水野 十子(みずの とおこ)
遙かなる時空の中で(はるかなるときのなかで)
第07巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
あかね に対する自分の気持ちに、揺れる永泉(えいせん)。いっぽう詩紋(しもん)にも、鬼の少年セフルとの新たな出会い、そして確執が生まれていた⁉ 大人気ゲームのクロスメディア漫画(コミック)、お楽しみ特別編を併録して待望の第7巻ついに登場!!
簡潔完結感想文
- 相談。不可解な自分の心、他人の行動、それを相談する相手は誰ですか?
- 具現。八葉の神力が目覚め始める。先陣を切ったエリートの扱いの悪さよ…。
- 鬼さんは こちらに。鬼の罠にはまった詩紋は人間によって捕縛されてしまう。
八葉の お悩み相談が繰り広げられる 7巻。
乙女ゲームから派生した作品だが、
本書は主人公・あかね の総モテルートが採られている。
八葉(はちよう)という彼女を守る8人の男たちが全員 彼女を好きなのである。
物語を俯瞰している私からすれば、
八葉と敵対する鬼側は、彼らの恋心を悪用すれば
八葉の内部崩壊が起こるのではないかと思ってしまう。
物理的に攻撃するよりも、誰々が神子(みこ)に迫ったなどと噂を焚きつけて、
彼らの連携を崩し、力を発揮できない状態にすればいい。
物語後半に鬼側が採用した手法よりも、
もっと単純で もっと手っ取り早く彼らから繋がりを奪えるだろう。
作戦名は「疑心暗鬼」しかない。
物語が本当に深刻になるほど、
彼らの間に流れる一触即発の緊張感は描かれないので、
この『7巻』現在は非常時ではなく、平和だということか。
物語が緊迫するほど恋愛要素が薄くなってしまうのが本書で痛し痒しの部分。
そして、鬼側は大規模作戦を計画中であることが明かされた。
これまで2巻分に亘る沈黙にも ちゃんと理由があったのですね。
お陰で日常回を挿む時間が生まれましたが。
前巻の『6巻』のラストで説明があったとはいえ、
やや唐突に始まるセフルと八葉・詩紋(しもん)の交流。
詩紋は現代人とはいえ、人と鬼が分かり合える先例となり得る2人の関係。
だがセフルは詩紋に対し冷徹で、奸計を巡らせていた…。
そんな2人の接近と、そこから起こる詩紋編の『7巻』です。
ちなみに鬼側は八葉を認識できないんですかね?
八葉の証である宝珠は神子と八葉にしか見えないらしいが、鬼にも適用されるのだろうか。
ならば八葉の影武者を仕立てて鬼側を油断させて、
何人かの別動隊で鬼の裏をかくという作戦も可能なのかな。
まぁ あまり正義のヒーローっぽくない内容になりますが。
設定の細かいところに配慮が行き届いていないというか、
明確に線引きしなきゃいけない部分に線引きがされていない。
作者にとっても与えられた設定であることが裏目に出ている気がする。
乙女ゲームであって、ジャンプ漫画ではないから仕方がないが、
もうちょっと説明して欲しい部分は少なくない。
思っている以上に恋愛よりも鬼との争いに描写が割かれる割に、
バトルものとしては非常に設定が曖昧で、楽しめないのが本書のアキレス腱だろう。
そうしてセフルの奸計にハマって、ピンチを迎える詩紋。
この巻から八葉が神力を使った具現、という話も出てきたので、
詩紋は窮地や助けたい者の存在で能力が具現するかな、と思ったが、
具現せずに自他双方に悲劇が生まれた。
そして そんな詩紋の不安定な精神が あかねにも伝わる。
これまでは神子である あかね の気持ちが
八葉に伝わることはありましたが、逆は初めてですね。
基本的に八葉は強く 安定しているし、これほどの精神の揺らぎは なかったからか。
最弱キャラにも必要性が あったということか。
この詩紋編は構成が光る。
セフル側の思惑通りに、いい子の詩紋に苛立つこともあったが、
それによって八葉内の4グループの1つ、詩紋とイノリのペアが集結する流れは上手い。
一般市民に近いイノリが、街の危機を知り助けに乗り出す。
そして一般市民とは容貌が一番遠い詩紋がその渦中にいた。
助けを求めるイノリと面識のある子供、
そしてイノリの鬼への反発の気持ちなど、
詩紋にとって状況を悪化させる要因の配置が見事である。
結末は次巻へ持ち越し。
セフルの思惑通り、詩紋は一回、鬼側に寝返って欲しくもある。
「ボクは狂った京の全てを破壊する…」といって闇堕ちするのも一興か。
味方の時より格段に有能な活躍もしてほしい。
男性ながら、空席となった黒龍の神子になるのも良いのではないか(笑)
また『7巻』は神子と八葉の人生相談の巻でもある。
八葉は それぞれに悩みを抱えていた。
僧である永泉(えいせん)は俗世に置いてきたはずの気持ちに揺れ、嘘をつく。
あかね が会いに来ても居留守を使い、彼女を物陰から見守るだけ。
これは あかね が蘭との最初の対面をなかったことに続く2つ目の嘘。
そのどちらにも泰明(やすあき)が立ち会っていた。
永泉はブレる自分の心を、ブレない泰明が覗いてくるようで恐怖を感じる。
これは永泉自身の弱い心が原因で会って、泰明は触媒に過ぎないのだが…。
人の心を理解しない泰明は人はなぜ嘘をつくのか考察する。
一方、天真(てんま)と頼久(よりひさ)は何でも言い合える仲になっていた。
永泉をここまで悩ませるのは、彼に八つ当たりをした天真が原因とも言える。
あかね にもライバルにもグイグイと自分の押し付けるだけの天真を頼久は注意する。
頼久は八葉としての立場を優先し、私心を捨てろと言うが…。
これは頼久は私心(恋心)がないのか、それとも公私の区別がついているからか。
後の展開を考えると弱さを持ち込まないという頼久のトラウマが原因か。
それを取り除いてから恋愛が解禁となるのかな?
白泉社のトラウマ設定は、時空を越えても生きているのか…!!
そして天真は自分の中の執着を捨てて、
その上で あかね へ思いを重ねることが出来れば一段階上の関係を築けるだろうか。
最近、良い所がないが彼の成長に期待するしかない。
そんな天真は頼久と喧嘩(実践訓練)で憂さを晴らしつつ、自分の現在の力量を試す。
長期戦になりかけたのを止めたのは泰明。
物理攻撃最強であろう頼久も簡単に止めてしまうとは、
どうにも泰明は万能キャラ過ぎますね。
彼のルートに進めば頼もしい限りだが、8人全員ルートだと悪目立ちしている。
それぞれ相談事を持ちかける相手から相関図が完成していく。
あかね は蘭(らん)、天真は頼久、泰明は師匠である安倍晴明。
長編の中で変わっていく人間関係は読者としても楽しみな要素である。
そして悩みの他に『7巻』で横軸になるのが、八葉の力の具現。
どうやら神力を通じて発揮する八葉の「必殺技」みたいなものらしい。
その第一弾は いつの間にかに具現させていた鷹通(たかみち)であった。
こういうのも少年漫画なら会得の瞬間など具現にも理由付けがされるのに割愛される。
しかも八葉内でも個人差があるみたいで、まだ技の具現を出来ない者もいる。
しかし最も残念なのは力の具現すらダイジェストのように終わらせられる鷹通自身かもしれない。
何でも出来るエリートゆえに、ピンチも見せ場も作ってもらえない。
ある意味で詩紋よりも恋愛面も八葉としての立場も弱い人かもしれない。
そういう意味では彼は あかね を慕わなくても良かったんじゃないかと思うキャラですね。
恋愛問題が原因で八葉の崩れそうになる均衡を守る人でも良かったのではないか。
また、あかね も龍神の神子として成長していることが分かる。
都に巣食う怨霊討伐が現在の神子&八葉のメインの仕事であるが、
彼女は浄霊する能力を得ていた。
あかねは白龍の力を全て使うのではなく、コントロール下の中で部分的に使う。
この能力は鬼との戦いでも使用できるものなのだろうか。
これまでの守られヒロインではなく、戦うヒロインとして活躍するのかな。
京の市民には悪いが、鬼の攻勢が少し楽しみである。
「遙かなる時空の中で 特別編」…
長く美しい藤姫の黒髪を現代風にアレンジしていたことから夢物語は始まる…。
あかね たちの現代人設定が活かされた数少ない話。
藤姫(ふじひめ)と友雅(ともまさ)の関係を匂わすのは本書ならではのことなのか。
ゲーム公認カップルという訳ではないですよね。
友雅エンドがさらに遠くなりにけり。
『7巻』で友雅が登場しないのは衰弱した身体を回復しているから?
8人全員に目を行き届かすのは難しいとは思うが、
無言で出番のない人(鬼も含め)がいないようにしてほしい。