水野 十子（みずの とおこ）
遙かなる時空の中で（はるかなるときのなかで）
第13巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
八葉（はちよう）の活躍で「四方の札（しほうのふだ）」は揃った！ 一方、天真の妹・蘭（らん）は友雅（ともまさ）の冷たい言葉に傷つき、自分の中の黒龍を克服しようと鬼の下に戻る。そこで蘭が見たものは、アクラムが四神に施した呪詛の跡だった。四神開放の時は来たり⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画（コミック）、激震走る第13巻!!
簡潔完結感想文
- 駆け込み恋愛イベントは続く。出来るだけ多くのフラグを立て絆を育め。
- 告白する人しない人。八葉の中で分かれる想いの処し方。年少組ほぼ脱落？
- 京に平穏をもたらすはずの儀式が大惨事に。13巻で初めて異邦人になる。
そして誰もいなくなった。大どんでん返しの 13巻。
まさか まさか の展開が起こる『13巻』です。
主人公・あかね の神子（みこ）からの転落がテーマなのでしょうか。
私はそう感じました。
八葉（はちよう）が守る者、京を守る者として扱われてきた、神子・あかね。
だが いよいよ神子としてではなく一人の女性として、
自分の欲望を発さなければならない時が近づいてきた。
自分を守る8人の男性たち、八葉から総モテ状態といっていい状況は完成したが、
それによって今度は誰かを選ばなくてはならなくなった。
恋愛においては博愛主義ではいられず、
誰かの気持ちを断って傷つける恐れがあっても、叶えたい願望が彼女にもあるはず。
象徴としての神子ではなく、一人の人間に還っていくような気がした。
そして もう一つの神子からの転落があった。
それが鬼の首領・アクラムの計略によって絶たれた神子と八葉の絆。
連載形態の問題もあったが、
現実世界から異世界に召喚されたにもかかわらず
1話目から協力者に恵まれ、
不自由なく神子としての責務を果たしてきた彼女が、
初めて孤独を知るのが『13巻』となっている。
総モテ状態から総スカン状態。
助けてくれる男性たちは最早いない。
（主上（おかみ）という最大の後援者はいるが）
いよいよ あかね のヒロインとしての真の強さが試される時がきました…。
思えば、嵐の前の静けさだった序盤。
八葉と神子は『12巻』から恋愛イベントの大渋滞を引き起こしていた。
その契機となったのが あかね と頼久（よりひさ）のキス事件。
宝珠を通じて、そして あかねの言動から動揺を感じ、彼女に詰め寄る八葉たち。
だが「キス事件」は言うに言えず、彼女は沈黙する。
ましてや本人になどは。
この世界の者たちが「キス」の意味を知ったのは詩紋から。
それによって 自分がキスしたこと、彼女がキスされたことに大いに動揺する八葉たち。
八葉の内部崩壊も近いかもしれません（笑）
自分の醜態を知って今度は動揺するのは頼久の番。
無闇に身体を動かしたり、居ても立っても居られない。
更には親友となった天真（てんま）の想い人に狼藉を働いたことを反省しきり。
八葉の間でも特に厚い友情が育まれたのに、三角関係になってしまいました。
実直な男性2人の友情と恋愛が描かれます。
告白して一歩リードの天真と、キスではリードしている頼久。
頼久は天真の恋を応援しながら、自分の心に湧く感情も自覚していく。
それは彼の言葉からも伝わってくる。
「これ以上… 天真を裏切ることも」
これ以上？ 既に やはり何割かは裏切るような気持ちを抱いているということか。
おおよその事情を知ったプレイボーイ・友雅（ともまさ）は、
からかい半分に唇だけではなく、最後まで奪えばよかったと頼久に茶々を入れる。
そういえば、神子というのは乙女でなくてはならないのでしょうか。
私の場合、こういう異世界ファンタジーの場合、
どうしても『ふしぎ遊戯』に考えが引っ張られてしまいますが。
白龍も処女じゃない女性の身体には幻滅するとか、差別的な考えの持ち主だろうか。
友雅の言うことは、あかね を少女漫画のヒロインから落とす意味もあるのだろうか。
友雅は「きれいごと過ぎる」と あかね の存在を酷評する。
しかし本書の場合、彼女は無個性であることが求められたし、神子の役目が最優先であった。
そこに疑問を持たせるというのは、いよいよ転換点が近いのかもしれない。
そして友雅は あかねを桃源郷に輝く月のようと例えた。
「絶対に行けない夢の場所」
「手の届かない美しいもの」、そんな例えであった。
青臭い若さをまとった10代の年少組と違って、
友雅は己の冷徹さ冷酷さ冷淡さを思い知っているから、
あかね に恋情も湧かないのかもしれない。
八葉でありながらアウトロー。
友雅は良くも悪くも目立つ存在である。
そんな騒動の中、あかね は天真の告白に応える。
天真の初告白は『1巻』なので、随分と待たされたものだ。
これはキスにより、あかね に恋愛スイッチが入り、
八葉が全員、異性であると改めて気づいたからだろう。
だが、この応答では行き違いが生じてしまう。
天真は、今回の あかね の返答が義理で応えたと思っており、
あかね は、そんな天真の返答は、自分が応えるのが遅かったことが原因だと考える。
これは あかねは失恋ということになるんですかね。
天真は一世一代のチャンスを逃したことになるのだろうか。
しかし天真は自分をしっかりと見据えて欲しいと願っていただけ。
変わりゆく自分と あかね、その中での関係性を構築していきたかった。
…が、その天真の声をあかねは立ち去って聞いておらず、代わりに泰明が聞く。
そして、それを聞いた泰明は後日…、というのが面白い展開。
他の八葉も態度を続々と決める。
『12巻』の段階で、イノリと詩紋（しもん）は不参戦を決意。
友雅は、謎のメタ視点で 今回は自分のルートじゃないことを認めて、傍観者に徹している気がする。
永泉も想いは胸にしまうみたいだ。
天真と頼久は上述の通り。
そして今回、鷹通（たかみち）は最後まで諦めずに告白を決意。
（結局、告白したのかすら覚えていないなぁ。
今回のアクラムの計略の一番の被害者は鷹通かもしれない）
天真とライバル関係になるのは、気持ちを秘する頼久ではなく、鷹通。
論理的に天真の弱点を突いて、自分の可能性を示す鷹通に笑ってしまった。
なかなか嫌味な人にも見える。
敵には回したくないタイプだろう。
泰明もダークホース。
儀式前の大事な時に告白。
さすが幼児。本能的である。
頭でっかちの鷹通とは正反対の行動で、鷹通の歯ぎしりが聞こえてくる。
ちなみに男性との出会いといえば、
今回、四神の召喚の前に あかね は主上に挨拶に行ったようだが当然のように割愛される。
それを描いたら、主上ルートが開拓されてしまいますもんね。
ここにきて主上がグイグイ迫ってきたら笑ってしまうが…。
しかも この後の展開から言えば、あかね が主上を頼らざるを得ないし。
まぁ、ここで あかねが主上に もたれ掛かったりしたら非難轟々だろうけど。
そんな8者8様の恋愛模様が展開されていたが、物語を根底からひっくり返す大事件が勃発する。
四神開放の儀式中、次々にアクラムが仕掛けた黒い矢に刺される八葉たち。
ここにきて八葉全滅エンド⁉
アクラムらしい絶望を与える仕打ちです。
余計なお世話だが、『13巻』は全員が倒れたところで終わっても良かったのではないかと思う。
ここで終わるの⁉という衝撃が話題になっただろう。
生死不明で終わっていた方が次巻への渇望が倍増しただろう。
この続きは××日発売の本誌で、という連動企画をしても良かったかもしれない。
これなら いつもは買わない人も彼らの安否を気遣って購入する人が一定数いたはずだ。
『13巻』発売の2007年当時には そういう連動は行われていなかったのだろうか。
ページを埋めるのは、いつもは毛嫌いしている『遙か』シリーズの読切短編や、著者の過去作でも良い。
次の話も記憶喪失という内容は十分に衝撃的だし、
アクラムの計略としては最後の一話まで収録すべきだったんだろうけど、
生死不明の衝撃を奪ってまで しっかり収録するのは やはり疑問だ。
この場に主上がいたのは、八葉がこうなってしまったから、観察者の立場を任せられたのか。
そして あかね の生活のセーフティーネットになってくれたのかな。
八葉を失い、絶望の中でも生活の最低保障はしてくれる人。
ますます主上ルートが開拓されそうな気配ではあるが…。
そういえば物語終盤での記憶喪失って、
少女漫画の黎明期からあるであろう古典的手法ですね。
果たして記憶を失っても、
彼女への想いを失わない男性は誰なのか。
『12巻』の頼久の高熱に続いて、記憶がリセットされて、物語は続く…。
