《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

(彼女持ちの)彼氏と(彼氏持ちの)彼女の事情。苦くて甘い 最低でも5LDK同居生活。

スプラウト(1) (別冊フレンドコミックス)
南波 あつこ(なんば あつこ)
スプラウト
第1巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

仲よしの女友達がいて、年上の彼氏がいて、思いわずらうことなんてなんにもなかった高1の実紅(みく)。だけど、ある日突然、お父さんが下宿を始めると言いだして……!?ままならない想いが交錯する青春ラブストーリー。

簡潔完結感想文

  • 夕食後の両親の大事な話。離婚、ではなく父の退職と我が家の下宿を告げる。
  • 同居人は同級生⁉ 彼女を連れて引っ越し作業をする草平に実紅の心は揺れる。
  • 彼氏に報連相を怠ったためご機嫌斜め。全てを氷解させるキスのはずが…。

後半への波乱の種は蒔いた。あとは芽を出すのを待つだけ、の1巻。

最終『7巻』の完結後の 著者の あとがき によると、書名の「sprout という単語には複数の意味が含まれてい」るらしい。

本書の内容からすると「芽」「芽を出す」「若者」「急速に成長する」という辺りが由来だろうか。
特に後半二つが本書の内容とよくマッチしているように思う。

若く未熟な主人公の中に急速に大きくなった気持ちは制御不能
一人の女子高生の平穏な日常は、ある日を境に急速に変わっていく…。


主人公の実紅(みく)は第三者から見ても、順調な青春を送ってる女子高生。
自室に置きたかったテレビのためにバイトをし、そのバイト先で同じ学校の先輩でもある片岡(かたおか)と交際中。

最初から交際しているので、読者に連載への興味を覚えてもらう1話でキスも無理なく可能。

順調すぎて、恵まれているのかどうかすら実感の伴わない実紅の人生。
だが、ある日の夕食後、父から会社を退職したこと、そして部屋数だけ多い わが家を下宿にすると告げられる。
そして、その下宿人第1号は、実紅が思わず目で追ってしまう同級生の楢橋 草平(ならはし そうへい)で…。


ちょっと気になる異性との同居生活は、少女漫画では多く採られてきた手法。
おはよう から おやすみ まで、一緒に過ごす時間が多ければ、そこにラブが芽吹くこともあるかもしれない。

…いや、あってはいけない。
上述の通り、実紅には彼氏が、そして草平にも学年で一番カワイイと評判の彼女・みゆがいる。

順風満帆な人生。嵐になんて巻き込まれたくない。
それもこれも親が勝手に下宿なんて始めるからいけない。
そこから実紅の心の天気は急変する。

同居生活は恋の始まりなのだが、その同居の前から恋人がいる場合は どうなるの!?

メインの登場人物2人とも お互いに恋人がいることが発覚した瞬間から少女漫画という名の不倫漫画 が始まった気がした。
言葉としては正確には浮気や奪略なのだろうけれど、感覚として不倫の方が近い気がする。
特に不満もない夫だけど、夫に恋をしていない自分に気付いてしまった…。

一番近くにいるけれど、一番遠ざけなければならない人。
好きになってはいけない、その制約が自分の気持ちを一層際立たせてしまう。
このままいけば自分は人を裏切り、人から彼氏を奪略するショッキングな内容になるだろう。

綺麗事ではない恋愛模様に、スリルと緊張感が生まれ、今後の展開に嫌でも期待がかかる。
正統な少女漫画ではないが、実に女性のリアルな恋愛模様にも思われる。
2人目以降の恋人が出来る時、実は前の人と並行していたなんてよくある話。
初恋や初めての恋人だけが恋愛じゃないのだ。


主人公の実紅は、作中いつも誰かに苛立っている。
順風満帆な人生が奪われて環境が激変して精神に負荷がかかっているのだろう。
そして自分の心に起き始めている変化に自分でも戸惑っているからでもある。
苛立ちの対象は、落ち着つかない自分の心も含まれている。

そんな中、草平が、火事で家が燃え、無事に残った少ない荷物と自分だけで引っ越してきたことを知り、その事実が波立っていた実紅の心を静める。
身勝手な親への苛立ち、自分の部屋が奪われる不幸しか考えていなかった自分に気づかされる。

そして一筋縄ではいきそうにない草平との関係も苛立ちや負の感情を生む要因だ。

草平は、学年で一番かわいい女の子・みゆの彼氏でした
みゆが壊した、ティーセットは片岡先輩とお揃いで買った物。
これは実紅の片岡先輩への恋情の象徴でしょうか。
そしてカップを壊したにもかかわらず、草平に気遣われるのは みゆ の方。
そんな現実に実紅は思わず声を荒げてしまうのだった。

草平に惹かれ始めている実紅にとって、
本来なら垣間見える草平の優しさや誠実さは好ましく思える箇所だろう。
ただ、それが自分ではなく みゆ にばかり向けられているところが何よりも歯痒い。

物品だけでなく、交際中のカップルの仲を何組も壊してきたという みゆを「天然デストロイヤー」と呼称する女子たちの嫉妬まじりの感情。

だが実紅もまたどういう形であれ草平カップルを壊さなければ、その先の展開はない。
人を呪わば穴二つ、実紅にもまた何かしらのしっぺ返しがあるのだろうか。

恋愛とエゴを どう絡めていくのか、どこに決着を見せるのか楽しみ。

しかし片岡先輩も実紅の部屋に入ったこともなければ、家の場所も知らないうちから自分用のマグカップなどよく買いましたね。
そこには、だから今度 家に行くよ、部屋に上げてねという下心がカップから溢れ出してますね…。


そんな片岡先輩に、下宿人1号が同級生の男子だということを告げなかったことから関係性が悪化。
しかも実紅の内心までにも草平は既に棲み始めており…。

さて、作者は自分が思い描いた通りの花を咲かすことが出来るのか。
それは蒔いた種が芽吹き、成長するまで分かりません…。

あとは展開上仕方ないとはいえ、実紅の親も娘への説明や配慮が足りないですよね。

まず娘と同世代の異性を下宿人に選ぶのはいかがなものか。
娘の身の安全や不快感を軽減するにも、最初は同性の、分別のありそうな年齢の人から入れた方が良かったのではないか。
下宿をやるにしても、娘が家を出られる数年先まではそのぐらいの配慮をみせて欲しかった。

まぁ年齢や性別に制限設けちゃうとスプラウト(若者)じゃなくなっちゃうんですけどね…。

あと娘を狭い部屋に移動させるのも分からない。
部屋数だけはあるんだから、家賃設定を変えて狭い部屋に入ってもらえばいいじゃないか。
まぁ、これも展開上、草平の彼女・みゆにカップを壊してもらわなきゃならないからですかね。

更に両親への最大の疑問は、『2巻』の内容になりますが、
下宿の共同部屋に置くテレビを、実紅がバイトして買ったテレビにしたこと。
娘に対して横暴すぎやしませんか。

奪われたテレビもまた実紅の「順調な青春」を象徴するものなんでしょうけど。