白石 ユキ(しらいし ユキ)
はにかむハニー
第03巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
優しくて かわいくて かっこいい 熊谷くんが 私の彼氏になりました。晴れてカレカノ同士になった蜜と熊谷くんだけど相変わらず天然で距離をつめてくる熊谷くんに蜜はドキドキさせられっぱなし! ある時、熊谷くんが蜜にハンドメイドのやり方を教えてくれることに。これって初デート!? 大人気ハンドメイド作家の熊谷くんに教えてもらえるのはありがたいけど場所が熊谷くんのお家だなんて聞いてないよ~! 2人っきりになったら、私、熊谷くんのこと襲っちゃうかもしれないよ…??? 狂悪グリズリーが天然オオカミに!? 目が離せないムズきゅんLOVE第3巻▽
簡潔完結感想文
- ガラの悪い男性を配置するとヒーロー行動が容易に。ヒロインの強い設定は行方不明。
- 家族のいない彼の家で早くも次の展開を想像するヤル気ヒロイン。でも するする詐欺。
- 描きたいことを描き切った隔週連載ではアイデアが枯渇して小物が少し暴れるばかり。
仮想敵とエロが連載のエネルギー、の 3巻。
ハッキリ言って、本書で描くべきことは『2巻』で全て終わっている。『3巻』からは交際編という名の読者サービスである。この2人の様子が見たい「ファンなら」という内容で、ファン以外に楽しめる要素は少ない。
おそらく作者としても望外、そして予想外の連載延長で、これと言って描きたいものがない。構想がないから、小さなアイデアを小出しにしてスケールの小さなエピソードが続いていく。もし本書が月刊誌での連載ならば、もう少し腰を据えて物語のプロットを再構成できただろうけど、本書は隔週誌のSho-Comiの連載。2週間に1度の締め切りを作者はアドリブで乗り切るしかなかったのだろう。話の質も怪しいが、作画も少しずつ怪しくなる。本書は乗り切ったけど、次の連載が休載に入ったのは隔週連載に自分の性格や特性、能力が追いつかない部分が出てきたのではないかと想像する。
描くことがないけど読者に連載を読み続けて欲しい。そのために少女漫画が用意できるのは仮想敵とエロ展開である。その両者が『3巻』では描かれている。
エロ展開を意識するのは意外にもヒロインの蜜(みつ)。低年齢向けヒロインの かまとと が発動して性知識が皆無かと思いきや、蜜は彼氏となったばかりの熊谷(くまがや)の家に お呼ばれしただけで、もう次の展開を考えている どエロイ女性。
逆に熊谷は天然さんなので性欲ではなくスキンシップがしたいという設定で乗り切っている。だから彼から あんなことや こんなことされても それは性欲の発露ではなく、彼女を過剰に愛するあまりの暴走として片づけられる。とことん天然を盾にした熊谷に おんぶにだっこな作品である。熊谷なら しょうがないという免罪符を悪用しているように感じた。
それに この後に出てくる蜜の設定との過剰なスキンシップの整合性が取れておらず、読み返すとモヤモヤするばかり。蜜の中でも熊谷のは性欲ではなく天然だからOKという判断みたいだが、あるはずの男性への恐怖心が ほぼ無視されて、イチャイチャを優先させる姿勢は いただけない。急な連載延長にしても作者の姿勢や考え、作風みたいなものが貫かれていれば良いのだが、本書は作者が ただ読者に受けることだけを狙っているようにしか見えない。連載の継続中に作家としての気概を見せて欲しかった。
熊谷と交際することになった蜜は一緒に登校し、一緒に学校で過ごす日々。この頃、蜜は交際や熊谷のハンドメイド作品への資金とするために手芸店でバイトを始めた。
学校内では校外学習以降、熊谷の人気が続く。女子生徒に2人だけの場所と時間を壊されたくない熊谷が蜜と隠れるのだが、この時の体勢は、穢れた人間から見るとアウト。これは体勢ではなく体位である。この直後の日直の掃除で生ゴミが出るという記述が謎過ぎる。本書では作者が何を考えてるのか私には分からない部分が結構ある。
掃除をサボろうとする人、人にボールを当てて逃げようとする人、この学校にはロクな人間がいない。主人公だけが美しい存在という描き方は工夫がない。標準以下を周囲に配置するのではなく、標準以上の素敵な人間を描いて欲しい。


蜜のバイト先の手芸店に熊谷が顔を見せる。蜜は看板娘として客を増やしているらしいが、それは性質(タチ)の悪い男性客が増えるということ。今回も わざとらしい接触と わざとらしいピンチとヒーローの登場で2人のイチャイチャを見せつける。
週末は両想いになって初めての お出掛け。すなわちデート回。手芸を教えてもらう約束だったのだが熊谷が向かったのは彼の自宅。お家デートは普通のデートの一種なのに蜜は自分たちの関係の進展を考えるドスケベ女であった。作品として交際のその先を匂わせる「するする詐欺」の始まりである。これが最終回まで続く…。
家族は不在だと言われたはずだったのに、家の中には一人の男の子がいた。熊谷の姉の息子、すなわち彼の甥っ子。小学1年生の朝陽(あさひ)が、母の出張中に熊谷の家に連れてこられたようだ。さて朝陽は どうやって家に入ったのか。母親が子供を一人置いて出張したのかなど展開に強引さが目立つ。
ちなみに この回で熊谷の名前が優人(ゆうと)であることが しれっと発表される。そして もう1つ、蜜が気になって告白を引っ込めた『2巻』での熊谷が購入した水族館のキーホルダーは朝陽に渡されていたことが分かる。恋の障害だったはずなのに、恋が成就してから伏線を回収する。それに何の意味があるのだろうか。
蜜は朝陽と交流を深め、その仲良し過ぎる2人に熊谷が嫉妬するという展開。暴漢とかナンパ男とかも含め、誰かを仮想敵にしないと作者は話を作れないらしい。
手芸のレッスンを始める際に、自分に くっついて離れない朝陽に蜜は、人形を作って欲しいという お願いを聞いて どいてもらう。それなのに蜜は手作りの ぬいぐるみ を熊谷に渡そうとしているらしく、それを横取りされることが嫌らしい。朝陽もワガママだが、蜜も勘違いさせるような言動をしている。熊谷が優しい お兄ちゃんポジションになるための お話のようだが、読者を含め誰もが釈然としない思いを抱える話である。
蜜が飲み物に濡れて彼シャツ(Tシャツ)を着るとか、それに熊谷が欲情して身体を まさぐるとか、少年誌の妄想みたいな展開が始まる。熊谷の距離の縮め方が異常で全く憧れない。作者としては天然で性欲ではないという言い分なのだろうけど性欲と どこが違うのか。もう こういう手段でしか読者を釣れないことは作者が一番 分かっているだろう。


熊谷の行動に戸惑う蜜だったが、スポーツをしている彼を見て また好きになる(チョロい)。しかし このシーンも変で、相手のスパイクを熊谷がスパイクで叩きつけるという謎の描写になっている。相手のスパイクは明らかにネットより低い位置にあるのに それを打ち返している描写が謎過ぎる。この後も作者は隔週連載のペースに慣れないようで絵か話が崩れていくのが残念なところ。
この後の設定から考えると熊谷が男性になることは蜜にとって少し怖いことであると思うのだけど、その辺は無視される。それよりも誰かに熊谷が取られることへの対抗意識に蜜は燃える。当て馬、ライバル、嫉妬、独占欲、そして恋の障害、それらが彼らの恋と連載の燃料になっていく。
熊谷の活躍を見ていたバレー部のマネージャーが彼を部にスカウトする。女性の接近に蜜は自分が彼女とマウントを取り、熊谷自身も部活に加入するつもりはないと拒否を示す。しかし2週間後の練習試合に助っ人としての参加は承諾する。主要メンバーが合宿で抜けるのにダブルブッキングしてしまったらしいが、練習試合なら さっさとキャンセルすればいいのに、と思うばかりだ。
はじめてのライバル」というタイトル通り、このマネージャーがライバルになるのだろうけど、2週間限定のライバルなんて相手にならない。『2巻』でも書いたけど、ライバルを設定するならガツンと強力な人を配置して欲しい。隔週連載中に そこまで腰を据えて構成を考える暇がないのだろうか。だから単発エピソードばかり続くのか。
このエピソードで熊谷が学校生活の輪を広げるとか副産物があればいいのだが、そういうことも作者は描いてくれない。蜜が熊谷を自分から送り出して寂しさを覚えるのは これで少なくとも2回目。小さいけど強いはずが、ちょっと粘着質なタイプに移行している。
部活の練習中に熊谷が飛んできたボールからマネージャーを守るというヒーロー行動をしたためマネージャーは彼を好きになってしまう。しかしマネージャーのアプローチ(部への勧誘)よりも蜜を選ぶ熊谷を見て、マネージャーは逆恨みの感情を覚える。だから蜜が部活とハンドメイドのダブルワークに疲弊する熊谷に差し入れを持ってきた際に、マネージャーは蜜に冷たい態度を取る。ヒロインに悪意を向けたらライバルは破滅するのが運命。
しかし そんなメタなルールを知らない蜜は どうにか熊谷の力になろうと、同じく助っ人になっていた中王子(なかおうじ)の口車に乗って、臨時マネージャーに蜜を指名する。こういうヒーローのためにヒロインが臨時マネージャーになる展開は低年齢向けの作品で よくあるパターン。これこそマネージャーにとって邪魔な動きでしかないのに、こういう展開をしちゃうのがSho-Comiである。水瀬藍さん『ハチミツにはつこい』でも読んだ気がする。
蜜は中王子の専属マネージャーになりつつあり熊谷に接近できない。でも それが熊谷の嫉妬の燃料になりイチャイチャできるという展開になる。中王子は本当に当て馬である。
2週間後、練習試合にも勝利し、メンバーは熊谷を改めて部に誘うが、蜜は熊谷が流される前に彼の気持ちを勝手に代弁する。こうして愛の力を見せつけてライバルを撃退する蜜。この時の蜜は こう言えば絶対に熊谷が自分の味方をすると分かって先回りしているような気がしてならない。彼の性格を熟知してコントロールしている点が いやらしく見える。