水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第01巻評価:★★(4点)
総合評価:★★★(6点)
あの人気ゲームが漫画で読める!
普通の女子高生・あかねは、突如「京(きょう)」と呼ばれる異世界に友人とともに引き込まれてしまう。実はあかねは、今日の命運をにぎる龍神の神子(みこ)で、彼女を守る「八葉(はちよう)」と呼ばれる男たちが現れると告げられるが…⁉ 水野十子の初コミックス!!
簡潔完結感想文
- 全17巻だけど1巻は全速力で物語を消化。異世界の戸惑いとか家族への思慕を割愛。
- マッチング召喚。雰囲気と声に惹かれたが、思想が性悪だったため嫌いになる。
- 俺たちの戦いはこれからだっ!! 八葉を全員集めたければゲームをプレイしてね☆
読者を異世界(ゲーム ⇔ 漫画)に誘うためだけにある 1巻。
純粋に漫画だけを楽しみたい人に優しくない本書の始まり。
ゲーム未経験の者は自分が門外漢であることを痛感させられる。
折角、漫画の表紙を開いて新しい世界に飛び込んだのに、この世界の人は人当たりが非常に悪い。
異世界に行っても神子(みこ)だなんだとチヤホヤされる主人公・あかね とは大違いである。
不親切な設計で、作品ファンのための漫画になっているのが とても残念だ。
本書 最大の欠点は、この『1巻』ですね。
それもそのはずで、本来は作品が『2巻』に続くこともなく、
5回分の読切だけで終わるはずだったらしい(後の巻の作者の言葉)。
なので『1巻』収録の この5話が それにあたる(と思う)。
ゲームの世界観を漫画で描き、メディアミックスで双方の知名度を高めるのが本来の目的。
だから この時点で『1巻』が長編としての役割を果たすなど考えていなかった。
事実、私が所持している第2刷では表紙など各所に『遙かなる時空の中で』とあるだけで、巻数の表記がない。
『2巻』が出版されることになって初めて『1巻』は『1巻』という役割を得た。
そして計画性が無かった『1巻』の内容が後々の展開を縛ることになったらしい(作者によると)。
それならば『2巻』、もしくは『3巻』から話をリセットして長編化作品として始めて欲しかったところ。
ちなみに『2巻』も断続的な雑誌掲載で、オムニバス形式となっており話の大きな流れが見えない。
本書が安定してくるのは『3巻』なのだが、
既に話は動き出してしまっており、最初からやり直すことも出来ない状況に陥ってしまった。
当初からの長編化構想の無さが生んだ最大の弊害が、主人公への共感の欠落だろう。
「あらすじ」の通り、現代の女子高生・あかね が平安時代と思われる京の都に召喚されたことから始まる本書。
だが、読切1話である程度、話を進めるために、
異世界に来たならあるべきはずの、戸惑いや悲しみ、元の世界への執着がまるでない。
自身の混乱を呑みこみ、それを乗り越えて前へ進む姿が割愛されてしまっているのだ。
これは読者の主人公への共感を著しく削ぐ結果になった。
葛藤や苦悩がなく この世界に馴染み、まるで苦労が見えない。
ホイホイと自身の運命を了解し、その割に単独行動をして身を危険に晒す。
そんな あかね の軽率な行動は最後まで目に余る結果になってしまった。
最初に彼女自身が強さを示さなければならなかったのに、
その機会が失われ、最終盤になるまで彼女の心を理解することなく話が進んでしまった。
返す返すも、最初から長編化構想が無かったことが残念である。
そして一回腰を据えて長編化をしたのならば、リセットボタンを押して最初からやり直せば良かったのだ。
それなのに恋愛要素は進んだと思ったら簡単にリセットされる。
龍神の神子(みこ)として召喚された主人公・あかね を支えるのは、
八葉(はちよう)と呼ばれる8人の男性たち。
いかにも乙女ゲームの設定ですね。
ただ 違うルートを進めるゲームとは違って本書は8人の話を同時進行で進めなくてはならない。
作者も懸命に8つの物語の糸を一つに編んではいるが、それで物語が強靭になっている訳ではない。
全体的に8人の個人回が順々にあったなぁ、という印象が拭えず、
特定の誰かを選ぶルートだけを進まない代わりに、最終的な結末に説得力がなかった。
『1巻』と、駆け足で進んだ最終『17巻』は、もう一度作り直して欲しいなぁという印象です。
そもそも八葉が1話の段階で顔出しの紹介になっているのが残念。
作者やゲームファンには当たり前のことなのだろうが、
これから八葉が集合していくにあたっての緊張や高揚が失われる。
仲間の振りした偽物でした、という展開が絶対にないことが分かり、興を削ぐ。
この『1巻』に関して言えば、敵対する鬼の首領・アクラム ルートを進んでいるように思う。
アクラムルートは、ゲームしたことないけれど2周目以降に攻略可能対象みたいな感じでしょうか。
あかね がアクラムと交流をし、
彼に惹かれ始める自分に気づくが、彼との思想の違いに惹かれた思いも打ち消し、
道を別にしたことで、八葉ルートが開拓されていくと言った感じだ。
これはゲームでは見られない(かどうか分からないが)、
主人公とアクラムの交流を存分に見せてあげるサービス回でもあるのだろうか。
ちなみに あかね は、仮面を着けているため まず彼の声や雰囲気に惹かれ、
そして素顔を初めて見て(3話)、そして最後にアクラムという名前を知り、別れに至る。
何だかマッチングアプリの肩書や写真に惹かれたが、
彼の素性と本性を知るに従い気持ちが冷めるという、
ダメな男女の出会いの一連の流れに似ている気がする…。
それでなくても、あかね は声フェチ全開である。
アクラムだけでなく、頼久(よりひさ)の声にも反応している。
これは彼らのビジュアルは作者自身で考案したものだから、
容姿を褒めるのは自画自賛になってしまう。
だが声や演技については声優さんの才能であって、彼らがキャラ付けしてくれたものだから褒めやすいのかな。
あかね が まず声に惹かれるのは、作者自身の気持ちの投影か。
または、どんなに良い声なのかは、声付きのゲームをやってね、というプロモーションか。
現代から この「京」にきたのは あかね だけではない。
他に2人の男性、天真(てんま)と詩紋(しもん)も転送されている。
鬼の首領・アクラムの目的は、あくまで あかね だけで、
後に神子に使える八葉となる天真や詩紋を時空(とき)の間(はざま)に落としたらしい。
八葉に現代人が2人もいるのは必然なのか偶然なのか。
あかね に関しては龍神の霊力(?)を宿す者は、稀だろうし、
それが未来人であっても何の不思議もないが、
八葉の内、2人も現代人から選ばれるのは疑問の残るシステムである。
アクラムの思惑通り、彼らがこの時代に転送されることがなければ、
八葉は絶対に揃わず、アクラムの計画が順調に進んだのだろう。
物語としては あかね の心の拠りどころとして必要なのは分かるし、
ゲームとしても現代ENDを迎える要素の一つなのだろう。
でも平安の人間が自力で集められないシステムは脆い。
神子(みこ)さえ呼べば奇跡で何とかしてくれるのだろうか。
そういえば詩紋の存在は、あかね が鬼を怖がらないための布石だったんですかね。
異国人、それも西洋の白人に近い外見をしている鬼の一族(例外もあるが)。
それを平安時代の人々が彼らを異形と恐れ、排斥しようとするのは、仕方がない。
だが あかねは現代人で、詩紋という友人がいるから、まず彼らとの対話を望む。
逆に言えば詩紋って、このためだけにいるような…。
弟キャラ枠なんだろうけど、本書の中では存在が薄かったなぁ。
八葉の8つの恋情の中でも1、2を争うほど想いが弱かった気がする。
冒頭に書いた通り、『1巻』は読切短編で、
あかね が龍神の力に目覚め、恐れ、だが京を守るために龍神の力の片鱗を見せて終わる。
その間にアクラムに惹かれていくが、最後には道を違える。
なので八葉の力とか京の危機などの大きなテーマではなく、
平安怪異譚といった趣が大きい。
呪われた刀とか人魚とか、日本古来の怖い話が多いように思う。
第1話の あかね のテレポート能力は ここだけでしか見られないもの。
こんな能力が使えるのならば、数々のピンチも難なく回避できたでしょうね。
詩紋が天真よりも早く あかねに再会していたのが予想外だった。
キャラが弱いから、天真のように再会が劇的にならないからか。
第2話で天真との再会。
熱血キャラで、顔も正統派ヒーローの顔をしているので最後まで恋愛に絡んでくると思われる。
あかね の脱走と帰還は、これから何度 繰り返されるのだろうか。
動くヒロインの象徴なのだろうが、軽率にしか思えない。
まぁピンチがないと話が平坦になってしまうのも事実。
あかねがアクラムの素顔を初めて見るのが第3話。
それによって ますます恋心を加速させている。
陰陽師・泰明(やすあき)の初登場回でもある。
心を持たない空っぽな入れ物という設定。
ゲームで攻略して自分に懐いたりするのは楽しそう。
第4話で早くも天真が告白。
でも あかね はアクラムの方が気になるという残念な結果。
天真は先陣を切るタイプだが、八葉も揃わぬうちから告白するとは。
これは読切5回の内で恋愛要素を少しでも入れようとした結果なのだろうか。
天真に関しては好きといっては気まずくなり、
しばらく経つと何事もなかったように過ごし、
ライバルが現れると好きといっては気まずくなる、が繰り返される。
第5話でアクラムの名が初めて出てくる。
バトルものとしても八葉との初対決となる。
天真が八葉の力を覚醒させ、詩紋も無意識に力を使っている。
しかし八葉が揃ってないから帰っていったアクラム。
この続きはゲームでね、といったところか。
一枚絵は美麗だが、漫画家としては まだまだ新米の作者。
まずは あかねが宝珠を呑みこんだ、という描写で全く呑みこんでないのが気になるところ。
宝珠に関しては、八葉のどこに埋め込まれたのかが分かりにくい。
同時に埋められた詩紋と頼久の時も、なんでそう描くのか不思議なコマだった。
場所が何かを意味する訳ではないが、不必要に読者を混乱させるだけ。
天真は分かりやすかったけど。
そしてバトルが多い物語なので必然的にアクションシーンが多いのだが、
何をやっているのか分からない部分がある(特に作品の中盤まで)。
これらの点は10年の歳月を経て進化するが、
私が気になったのは、本書における 吹き出しの中の台詞。
かなりの頻度で文章の途中で改行されいることが多く、
意味がすんなりと頭に入ってこない。
例えば「鬼」を説明する台詞でも
「この国の者とは
姿や風習が異なって
いるから そう
呼ばれているのだ」
と変な場所で文章が途切れる。
カタコトの日本語のように読めてしまい、読者を変なところで立ち止まらせる。
もうちょっと吹き出しの位置や大きさを考えて描いてほしい。
本書は私が昨年読んだ『金色のコルダ』と同じゲームと漫画のメディアミックス作品。
本書は『コルダ』より3年ほど前に展開された その走り(その前もあるらしいが)。
なので『コルダ』よりも様式が整っていない。
『コルダ』は長編化を念頭に作品が作られていたが、
本書は冒頭の『1巻』が『1巻』ではなかったという話の通り、
長編化は漫画が読者に支持をされての結果である。
そして気になったのは本書の恋愛要素の少なさ。
『金色のコルダ』も一種の異世界召喚モノと読めるが、あくまでも話は現代。
本書の鬼とのバトルに相当するものとして、コンクールという要素があったけど、
それは互いに切磋琢磨して相手のことを知り、惹かれる動機となっていた。
本書は八葉内の人間関係よりも大きな、
人間と鬼との戦いがメインに据えられているので、更に恋愛要素が薄くなっている。
後半になっても一向に恋愛が前に出てこないから、
もしかして誰も選ばないエンディングなのかと思って冷や冷やしました。
恋愛少女漫画を分析するために漫画を読んでいる私ですから。
納得するかは別として、一応の結末はありますので安心して読み進めてください。
ゲーム内容を全く知らないまま読んだので、誰と結ばれるか予想が付かなくてワクワクが倍加した。