白石 ユキ(しらいし ユキ)
はにかむハニー
第01巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
出逢ったのは、コワモテ男子!! でも、その素顔は…? ホントのカレを知ったら最後、恋せずにはいられない。ゆるふわ美少女な外見で「かよわい女の子」と思われがちだけど、実はけっこう武闘派な蜜と、コワモテな外見で「狂悪グリズリー」なんてあだ名をつけられてるけど、実は可愛なものが大好きな大人気ハンドメイド作家の熊谷くん。不器用だけど一生懸命に自分を包みこんでくれる熊谷くんに、蜜はどんどん惹かれていって…? 三歩進んで五歩下がる! 一筋縄ではいかないムズきゅんLOVE、第1巻!
簡潔完結感想文
- 何かを言いたげな森のくまさんに付きまとわれるが、話しかけんな とも言われる。
- 熊谷くんは大好きなハンドメイド作家! ネームバリューで安心感と恋心が発動。
- 熊谷くんのバグってる距離感は、1話1回のイケメン行動のノルマ達成を簡単にする。
熊谷くんは最後までクラスに溶け込めませんでした、の 1巻。
可愛らしい女の子だけど護身術をマスターしているヒロイン・蜜(みつ)と、怖そうな大柄な男子だけどハンドメイド作家のヒーロー・熊谷(くまがや)のギャップを楽しむ作品。『1巻』は2人の交流の始まりと恋心の萌芽、そしてクラス内で「ふたり・ぼっち」になってしまう様子を描く。
決して悪い作品じゃないし、掲載誌「Sho-Comi」の低年齢読者の人が読んだら楽しめる作品だと思う。だけど工夫が感じられる箇所もない。最初の設定の面白さで人気を獲得したようだけど、そこから長編としての面白さを作者が描けたかというと微妙なところ。良くも悪くも『1巻』のテイストが ずっと続くだけ。
そもそも蜜が熊谷の評価を見直すのが、彼の心根に触れたことよりハンドメイド作家としての正体を知ったから、と読めてしまうのが本書最大の失敗なのではないかと思う。愛情の根拠が薄弱なのに溺愛が続く。また長編化は望外だったのだろうけれど、蜜の男性不信と熊谷の近すぎる距離感は本来 相性が悪い。蜜が熊谷に嫌悪感を覚えても おかしくないのに、ヒーロー無罪が適用されて、熊谷のセクハラだけは容認されていく。設定の整合性の無さも残念だ。
特にヒーローの人間味の無さは彼を胸キュンマシンにしている。熊谷が距離感バグってることをいいことに、少女漫画読者が望むことを全部叶えてくれる願望器として1話に1回、イケメン行動をノルマのように果たす。彼氏でもない内から彼氏のような行動をし、読者が望む溺愛を与え続ける描写は胸キュンするどころか首を傾げるばかり。後に交際中に、熊谷の前に かつての熊谷のような距離感おかしい人間が蜜とイチャイチャ(しているように見える)とか、そういう変化球があったら楽しめたのに。もう少し作品に目新しさや工夫が見えると良かったのだけど。


長編化で恋愛的な要素に加えて、蜜の聖女の力で熊谷が周囲の誤解を解き、中学校まででは味わえなかった学校生活の楽しさに目覚めるのかと思ったら、そんなキラキラとした青春は描かれない。作品の長編化で仲良しグループを作っていくこともないから世界は広がらず、人との交流も続かない。随時ゲストキャラに1巻分ぐらいの分量で大暴れしてもらって話が続いていく。
作者の過去作の『あのコの、トリコ。』でも そうだったが、主人公たち2人にとっては互いが世界の全てであって、世界を必要としていない。そういう閉鎖性があるから、長編化した時に狭い世界の連続に辟易してしまった。愛情というより依存だったり妄信だったり、少し危うげな感情が入り混じっているところが怖い。
私が本書を あまり楽しめなかったのは、ずっと主人公たちが「被害者ムーブ」だからではないか。『1巻』でも自分が世界の中心にいないと気が済まない中王子(なかおうじ)をはじめといたクラスメイトたちは噂だけで熊谷を遠ざける。最初はヒロインの蜜も同じだったが、彼女は一瞬で熊谷を信頼し、彼の味方になることで加害者側だった自分を綺麗に忘れて「被害者側」に立つことで、健気なヒロインポジションを手に入れている。
そこから ずっと敵と味方の二元論で語られる世界観が痛々しかった。邪魔する女性ライバル、認めない身内(複数回)など2人の確かな関係性の発展が描かれないまま、次々と恋の障害を用意する連載を継続していく。これでは少年誌の質の悪いバトル漫画のようである。
しかも蜜も、低年齢向け少女漫画にありがちな、学校内の噂を自分も妄信して、相手を傷つけるような態度を取っていたのに、いつの間にかに惹かれていくという調子の良いキャラクタに見えてしまった。そして その後は手のひらを返して自分だけが彼の良さを理解できるんだ!と それ以前とは180°違う接し方をする。この調子の良さは同じ「Sho-Comi」の水瀬藍さん『なみだうさぎ』を思い出した。勝手に怖いと思い込み、勝手に安心すると そのギャップで恋心が発生する。その自作自演な感じが苦手だ。
それに加えて蜜が一瞬で熊谷に心を許すのは、彼が大好きなハンドメイド作家だと名乗ったから。本当かどうか分からない内容を一瞬で信じて、それ以降は熊谷は嘘をつかないと妄信する。1話の中で話をまとめる必要があるとはいえ、クリエイターと知り合いになれたら尻尾を振るようなブランドやネームバリューで人への接し方を変えているように見えてしまった。
対する熊谷も、蜜が男性との接触が苦手だと言った直後に彼女を お姫様抱っこするなど思考回路が理解できない。少女漫画的な見せ場を作りたいのは分かるが、もっと熊谷に広い意味での配慮を見せて欲しかった。本書は そういう細かい違和感の繰り返しだった。
蜜が小さいけど強い、熊谷が大きいけど作家というギャップが売りだったのに、早々に蜜が熊谷に男性から守られるという展開を用意したのも意味が分からなかった。直接 男性に触らずに不器用な方法で蜜を守るという展開で済ませられなかったのか。熊谷を特殊ヒーローにしたいのか、それとも正統派にしたいのかが分からなかった。
転校早々、同じクラスの熊谷(くまがや:名前は後に判明)に睨み付けられる日々を送る、高校2年生の主人公の花咲 蜜(はなさき みつ)。熊谷は「気に入らない人間は男女見境なく襲う『狂悪グリズリー』」として有名。身長が高くて大柄な熊谷に対して、蜜は「ちっこくて ふわふわで『か弱い女の子代表』って感じ」。勇気を出して熊谷に質問しようとするが彼が鋭利な凶器を持ち歩いているのを見て蜜は逃亡する。
学校内で蜜は大好きなハンドメイド作家のマスコットが幾つも落ちているのを発見する。それを辿って行くと そこには熊谷がいた。いきなり圧(の)し掛かれて蜜が恐怖を覚えていると、熊谷は蜜の使っているヘアピンが自分が作ったものだと告白し、愛用を感謝してきた。このことを言いたくて熊谷は蜜に目を付けていたのだった。鋭利な凶器はハンドメイドの道具であった。


それを言い終わると もう接触しないと熊谷は背を向ける。その熊谷を今度は蜜が捕まえ、大好きな作家と出会えたこと興奮を伝える。実際、作業しているところを見た訳ではないのに蜜は熊谷の言葉に嘘はないと、信じられないギャップを簡単に乗り越える。蜜は熊谷との今後も交流を願い了承される。
『1巻』中盤ではクラスメイトの中王子(なかおうじ)によるハンドメイド盗作騒動が起こるのに、熊谷との初の会話の時の蜜は あっという間に彼を信用する。1話の中でページ数が足りないんだろうけど、勝手に怖いと言って、勝手に安心する。自分の中にある落差で人に好感を持っているだけで、蜜もまた熊谷と同じく人との距離感が少しバグっているように見える。
熊谷とのクラス内で接触することは厳禁のようで、機嫌の悪い不良のように「話しかけんな」と彼は蜜を威圧する。すっかり熊谷を信用している蜜が問い質すと、熊谷は蜜がクラス内で孤立することを心配して わざと疎遠を演出していたのだと分かる。その熊谷の不器用な優しさを蜜は認める。だから2人きりの時だけ接触することにした。
熊谷もまた距離感がバグっている人で、傷ついた蜜の指を舐めるというヒーローにしか許されない異常行動を始める。自分の怖い印象を自覚している人は こんなキモいと言われかねない行動をしない。それを天然で押し切るのが本書で、熊谷が いかにも創作キャラになってしまっている。
だが2人の接触は あらぬ誤解を呼び、蜜を守ろうとクラスの男子生徒たちが熊の撃退に動く。熊谷が追い詰められるのを身を挺して守る蜜。蜜は勝手に熊谷の秘密をベラベラと話し始めるが誤解は解けず、蜜の大事なヘアピンも捨てられてしまう。その蛮行に蜜がキレて、暴力で相手を撃退する。
捨てられたヘアピンを必死に探す蜜を心配する熊谷だったが、彼女がヘアピンや熊谷の心配するのを見て初めて笑顔を見せる。その笑顔に蜜の心は射抜かれる。
この騒動で蜜は強さを見せたが、そのギャップは周囲に信じられず、熊谷が悪者にされたままとなる。熊谷の悪評を払拭しようと蜜は自分の強さを証明しようとするが熊谷に止められる。
反対に熊谷のギャップを伝えようとするが彼は自然に笑えないため、そのアプローチも難しい。笑顔さえ不器用な熊谷を元気づけようと蜜は猫の集まる神社に彼を連れていく。この時の会話で熊谷がハンドメイド作家になった経緯が語られる。友達が出来にくい熊谷は暇な時間に創作を始め、SNSで発信したらオファーが殺到して作家として活動し始めたらしい。
またも熊谷の天然ヒーロー行動が発動するが、無自覚のセクハラめいた行動に蜜は逃げ出す。それでも蜜が男性たちに絡まれているのを熊谷は助けてくれる。蜜は かわいい お嬢さんだから、世の中の男性が勝手に悪事を働いてくれるという便利な世界である。だから自然に熊谷がヒーローポジションに収まる。誘拐未遂や変質者などの被害に遭うため周囲から女の子らしい格好を禁止された時期もあったが、納得できなかったから自分が強くなろうと護身術を会得したらしい。でも2話目にして、蜜が対処できなかった男性たちを熊谷が暴力で撃退しては蜜のキャラクタに意味がなくなる。2人が逆転ヒーローみたいな関係になれば面白かったのに、早くも普通の物語に落ち着いてしまった。
意味が分からないのは男の人に触られたくない、と言っている蜜を熊谷は お姫様抱っこして帰る。距離感がバグっているというより理解力がないのかもしれない。その後も熊谷は蜜を守るという大義名分のもと、ストーカー行為を始める。悪意がゼロだからという理由で蜜は それを認める。


保育園での奉仕活動をすることになった蜜たち。熊谷は得意のハンドメイドを活かして人形作りに立候補する。周囲は熊谷の意外な行動に戸惑うが、ざわつくクラスを静めるのがプリンスと呼ばれる中王子 慶(なかおうじ けい)だった。顔良し頭良しの人気者で完璧王子と呼ばれている。
ただし中王子が完璧なのは表面上だけ。熊谷は一人で作業を押し付けられていた。それを知った蜜は熊谷の作業を手伝う。普通に考えたら得意ジャンルの作業を熊谷が困ることはないが、ここはヒロインとして動く場面なのだろう。蜜は逆に熊谷に手取り足取り教えてもらいながらの作業だから足を引っ張っているし、余計な時間を使わせている。2人で一緒に作業するという場面が作りたいのだろうけど、色々と不自然すぎて作為ばかりが目立つ。普通に蜜が中王子に制作を押し付けられているのを熊谷が助ける、じゃダメだったのか。
完成後には熊谷の作品は中王子が作ったことになっており、熊谷は蜜の作った歪な作品を作ったことにされてしまう。ここで蜜が一生懸命に作った作品を嘲笑されたことに熊谷はブチ切れる。けれど中王子の人気によって、真実を訴える蜜の言葉も届かない。熊谷とクラスメイトとの距離を縮めたかった蜜の目標は達成されない。
蜜が熊谷と懇意にしていることが発覚し、蜜も避けられるようになってしまう。だが ぼっち同士の交流が生まれる。この学校の民度の低さと言ったらない。
保育園での活動の日、熊谷は自分の外見で園児たちを怖がらせないように着ぐるみで行動する。だから素顔でいる時に園児の接近があると身を隠す。そこに蜜も釣られて行動し、2人でロッカーに隠れるという少女漫画イベントが発生する。
中王子は保育園の先生たちから ぬいぐるみ作りの実演を依頼され困り果てていた。そこに熊谷が着ぐるみで替え玉になることを提案。ただし中王子に蜜がクラスでハブられないように取り計らうことを要求する。中王子が言うように熊谷が実演すれば、中王子の嘘がバレ、熊谷への態度が軟化するかもしれない。でも熊谷は自分の評判ではなく蜜の誤解を解きたい。そのためには自分の悪評は甘んじて受けるつもりなのだ。
その言葉を陰で聞いていた蜜は熊谷への好意を自覚し始める。だから思わず彼に抱きついてしまうのだが、それを おまじない だと誤魔化す。そこから熊谷も おまじない として、バックハグ場面となりヒーローノルマを達成する。
熊谷を意識し始める蜜。ふたり の ぼっち は仲良く並んで お昼ご飯を食べ、今回は熊谷が蜜の口に付いた食べかすを自分の口に入れるという気持ち悪いヒーローを演じる。
熊谷に助けられた形の中王子だが、蜜にとって熊谷が最重要事項であることが気に入らない。他人の注目を全部 自分に集めないと気が済まない承認欲求の お化けである。だから蜜に少しも興味ないのに2人の間に割って入る。そこで熊谷が無意識にヒーロー行動をして、蜜に告白めいたことを言う。それに舞い上がった蜜も好きだと伝え。2人は両想いになる。
かと思いきや、熊谷は単純に蜜に恩義を感じていて懐いているだけ。自分が恋愛対象外であることに蜜は落ち込む。だけど熊谷は無自覚に蜜をドキドキさせ続ける。作品作りで寝不足だからと寝て、蜜を抱き枕にしてしまう。そんな彼の頬に蜜はキスをするのだが…。