姿さがすよ　でも　まぶし過ぎるから何も見えない　『パラドキシカルZOO』

咲坂　伊緒（さきさか　いお）
ストロボエッジ
第1巻評価：★★★★☆（9点）
　　総合評価：★★★★☆（9点）

仁菜子は素直でおっとりした高校生。まだ恋はしたことないと思っている。自分に想いをよせる大樹への気持が恋だといわれて、いいヤツだとは思ってるけど…？　ある帰り道電車で学校で人気の男子・蓮と出会う。少しの会話や笑顔だけで仁菜子は新しい気持を感じる。この気持はいったい…!?　仁菜子のほんとの初恋が始まる！

簡潔完結感想文

叶わなくても報われなくても、これが私の初恋。失恋全力疾走。

主人公の好きな人を素敵な人に見せる「テ」を加える圧巻の技術。

血ではなく涙あふれる恋の傷。命短し恋せよ乙女。頑張れ仁菜子。

私にとって初・咲坂伊緒作品で、著者にとっては初の長期連載作品。

あぁこの人は凄い、と読書中何度も感心してしまった。
そして何度も「恋」の甘酸っぱさが胸に広がり「少女漫画」を堪能した。
今更、私が太鼓判を押すような作品ではなっくて、既に発行部数470万部を突破（ネット情報）も頷ける人気作、そして傑作。

書名の『ストロボ・エッジ』の意味は「恋をした時の胸にささるような強い想い」を写真撮影のストロボという言葉で表し、そして「胸につきささるとがっている」ものを表現する言葉としてエッジという言葉を使ったそうです（『8巻』の柱情報より）。
この1巻だけでも主人公の仁菜子が学校で評判の男子・蓮くんに何度もめった刺しにされる場面がある。
顔が赤らみ、鼓動は早くなり、時には勝手に涙が流れるような感情が身体をかけめぐる。
その正体は仁菜子がまだ口にしたことのない果実、恋であった。

傑作は1話の完成度がとても優れている確率がとても高いですが（読切からの延長だったりするので）、本書の場合は1話よりも1巻全体が完璧に近い完成度だと思う。

f:id:best_lilium222:20200528183120p:plain — 段々と連に惹かれる自分を自覚する仁菜子

女子高生の主人公・仁菜子には中学生の頃から親しくしている男子・大樹がいるが、彼との間にあるものが「恋」なのか、いまいちピンとこない。
そんな中で下校中の電車で偶然、会話をするようになった、女子生徒のアイドル的存在の蓮。
彼の隣にいるだけで仁菜子の感情は制御不能になる。

1巻は全てのエピソードの重ね方が秀逸。
人間関係にしても仁菜子に好意を寄せる大樹の存在によって、仁菜子にとっての蓮が特別であることが際立っている。
更には仁菜子が蓮に惹かれていっている様子が、それも仁菜子すらまだまだ無自覚な好意すらも、仁菜子だけを見ている大樹には手に取るように分かる。
彼じゃないと気づかなかったことという苦みを感じる三角関係もいいアクセントだ。

十分格好いい大樹だが、1巻では完全に引き立て役である。
読了して、この後の大樹のあれやこれやを知っている身としては、1巻の彼の純情も話半分以下というか、惚れっぽかっただけなのか、と冷静な視線を送ってしまうが…。
後の展開関連で言えば、1巻後半の下駄箱の場面で蓮に突っかかった大樹に「今のってキミのカレシ？」と困惑の声を掛けたのは裕くんだろうか。
もしそうなら大樹と問題を抱えるのは君なんだけどね…。

仁菜子が惚れる蓮くんが立体的なのも説得力がある。
綺麗な線で描かれた蓮の外面的な特徴、顔の良さとか背の高さというのも十分に伝わるが、それ以上に蓮の誠実さや優しさ、無表情に見えるけれど茶目っ気があるところ、人の心に寄り添う配慮のあるところ、などなど、蓮の様々な面を引き出すエピソードが満載なのだ。