《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

『1巻』で告白にキモイと言った柊聖。でも11巻かけて「ありがとう」と言えるまで軌道修正。

L・DK(11) (別冊フレンドコミックス)
渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第11巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

かえでに柊聖との関係がバレちゃった! しかも柊聖と波留の過去を聞き、葵の不安は募るばかり…。悩んだ末に葵はある決断をするが、柊聖がまさかのリアクションを―!? 葵と柊聖の甘いラブ同居生活、復活(!?) ハラハラ☆目が離せない、ひとつ屋根の下青春ラブストーリー。

簡潔完結感想文

  • 部屋を勝手に物色され柊聖との交際の事実が明るみに。脅迫された葵は柊聖と波留の交流に心を痛める。
  • 告白を決意した波留に正直に事実を伝える葵。そしてもう一つ正直に告白自体の中止までお願いする。
  • 彼女が出来た柊聖は心に余裕が生まれた様子。もう告白されても「キモイ」なんて言わないよ絶対。

気予報通り、雨のち晴れ。雨降って地固まる 11巻。

「同居だぞ? ケンカしようがなんだろうが
 同じ空間で暮らしていくんだ わかってるのか?」

と、かつて主人公・葵(あおい)の父親が同居を認める代わりに、
その難しさを語っていた通り、ゼロ距離だからこその試練が2人に訪れる。

付き合っていても無くならない不安。
一番 近くにいるのに遠く感じた時こそ、彼らの関係の真価が試される…。


のように大局的な視点で見れば、作者の狙いもよく分かる。
気持ちが離れて、そしてもう一度近づくまでがワンピリオドだろう。

しかし、普通に読んでいると登場人物たちの小狡さばかりに目を奪われてしまう。

勝手に人の部屋を物色して、葵と柊聖(しゅうせい)の秘密の交際の物証を発見し、
それを脅迫材料に使う、新しい友人・かえで の行動は狡猾。

ちなみにこの場面、柊聖が思い出を形に残したかったというプリクラが、
証拠・脅迫材料になってしまうのが皮肉である。

そして義理人情の板挟みになったとはいえ、
優先順位を間違い続ける葵の行動も疑問が多い。
まぁ、彼女が間違えないと物語にならないんですが。

『11巻』の巻末の「ごあいさつ。」で作者が

「話の設定や展開が類型的であればあるほど、
 演出力やキャラクター描写が必要だ」

と語っているように、恋愛あるある を自然に描くのは難しいのかもしれない。

それでなくとも少女漫画の主人公は、
ヒーローの格好良さを引き立てる役割までも与えられているのだから、
必然的に間違いが多くなる。

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自分から求めても拒否される レス状態。溜めたものを吐き出せない関係。

の身動きを封じるのは、かえでの策略と
そして新しい友人・波留(はる)の柊聖への恋心に気づいたためであった。

柊聖と波留は同じ中学のバスケ部仲間。
波留はその恋情を認めないように過ごしてきたが、
高校3年生で柊聖と同じクラスになったことで、その想いが溢れ出す。

波留が柊聖を好きになったキッカケは、
柊聖がバスケがド下手だった波留を気にかけてくれたから。

これは同じくバスケが下手だった、柊聖の初めての彼女・柚葉(ゆずは)の存在とダブったのでしょうね。
不器用なりに一生懸命な子に目を奪われてしまう、というのは
柊聖の通底した習性かもしれませんね(葵も同じ⁉)

だが、そんな柚葉の死で生活が荒れる柊聖。
波留はそんな柊聖の姿を見ていられず真正面から ぶつかる。

その騒動の中、波留は柊聖にキスをされるという事件が起こる。
心の拠りどころを失った柊聖は、波留を柚葉と重ねて代用しようとしたのだろう。

この時、波留が柊聖を受け入れれば(名ばかりの)恋人には なれたはず。
すぐ後に、柊聖に積極的に迫る 桜月(さつき)が現れたので、その展開は無かったが。
波留にとってどちらが幸せだったかは難しい。

柊聖がバスケ部退部を思いとどまったのは、柚葉の手紙を読んだからかな。
断片的だった柊聖年表がまた少し埋められていきますね。

ただ、葵との恋愛の障害だけではなく、このように柊聖の過去を多用するのであれば、
もうちょっと柚葉との関係をしっかり描いた方が良かったと思われる。

柊聖が恋愛感情を喪失するにも、生活が荒れるにも ちょっとエピソードが弱い。
もっとしっかりとした恋愛でも良かったのではないか。

そうなると全部が初めてじゃない葵が歯噛みしそうですが…。
少女漫画としては柊聖が「初めて好きと言えた人」という葵の称号を失う訳にはいかないのか…。

瑕疵もあるとは思うが、柊聖の過去と波留の恋愛の絡め方は好きです。
柊聖からのキスにも不自然さがない。


だ、葵にとっては波留と柊聖のキスの事実は重大問題。
一層 自信を無くして、柊聖との関係性の脆さに怯えることになる。

クラスの友達と勉強会をしていたはずなのに、
いつの間にか みんな寝ていて、なぜか飲酒した波留は柊聖に介抱されていた。

その場面を「偶然」見てしまう葵 (と かえで)。
葵にはそれが秘密の情事に見えてしまう、という雑で凡庸な展開。

かえで は睡眠薬と酒を両方用意していたのでしょうか…。怖い。


そして告白を決意した波留に対しての、一連の葵の言動は、ハッキリ言って見苦しい。
だが、これもまた綺麗事ではない恋愛の側面なのかなと思う。

波留と柊聖の過去を知り、柊聖が自分から離れるのではないかと独りで悶々とする葵。
だが、実際に柊聖の手を離したのは自分かもしれないと葵が気づく

でも、「…告白はしないでほしい」はワガママすぎやしませんか。

この場面では葵に柊聖がどちらを選んでも私は悔い、
私からは絶対に手を離さない!ぐらいの肝っ玉を見せてもらわないと。

それに同居を黙認してもらうための かえで からの条件も、
「波留が気持ちを伝えるまでは」 葵からは事実を伝えないだったはず。

葵の心情として交際の事実を隠したまま波留が告白するのはフェアじゃないと思うのは分かります。
ただ、告白しないで、はまた別の話である。

それはただの自己保身だ。
柊聖が波留を選ぶかもしれないから、波留に告白を止めてもらう、
これは敗者側、負け犬のすることだ。
しかも告白権を賭けた体育祭の勝負にも負けてなお、妨害しようとする始末。

綺麗事を描くのか、それとも醜くとも しがみつく姿勢を描くのか、
作者も迷ったことだろうけど、葵の配慮の足りなさばかりが浮かび上がってる気がする。

モヤモヤの後の解決編がいつも微妙で、カタルシスが生まれにくいのが本書の難点ですね。


ただ、波留の告白に対する答えは、柊聖が どちらを選ぶかというよりも、
柊聖の返答こそが本書の神髄だろう。

柚葉、桜月、そして葵と 恋人と関わっていく中で成熟した柊聖の精神。

現時点で自分を好きだと言ってくれる人への柊聖の対応は紳士的で、その言葉は真摯に紡がれる。

私が常々 疑問に感じていた『1巻』での告白に対する柊聖の酷薄な態度との違いが一層 鮮明になるシーンである。

まぁ、意地の悪い私は作者が柊聖の初期設定の誤りを修正しようとしてるのかな、と思ってしまいますが…。
数々の非道な行為を上書きして書き換えて、汚名を返上させるのが目的かな?


こうやって仲直りの仕方を学ぶのも長く交際を続ける上では大事なことなのだろう。
これぞ、交際編だからこそ出来た物語ですね。
波留関連の話が決して良く出来ている訳ではないが、
全体の構成としては意味を感じられる良い内容であった。


て、作者に多く見られる後付け設定ですが、
本書で活躍する雄大(ゆうだい)と翔太(しょうた・『2巻』以来の再登場)の兄弟の設定も後付けなのでしょうか。

『11巻』では翔太と雄大の言い争いの中で、
「家系一緒だろーが」という言葉が出てきますが、この時点では本当の兄弟設定だったのかな。
というのも、ネタバレになってしまいますが、
後に2人は血の繋がらない義兄弟だと判明するからだ(『13巻』『14巻』)。

話を横に広げるため(連載を続けるために)に、後付けしたのかな。
まぁ、義兄弟とは思えないほど、顔が似てるけどね…。

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可愛い子には女装をさせよ。柊聖と翔太は『L・DK』のコスプレ要員ですね。

また、似ているといえば、繰り返しになりますが、
かえで のデザインは もう少し葵と遠ざけられなかったのでしょうか。
髪型が似てくると、ほぼ同一人物です。
2人の間に緊迫した雰囲気が漂う場面なのに同じ人物による自問自答に見えてしまって話がブレる。

微妙な作画技術が話の没入感を奪っているのは本書の大きな欠点。