麟を放ったのは、彼の計略があってのことでしょうが、
物語としては、泰明を足止めさせるという意味合いもあるだろう。

八葉の力を失っても泰明には神力とは別に陰陽術が使えるので、
アクラムにとっては少々脅威となるでしょうから。

そして あかね が八葉の誰を供にするかという点でも泰明は連れていけなかった。

まぁ アクラムは心理攻撃が上手そうだから、
泰明が帯同しても、彼の虚無の部分、または あかね への好意を突いて、
気を乱すぐらい簡単にしそうだけど。


余曲折はあったものの、霊地の最重要地点に到達する あかね。
ただし、アクラムの招きに応じただけであったが。

久方ぶりのアクラムとの対面です。
実際に会うのは『3巻』の蘭を救出する時以来でしょうか。

洞窟内の暗闇で彼女の孤独を浮き彫りにし、
更に あかねが脱出した後の屋敷の様子を見せるアクラム。

そこには八葉それぞれの対応が見えた。

天真(てんま)・詩紋(しもん)の現代人組は、あかねを追うことを決意していた。
彼女に頼られなかった、一緒に連れて行ってもらえなかった自分の不甲斐なさもあって強硬派。

永泉(えいせん)は精一杯あかね の独断行動を庇うが、
鷹通(たかみち)は女性らしい大局的視点のない早計さだと非難を口にする。

友雅(ともまさ)は鬼に寝返ったと邪推する始末。
(ジョークの一つなのだろうが…)

これは全員が あかね と出会う前までリセットされているので、
八葉の本心とはいかない内容ですが、なかなかにシビアですね。

特に鷹通は現実主義者で、女性とは こういうもの、という偏見を感じる。
永泉と友雅は記憶の有無が正確に影響していないみたいで、あまり変わらない。

イノリは京から離れた自宅にいる(であろう)から、映像なし。
直情型なので怒りはするだろう。
ただ集団主義なので、連れてくなら全員で、という怒りかもしれない。

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本書ではアクラムエンド希望。『1巻』で惚れて、最終巻で また君に恋してもいいのでは?

一、アクラムの覗き趣味を見抜くのが泰明。

武人として鍛錬している頼久も強いが、鬼や怨霊相手だと話は別。
戦闘は彼に頼らざるを得ないのが実情。

これまでも八葉の神力の具現までも時間がかかったし、
それをも失ってしまうから、泰明だけが安定して活躍している。

これは八葉のバランスに欠く内容ですね。
どうしても泰明だけが目立つ。

それなら本書とは反対に八葉が全員、現代に召喚される、
ブコメ学園モノを描いて欲しい。

泰明の能力封印で、『金色のコルダ』みたいに、
一応は横一線の状態で各人の活躍が見たいものだ。

ただ、そうなると友雅・鷹通は教師の年齢になっちゃうか。
生徒には手を出しにくいなぁ。
年齢差(上は友雅31歳、下は泰明2歳)や職業(公務員・刀鍛冶師見習い・陰陽師)の
自由度の広さを考えると異世界は便利なものなのだなぁ。


詛の解除も出来ず、精神的に追い込まれただけに終わったダンジョン探索。

だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
虎穴に入ったことで、あかね に分かったことが一つあった。

それは、京の支配は鬼側にとって今回がラストチャンスだということ。

鬼は人を憎むあまり、鬼同士の近親交配が進んだからなのか、
鬼の多様性は薄れ、力の弱体化が進んでいるらしいことが分かる。

アクラムも その一人で、
彼も翳りを見せる世代の一人らしい。

鬼は放っておいたら四神や白龍に守られた京へ攻め入る力を失うのか。
力を失えば憎しみを転化する手段も無いので、棲み分けが始まるのかな。

でも、逆に言えば人と最接近すれば力は戻るということなのか。
アクラムたち が悪意をもって人の女性に近づけば、何世代か後には復興の兆しを見せるのか?
またイクティダールとセリのように愛し合う者たちが子を授かった時、鬼に奪取される可能性があるのか?

強い霊力の持ち主、あかね はもちろんだが、
永泉なども鬼に たぶらかされて彼の子が鬼によって育てられたりしそうである。

鬼と交流が再開できない程度の緊張状態の方が、未来の平和のためのような気がしてきた…。


ラストで洞窟で一人放置された頼久が、水脈の音を辿って
あかね たちと合流できたのは、幼少より山道に慣れている、という理由らしい。
これは『2巻』の鵼(ぬえ)の一件と関連することでしょうかね。