《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

弾き手の感情が楽器と共鳴して音を奏でる ニュータイプ専用ヴァイオリン。

金色のコルダ 1 (花とゆめコミックス)
呉 由姫(くれ ゆき)(原案:ルビー・バーティー
金色のコルダ(きんいろのこるだ)
第1巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

普通科と音楽科のある星奏学院。普通科に通う香穂子だが、ふと奇妙な妖精を目撃して運命が一変。なぜか学内の音楽コンクールにノミネートされてしまう!ライバルは音楽科の優秀な生徒ばかり。格好いいけどクセありげな面々で…!? 注目のゲームがコミックス化!

簡潔完結感想文

  • ある日、普通科に通う女の子が別世界のような同じ学校の音楽科に召喚される。
  • そこは音楽とイケメンのパラダイス。花より 男子より音楽第一主義の世界。
  • 庶民であり異世界人である香穂子の存在が、凝り固まった社会に風穴を開ける。


ミステリにおいて探偵という異邦人の来訪が事件を引き起こすように、数々の大ヒット少女漫画も異邦人の召喚から始まると知る第1巻。

といっても本書の場合、異世界への召喚も 急な転校も 性別を偽っての高校編入もない。

本書の舞台は学校内に普通科と音楽科が存在する とある高校。
普通科に通う日野 香穂子(ひの かほこ)がある日、学校内で「音楽の妖精」リリの声と姿を感知したがゆえに、学校内で行われるコンクールの参加を要請される。
これまで音楽に縁のなかった香穂子だが、リリが与えてくれた 誰にでも音が奏でられる魔法のヴァイオリンを使用してのコンクール参加をリリの涙にほだされて渋々承諾してしまう。
そうして、これまでの生活ならば出会うことのなかった人々(主に男子)に出会う物語の開幕を告げる…。

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妖精・リリに出会ったことで香穂子の運命は変わる
なるほど、本書も広義では異世界召喚モノと言えなくもないんですね。
リリという音楽の妖精が異質なのかと考えてましたが、改めて骨格だけを考えると香穂子にとっては異世界召喚だ。
そして、その異世界の常識や人々からの好奇や敵意の目に戸惑うのも召喚モノのお約束の展開といえるだろう。

でも言葉が通じたり、日々の大半は普通科という現実にいる分、異世界から戻れない設定よりも香穂子の方が異世界への拒絶は強いかもしれない。
そしてリリによって無理矢理に上げられるステージは音楽科の中でもエリートが集うコンクール。
無名の普通科の人間がエリートに交じって出場するだけでもやっかまれるのに、それに加えそのエリートと交流を持ち始める香穂子の周囲には嫉妬の炎が絶えない。
『1巻』では素敵な殿方とのロマンスというよりも香穂子の音楽やコンクールへの意識改革がメインの話となる。


元々はコーエー乙女ゲームのコミカライズ。
作画の方は違うけれど、販売元や原案が同じで、本書と同じくララに掲載されていた(らしい)『遙かなる時空の中で(未読)』は本当に異世界に召喚されるらしいが、上述の通り本書では広義での召喚のみ。

私は本書を乙女ゲーム原作と知った上で読んでいるので割り切った部分もあるが、考えてみれば異世界召喚に近い大ヒット少女漫画はたくさんありますね。
ふしぎ遊戯』や『天は赤い河のほとり』は王道ファンタジーですし、『花より男子』や『花ざかりの君たちへ』は主人公が異邦人として学校に来訪する異世界モノといえなくもないだろう。
未知のイケメンに出会うには、主人公が世界の中心になるには、新天地が一番ということだろうか。


乙女ゲームなので登場人物たちが主人公に続々と好意を寄せていく王道の展開だとは思われるが、『1巻』の段階ではまた主要登場人物は顔見せ程度。
それよりも主人公が音楽の世界に関わる過程、そして彼女の性格の強さと弱さが描かれているのが『1巻』だろう。
これから個人回などを挿んで、結果的には主人公はモテモテになるのは必然でしょうけれど。
1話の段階でコンクールの参加メンバー発表して、登場人物の顔と名前を一致させる手法はよく出来ていると感心した。

そういえばコンクールのもう一人の女性出場者・冬海(ふゆうみ)ちゃんなどは香穂子がいなかったら、彼女が女生徒の嫉妬を一身に集める存在になっていたんでしょうね。
香穂子ほどタフには出来ていないでしょうから、香穂子によって間接的に救われた存在と言えますね。

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香穂子の道しるべになる月森の「アヴェ・マリア
どうも読了しても解決しきれていない問題もありますね。
メディアミックスという名の促販でしょうからゲームを買ってやり込めってことなんでしょうか。


何といっても妖精・リリの存在。
学校の責任者である校長が妖精の存在を知っているのは当然として、金澤先生は何で知っているのか、そして知っている上で なぜ香穂子のフォローをしないのかが気になりました。
金澤がコンクールの責任者だからというのは分かりますが、この後で特段、妖精問題を取り扱わないのが腑に落ちない。
そして事情を知る数少ない人物の校長はこの後何の活躍もなかった。登場すらしていないかもしれない…。

妖精・リリの存在も、コンクール参加者には見えるらしいが、そんな描写もないまま終わりましたね。
物語としても香穂子にとっても導入部のガイド役程度なんでしょうけど、結構ぞんざいに扱われている気がします。

ただ香穂子に向かって妖精の存在が見れる能力があるなら「音楽においても何かしらの可能性を秘めているハズ…」と言っているのは、新しい気付き。
将来の香穂子もこの言葉を信じて音楽に邁進してほしいが、これ以降、繰り返されることのない言葉なのであまり重要ではなかったようですね。


私はゲームも未プレイですし、本書やアニメ情報など知らないまま読み始めた。
その利点の一つとして誰がメインキャラか把握してなかったのは良かったですね。
2人の内どちらかだろうなというところまでは簡単に絞り込めますが、どちらが王道ルートなのか知らなかったので、後半まで楽しめました。